空助に連れられてやって来たのは理科準備室。
鍵は職員室で借りたのかと思いきや、坂柳理事長に居候している間にマスターキーを作ったらしい。
犯罪だろそれ。
「大丈夫大丈夫、廊下と教室の監視カメラの映像は事前に差し替えておいたから。楠雄と僕は下駄箱と廊下の間にある死角にいることになってるんじゃないかな」
カメラの方じゃねぇよ。
ただ、一応は僕と話せるように準備をしてきたらしい。
高育のセキュリティって意外とザルだよねと笑っているが、実際のところどうなのかが分からない僕としてはなんとも言えない。
『それで? どうしてまだいるんだ』
無人島試験が終わってからロンドンに帰ったんじゃなかったのかと言うと、空助は首を振った。
「いいや? あの後は坂柳理事長の家に帰ったよ。月城と司馬がいなくなることが決まったからね。けど、急だったのと新しい先生を派遣されても、その先生が綾小路くんのパパの関係者だと困るからってことで少しの間だけ僕がやることになったんだ」
元々、坂柳理事長には卒業した堀北元会長世代や今の南雲ら3年生たち向けに講演や特別授業などをして欲しいと頼まれていたらしい。
そして、僕の様子を見るのも兼ねて承諾しようと学校の内情を探っていたら、坂柳理事長は不正が見つかって停職されていたことが分かり、こちらにやって来たと言う。
「学校内に入りたいのに誘ってくれた人が停職されてちゃ入れないでしょ? だから少しでも早く停職処分が解けるように裏で手伝ったりしてたんだ」
ところどころ本当かどうか怪しいところはあるが、とりあえずはそういうことにしておいてやるかと納得してやる。
『じゃあ代わりが見つかったらお前はアゼルバイジャンに帰るんだな』
「いやロンドンだし。僕は救出作戦とか柄じゃないからね」
それにどうやら単位は取り終わっているらしく、大学自体は卒業を待つだけのようだ。
『じゃあ、しばらくは坂柳理事長の家で暮らすのか?』
「ううん、楠雄へのサプライズを済ませたらママやパパに顔を見せるつもりだったから、明日からは実家から通うよ」
実家から?
いくら空助が優れた乗り物を多く開発して所有しているとはいえかなり距離があるぞ。
「そんなの楠雄がフッ、シュッで瞬間移動で送ってくれたら済む話でしょ」
毎日僕はお前の送り迎えをしなきゃいけないのか?
「冗談だって。でも、今日だけはお願いしようかな。いや〜ホントに楠雄は凄いよね」
どうした急に褒めて。
僕が不気味に感じていると空助はスマホを取り出す。
「だってさ、例えばテレパシーだけど、この携帯が無くても声を届けることができるし」
別にこれくらい大したことは無い。
むしろ携帯を使って遠く離れた人間にメッセージやスタンプを通して交流が取れる方がいいと思うがな。
空助は坂柳理事長に今日は帰らないよと伝えると携帯を仕舞う。
「それと瞬間移動……1度見たことのある場所や人がいればシュンッて移動できるし」
まぁそれは……普通の人にはない力ではあるな。
交通費もかからないし、次の使用までのインターバルなどの制約はあれど便利な力ではある。
「一応僕も時空間転送装置っていうのを作って、坂柳パパの家にある僕の部屋とロンドンにある僕の研究室を繋げるようにしたんだけどさ」
なんだそれは。
名前からしてどこでもドア的な物のように感じるが。
「そうだよ。けど、どこでもドアって理論的にはコピーを移動先に送ってる感じなんだけど、僕が作ったやつは時間と空間両方に干渉することで……って聞いてる?」
……お前の方がすごくないか?
「けど、そんなに便利なものじゃないんだよ。まだ理事長の家、ロンドンにある僕の研究室の間しか移動できないんだ。ポータルを置けばどこでも行けるけど設置面積とか人目も考えないといけないから大変なんだよ」
あぁ、うん。
なんかごめんね。
「そういうわけでさ、坂柳パパの家に戻るのは手間だからパパッと頼むよ。パパだけにね」
やかましいな。
そういうことなら仕方ないが……家に戻るなら1度僕は寮に戻っておきたいな。
また戻ってきて並木道を進むのも面倒だ。
「それなら監視カメラには僕が作ったAI楠雄の映像でも流そうか?」
勝手に何作ってるんだと言いたいところではあるが、お前超能力者よりなんでもできるんじゃないのか?
それだと周りに知り合いがいた時になんで僕に声をかけてないんだと気にするやつがいるかもしれないしな。
周りに知り合いがいなければと構わないかと思ったが、僕から空助の話を聞こうと石上と坂柳さんが待ち伏せているのが見えた。
先程空助と話していた1年生からまだ校内にいることは聞いているらしく、待っていれば来るだろうと石上はいつも通り壁にもたれている。
坂柳さんの方は橋本と神室さんがついているが石上のようにずっと立っているという訳にもいかないだろう。
『お前のせいで面倒事が増えた』
「あぁ、僕のこと知ってる生徒が何人かいるんだったね。いいよ、僕がいた方が説明もしやすいだろうし、せっかくだし寮まで一緒に行こうか」
兄弟とはいえ生徒と教師が寮に戻っていいのか?
「大丈夫なんじゃない? 茶柱先生だっけ。あの人も夜中に綾小路くんを屋上とか甲板とかピアノホールとかに呼び出してるみたいだし」
お前ここの監視カメラ常に見てるのか?
いや甲板やピアノホールは豪華客船の時か。
「綾小路くんを守るようにも言われてたからね。甲板は去年で、ピアノホールはついこの間だね」
それを加味してもプライバシーを侵害しすぎだろ。
「まぁ生徒ならともかく、先生がAクラスに固執するってのはよく分からないね。元々ここの生徒だったみたいだし、自分が果たせなかった夢を生徒にってことなのかな」
そういうことらしいな。
僕も細かい事情は把握してないが、僕たちが再来週くらいにやる満場一致試験というやつで色々とあったようだ。
そんな話を続けていたらいつまでも帰れないため、理科準備室を出て再び下駄箱に向かう。
すると、僕たちを待っていた石上、坂柳さんらが目線をあげる。
「斉木先輩に斉木、先生……」
「楠雄くん!」
(あれが斉木の兄貴か、似てるっちゃ似てるけど)
(雰囲気が全然違う)
橋本と神室さんも空助には興味があるのか頭のてっぺんからつま先までじっくり観察している。
そんな空気など露知らずと言う風に空助は口を開いた。
「やぁ、楠雄のお友達かな? 初めまして。楠雄の兄で今日から1年Dクラスの担任になった斉木空助です。よろしくね」
「はじめまして俺は」
1番近くにいた石上が挨拶を返そうとして、それよりも早く空助が言う。
「石上京くんだよね。1年Aクラスの。授業で会うことがあると思うから、その時はよろしくね」
「(っ……!?)俺のことを、知ってるんですか?」
「うん。君だけじゃなくて、ここの先生と生徒、事務員とかの名前と顔はもう覚えてるよ。杖をついてる子が坂柳有栖さんで、男の子の方が橋本正義くん、その隣が神室真澄さん。楠雄と仲良くしてくれてるんだよね。これからもよろしくね」
にこやかに微笑んだ空助に、石上は息を呑む。
そして、自己紹介の機会を奪われたというのに坂柳さんは嬉しそうにしていた。
「あなたのような方に名前を覚えていただいて光栄です。まさか父が空助さんを招致しているとは大変驚きました(それも本当に楠雄くんの兄だとは)」
「僕も驚いたよ。来たら停職になってたからね」
悪気なしにハハハと空助は笑いを見せながらそう言った。
坂柳さんと空助が話していると橋本が忍び足で僕の横に来る。
「お前と随分と雰囲気が違うんだな」
『まぁな』
兄弟なんてそんなもんだろ。
和也と達也も顔は同じでも性格は全然違ったし。
「……兄貴の方も芸達者だったり、勉強とスポーツもできたりするのか?」
『まぁな』
芸達者というよりは超能力が使えない分手先が器用だし、勉強も常に満点の成績を取れるし、スポーツの方は知らないが身体能力は高いため世界記録くらいなら並べるんじゃないだろうか。
僕と橋本の会話を薄っすらと聞いていたのか空助が口出しをしてくる。
「ちょっとやめてよ。楠雄の方が僕よりもすごいんだしさ。そんなにハードル上げられたら困るよ」
『お前の方がすごいだろ。高校飛び級してケンブリッジに行ったくせに』
「飛び級で、ケンブリッジ……!? (兄貴の方も天才なのか……)」
橋本が驚いているようだが、空助はそんなの大したことは無いと首を振る。
「あれは楠雄に勝てない自分を嘆いての逃避行だよ。楠雄だってその気になればできるだろ?」
『僕には何千万、何億という特許を取ったり、ノーベル賞モノの論文を書いたりはできないぞ』
(さっきから会話の規模がデカすぎねぇか……?)
(斉木の方はフィジカル寄りで、お兄さんの方は頭脳面が優れてるってこと……?)
橋本と神室さんが当惑しながら僕と空助を見てくるが、空助はお構い無しに話を続けようとするが、このまま話していても埒が明かない。
『とりあえず、さっさと帰ろう。僕がどんな暮らしをしてるのか見たいんだろ?』
「それもそうだね。じゃあ、みんなも気をつけて帰りなよ」
車や自転車は走っていないからそこまで気をつけることはないんだがな。
呆気に取られる4人や、下駄箱に向かう途中で通りがかってしまった生徒たちを通り過ぎて、僕たちはようやく校舎から出る。
「やっぱり質問攻めにあったね。僕なんか楠雄に比べたらミジンコとかミトコンドリアみたいなものなのにね」
謙遜の仕方が狛枝みたいで気持ち悪いな。
お前が微生物なら僕は何になるんだ?
「ゴジラとか? あー、実在しない動物じゃ公平じゃないよね。太陽とかにしとく?」
太陽は生物じゃないだろ。
惑星は生きていると言われているとは言え、過剰すぎる。
僕と空助は数年ぶりに2人でほんの数百メートルという距離ではあったが、同じ道を歩いて帰った。
寮に入り、部屋に戻るなり瞬間移動して実家へと帰る。
「おかえりくーちゃん、今日は早……くーくん!?」
「やぁ、久しいね。ママ」
その袈裟から手を出すみたいな挨拶やめろ。
母さんには伝わらないから。
「どうしてくーちゃんとくーくんが一緒に? もしかしてくーちゃんがロンドンまで行って連れて帰ってきたの?」
「違うよママ。言ってなかったけど実は今日から楠雄の学校で少しだけ働くことになったんだ」
「くーちゃんの学校で? くーくんが?」
なんでそうなったのかと、綾小路の件は話さずに空助が事情を説明すると母さんは目を丸くする。
「そうだったの理事長先生が。じゃあまたお礼の電話しないといけないわねー」
「別にいいんじゃない? ……いや、うん、しておくべきだね。あとで番号教えるよ」
母さんの雰囲気が変わりそうになったのを察知した空助は素早くそう言う。
息子が世話になってるとなれば、母さんとしては一言くらいは言っておかないとと思ったんだろうな。
「ダメじゃない。そんな大事なことはもっと早く言わないと。パパにも伝えなきゃいけないのに」
「ごめんごめん、楠雄を驚かせたかったからさ。2人に話しちゃうとテレパシーでバレちゃうし」
空助が困ったように口にすると母さんは一理あると言わんばかりに頷く。
「それもそっか。それじゃあ、くーくんも帰ってきたし、ご馳走にするわね」
「急に帰ってきたのに大丈夫なの? 僕の分は気にしなくてもいいんだよ?」
「大丈夫よ〜パパとママの分を少し減らせば済むことだから」
「えっ、そんなの悪いよ」
母さんは汚れのない笑みでそう言って笑顔のまま台所へと向かって行く。
「弱ったな……これなら坂柳パパのところで食べることにしたら良かったかな」
『別に気にしなくてもいいんじゃないか?』
「うん、まぁそうなんだけどさ……けど何の文句もなくああ言われるとね」
相変わらずだなぁと実家に帰ってきたことを実感したらしい空助は2階へと上がっていく。
「この家と坂柳パパの家を繋がないといけないからね。ご飯ができるまで作業してるよ」
あと父さんの分の材料も買ってきておいてと食費が渡されるが、僕は高育にいる身だから行くにも行けないんだよな。
かと言って父さんに渡してもちゃんと買いに行けるかわからないしな。
『やれやれ』
シュッと行って、パパッと買って、シュンッと帰ってきてやるか。
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2学期が始まると共に空助が学校にやって2週間ほど経った。
僕の学校生活は空助のことについて聞かれることはあったが、変化としては微々たるもので1週間もすれば周りも落ち着いてきた。
空助がまた何かしらの嫌がらせやちょっかいを仕掛けてくるかとも思ったが、今のところは僕自身何も変わらない生活を続けられている。
空助の方は真面目に授業をしているのか、特に問題らしい問題は起きていない。
宝泉は僕の兄ということもあって苦手意識を抱いており、クラスでは少し大人しくなっているようだ。
空助の方は気にしなくて良くなり、僕は自分のことに集中していた。
とはいえ、僕はいつも通り読書に勤しむばかりだが、クラスメイトたちはそうでもない。
体育祭については組分けや種目についての説明がされていないこともあり、個人個人でトレーニングをしたり、体育の授業に真剣に打ち込んだりする生徒が増えた。
文化祭の方は柴田からコスプレ喫茶なるものが提案されるも、衣装代と食材費の折り合いがつくかが不明瞭のため、予算や詳細を含めたプレゼンを見てから決めるという判断になった。
今は柴田と意外と乗り気な安藤さんや数名の男子たちで計画を練っている。
他に出ている案としてはスイーツを中心にしたカフェのような飲食店や、クイズ大会や仮装などを取り入れたゲームセンターなどもあるがどれも決定打に欠けるといった状況だった。
しかし何をするにしても早く決めてしまわないと、準備にかける時間が減ってしまう。
場所を取れるのは体育祭後とはいえ、衣装や小道具の作成、メニュー決めなどは今からでも出来る。
飲食店をやるのなら、堀北さんのクラスがメイドカフェをやろうとしているし、カフェが2つとなると客の取り合いになる。
そんなこんなで文化祭の出し物が決まらない中でも特別試験というものは否応なくやってくる。
朝のホームルームが始まると共に星之宮先生が告げる。
「10月の体育祭の前に、みんなには新しい特別試験に挑んでもらうよ」
(えっ……?)
(この時期に?)
去年は体育祭までの準備期間ということもあり、特別試験はなかった。
夏休みの無人島試験を終えてから1ヶ月は経っているため、なくてもおかしくはないかと受け入れているクラスメイトもいる。
「例年だとこの時期に特別試験が行われることは少ないんだけどね。1年生と3年生たちには特別試験はないし」
「つまり俺たち2年生だけが今回特別試験を受けると?」
神崎の問いに星之宮先生は頷く。
「君たち2年生が優秀だからこそ学校側も相応の評価をしてるってことみたいだよ」
「評価してるから特別試験……? 何か報酬が多いとか?」
「(ありゃ、姫野さんが発言なんて珍しいね)見方を変えればそうとも言えるかもね。クラスポイントが増えたり、プライベートが増えたり、その逆も有りうるし、退学の処分もあるかもだけど、特別試験が多いってのは悪いことばかりじゃないから(まぁ今回のはそんなに良い特別試験じゃないけどね)」
特別試験はハイリスクならばハイリターンがあり、通常の期間では増減が少ないクラスポイントを手に入れることができるチャンスでもある。
今のこのクラスはBクラス以下ともかなり差をつけてのAクラスになっているため、精神的な余裕もあってか急遽行われると告げられた特別試験に対してもネガティブな感情を持っている生徒は少ない。
「(いい顔だね……うん、みんななら大丈夫だって、私は信じてるから……)みんなには今回"満場一致特別試験"と呼ばれるものに挑んでもらうよ」
モニターが点灯して、試験名が表示される。
突然始まりを告げられた特別試験だが、その難易度は高くは無い。
けれども、最後に出される課題はクラスによっては波乱を呼ぶものになるだろう。
説明までやってよかったけど長すぎるゼーット!ってことで途中で切りました。
今回は割と真面目な回になってしまったわね。
みんなの認識 空助>楠雄
実際 楠雄>>>>>>>空助>>>>>>>凡人未満の皆様
って感じ
ちなみに楠雄のこと認めてる人達は空助=楠雄と思ってたり、楠雄>空助と思ってたりと様々
高育の先生の授業は寝てたりしてても起こさないし、分からないところがあって悩んでる生徒も聞かれない限りは置いていくスタイルだけど、空助は聞く気がないやつは放置でも、分からなくて困ってるのを見かけたらかなりマイルドに授業を組み直したりしている。
そのせいか1年生の中で勉強はできないけど授業は真面目に聞いてる生徒は少しずつ理解が進んでる感じ
「カリキュラムさえ守ってればいいんでしょ? じゃあ好きにさせてもらうから」
くーちゃんを知る1年生たちからはあの弟にしてこの兄かぁ……と思われ始めている。
以上
次回は説明回になります
また日中とかになるかもですけど程々に頑張りますので、ではでは〜