寝ている間に無自覚無双 ~怠惰に生きたい転生貴族、楽するために開発したオートスキルで知らないうちに国を救っていたようです~ 作:片沼ほとり
「ふわぁ~」
差し込む朝日を感じながら、僕は大きく伸びをした。
安眠マスクを外し、ボディスーツを寝間着から部屋着に替える。いつもの朝だ。
……なのに、体がやけにだるい。疲労というより、魔力を使いすぎた時の感覚に近い。
昨日もちゃんと寝たはずなんだけどなぁ。
そういえば、フィオナはちゃんと帰ってきてるんだろうか。
ちょうどそう思ったとき、コンコン、と部屋の扉がノックされた。
「おはようございます、アレン様」
「ああ、おは、よ……」
いつも通り、エプロンを着けて部屋に入ってくるフィオナ。しかしその違いは一目で分かった。
頬がゆるゆるに緩んでいる。肌がつやつやになっている。声まで甘い気がする。
一言で言うなら、全身で「幸せ」を体現したような姿だった。
ただの学生なら見過ごしていただろう。だけど前世の社会人経験が、ぴたりと答えを出した。
これは――一線を越えた女の顔だ。
「朝食のご準備ができております」
「あ、うん。すぐ行くよ」
フィオナに促され、リビングへと移動する。テーブルにはすでに朝食が並んでいた。
まったくもっていつも通り。メイドとしての仕事は完璧。
だとしても……だからこそ、聞かなければならないと思った。
「あのさ、フィオナ」
「何でしょう?」
食卓に向かい合って座り、いざ食べ始めようというタイミングで、僕は意を決して尋ねた。
「昨日は……どうだった?」
「……!」
僕を見るフィオナの目が大きく見開いた。
「……んもう、私に言わせるんですか。意地悪ですね、アレン様は」
「デリカシーがなかったらごめん。だけど聞いておきたくて」
フィオナは頬を染め、目を伏せる。その反応だけでも何が起こったのかがわかる。
そしてフィオナは、上目遣いに僕を見上げ、言った。
「すごく……良かった、ですよ」
「……そっか」
何が、なんて聞くまでもなかった。
普段のフィオナのイメージからはほど遠い、照れや恥じらいが入り交じった表情。
「まさかここに来て、アレン様ではない人と結ばれるとは思いませんでしたね」
「……」
――やっぱり、そうだったのか。
毎晩出かけていた相手。彼氏。その人と、ついに。
覚悟していたはずなのに、面と向かって言われると、胸の奥がぎゅっと締まる。
「どうされましたか。魂の抜けたような顔をされて」
「……ごめん、どう反応していいかわからないんだ。僕もこんなこと初めてで」
「はい、私も初めてでした……って何言わせるんですか、もう」
フィオナは唇を尖らせる。
勝手に言ったんだけど。っていうか聞いてないんだけど。
――フィオナに恋人が出来た。その事実は、胸に来るものがある。
しかし何より怖いのは、それを隠そうともせず、むしろ嬉々として僕に話すフィオナだ。
こういうのってもうちょっと隠すものじゃないの? それともそういうプレイ?
女の子って怖い。本当に。
「とにかく、おめでとう。良い人が見つかって良かったね」
「え……ああなるほど、そういう設定でいくのですね」
フィオナは一瞬キョトンとした後、心得顔でうなずいた。
もしかして、僕が怒ると思っていたのだろうか。
僕はそんなに器は狭くない。フィオナの幸せを心から祝福……できているはずだ。
「学園での距離感は何か変えた方がいい?」
「いえいえ、これまで通りお願いします」
「……それで大丈夫なの?」
「はい。私はアレン様の従者ですから」
公私混同はしない、仕事は今まで通りこなす、ということだろうか。
まあ、フィオナが幸せならそれでいい。それでいいはずだ。
――その日の朝食は、何も味がしなかった。