寝ている間に無自覚無双 ~怠惰に生きたい転生貴族、楽するために開発したオートスキルで知らないうちに国を救っていたようです~   作:片沼ほとり

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第28話:操られた騎士

 それからは防戦一方だった。

 

 ミッシェルの剣に、シエルは常備している短剣で応戦する。

 だが、ミッシェルは元席次持ち。速さも剣技も、シエルより二枚も三枚も上手だ。

 

(一分の隙もない、ですわね……!)

 

 キンキンと鳴り続ける金属音を聞きながら、シエルは奥歯を噛んだ。

 幼い頃から、数え切れないほど打ち合った構え。教わった手筋を、教わった本人にぶつけられている。受けるだけで精一杯で、光魔術を練る余裕などどこにもない。

 

 踏み込み、斬り上げ、薙ぎ払い。

 剣戟の連続に、シエルの息が上がる。一合ごとに、確実に押し込まれていく。

 

(このままでは――)

 

 だがその時、横合いから一条の光が走った。

 ミッシェルの側頭部を狙った光弾。威力は低い。だが、正確だ。ミッシェルが半歩退いて、それをかわす。

 生まれた隙に、シエルは体勢を立て直した。

 

「助かりますわ、フィオナさん……!」

 

 言葉は要らない。リリアナを背に庇いながら、フィオナが次々と魔術を編んでいる。

 光、氷、炎――手当たり次第のようでいて、どれもシエルの邪魔をしない。

 フィオナもまた、光属性の速さにはついていけないのだろう。剣を手に斬り込むことなど到底できない。だからこそ遠くから的確に横槍を入れ、ミッシェルの体勢を崩し続ける。

 

(ですが、このままでは……!)

 

 フィオナの援護はありがたい。だが、先は見えない。

 事実、肩で息をしているシエルと対照的に、ミッシェルは目を細めて微笑む。

 

「お見事ですシエル様。以前よりずっと太刀筋が伸びましたな」

「……っ」

 

 優しい声だった。世辞でも皮肉でもなく、本心からそう言っているのが伝わってくる。

 

「いえ、太刀筋だけではありません。良い友をお持ちになりましたな。背中を任せられる友を」

「……別に友達のつもりはありませんけれど」

「ほっほっほ。私は嬉しいですぞ」

 

 こう話していると、普段と何も変わらないように思えてしまう。

 なのにその剣は、シエルの命を刈り取ろうと振るわれている。

 

「ですが、その援護もここまでのようですな」

「……? それは、どういう――」

 

 問い返す前に、背後から低い呻き声が上がった。

 倒れていたはずのゴロツキたちが、一人、また一人と身を起こしていた。

 先ほどシエルとフィオナが昏倒させた、あの男たちだ。

 

「皆様。そちらの銀髪の方の対処をお願いできますかな」

 

 落ち着いた口調で、ゴロツキたちに命令するミッシェル。男たちが落ちていた武器を取り、フィオナとリリアナに目を向ける。

 

 三対一でも、そう簡単にフィオナが負けるとは思えない。

 だが、リリアナを守りながらでは、もうシエルを援護する余裕はない。

 

「シエル様……」

「わかっていますわ! リリアナさんをお守りくださいまし!」

「それでは改めて、仕合と参りましょう」

 

 ミッシェルは優しい微笑み、そして加速する。

 キン、キンと響く音。一合、二合、三合――打ち合うたびに手が痺れ、後退を強いられる。

 フィオナの援護を失ったシエルは、もう受けるだけで精一杯だった。

 

(速い……っ、目で追うのがやっと……!)

 

 全盛期の速さはないはずだ。だが、積み重ねた年季が違う。

 ミッシェルの一撃は、シエルの剣を的確に弾き、その体勢を崩していく。

 

「おわかりでしょう。純粋な剣戟ではシエル様に勝ち目はありません」

「……何が言いたいのです?」

「見せていただきたいものです。黒仮面とやらに教わった、シエル様の真の力を」

「――っ!」

 

 そこで、あえて一呼吸置くように、ミッシェルは距離を取った。

 まるで稽古の総仕上げでも促すような口ぶりで。

 

「……わかって、いますわ」

 

 シエルは剣を鞘に収めた。

 黒仮面にこの魔術を授かってから、数多の魔獣を蹴散らしてきた。自信もある。

 だからこそ、それを恩師に向けるのが怖い。まさかミッシェルが、とは思うが、直撃すれば重傷だろう。

 

 それでも今は、やるしかない。

 シエルは両手を前に突き出した。体の周りにピリピリと火花が散る。その力を一点に集め――。

 

「はあああぁっ!」

 

 シエルの手から、ミッシェルを捕らえるように光の束がほとばしる、が。

 

「未熟。強さ、速さ、繊細さ、いずれも足りませぬ」

「……っ!」

 

 シエルの電撃をかいくぐったミッシェルの剣が、届く。

 その時だった。

 

「……噂をすれば、ですな」

 

 届くはずだったミッシェルの刃が、ぴたりと止まっていた。

 横から伸びた、黒いスーツに包まれた手が、その白刃を掴んでいる。

 

 

「黒仮面、様……!」

 

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