寝ている間に無自覚無双 ~怠惰に生きたい転生貴族、楽するために開発したオートスキルで知らないうちに国を救っていたようです~   作:片沼ほとり

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第2章:夢見た怠惰な学園生活!
第6話:初めての居眠り(入学式)


 オートスキルの試運転も無事に終わり、僕とフィオナは入学式の朝を迎えた。

 一年生であることを示す、赤いリボンとネクタイ。そんな真新しい制服にそれぞれ身を包み、大きな校門をくぐる。

 

 王都一の学園とだけあってすべてが立派。

 入学式が行われる講堂への道、その芝生を踏みしめるだけでも心が躍る……のだが。

 

「さすがはアレン様です。すでに新入生たちから一目置かれていますね」

「うーん、注目されてるのはフィオナだと思うけど」

 

 ただ道を歩いているだけで、こちらを振り返る生徒がチラホラと。

 気持ちは分かる。これだけ可愛い女の子がいれば見たくもなる。

 

 しかもそれが――男子と腕を組んでいるとなればなおさらだ。

 

「この学園には国中の貴族が集まります。付き人をつけているのも決して不自然ではありません」

「それはいいんだけど、この距離感も普通なの?」

「普通です」

「そっか」

 

 フィオナの方が僕より付き人としての役割に詳しいはずだし、フィオナが言うならそうなんだろう。周りにそんな人が見当たらないのが気になるけど。

 まあ、フィオナも登校初日でテンションが上がってるんだろうし、好きにさせてあげよう。

 

「とはいえ、アレン様ご自身が注目を集めているのは本当ですよ。なにせ、名門クライネル侯爵家の長男ですから」

「そういうもの?」

「アレン様は面倒がって社交界には顔を出されていませんでしたからなおさらでしょう。アレン様のお近づきになれれば、と思っている人はたくさんいるはずです」

「……そういうの苦手なんだけどなぁ」

 

 この貴族社会というのが、前世と違うので未だに慣れない。

 社交界に顔を出す気になれなかったのも、貴族として扱われるのが苦手だったからである。

 

「もちろん、玉の輿を狙う女狐もいることでしょう。私がしっかりと見定めさせてもらいますね」

「政略結婚かぁ。そういうのもなかなか気が乗らないね」

「アレン様には私がいれば十分、ということですね」

「うん、今はフィオナがいればそれでいいかな」

「……たまにそういうカウンターしてくるのズルいですよね」

「何が?」

 

 そんなことを言っているうちに講堂に到着した。

 ズラリと椅子が並べられており、一年生たちが着席していく。このあたりは前世とも同じで、違うところと言えば席が自由なことくらいだろうか。

 フィオナと一緒に後ろの方の席を確保し、やがて入学式が始まる。

 

『それではこれより、王立第一魔術学園の入学式を始めます。まずは学園長から――』

 

 張り詰めた空気の中、粛々と式が進行していく。

 それを聞いているうちに、僕は前世と今世のもう一つの共通点に気づいた。

 

(眠いな)

 

 そう、先生の話は長くて退屈なのである。

 いつもはこんな朝から眠くなることはないのだが、やはりオートスキルのせいか、昨日深くは眠れなかったらしい。

 ただ宿題をしただけなのに……と思っても仕方ない。これはじきに慣れていくだろう。

 

(このまま寝ちゃったら気持ちいいだろうなぁ。でもさすがに寝るのはダメか)

 

 ……などと思っていたところで、前世をハッと思い出す。

 中学校の入学式で居眠りし、早速先生に怒られている男子がいた。彼の名は山田くん。

 

 いや、入学式だけじゃない。山田くんはほとんどの授業で眠っていた。家で一睡もしてないんじゃないかというくらいに学校で寝ていた。たまに休み時間もまたいで寝ていた。

 最初は先生や生徒から注意されたが、いつしか諦められ、もう誰も何も言わなくなったのだ。

 

 ――そうだ、僕は怠惰を目指すのだ。山田くんになるのだ。

 

 前世の僕なら式典で眠るなんてありえなかったけど……今この瞬間こそが、怠惰への第一歩なんじゃないか?

 

「フィオナ、入学式が終わったら起こして」

「承知しました。ゆっくりとお休みくださいませ」

 

 相変わらず何も否定しないフィオナを横目に、強い決意を持ち、まどろみに身を委ねた――。

 

 

  *

 

 

 王立第一魔術学園、その入学式のさなか。

 新入生であるシエル・アークライトは、他の生徒たちとは違う場所、講堂の舞台袖にいた。

 その理由は、新入生代表挨拶を行うため。第二王女のシエルが選ばれたのは当然のことだった。

 

 しかしそんなシエルの頭の中は――。

 

(黒仮面……いったいどなただったのでしょうか)

 

 昨夜のことが忘れられないでいた。

 

 謎の男に助けられた後。遅れて到着した騎士団の人々に、シエルはすべてを話した。

 魔獣の発生にいち早く自分が駆けつけたこと、しかし敵の力を見誤り死の危機に瀕したこと。

 そして、黒い服に身を包んだ謎の男に救われ、彼は名乗りもせずに立ち去っていったこと。

 

 ひとまず騎士団は彼のことを「黒仮面」と呼び、彼の正体を探すことにしたらしい。もしも王立騎士団の人間ならば、業務外活動としてペナルティが課せられる可能性もある。

 だが、今朝になってみても、まだ黒仮面は名乗り出ていないようだった。

 

 命を助けられた恩人。一刻も早く再会し、感謝を伝えたい気持ちもあるが……。

 

(命を救ってもなお、その見返りも感謝も求めず立ち去る気高い精神。カッコいいですわ……!)

 

 たった一人の舞台裏、思わず頬が緩んでしまう。

 並外れた力を持ちながら、それを驕らない姿。

 それが黒仮面の本質なのだと思うと、どうにも胸が高鳴って――。

 

(って、違いますわよ! そういうのじゃないんですわよ!)

 

 頭をブンブンと横に振って雑念を払う。自分はそんなにチョロくないと言い聞かせながら。

 そして何より、もう出番が近づいていた。

 

 

『続きまして、新入生代表挨拶を行います。シエル・アークライトさん、お願いします』

 

 司会から名前を呼ばれる。気を取り直し、シエルは舞台の中央へと歩みを進めた。

 そうして前を向けば、ずらりと並ぶ生徒たちの顔が視界に飛び込んでくる。

 生徒たち、そして教師たちへと一礼し、シエルはマイクの前で口を開いた。

 

「春らしい穏やかな日が差す今日この日、私たちは入学のときを迎えました。本校は――」

 

 緊張はない。王族の一員として、注目されることには慣れている。この程度のことは朝飯前だ。

 生徒たちの緊張の面持ちを観察する余裕すらある中……。

 一人の男子生徒が、シエルの目に留まった。

 

(アレン・クライネル。クライネル侯爵家の長男ですが……どういうつもりですの?)

 

 シエルの目に留まったその男子生徒は、背もたれに頭を預け、目を閉ざした顔は完全に下を向き、うつらうつらと体を揺らしていた。

 そう、爆睡である。

 

(誉れある貴族の行動としては見過ごせませんわね)

 

 名門貴族ゆえ顔だけは覚えていたが、社交界には出てこないので、実際に見るのは初めてだ。

 噂では、神童だとも怠惰だとも聞く。しかし真実は後者だったらしい。

 もしかすると、高い身分をいいことに、今まで好き勝手が許されていたのかもしれない。

 

 だが、この学園に来たからにはそうはいかない。

 王族にしろ貴族にしろ、位が高いからこそ、民の手本にならなければならないのだ。

 

「以上をもちまして、新入生を代表しての挨拶とさせていただきます。そしてここからは――ワタクシ、シエル・アークライトとして、同じ新入生の皆さんに向けての言葉をさせてくださいませ」

 

 優等生な言葉をすべて並べた後。シエルはいつもの語調に戻し、生徒たちに呼びかけた。

 雰囲気が変わり、生徒たちの背筋が今一度伸びる。

 

「ワタクシの姉、第一王女アウロラ・アークライトのことは皆さんご存じでしょう。五年前の卒業生であり、その武功は皆の知るところです。しかし特筆すべきは、彼女だけでなく、その代の卒業生が揃って各分野で活躍していること。彼女の存在が、全体のレベルを引き上げたのです」

 

 目指すべきは、尊敬する姉――第一王女アウロラ・アークライトのようなカリスマだ。

 今は騎士団で剣を振るう第一王女アウロラも、この学園を卒業している。座学、実技、戦闘、あらゆる科目で他を圧倒し、圧倒的首席として。

 その姿を見てきた同世代の生徒たちは、彼女に憧れて腕を磨き、そして彼女に絶対の信頼を置いている。この国では有名な話だ。

 貴族をとりまとめるべきカリスマたる王族として、姉はシエルにとっての理想そのものだった。

 

「今のワタクシはまだ、姉に遠く及びません。ですが、三年後にこの場で卒業を迎えるときには、姉のようにありたいと願っています。この学年全体が国を支える黄金世代になる、そんな未来を見たいのです。ですから――ワタクシは、同胞の怠惰を許しません」

 

 そこまで言うと、シエルはわずかに右手を挙げ、その指先を、相変わらず熟睡をかましている男子生徒へと向ける。

 そして、予備動作もなく――。

 

 

 ――ビュウン、という鋭い轟音とともに、講堂に一筋の光が走った。

 

 

「きゃああっ!?」「何だ!?」「光魔術の攻撃……!?」

 

 突然の出来事に生徒たちがざわつく。それも当然だろう。

 シエルはあえて、光も音も大きく見せかけて魔術を放った。

 しかし危害を加えるつもりはない。直撃しても体がビリビリと痺れる程度の電気。

 

 とはいえ、そんな魔術を、この距離で、あの速さで、たった一人の生徒を狙って精度高く撃ち抜ける魔術師は、おそらく新入生の中ではシエルだけ。

 生徒たちの先を行く圧倒的な技術。

 そして、最高身分の貴族に対してさえも、誤った行動は躊躇なく正す姿勢。

 

 こうしてアレンを注意すれば、新入生代表としての姿勢を示せる。そうシエルは考えた。

 だが――。

 

 

「……どういうこと、ですの?」

 

 

 着弾点にいるアレンの姿を見て、シエルは自分の目を疑った。

 わかっていても反応が難しいはずの高速攻撃。加えて目を閉じていたのだから、何をどう考えても防げるはずがない。

 

 

 しかしアレンは――前に差し出した右手一本で、シエルの攻撃を受け止めていた。

 

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