ぶっくまるの撮影では、最初の段階から予定にはなかった問題が発生した。
ひよりが演じるぶっくまるは、ほなわんに呼ばれて森の中へ現れた後、
ありすぽーんを助ける方法を探すため、小さな本棚の前へ移動することになっていた。
本棚には十冊ほどの薄い本が並べられており、
その中から『転んだポーンの起こし方』と、
『だれかをたすける百の方法』という二冊を探し出す。
台本だけを読めば難しい動作ではない。
しかし、着ぐるみの丸い手には、人間の指のような細かな動きができなかった。
ぶっくまるが最初の本へ手を伸ばす。
指が動かないため、背表紙を摘まむことができない。
仕方なく両腕で本を左右から挟もうとしたが、
力を加える方向が悪かったらしく、本は手前へ出るどころか棚の奥へ押し込まれてしまった。
一度腕を引き、今度は少し角度を変えて試す。
しかし、隣の本まで一緒に押してしまった。
一冊。
二冊。
三冊。
最後には四冊ほどの本が連鎖的に横へ倒れ、本棚の中が一気に乱れた。
ぶっくまるの動きが止まる。
着ぐるみの中にいるひよりは声を出さないという決まりを守っていたが、
身体の動きだけでも困っていることは十分に分かった。
画面外で補助していた石崎が、本棚へ近づいて直そうとする。
しかし、撮影担当が手で制した。
「そのまま続けてみろ」
石崎は止まり、ひよりへ判断を委ねた。
ぶっくまるは、一度遠くにいるありすぽーんへ身体を向ける。
困っている。
急いで助ける必要がある。
次に本棚を見る。
倒れた本が何冊も横になっている。
ぶっくまるは数秒ほど考えるように動きを止めた後、一冊ずつ丁寧に本を元へ戻し始めた。
「今、ありすぽーんを助ける場面だぞ」
龍園が少し呆れたように言った。
伊吹は、ひよりの行動を見て笑う。
「本が乱れたままなのが気になるんでしょ。椎名らしいわね」
ぶっくまるは、倒れていた本を一冊残らず元へ戻した。
その後で改めて目的の一冊へ手を伸ばすが、やはり背表紙を上手く掴むことができない。
そこで今度は、練習時に追加された腕の内側の面ファスナーを使った。
表紙へ腕を押し当てる。
固定される。
一冊目を無事に取り出すことができた。
二冊目も同じ方法で固定する。
両腕へ一冊ずつ本を抱えたぶっくまるは、本棚から離れ、
ありすぽーんの待つ場所へ向かって歩き始めた。
撮影担当がカットをかける。
「予定よりかなり長くなったな」
ただし、否定的な表情ではなかった。
「でも、ぶっくまるの性格はよく出てる」
頭部を外されたひよりは、額に少し汗を浮かべていた。
「申し訳ありません。本を上手く取ることができませんでした」
石崎がすぐに首を振る。
「いや、倒した本を直すところは良かったと思う。
ありすぽーんを助けるために急いでるのに、本も大事にする感じがぶっくまるらしい」
「でも、ありすぽーんを待たせすぎてしまいました」
「きよぽんがいるから大丈夫だろ」
石崎は自然にそう答えた後、オレへ顔を向けた。
「そういう役なんだろ?」
「ぶっくまるが遅れてもいい理由として、きよぽんが存在しているわけではない」
オレが答えると、ひよりが静かに続けた。
「でも、一人にはしません」
ひよりは、きよぽんの待機位置を見ながら説明する。
「きよぽんがありすぽーんの隣にいてくれるから、
ぶっくまるは慌てて間違った本を持っていかず、正しい本を探すことができます」
ぶっくまるの場面と、きよぽんの場面。
別々に作られた役割でありながら、互いが存在することで意味を与え合っていた。
幸村は本棚を確認しながら、新しい改善案を出した。
「背表紙にも小さな面ファスナーを付ける。
次は一回で本を取り出せるようにする。
ただし、本を一冊倒して、それを直す場面だけは短く残してもいい」
「それなら撮影時間も短くできます」
ひよりは納得したように頷いた。
二回目の撮影では、
面ファスナーを追加したことで目的の一冊目をすぐに取り出すことができた。
二冊目も問題なく取れる。
ただし、その時に隣の本が一冊だけ倒れた。
ぶっくまるは一度立ち止まり、倒れた本を元へ戻す。
その後、ありすぽーんのいる方向へ身体を向け、少しだけ歩幅を速める。
それでも走らない。
普段の小さな歩幅を、ほんの僅かに速くするだけだった。
「ぶっくまる、急いでるのに遅いわね」
伊吹が言う。
石崎は自然に返した。
「それが可愛いんだろ」
伊吹が少し驚いた顔をする。
「分かるようになったじゃない」
「毎日見てるからな」
「愛着?」
「違う」
「否定が弱くなってる」
石崎はそれ以上反論せず、本棚へ戻って倒れた本を直し始めた。
◯
続いて、いよいよきよぽんの登場場面を撮影することになった。
ありすぽーんは低い台へ座り込み、少し離れた場所へ落ちた王冠へ短い腕を伸ばしている。
ほなわんは、一人では助けられないと判断し、仲間を呼びに画面外へ去った。
ぶっくまるは、まだ本棚で助ける方法を探している。
映像上では、その間、ありすぽーんだけが森の中へ残される。
そこへ、きよぽんが現れる。
撮影開始前、長谷部がオレの前へ立ち、動作を最後に確認していた。
「最初は、ありすぽーんに気づいても、すぐには近づかないでね。
一回止まって、少し首を傾げてから、一メートルくらい離れた位置へ座る」
オレは右手を一度上げ、問題ないことを伝える。
幸村も進行表を見ながら補足した。
「座った後は三秒ほど待つ。その後、ありすぽーんを見る。
次に七十センチの位置へ移動する。ただし椅子ごと動かすことはできないから、
一度立ち上がり、次の椅子へ歩いて座る形にする」
三宅が、画面外に用意された二脚の椅子を見る。
「椅子が二つあるのか」
「編集で消す」
幸村が答えた。
「何でも消せるんだな」
「影が不自然にならないよう、同じ高さと形の椅子を使う」
佐倉が、最後の位置を確認する。
「最後は五十センチくらいまで近づくんだよね?」
長谷部は、手に持っている空のヨーグルト容器を見せた。
「そこまで近づいたら、ヨーグルトを差し出す。ありすぽーんは受け取らない。
きよぽんも無理に渡そうとせず、そのまま身体の前へ置く」
「きよぽんに膝は見えないからな」
オレが言う。
「身体の前」
「最初からそこへ置けばいいのでは?」
「一回差し出すことが大事なの」
長谷部は、ここだけは譲らなかった。
「何もできないけど、何かしたいって気持ちが見えるから」
着ぐるみそのものに感情はない。
しかし、キャラクターとしてそう見せる必要があるという意味なら理解できる。
「分かった」
頭部を被っているため、声は少しくぐもって外へ出た。
長谷部が嬉しそうに笑う。
「きよぽん、やる気あるね」
「撮影を進めるためだ」
「本番では声を使わないからね」
「分かっている」
オレは撮影位置へ移動した。
三宅が背後から足元を確認し、佐倉が側面へ立つ。
長谷部は、画面には映らない前方の位置へ移動した。
「本番。三、二、一、開始」
撮影担当の合図と同時に、オレは画面の中へ入った。
普段より小さな歩幅。
丸い身体を、僅かに左右へ揺らす。
少し先に座るありすぽーんへ気づく。
そこで止まる。
身体全体を少しだけ傾ける。
ありすぽーんは、王冠へ手を伸ばしたまま動けずにいる。
助けを求める声はない。
きよぽんも喋らない。
オレは一メートル離れた位置にある椅子へ向かい、ゆっくり方向転換して座った。
ありすぽーんときよぽん。
二体が向かい合う。
何も起きない。
三秒。
五秒。
八秒。
予定より少し長い。
撮影現場も静かだった。
オレは台本通り、ありすぽーんへ身体を向ける。
ありすぽーんもこちらを見る。
その時。
森下は、予定になかった行動を取った。
ありすぽーんの片手を、ゆっくりとこちらへ上げた。
助けを求めるような動きだった。
オレは反応を迷う。
長谷部が画面外から、小さな声で指示した。
「きよぽん、少し近づいて」
オレは一度立ち上がり、七十センチの位置にある椅子へ移動して座る。
ありすぽーんは、まだ手を上げたままだった。
オレも短い右腕を伸ばす。
距離がある。
届かない。
ありすぽーんも腕を伸ばす。
二体の間に残された距離を、短い腕では埋められなかった。
そのまま、数秒が過ぎる。
撮影担当が小さく言う。
「続けて」
予定とは違っている。
ただし、悪くない。
きよぽんには、ありすぽーんを立ち上がらせる力がない。
手すら届かない。
それでも、腕を伸ばすことはできる。
オレは一度立ち上がり、さらに近い五十センチの位置へ移動して座った。
今度は、二体が伸ばした短い手の先端同士が、僅かに触れた。
握ることはできない。
身体を支えることもできない。
ただ、触れるだけだった。
撮影現場のどこかから、小さな声が漏れた。
「いい……」
佐倉だった。
オレはゆっくり手を離し、予定通りヨーグルト容器を差し出した。
ありすぽーんは受け取らない。
森下は、ありすぽーんの顔をヨーグルトへ向ける。
次にきよぽんを見る。
もう一度、ヨーグルトを見る。
何かを考えているように見えた。
最後に、ありすぽーんは両手で王冠を示した。
ヨーグルトよりも、王冠を拾ってほしい。
そういう意味に見える。
オレは立ち上がり、床へ置かれた王冠へ近づいた。
短い腕を伸ばす。
届かない。
身体を屈めようとする。
しかし、安全上の問題で深く屈むことはできない。
三宅が画面外から小声で注意する。
「無理するな」
オレは王冠の前で動きを止めた。
拾うことはできない。
少し考える。
その後。
オレは、手に持っていたヨーグルト容器を王冠の隣へ置いた。
撮影現場が静かになった。
ありすぽーん。
王冠。
ヨーグルト。
そして、きよぽん。
何の意味があるのかと聞かれれば、明確な答えはない。
王冠を拾えたわけではない。
ありすぽーんを助けたわけでもない。
それでも、ありすぽーんにとって大切な王冠が、一つだけ床へ転がっている状態ではなくなった。
その隣には、きよぽんにとって大切なヨーグルトが置かれている。
森下は、その行動を何らかの意味として受け取ったらしい。
ありすぽーんが、ゆっくり頭を下げた。
オレも身体を僅かに前へ傾け、十五度ほどの小さなお辞儀を返す。
撮影担当が数秒待った。
「カット」
その瞬間、現場から拍手が起こった。
長谷部が真っ先にオレへ駆け寄る。
「今の何!?」
「何とは」
「王冠の隣にヨーグルト置いたところ!」
「王冠を拾えなかった」
「だからヨーグルトを置いたの?」
「何もしないよりはいいと思った」
「すごく良かった!」
佐倉も近づいてくる。
「王冠が寂しくならないように、ヨーグルトを置いたみたいだった」
「そういう意図ではない」
「でも、そう見えたよ」
ありすぽーんの中から、森下の声も聞こえた。
「きよぽんは、王冠を守るためにヨーグルトを配置しました」
「守ってはいない」
「王冠の護衛です」
「ヨーグルトに防御力はない」
「精神的防御です」
「ない」
龍園が声を上げて笑った。
「お前、結局何もできてねぇじゃねぇか」
「拾えなかったからな」
「でも、画にはなってる」
堀北は撮影された映像を確認しながら、冷静に評価した。
「予定とは違うけれど、二体の性格はよく出ていると思う」
白石が森下へ尋ねる。
「ありすぽーんが手を伸ばしたのも、森下さんの判断ですか?」
「はい」
森下の頭部が外される。
「きよぽんが何をするのか、確認したくなりました」
「試したのか」
オレも頭部を外される。
外の空気が直接顔へ触れ、こもっていた熱が少し抜けた。
「撮影中に予定外の動作を入れるな」
「結果は良好でした」
「安全上の問題はなかったが、オレが対応できなければ撮り直しになっていた」
「綾小路清隆なら対応すると判断しました」
長谷部が妙に嬉しそうに言う。
「信用されてるね」
「そういう問題ではない」
山村は森下へタオルを差し出しながら、小さな声で注意した。
「次からは、先に言ってください……」
「では、次からは伝えます」
「次も予定を変えるつもりなんですか……?」
「必要があれば」
「変えないでください……」
山村は明らかに困っていた。
ただし、映像そのものについては、誰も撮り直しを求めなかった。
当初予定していた、きよぽんが少しずつありすぽーんへ近づく動き。
最初は手が届かない。
それでも伸ばす。
王冠を拾うこともできない。
代わりに、自分が持っているヨーグルトを置く。
きよぽんは、ありすぽーんを助けていない。
立ち上がらせてもいない。
王冠すら拾えていない。
問題を直接解決したわけではなかった。
それでも、ありすぽーんが一人で困っている時間を、一緒に過ごした。
きよぽんの役割は、それだけで十分に伝わっていた。
「この場面は撮り直さなくていい」
撮影担当が結論を出した。
「今の偶然を、もう一度同じように再現する方が難しい」
「一回で成功」
長谷部が嬉しそうにオレの肩を叩く。
「きよぽん俳優、すごい」
「演技ではない」
「即興演技」
「王冠を拾えなかっただけだ」
「できなかったことを、別の形に変えたんでしょ?」
長谷部は、今度は真面目な表情になった。
「それが、きよぽんらしいよ」
否定しようとした。
しかし、完全には否定できなかった。
◯
十五分の連続着用時間が近づいたため、
オレは一度きよぽんから出て、三宅と交代することになった。
三宅は着用手順そのものにも慣れ始めており、昨日よりも準備が明らかに速くなっている。
胴体。
脚。
腕。
冷却材。
そして頭部。
中身はオレから三宅へ変わる。
しかし、外見は何も変わらない。
「次は何を撮るんだ」
きよぽんの頭部から三宅の声が響く。
幸村が進行表を確認した。
「ほなわんとぶっくまるが戻り、三体でありすぽーんを助ける場面だ」
「きよぽんは何をする?」
「王冠の隣に置いたヨーグルトを回収し、ありすぽーんの側面へ移動する」
「立ち上がらせるのは手伝わないんだよな?」
「腕の構造上、直接身体を支えるのは危険だ」
「じゃあ、本当に何するんだ?」
「ありすぽーんが立った後、王冠を戻す場面で横にいる」
三宅は少し間を置いた。
「本当に横にいるだけだな」
「それが役割だよ」
長谷部が答えた。
三宅きよぽんは、右手を一度上げる。
問題なし。
佐倉が歩き方を見る。
「みやっち、昨日より少しゆっくりになったね」
三宅は小さく手を振り返した。
ただし、すぐには動かない。
一度身体を僅かに傾け、
相手が自分へ手を振ったのか確かめるようにしてから、ゆっくり手を上げる。
昨日練習した動きだった。
佐倉が笑う。
「みやっちきよぽんも、可愛い」
三宅の右手が一度止まった。
その後で、もう一度小さく振る。
長谷部がすぐに反応した。
「照れてる」
「違う」
三宅の声が出た。
「きよぽんは喋らないよ」
「中身は俺だ!」
撮影前から笑いが起こる。
幸村が止める。
「声を出すな」
三宅は今度こそ声を使わず、右手を一度上げた。
問題なしの合図だった。
◯
四体が揃う最終場面の撮影へ移った。
ありすぽーんは、まだ低い台へ座っている。
その隣には三宅が演じるきよぽん。
王冠とヨーグルトは床へ並べられていた。
そこへ、ぶっくまるが二冊の本を抱えて戻ってくる。
ほなわんも一緒だった。
ぶっくまるは、本を一冊ずつ開いていく。
実際には着ぐるみの手でページをめくることはできないため、
画面外にいる石崎が細い糸を引き、表紙だけが自然に開く仕組みになっている。
最初の本は、
『転んだポーンの起こし方』
だった。
開かれたページには、一人だけで無理に引っ張らず、補助してくれる人を呼び、
身体の左右から支えるという大きな図が描かれている。
二冊目は、
『だれかをたすける百の方法』
相手へ声をかける。
何を望んでいるかを確認する。
急かさない。
ほなわんはありすぽーんへ大きく手を振る。
ぶっくまるは本を見せる。
きよぽんは隣へ座っている。
三体が取る行動は、それぞれ違っていた。
最後に、画面へ映らない位置へ神室と山村が入り、ありすぽーんを実際に支える。
ほなわんは正面から手を差し出す。
ぶっくまるは側面へ移動し、本を一度置いて、ありすぽーんへ手を添える。
きよぽんは反対側へ立つ。
直接身体を支えない。
短い腕を伸ばし、ありすぽーんが立ち上がった後に触れられる位置で待つ。
「開始」
神室と山村が、画面へ映らない場所からゆっくりありすぽーんを持ち上げる。
森下自身も、着ぐるみの中から足へ力を入れる。
ほなわんは正面で応援する。
ぶっくまるは横から支える。
ありすぽーんの身体が、少しずつ起き上がる。
そして、ついに立ち上がった。
成功。
その瞬間だった。
ほなわんが、予定になかった動きをした。
両腕を大きく広げ、ありすぽーんへ抱きつこうとする。
「一之瀬!」
神崎が止めようとした。
しかし、間に合わない。
ほなわんの丸い身体が、ありすぽーんへ近づく。
ありすぽーんは片手で王冠を押さえ、もう片方の手でほなわんを受け止めた。
二体が接触する。
勢いそのものは強くない。
しかし、ほなわんの大きな耳がありすぽーんの王冠へ引っかかった。
王冠が傾く。
ありすぽーんの身体も、一緒に傾き始める。
神室と山村が再び左右から支えた。
ぶっくまるは巻き込まれないよう、一歩下がる。
三宅きよぽんだけは、隣でそのまま止まっていた。
「カット!」
撮影担当の声が響く。
神崎がほなわんをありすぽーんから離した。
「一之瀬!」
頭部の中から、一之瀬の声が聞こえる。
「ごめん!立てたのが嬉しくて!」
「抱擁は禁止だと言っただろ!」
「一回くらいなら大丈夫かなって」
「大丈夫ではなかった」
山村は、ずれた王冠をすぐに直す。
「森下さん、怪我はありませんか……?」
「問題ありません」
白石が穏やかに尋ねる。
「ほなわんに抱きつかれた感想は?」
「温かかったです」
「感想を聞くな!」
神室がすぐに突っ込んだ。
ほなわんの頭部を外された一之瀬は、明らかに申し訳なさそうな表情をしている。
「本当にごめんね、森下さん」
「私は問題ありません」
森下は、いつも通り真顔だった。
「友情の力を受けました」
「王冠も受けたわよ」
神室は傾いた王冠の状態を確認する。
素材が柔らかいため、破損そのものはなかった。
担当教師が言う。
「もう一度撮影する。次は絶対に抱きつかないこと」
「はい」
一之瀬は素直に反省している。
神崎は、ほなわんの両腕へ細い制限紐を付け、
一定以上前へ伸ばせないようにする案まで出した。
「そこまでする?」
一之瀬が尋ねる。
「お前が抱きつかなければ必要ない」
「今度はしないよ」
「信用できない」
「神崎くん、厳しい」
「安全のためだ」
結局、制限紐までは付けないことになった。
ただし、神崎がほなわんの真横へ立ち、
再び抱きつこうとした場合にはすぐ腕を押さえることになった。
二回目の撮影が始まる。
ありすぽーんが立ち上がる。
ほなわんは、反射的に両腕を広げかけた。
そこで神崎を見る。
動きを止める。
代わりに、自分の胸元で大きなハートを作ろうとした。
しかし、丸い手では綺麗な形にならない。
ありすぽーんも片手を伸ばす。
ぶっくまるも続く。
きよぽんも腕を出した。
四体で一つのハートを作ろうとする。
しかし、身体が太い。
腕が短い。
位置もそれぞれ違う。
まったく形にならなかった。
「予定と違うわ」
堀北が言う。
長谷部は撮影担当へ向かって止めないよう頼んだ。
「でも、このまま続けて」
四体は腕を伸ばす。
届かない。
ほなわんが一歩前へ出る。
ありすぽーんも続く。
ぶっくまるも。
きよぽんも。
互いの装飾品が触れないよう、補助員たちが耳、王冠、本、スプーンを一つずつ押さえていく。
最後に。
四体の手先が、中央で触れた。
ハートにはならない。
丸にもならない。
ただ、四つの手が重なった。
その下には、ありすぽーんの王冠。
きよぽんのヨーグルト。
ぶっくまるの本。
ほなわんのお友達カード。
撮影担当は止めなかった。
四体は、数秒間手を重ねたまま静止する。
「カット」
今度は、先ほどよりも大きな拍手が起こった。
堀北は撮影映像を見ながら、すぐに結論を出す。
「これでいいわ。最後は、四体が手を重ねる場面にしましょう」
坂柳が確認する。
「当初の予定では、ありすぽーんが王冠を被り直して終わるはずでしたわ」
「王冠を戻した後に、この場面を追加する」
白石が嬉しそうに微笑む。
「四天王らしいですね」
龍園も腕を組みながら認めた。
「ようやく少し四天王っぽくなったな」
「戦ってないぞ」
オレが言う。
「仲間が力を合わせる場面だ」
「敵はいない」
「今度作ればいい」
「作らない」
「りゅうまる」
「敵にするな!」
石崎が龍園を止めた。
撮影は、最初に作った台本通りには進まなかった。
森下が予定になかった形で手を伸ばし、それへ反応したオレが王冠の隣へヨーグルトを置いた。
一之瀬は嬉しさから抱きつこうとし、その結果として四体が手を重ねる場面が生まれた。
決められた演技だけではなく、
着ぐるみの中にいる生徒たち自身の反応が、物語を少しずつ変えていった。
◯
主要な場面を一通り撮り終えた頃には、多目的ホールの時計は午後六時を過ぎていた。
撮影時間は予定していた二時間を僅かに超えたものの、
大きな事故はなく、必要な映像も揃っている。
撮影機材の周囲では、各クラスの代表者と編集担当者が、
撮ったばかりの映像を順番に確認していた。
ありすぽーんの転倒。
ほなわんの登場。
ぶっくまるの本探し。
きよぽんが少しずつ距離を縮める場面。
ありすぽーんが立ち上がる場面。
そして最後に、四体が手を重ねる場面。
軽井沢は映像の長さを確認しながら言った。
「きよぽんの場面、ちょっと長くない?」
佐藤が端末の時間表示を見る。
「他の三体より二十秒くらい長いね。手が届かないところと、
王冠の隣へヨーグルト置くところが増えたから」
神崎は、他クラスから見た印象を懸念した。
「堀北クラスだけが有利になるように編集したと思われる可能性はないか?」
「各キャラクターの時間を、完全に同じにする必要はないわ」
堀北は答えた。
「ただし、他の三体にも同じ程度の見せ場があるかどうかは確認すべきね」
ありすぽーんには、物語の中心としての役割がある。
王冠を落とし、一人で立とうとし、最後には仲間の助けを受け入れる。
ほなわんは、最初に一人で助けようとする。
しかし、自分だけでは無理だと分かると、仲間を呼びに行く。
ぶっくまるは、本を大切にしながら、必要な情報を探す。
きよぽんは、何も直接解決しない。
それでも、一人にはしない。
「全員、物語の中で必要な役割があります」
ひよりが静かに言った。
「時間の長さよりも、その役割が必要かどうかの方が大切だと思います」
石崎も続ける。
「ぶっくまるが倒した本を直すところも残したいです。
予定より少し長くなったけど、あそこが一番性格出てる」
ひよりが微笑む。
「珍しく意見が一致しましたね」
「俺だって、ぶっくまるのこと分かってきたからな」
伊吹がすぐに聞く。
「愛着?」
石崎は一瞬黙った。
「もう、それでいいよ」
否定することを諦めたらしい。
龍園クラスから笑いが起こる。
一之瀬は、ほなわんが抱きつこうとして王冠へ耳を引っかけた場面を見ていた。
「これ、メイキングに使えないかな?」
「本編には使えない」
神崎が即答する。
「王冠へ耳が引っかかっている」
長谷部がすぐに反応した。
「失敗集にしよう。四天王NG集!」
「また動画を増やす気?」
堀北が尋ねる。
「短くまとめれば面白いよ」
「本編を公開した後、各クラスが同意した場合だけよ」
「やった」
「まだ同意は得ていないわ」
森下は、自分が本気で立ち上がろうとして低い台から落ちそうになった映像を見ていた。
「この場面は使用できますか?」
「危険だから駄目」
神室が即答した。
「迫力があります」
「安全管理に失敗した証拠でしょう」
「教育的価値があります」
「何の教育よ」
白石が穏やかに言った。
「無理に一人で立ち上がろうとしてはいけない、という注意喚起にはなりそうですね」
「白石まで乗らないで」
神室の負担だけが増えている。
その近くでは、山村が映像を見ながら小さく声を上げた。
「私の手、少し映っています……」
ありすぽーんを支えた時の手が、画面の端へ僅かに入っていた。
撮影担当が答える。
「編集で消します」
森下が、すぐに止めた。
「消さなくてもよいのでは?」
「補助員がいることが見えると、物語としては不自然になる」
「山村さんも、ありすぽーんを助けた一人です」
森下は真面目だった。
「完全に消す必要はないと思います」
山村が驚く。
「で、でも、着ぐるみだけの動画ですから……」
坂柳が穏やかに提案した。
「映像の最後に、スタッフ一覧として名前を載せましょう。
出演者だけでなく、補助員、制作担当者、撮影担当者まで、全員の役割を記載するのです」
幸村は現実的な問題を指摘する。
「四クラス分を全て映像内へ入れると、かなり長くなる」
「最後に主要な役割だけを載せ、詳細は試験ページの説明欄へ記載すればいいでしょう」
「それが公平だね」
一之瀬も賛成する。
長谷部がオレを見る。
「きよぽんの中身は?」
「非公表だ」
「スタッフ一覧にも載せない?」
三宅が横から言った。
「着用者A、着用者Bでいいだろ。俺まで名前を出されたら困る」
「きよぽんA、きよぽんB」
「違う」
オレと三宅の声が重なる。
「じゃあ、謎の着用者一号と二号」
「怪しすぎる」
池が面白がって言った。
「中の人などいません」
全員が少し考える。
佐藤が笑った。
「それが一番いいかも」
軽井沢も頷く。
「夢があるよね」
幸村は現実的な表現へ戻した。
「説明欄へ『着用者非公表』とだけ記載すればいい」
一之瀬は自分がほなわんへ入っていることを隠していない。
ひよりも、ぶっくまるの着用者であることを秘密にしていない。
森下に至っては、ありすぽーんの中で経験値を獲得したと公言している。
佐倉が言った。
「きよぽんだけ、正体不明になるね」
「設定にも合っている」
オレは答えた。
「学校のどこかに住んでいる謎の生き物。中身も謎」
長谷部がすぐに笑う。
「清隆くんが認めた」
「着用者を非公表にする方針を認めただけだ」
「でも、正体不明設定を自分で使った」
「事実だからな」
「本人監修」
「最低限だ」
撮影が終わっても、同じやり取りは続いている。
ただし、オレ自身も以前より真剣に、きよぽんとして何を見せるべきかを考えるようになっていた。
その事実だけは否定できなかった。
◯
撮影後の片づけが始まる。
着ぐるみの頭部。
小道具。
本棚。
低い台。
背景布。
照明機材。
四クラスの生徒たちは、自分たちの担当だけに拘らず、近くにある物から協力して運び始めた。
須藤は、ありすぽーんが座っていた低い台を運ぶ。
石崎は、きよぽんの収納箱を三宅と一緒に持つ。
軽井沢と佐藤は、ぶっくまるが使った本を集める。
白石は、ほなわんのお友達カードを落とさないよう、丁寧に封筒へ戻していく。
山村は森下の隣で、ありすぽーんの王冠を細かく確認していた。
「少しだけ、布が擦れています……」
森下が尋ねる。
「修復できますか?」
「はい。糸が少しほつれただけなので……」
「では、山村美紀にお願いします」
山村は驚いた。
「私でいいんですか……?」
「最も王冠を見ていたのは山村美紀です」
「森下さんが何度も傾けるからです……」
「信頼しています」
山村は困ったような表情をしながらも、最後には王冠を大切そうに抱えた。
「分かりました。明日までに直します……」
「ありがとうございます」
白石が二人を見ながら微笑む。
「ありすぽーんにも、大切なお友達ができましたね」
「私は補助員です……」
「見えない友達です」
森下が言う。
山村は少し驚く。
「その設定、まだ残っていたんですか……?」
「ありすぽーんが前を見られない時、山村美紀が代わりに見ます」
山村は言葉を失った。
以前。
姿の見えない友達という設定を、森下が冗談のように話していたことがある。
しかし今は、着ぐるみの中にいる森下から見えない場所を、本当に山村が見ている。
役割として。
そして、関係として。
坂柳が楽しそうに言った。
「正式なキャラクター化は、試験後に検討しましょう」
山村は慌てて首を振る。
「し、しなくて大丈夫です……」
「焦る必要はありませんわ」
「そういう意味では……」
森下は王冠を預けたまま答える。
「山村さんが嫌なら、姿は描きません」
神室が尋ねる。
「見えない設定のまま?」
「はい」
「グッズ作れないじゃない」
「透明な缶バッジ」
「何も印刷されてないだけでしょう」
「山村美紀らしいです」
山村の声が、普段より少しだけ強くなった。
「どういう意味ですか……?」
周囲から笑いが起こる。
坂柳クラスの雰囲気も、以前より随分柔らかくなっていた。
◯
堀北クラスの作業区画では、きよぽんの内部を乾燥させる準備が進められていた。
今回、中へ入ったのはオレと三宅の二人。
幸村は、それぞれの着用時間、冷却材の使用状況、送風機の稼働状態を記録していた。
「綾小路は十四分三十秒。三宅は十二分四十五秒」
「予定の範囲内だな」
オレが言う。
「撮影の合間に頭部を外せたことも大きい。
次回も場面ごとに交代できれば、負担はかなり減る」
三宅はタオルで髪を拭きながら言った。
「でも、撮り直しが多いと何回も着たり脱いだりするのが面倒だな」
「安全を優先する」
「分かってるよ」
以前に比べれば、三宅も不満を口にする回数が減っている。
長谷部が近づいた。
「みやっち」
「何だ?」
「最後の場面、良かったよ」
「俺は横で手を出しただけだ」
「四体の手が重なった時、ちゃんときよぽんだった」
三宅は少し気になったように尋ねる。
「清隆と違い、分かったか?」
長谷部は少し考える。
「ほんの少しだけ」
「分かったのかよ」
「みやっちは、手を伸ばすのが少し早いんだよね」
「駄目だった?」
「ううん。ほなわんたちが手を出したら、すぐ自分も出した。
きよぽんが入ってるきよぽんなら、少し見てから手を出すと思う」
オレ自身も。
確かに、そうした可能性は高い。
三宅は行動が早い。
オレは、相手の動きを確認してから反応する。
佐倉が以前言ったように、二人のきよぽんには僅かな違いがある。
「どちらも、きよぽんに見えたなら問題ない」
オレは答えた。
三宅が笑う。
「主担当公認?」
「交代担当として十分だ」
「清隆に褒められると、妙な感じだな」
長谷部がすぐに割り込む。
「きよぽん一号と二号の友情」
「一人のキャラクターだ」
オレと三宅の声が重なった。
周囲から笑いが起こる。
佐倉が嬉しそうに言った。
「息ぴったり」
「中身同士は友達だな」
三宅は自然に答えた。
「綾小路グループなんだから」
長谷部。
三宅。
幸村。
佐倉。
そしてオレ。
五人が、きよぽんを中心に、また同じ場所へ集まっている。
長谷部が撮影映像の一場面を端末へ表示した。
きよぽんとありすぽーん。
最初は届かなかった二体の手が、距離を縮めたことで僅かに触れている場面。
「きよぽん、この場面をポスターにしていい?」
「坂柳クラスの許可を取れ」
「学習したよ」
「それから、映像全体を確認してからだ」
「分かった」
公認マネージャーとなったことで、
長谷部も以前よりは勝手に物事を進める前に、周囲へ確認するようになっている。
佐倉が尋ねた。
「題名はどうするの?」
長谷部は少し考えた。
普段のような勢い任せの案ではなく、今度は真面目な表情で答える。
「『手が届かなくても』」
長谷部はオレたちを見る。
「どう?」
悪くない。
きよぽんの短い腕。
ありすぽーんの短い腕。
最初は届かなかった。
距離を縮め。
最後には僅かに触れた。
「それでいいと思う」
オレが答えると、長谷部が驚いた。
「すぐ認めた」
「映像の内容に合っている」
「本人監修」
「今回は企画担当としての意見だ」
「もっとすごい」
「大げさにするな」
長谷部は笑いながら、その題名を端末へ保存した。
◯
寮へ戻った後、オレの端末へ仮編集版の動画が送られてきた。
まだ音楽は付いていない。
背景の合成も途中。
字幕も一部しか入っていない。
それでも、物語全体の流れは十分に分かった。
森の道を、ありすぽーんが歩く。
身体が傾く。
王冠が落ちる。
画面が暗転し、柔らかな転倒音が入る。
次の場面では、ありすぽーんが地面へ座り込み、離れた場所に落ちた王冠へ手を伸ばしている。
届かない。
そこへほなわんが現れる。
一人でありすぽーんを助けようとする。
できない。
迷う。
そして仲間を呼びに行く。
ありすぽーんが一人になる。
そこへ、きよぽんが現れる。
少し離れた場所で止まる。
座る。
ありすぽーんが手を伸ばす。
届かない。
きよぽんも手を伸ばす。
やはり届かない。
少しずつ距離を縮める。
最後に手が触れる。
王冠を拾おうとする。
拾えない。
その隣へ。
ヨーグルトを置く。
ありすぽーんが頭を下げる。
きよぽんも小さく頭を下げる。
ぶっくまるが、本棚で必要な本を探す。
一冊倒す。
そのままにせず、元へ戻す。
二冊を抱え、ゆっくりと急ぐ。
ほなわんとぶっくまるが戻る。
本。
友情。
休息。
三つの方法が揃う。
ありすぽーんが立ち上がる。
王冠が戻る。
最後に、四体の手が中央へ重なる。
画面が暗くなる。
仮字幕。
『一人でできない時は、誰かと一緒に』
その後に表示される四体の名前。
ほなわん。
ありすぽーん。
ぶっくまる。
きよぽん。
悪くない。
むしろ、三分ほどの短編として、想像していた以上にまとまっている。
きよぽんは、最後まで問題を解決していない。
ほなわんのように仲間を呼びに行かない。
ぶっくまるのように方法を見つけない。
ありすぽーんのように、自分で立ち上がろうともしない。
それでも、物語の途中で、ありすぽーんが一人になる時間を埋めている。
端末へ通知が届いた。
長谷部だった。
『仮編集見た?』
『見た』
『どう?』
少し考える。
『きよぽんの場面が長すぎるようには感じない』
『そこだけ?』
『四体の役割が分かりやすい』
『面白かった?』
面白い。
そういう言葉でいいのかは分からない。
確かに笑える場面もある。
ぶっくまるが本を倒す。
ほなわんが一人でありすぽーんを引っ張ろうとする。
ありすぽーんが王冠へ届かない手を伸ばす。
きよぽんが、拾えなかった王冠の隣へヨーグルトを置く。
ただし、単なるギャグではない。
『良かったと思う』
送信すると、すぐに返事が来た。
『やった!』
続けて。
『きよぽんがきよぽんやってくれてよかった』
『三宅も後半を担当した』
『二人とも』
少し後。
『でも、王冠の隣にヨーグルト置いたのはきよぽんだから』
『拾えなかっただけだ』
『できなかったから、別のことをした』
『結果的にはそうなった』
『それがきよぽんだよ』
オレはすぐには返信しなかった。
画面には、王冠とヨーグルトが並んでいる。
できないことは多い。
腕が短い。
一人では大きな丸を作れない。
王冠も拾えない。
それでも、できないという理由だけで終わらせるわけではない。
別の方法を探す。
たとえ、それが何の解決にもならなくても、一人にはしない。
きよぽん。
最初は、オレを丸くしただけの冗談から生まれた。
頭へヨーグルトを載せた、意味の分からない謎の生き物。
しかし今は。
オレ自身も、そのキャラクターの性格を理解し始めている。
端末へ返信する。
『悪くないキャラクターだな』
送信した直後。
長谷部から着信が入った。
文字ではなく通話。
出ない。
すぐにメッセージへ切り替わる。
『今のスクショした!』
『消せ』
『きよぽんがきよぽん認めた記念日!』
『キャラクターとして評価しただけだ』
『同じ!』
『違う』
『きよぽんが勝手に?』
『今日はそれでいい』
数秒後。
長谷部から大量の驚いた顔の記号が送られてきた。
その後。
『認めた!』
『会話を終わらせただけだ』
『明日みんなに言う』
『言うな』
『公式マネージャーの仕事』
『違う』
返信の応酬は、しばらく続いた。
◯
翌日。
短編動画『ゆるキャラ四天王 ありすぽーんを救え!』は、
午後六時に試験専用ページへ公開される予定となった。
四体が初めて主演する物語。
各クラスのキャラクターを宣伝し、試験全体を盛り上げるために作られた合同作品。
そして公開直前の段階では、まだ誰も予想していなかった。
王冠の隣へヨーグルトを置く、あの即興の場面が、動画の中で最も多く画像として切り取られ、
『何の役にも立たないのに、なぜか優しい』
『きよぽん、王冠を一人にしなかった』
『手が届かなくても、隣には行ける』
という言葉と共に、校内で大きな話題になることを。
さらに、ありすぽーんが転んだ瞬間にほなわんが仲間を呼び、
ぶっくまるが本を探し、きよぽんが隣へ座る。
その一連の流れが、試験開始以来初めて、
四体すべてを応援する生徒たちから、一つの物語として受け入れられることを。
この時のオレたちは、まだ知らなかった。