寝ている間に無自覚無双 ~怠惰に生きたい転生貴族、楽するために開発したオートスキルで知らないうちに国を救っていたようです~   作:片沼ほとり

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第35話:セルフ脳破壊

「ふわぁ~」

 

 差し込む朝日を感じながら、僕は大きく伸びをした。

 安眠マスクを外し、ボディスーツを寝間着から部屋着に替える。いつもの朝だ。

 

 ……なのに、体がやけにだるい。疲労というより、魔力を使いすぎた時の感覚に近い。

 昨日もちゃんと寝たはずなんだけどなぁ。

 

 そういえば、フィオナはちゃんと帰ってきてるんだろうか。

 ちょうどそう思ったとき、コンコン、と部屋の扉がノックされた。

 

「おはようございます、アレン様」

「ああ、おは、よ……」

 

 いつも通り、エプロンを着けて部屋に入ってくるフィオナ。しかしその違いは一目で分かった。

 頬がゆるゆるに緩んでいる。肌がつやつやになっている。声まで甘い気がする。

 一言で言うなら、全身で「幸せ」を体現したような姿だった。

 

 ただの学生なら見過ごしていただろう。だけど前世の社会人経験が、ぴたりと答えを出した。

 

 これは――一線を越えた女の顔だ。

 

「朝食のご準備ができております」

「あ、うん。すぐ行くよ」

 

 フィオナに促され、リビングへと移動する。テーブルにはすでに朝食が並んでいた。

 まったくもっていつも通り。メイドとしての仕事は完璧。

 

 だとしても……だからこそ、聞かなければならないと思った。

 

「あのさ、フィオナ」

「何でしょう?」

 

 食卓に向かい合って座り、いざ食べ始めようというタイミングで、僕は意を決して尋ねた。

 

「昨日は……どうだった?」

「……!」

 

 僕を見るフィオナの目が大きく見開いた。

 

「……んもう、私に言わせるんですか。意地悪ですね、アレン様は」

「デリカシーがなかったらごめん。だけど聞いておきたくて」

 

 フィオナは頬を染め、目を伏せる。その反応だけでも何が起こったのかがわかる。

 そしてフィオナは、上目遣いに僕を見上げ、言った。

 

「すごく……良かった、ですよ」

「……そっか」

 

 何が、なんて聞くまでもなかった。

 普段のフィオナのイメージからはほど遠い、照れや恥じらいが入り交じった表情。

 

「まさかここに来て、アレン様ではない人と結ばれるとは思いませんでしたね」

「……」

 

 ――やっぱり、そうだったのか。

 

 毎晩出かけていた相手。彼氏。その人と、ついに。

 覚悟していたはずなのに、面と向かって言われると、胸の奥がぎゅっと締まる。

 

「どうされましたか。魂の抜けたような顔をされて」

「……ごめん、どう反応していいかわからないんだ。僕もこんなこと初めてで」

「はい、私も初めてでした……って何言わせるんですか、もう」

 

 フィオナは唇を尖らせる。

 勝手に言ったんだけど。っていうか聞いてないんだけど。

 

 ――フィオナに恋人が出来た。その事実は、胸に来るものがある。

 しかし何より怖いのは、それを隠そうともせず、むしろ嬉々として僕に話すフィオナだ。

 こういうのってもうちょっと隠すものじゃないの? それともそういうプレイ?

 

 女の子って怖い。本当に。

 

「とにかく、おめでとう。良い人が見つかって良かったね」

「え……ああなるほど、そういう設定でいくのですね」

 

 フィオナは一瞬キョトンとした後、心得顔でうなずいた。

 もしかして、僕が怒ると思っていたのだろうか。

 僕はそんなに器は狭くない。フィオナの幸せを心から祝福……できているはずだ。

 

「学園での距離感は何か変えた方がいい?」

「いえいえ、これまで通りお願いします」

「……それで大丈夫なの?」

「はい。私はアレン様の従者ですから」

 

 公私混同はしない、仕事は今まで通りこなす、ということだろうか。

 まあ、フィオナが幸せならそれでいい。それでいいはずだ。

 

 

 ――その日の朝食は、何も味がしなかった。

 

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