この超常社会Live2Dのイケメンアバターより『疲れ切った23歳男の地声を持つロリ美少女』の方が需要あるのバグ以外の何物でもないでしょ 作:九咲
## ■『泥塗れの英雄と、電子のオアシス』
「(……モデレーター制限、全解除。チャット欄のタイムラグ、ゼロ。……今日、あの屋上の下で涙を流した全員の心を、俺の『ウィンドウ』で抱きしめる。……いくぞ)」
雄英高校内の最新セーフハウス。
画面の向こうの『ナビちゃん(白髪ケモ耳ロリ美少女)』は、今日はいつものあざとい表情を一切封印し、静かに聖母のように優しい瞳で座っていた。
ピコン、と配信開始のシグナルが入った瞬間、雄英避難所内のすべてのスマホ、そして日本全国の避難シェルターのモニターに『ナビちゃんねる』の通知が弾けた。同時視聴者数は瞬く間に200万人を突破。
コメント欄は、昼間のお茶子の演説をリアルタイムで見ていた避難民たちの、激しい動揺と涙そして自責の念で溢れかえっていた。
『緑谷くんにあんなに酷いことを言ってしまった』
『麗日さんのあの言葉が、まだ耳から離れない』
『私たちはあのボロボロの子供に全部押し付けて震えていただけだったんだ……』
俺はマイクを限界まで引き寄せた。
今夜は、ヴィランを脅すための烈火の声でも、女性を狂わせるための色気ボイスでもない。
ただひたすらに傷ついた人々の心を包み込む、「世界で一番温かく、深く、優しい極上の重低音ウィスパーボイス」を響かせた。
『――おつナビー。……みんな、今日はたくさん泣いたね。どうも、割内駆です(※すべてのノイズを排した、脳の髄までとろける聖なる低音)』
流れるようなコメントの速度が、の声の優しさに触れて、少しずつ穏やかになっていく。
『みんな、自分を責めないで。
突然街を追われて、大切な日常を壊されて、明日ヴィランが襲ってくるかもしれない恐怖の中で、余裕を失うのは当たり前なんだ。爆弾を校内に入れるなと叫んだ君たちの恐怖は、1ミリも間違っていない。プロヒーローの俺が、それを一番よく知っている。
でもね。画面の前のみんな(子猫ちゃんたち)』
画面の中のナビちゃんが、愛らしく、しかしとても愛おしそうに両手を広げる。
『今日の昼間、あの屋上で、泥塗れの緑谷くんの手を掴んで叫んだ麗日さん(重力ゼロ子さん)の言葉を、もう一度思い出してほしい。
ヒーローも、お前たちと同じ、ただの人間(子供)なんだよ。
特別な力(個性)を持って生まれてしまったから、みんなの期待を背負って、ボロボロになっても笑わなきゃいけなかった。……でも、あいつらにも、泣いて、休んで、温かいご飯を食べて眠る場所が必要なんだ』
俺は(Live2Dの首を少しだけ傾げながら)声をさらに深く、優しく落とした。
『麗日さんは「ここを彼の、ヒーローの休ませてあげる場所にしてください」と言った
……だったら、現実の雄英避難所(リアル)はみんなで守ろう。そして、この電子の海(バーチャル)は俺が「ヒーローたちが全力で羽を休めるためのオアシス」にしてやるよ』
(ピコン! 画面に雄英のWi-Fiからの高額スパチャがポップアップする)
【¥100,000(赤スパ)】
【大爆破神(仮)】:……あのアホ(デク)は今、保健室で泥のように眠ってやがる。お前らのクソみてぇな泣き言は全部俺が爆破してやるから今夜は大人しく寝ろ。……あとクソ教師、今夜のその低音は……悪くねぇ(赤スパ:10万円)
「(爆豪くん……! 自分も全身ボロボロで入院中なのに、デクの様子を実況しながら10万投げてくれるの、お前マジで最高のヘビーリスナーだよ……。デクの手を引っ張って連れ戻してくれて、本当にありがとう……っ!)」
【¥50,000(赤スパ)】
【SHOTO】:緑谷は今、静かに息をして眠っている。A組の全員が、先生のこの配信を睡眠用BGMにして、保健室の床で雑魚寝している。……実家(エンデヴァー)がどうなろうと、俺たちの帰る場所は、ここ(雄英)だ。
「(轟くん、5万円ありがとう……! A組のみんな、本当におかぜりなさい。先生の極上イケボ、今夜はいくらでもループ再生していいから、お揃いのマイ枕で死んだように眠るんだよ……!)」
コメント欄には、
『お帰り、緑谷くん』
『A組のみんな、生きててくれてありがとう』
『ナビちゃんの声を聴いてたら明日からまた前を向ける気がしてきた』
と、雄英高校を包む空気が、完全にひとつの「家族」へと変わっていく奇跡の瞬間が記録されていた。
『うん。……みんな、優しいコメントをありがとう』
俺はマイクの限界まで息を吹き込み、最後にとろけるような重低音を放った。
『今日から、雄英はただの避難所じゃない。俺たちの「家」だ。
外のヴィランへの警戒(防犯システム)は、俺と、公安の法律ヤクザ(盾ちゃん)と、ゴスロリパンク衣装の監修で死にそうになってる相澤先生で完璧に敷いてある。
だから画面の前のみんなも、保健室のヒーローたちも、今夜は3重の鍵を締めて、安心してベッドに入りなさい。
……よし、じゃあ治安維持(保健室への高級のど飴の差し入れ)に行ってきます。おつナビー。……みんな、世界で一番安全で、温かい夢を見てね(吐息)』
プチッ、と配信の切断ボタンを押した。
静まり返った特設スタジオ。
俺はヘッドセットを外し、保健室の方向を見つめた。スマホには、車椅子の上から相澤先生が送ってきたと思われる、短いメッセージが表示されていた。
『……割内。お前がネットの海で市民の罪悪感を癒やしてくれたおかげで、雄英の防衛システム(心の連携)は完全に完成した。……不合理な世界を救う最高のバ美肉だ。ありがとな』
「……へへ。相澤先輩にそんなこと言われたら、家賃タダのタワマンを飛び出して雄英に立てこもった甲斐があったってもんですよ」
市民の心がひとつになり、泥塗れの英雄(出久)を迎え入れた夜。
超常社会の崩壊を食い止めたのは、屋上の少女の叫びと、そしてネットの海から「大丈夫だよ」と市民を抱きしめ続けた、1人のバ美肉ヒーローの極上イケボだった。