寝ている間に無自覚無双 ~怠惰に生きたい転生貴族、楽するために開発したオートスキルで知らないうちに国を救っていたようです~   作:片沼ほとり

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第36話:勘違いは続くよどこまでも

 朝食を終え、フィオナと並んで学園へ向かう。

 フィオナは朝からずっと機嫌がいい。隠しきれない幸せが全身からにじみ出ている。

 

「学園ではいつも通り、なんだよね」

「はい、いつも通りです」

 

 そう言って、フィオナは僕の腕に体を寄せた。何ならいつもよりも重く寄りかかってくる。

 恋人ができたばかりなのに、こんなに僕にべったりでいいのだろうか……なんて考えると、また胸の奥がちくりとする。

 

「そういえばアレン様。シエル様とは、あまり仲良くしすぎないでくださいね」

「え、なんで急に?」

「なんとなく、です」

 

 フィオナは微笑むだけで、それ以上は言わない。

 シエルとは別に仲良くないんだけど。むしろ叱られてばかりだし。女心はやっぱりわからない。

 

 

 教室に着くと、いつもと様子が違った。

 シエルだ。最前列の席で、窓の外をぼんやり眺めている。

 いつもなら僕の顔を見るなり小言が飛んでくるのに、今日はこちらに気づきもしない。時折ひとりで頬を赤らめ、口元を引き結んでいる。

 

「……ワタクシの、騎士に……」

「シエル? どうかした?」

「――っ!? な、なんでもありませんわ!」

 

 声をかけると、シエルは飛び上がり、みるみる顔を赤くした。挙動不審にもほどがある。

 そこにフィオナが補足するようにつけたした。

 

「無理もありませんね。シエル様は昨日、いろいろな事がありましたから」

「昨日? 何かあったの?」

「ええ、少し。って、他人事のように言っていますがフィオナさんこそ当事者ですわよ」

「え、フィオナも?」

「……あなた、何も聞いてないんですの?」

 

 シエルがじとっとした目で僕を見るが、聞いてないんだから仕方ない。

 チラリとフィオナを見るが、「アレン様とイチャイチャする時間の方が大切ですから」とどこ吹く風だ。

 シエルはため息をついた。

 

「仕方ありませんわね。昨日の夜、ワタクシとフィオナさんが偶然出会ったときに、誘拐事件を見つけましたの。攫われかけていたのは――リリアナさん。あなたのお友達でしょう」

「リリアナまで!?」

「ご安心なさい、無事に助けましたので。その後も、ワタクシとフィオナさんで敵に操られたお姉様と戦ったり、リリアナさんの知識で洗脳を解除したり……いろいろありましたわ」

 

 すごい。僕の関係者のオンパレードだ。

 僕がぐっすり眠っている間に大事件が起こっていたらしい。なんだか仲間外れにされた気分。

 

「ですが、何より大切なのは……黒仮面様も現れましたの」

 

 出た。黒仮面様。

 シエルの目がうっとりとする。まるで今朝のフィオナだ。

 

「黒仮面様はまた、ワタクシたちのピンチを救ってくださいました。しかも、それだけではありませんのよ!」

 

 シエルは胸の前で両手を握り、目を輝かせる。

 

「あの夜、街じゅうで同時に起きていた誘拐を……黒仮面様は、たったお一人ですべて鎮圧なさったのです。攫われかけた子供たちは、全員ご無事でしたわ!」

「おおー」

 

 話を聞く限り、本当にあちこちで人を助けて回っているらしい。

 僕とは真反対の、とんでもない働き者だ。

 

「すごい人だね」

「本当に、すごい方なのですわ! いつかワタクシも追いついて、その時は……うふふふふ」

「……シエル? 意識がどこかに行ってるよ?」

「アレン様、放っておきましょう。幸せな夢を見ているようですので」

「……?」

 

 

  *

 

 

 イグニール先生の魔術学の時間、僕は一人で図書館へ向かった。

 いつもの窓際の席にリリアナはいた。僕に気づくと、ぱっと顔を上げる。

 

「あ、アレンくん」

「こんにちは。昨日は大変だったんだってね。大丈夫だった?」

「そっか、もう知ってたんだ。平気だよ。シエル様とフィオナさんが助けてくれたから」

 

 リリアナは少し恥ずかしそうに笑った。

 

「さっきシエルに聞いたよ。黒仮面も来てくれたんだってね」

「……あー、うん」

 

 心なしか、リリアナの声が少し硬くなった気がした。何だろう。

 

「黒仮面と会ってみて、どうだった?」

「ちゃんと話したわけじゃないけど……まず、すっごく強かったよ。戦ってるのを見ても、私には目で追うのも難しいくらいで」

「やっぱり噂通りなんだね」

「うん。それに、精神魔術も深く理解してるみたいだった。もしかしたら私以上かも」

「え? それはすごい」

 

 思ってもいない話だった。

 圧倒的に強い上、リリアナ以上の魔術理解。世の中には凄い人がいるんだな、と思う。

 

「僕と正反対のとんでもない働き者だよね。魔術の話もできるなら、ちょっと会ってみたいかも」

「えっ、会う?」

 

 そう言うと、途端にリリアナが目を見開いた。

 

「うん。魔術について楽しい話ができるかもって。リリアナもそう思ったんじゃないの?」

「それはそう、なんだけど……アレンくんが会うのは……」

「……?」

 

 リリアナが視線を泳がせる。なぜか顔が赤くなっていく。

 

「あの、黒仮面さんは正体を隠してる人だから……気軽に会える感じじゃ、ないと思う」

「まあ、そうだよね。仮面してるくらいだし」

「うん、そう! だから会うのは無理! 絶対無理!」

「……リリアナ、何か隠してる?」

「か、隠してない! 何も!」

 

 リリアナが手をブンブンと振る。完全に隠してる様子だった。

 でもリリアナが言わないってことは、これ以上深入りすることでもないのだろう。

 

「まあ、いつか会えたらいいなってくらいだから」

「……うん、良い関係が築けるといいね」

 

 リリアナはうつむいて、ノートの端を指先でなぞった。

 

「もしそれでアレンくんがショックを受けちゃっても、その時は私がアレンくんを――」

「うん、何?」

「何でもないです! あうっ」

 

 リリアナは手をブンブンと振り、机にぶつけた。

 

 

 

 黒仮面とか国の騒動とか、世間に目を向ければいろいろなことがある。

 だけど僕はそれらに首を突っ込むつもりはない。

 適度にのんびりして、魔術は自由に楽しんで。この平和な日々がいつまでも続いていく。

 

 

 ――そう思っていた。

 

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