大変お待たせしました。最新話の方書き上がりましたので投稿させていただきます。
三角さんからチケットを頂いた翌日の昼休み。僕は今日も今日とて大沼と昼食を摂っていた。あ、今日はおにぎりと菓子パンの仲良しコンビじゃなくてちゃんとお弁当持ってきてます。誰得の話だろうねこれ。
「なあ、大沼」
「どした?」
「『Ave Mujica』って知ってる?」
対面にて本日も
「知ってる。今人気急上昇中のビジュアル系バンドだ」
「へぇー、ビジュアル系……」
「と言うのは、肩書き。実際のところ音楽もエグいくらい強い」
「どれくらい強い?」
いまいちピンと来なかった僕は、指標の提示を求めてみる。どれくらいの強さなのかを聞いただけでは測れなかった愚かな僕を許して欲しい。大沼なら笑って流してくれそうではあるなと思ってみたり。
「そうだな、八雲が知ってそうなところだと、『Roselia』とか『RAISE A SUILEN』に引けを取らない、下手したらそれ以上かもしれないな」
「マジか……」
大沼の口から出てきたバンド名を聞き戦慄する。RoseliaもRASも聴いたことあるけど、音楽に『火力』って文字が振り当てられるくらい凄いからな……特にRoseliaなんかは『CiRCLE』でライブしてた時代に生で聴いてたからその凄さがよく分かる。そして、そんなバンド達よりも凄いかもしれない、のか。
「……というか、現地行ったことあるの?」
「ああ。デビューライブの時にな」
以前のことを振り返るような表情で返答してくれた大沼。デビューライブ行ってたんだ。パスパレさんの追っかけしてた延長で聴きにでも行ったのかな? そこんところはまた今度聞いてみようかしら……。
「そうなんだ」
「八雲の方はなんでまたそんなバンドの名前を」
「知り合いからチケットを貰ってね。リサーチというかなんというか」
事前に観に行くアーティストの事を少しぐらいは知っておこうかなって思ったからです。まる。そうしたらちゃんと情報がいただけて……響夜、感激ー。今の小学生はこれが通じないって聞いたけど本当なのかな?
「なるほどね。楽しんできなよ。楽しさは観てきた俺が保証するよ」
「ありがとさん」
大沼に感謝の言葉を返しつつ空になった弁当箱を閉じていく。食べる前は二段で食べ終わった後は一段にまとまるタイプのお弁当箱使ってるんですよね。これも誰得なお話ですわね。
「ごちそうさまでした」
「八雲はそう言うところしっかりしてるな」
「なにが?」
手を合わせ感謝の言葉を述べていたら、大沼から変なことを言われた。はてさて、何か特殊なことでもしてたかな僕?
「ちゃんと食後の挨拶というかをやってるのがさ」
「ああ。昔から徹底されてたもんでね」
大沼の言葉に返答しながら、弁当箱を鞄の中にしまっていく。感謝と謝罪の言葉はしっかりと言いなさいって口酸っぱく教えられていたものでね。お陰様で些細なことでもしっかりと言えるようになりました。推しの前だとしどろもどろになりがちで会えてるか微妙なんですけどね……はい。
「お手洗い行ってくるわ」
「ほいよ」
直近の事を振り返りつつ、席を立った僕は宣言通りお手洗いを目指して行く。そういやなんか調べ事をしようと思ってたんだけどなんだっけな……ああ、思い出した。
「検索エンジン君を開いてー……『Ave Mujica、意味』っと」
移動しながら検索アプリを開いた僕は、呟きながら打ち込んだ言葉を調べて行く。……っと、なになに? まず『Ave』はラテン語で『ようこそ』や『さようなら』の意か。『Mujica』はラテン語で『音楽』を意味する『Musica』の綴りを変えたもの……ってところか? これらの事柄を繋げつつ翻訳すると……『ようこそ、音楽』と言ったところであろうか。個人的には『さようなら、音楽』の方がそれっぽい気もするが……あくまでも考証の域を出ないのでなんとも、か。この辺に関しては、実際に見てみれば分かるかもしれないしね。
考察の後、結論を現地まで取っておこうと決めた僕は手にしていたスマホを懐へと戻す。
「午後も頑張るか……な」
自身を鼓舞するように小さく呟いた僕は、生徒の波とそれによって生じている雑踏の中を進んでいくのだった——
ライブ当日。関係者席への入場口を潜り座席に足を運んだ僕は、緊張のあまり激しい動悸に襲われていた。高校受験の時よりもプレッシャーを感じている気がするよ今。
「……緊張するなぁ」
席に座りながら小さく溢した僕は、手荷物を膝の上に乗せ幕の降りているステージへ視線を向ける。果たしてこの後、どのようなステージが待ち受けているのか。
そわそわしながら開演を待っていると、開演のアナウンスがなされ、会場内の照明が落とされていった。
始まった……幕が上がったステージ上には等間隔で並べられた四つの椅子と、そこに座る仮面を着けた者が四人。それぞれスポットライトで照らされている。皆、眠ったようにして。
「……なんだろう」
初めて目にする状況に視線が釘付けになる。演出というか、バンドの世界観とてしての一端なのだろうが、この状態から始まるのは普通とはかけ離れていると思う。
「……いつまで眠っているの? 起きて」
「今宵もまた、マスカレードなのだから」
「……んんっ、もうそんな時間なの?」
真ん中に座っていた人物が、舞台袖より現れた人物へと尋ねる。寝起き……って感じかしら? 違和感ない表現の仕方をされていてとても上手だなって思いました。粉みかん。
「ええ。もうお客様がいらしている時間ですわ」
「早く、準備しないと」
最も上手側に置かれた椅子に座っている人物が言の葉を溢す。淡々とした声色でありながらも、しっかりと抑揚のつけられた声で。
「また堅苦しい格好しなきゃなの〜?」
「見てもらうためだから仕方ないかと」
上手から二番目の席に座っていた人物の発言に、
「しゃんとして。それではお客様に見せられないわ」
「はーい」
舞台袖より現れた人物に
「皆様、今宵もマスカレードにご参加いただきありがとうございます。
内心で大歓喜していたら、演者からの言葉が客席側へと飛んできていました。おやおや、危うく見逃しちゃうところだったよ。意識を現実に戻して行け。
「聡明なティモリス」
最も下手側の人物にスポットライトが集まる。ティモリスって名前なんですか……どう言う意味なんでしょうね。こう言う時って大抵は名前に意味が込められている率が高いんですよ。私的見解ではありますが。何かしらあるはずなんだろうが、現状分からんので置いておきましょう。
「慈愛のアモーリス」
名前についての思考を回していると、先程嗜められていた人物の元にスポットライトが集められる。こっちはアモーリスか……今の所名前の最後が『リス』で終わってるので多分法則性を持った語群の中から命名されたと予想。
「心優しいドロリス」
予想立てをしていると、今度は真ん中の人物へとスポットライトが集まる。ドロリス……ふむ。さっき建てた予想は間違ってはいなそうですね。ここまで連続して最後の形が『リス』で終わってるので。これってあれなのかな、英文で言うところの形容詞みたいな。何かを『する者』を表すのが名詞の最後を『er』に変化させるって感じの。『
「従順なモーティス」
思考を挟みつつの僕の見据える先では、最も上手側の人物へとスポットライトが集まる。モーティス……? 『リス』じゃなくなっちゃった……で、でも音の感じ的には母音『i』と『ス』だったから前者と同じ法則だと思う。……自信無くなってきたけど。
「そして私、気高きオブリビオニス」
一憂しながらもステージから視線を離さずにいたところ、各メンバーを紹介していた人物へとスポットライトが集まった。オブリビオニス……これも最後の部分は『i』と『ス』の組み合わせだね。最初に立てた予想は間違っていなさそう。それはさておき何語の語群なんですかね? 知識量が足りないので全然分かりません。ライブ後に調べてみるしかなさそうです。
「さあ始めましょう——今宵の
オブリビオニスさん……が高らかに告げる。役名にさん付けするのややこしく感じるけど多分気のせい。
なんてことを思っていたら、いつの間にか椅子から離れ楽器を手にしていた面々それぞれにスポットライトが当たる。手にしたって言ったけど、内二人は楽器の前に移動したって方が正しいね。
「我、恐れることを恐れるなかれ」
ベースを肩から提げたティモリスさんが誓いと思し言葉を述べる。恐れることを……恐れるなかれ? 恐怖を恐れないってことか? 何故恐怖? 調べることが増えた気がする。
「我、愛を恐れるなかれ」
ドラマの前に座したアモーリスさんが述べる。愛を恐れることなかれ……か。愛ほど歪んだ呪いは無い、って台詞があった気がしたけど、その辺踏まえて恐れる要素はあるんだよなぁ。推しへのクソデカ感情抱えてるやつがいっちゃいけないセリフでしたね。自害します。
「我、死を恐れるなかれ」
今度はギターを肩から提げたモーティスさんが述べる。死を恐れる……なんか随分恐れの対象となるものが大きくなってきたぞ? これも何かの法則性なのか?
それはさておき、死は人にとって最も恐るべき対象かなと個人的には思ってみたり。だって、死んじゃったら推しの追っかけできないし……あ、でも推しのファンサを貰って死ぬとかだったら普通に嬉しいかも。僕って変なのだろうか? 変ですね。
「我、忘却を恐れるなかれ」
自論を展開している最中、オブリビオニスさんが述べる。忘却、ですか。これまた恐れの対象としてはそこそこ大きいなと。
個人的にだけど、僕は死よりも忘れることの方が怖いかもしれない。推しのこと忘れちゃうとか普通に嫌だもん。ここは諸説ありだろうけど。
「我、悲しみを恐れるなかれ」
最後に、一同の中心立つドロリスさんの述べた言葉が響く。悲しみを恐れるなかれ……悲しみ、か。生きていく上で避けて通ることのできない感情じゃないだろうか。四半世紀生きていない僕ですら、悲しかったことなんて探せば大量に出てくるだろうし……。
自身にあった出来事を思い返していた僕であったが、次に舞台上から届いてきたセリフにより、意識を引き戻される。
「——ようこそ、Ave Mujicaの世界へ」
オブリビオニスさんの言葉により、
宛ら舞踏会の『傍観者』であった僕……いや、僕達観客を『関係者』に変えていくかのように——
ライブ後、そのまま帰ろうと思ったのだが、どこかでルートを間違えたらしく出口を見失っていた。普段のイベントの時は、何をどう頑張っても一般の方でしか参加しないから、マジで退出方法やルートが分からない。どうやったら出られるのかなこれ? この歳になって迷子とか笑えないよね……それよか、ライブはとても良かった。恐ろしい程に引き込まれちゃったよ。うん。
各々の演奏技術の高さもさることながら、ボーカルの歌唱力が良すぎてぇ。僕の好きな声色していたと言うか、僕のストライクゾーンのど真ん中だったと言うか。なんならどっかで聞いたことある声してたんだよなぁ……おや?
ライブのことを振り返りつつ出口を探して右往左往していると、何やら開けたロビーの様な場所に出た……と、同時にそこにいた『Ave Mujica』のメンバーの方と鉢合わせてしまった。しかも目が合ったわね。
「あら、貴方こんなところで何を?」
「あ、えと……道に迷ってしまって」
唐突に問われた僕はしどろもどろになりながらも、正直に訳を答えた。えーと、この人は確かキーボードの……オブリビオニスさん、だったかな。それでその隣にいるのが、ギターボーカルのドロリスさんだね。というかドロリスさんの方からびっくりしてるような視線向けられてるんだけど。なして?
「そうでしたのね。私が案内致しますわ。ところで、こちらにいると言う事は関係者席にいらした方だと思うのですが、どなたからの紹介で今宵のマスカレードに?」
「あ、えと、『sumimi』の三角初華さんからチケットをいただいて……」
「初華から……」
三角さんの名前を出したら驚いた様子を見せるオブリビオニスさん。あとなんか、隣にいるドロリスさんも反応してたような? よくよく考えると三角さんの『お知り合い』の方からチケットを貰ったとのことだったから、このお二人のどちらかがその『お知り合い』だと考えるのが普通か。けど、さっきの反応の仕方はそう言う反応の仕方じゃなかった気がするんだよな……? あとなんか、オブリビオニスさんがずっとこっちを見てきている気がする。僕の顔になにか付いてるのかな?
お二人の反応やその他の疑問に心の内で首を傾げていると、こちらに視線を留めていたオブリビオニスさんが不意に言の葉を漏らす。
「貴方、以前にも何処かで」
「えっ」
「え……?」
不意に飛んできた発言にドロリスさん、僕の順番に声を上げる。え、僕キーボードというか鍵盤楽器が上手な知り合いなんて居たっけ? 全然記憶に無いんだけど? というか芸能界に入れるような知り合いなんて……三角さんがいたよ。知り合いといえば知り合いだよね。認めたくねぇ……一人のファンとして。
でも目の前のオブリビオニスさんが三角さんな訳はないと思うので、じゃあ誰だ?
「思い出しましたわ。貴方、響夜でしょう?」
「なんで僕の名前を……?」
脳内のライブラリを漁っていたところで、教えてもいない名前を当てられた僕は素っ頓狂な返しをする。あれ、本当に面識があるのか? 本当にどなたなのこの方? 一方的に知られているだけとか?
「この姿で分からないのは無理もありませんわね」
その言葉の後、目の前の彼女は戸惑い続ける僕の手前で、己を隠すために着けていたであろう仮面を剥いだ。何の躊躇いもなく。
「これで分かるかしら?」
仮面の下から現れたのは同い年ぐらいの少女の顔。それも、とても端正に整った、さながら西洋人形のような。そして僕は、顕になったその人物に心当たりがあった。
「……祥子ちゃん?」
記憶の奥底から飛び出してきた名前を掬い上げるように呟いた僕。対する彼女は、ゆっくりと頷き返してくれた。その名前が、正解であると告げるように。
「え? さ、さきちゃん……?」
こちらはこちらで戸惑った様子のドロリスさんが思わず、仮面を外した少女、祥子ちゃんの方へ名前を呼びながら視線を向けた。その瞬間、僕の中で何かが当てはまった。……いや、そんなまさか。けど、否定材料よりも確定事項の方が多い……だって今の呼び方は、先日耳にした物と全く同じだったのだから。
「み、三角さん……ですか?」
恐る恐る尋ねてみる僕。すると、未だ仮面を付けた少女は祥子ちゃんの方を向いたかと思えば視線を交わし、互いに頷き合う。何かを許可するように。
「うん、そうだよ。響夜君」
徐にこちらへと向き直った彼女は、着けていた仮面を外しながら応答してくれた。とてもよく見知った素顔を晒しながら。あ、え、ええ? 仮面バンドのボーカルが仮面外したら推しだったんだけど何これ?
「本当に、三角さんだった……」
自身の推論が正しかったことへの困惑と、突然推しが現れたことによる驚きで感情がグチャグチャになっていくのを感じる。本当にこんな時どんな顔したらいいか分からないんだけど。未だに夢でも見てるんじゃないかなって思うし。
「それよりも、二人は知り合いみたいだけど……どういう関係なの?」
感情の
すると、こちらの視線の意図に気付いてくれたらしく、一つ頷いた祥子ちゃんが一歩前へと踊り出ながら口を開く。
「私が答えますわ。響夜は私の——