「みんなには今回"満場一致特別試験"と呼ばれるものに挑んでもらうよ」
モニターが点灯して、試験名が表示される。
突然始まりを告げられた特別試験だが、その難易度は高くは無い。
今回の特別試験はかなりシンプルで、随時気になったことがあれば質問を受け付けると言う。
試験の実施日は翌日で、内容は名前の通り、複数の選択肢の中から、満場一致になるまでクラス内で投票を繰り返すというものだ。
「明日? 随分と急なんですね」
「まぁシンプルな試験だからね。事前に時間をかけて打ち合わせをするような必要もないから学校は明日から決行しようってわけ(まぁそれなら今からでもやれって感じだけど、いきなり満場一致になったら困るような投票もあるから、事前の打ち合わせは必要なんだけどね)」
1度生徒としてこの試験を受けたことのある星之宮先生は心の中で呟くと試験の概要を説明していく。
当日に試験が始まると学校側から5つの課題が出題される。
課題の中身は全クラスが共通しているため、クラスによる難易度の差などはないようだ。
「早速、理解を深めるために例題を出すね」
星之宮先生がそう言うとモニターに例題として[クラスポイントを5失うがクラスメイト全員が1万プライベートポイントを得る]と表示される。
この課題に対し、完全な匿名で40名が提示された選択肢から選んで投票していく。
賛成か反対か。
みんなそれぞれ考えることはあるが、とりあえず思った通りのボタンを押す。
すると第1回目の投票結果は賛成4の反対36票となった。
満場一致でなければこの課題は終わらず、やり直しとなるようだ。
本番では次の投票までにインターバルの10分間が与えられ、意見を交換したり、自由に会話をしても構わないと言う。
最終的に満場一致になった方の選択肢は採用される。
今回の課題が賛成で可決すれば全員が1万プライベートポイントを貰え、クラスポイントは5失われるということだ。
「満場一致になってないけど説明のために次の例題いくよー」
例題[クラスの1人に100万プライベートポイントを与える]
※賛成が満場一致になった場合、ポイントを与える生徒の選定、及び投票を行う。
(100万……?)
(クラスの1人だけにか……誰にポイントを与えられるかはまた決められるなら問題はなさそうだね)
「例題に思うことはあるだろうけど、本番では1回目の投票の前の私語は禁じられてるから、まずは純粋に課題に向かい合って投票してね」
課題の内容を読んでどう思ったかを話し合うのは2回目の投票前からに限られる。
手間を省くためには賛成に投票しておいた方がいいか。
[第1回投票結果 賛成40票。反対0票]
たった1人ではあるが100万プライベートポイントという破格の報酬が得られるのであれば反対する理由はないと、全員が賛成を押す。
「本番ではこんな感じで特定の個人を選定する課題が出た時は、まずは賛成と反対の票を満場一致させるための作業は1つ目の例題と同じ。反対になればその時点で課題は終わりだけど、賛成による満場一致だった時は課題は継続して、インターバルを挟んで誰を推薦するかを話し合ってもらうよ。タブレットには自分を除く全クラスメイトの名前が表示されるよ」
タブレットの画面が切り替わって、自分以外の名前が不規則に、男女も関係なく入り乱れて配列される。
匿名性の徹底のために生徒の名前の位置は投票の度に入れ替わる仕組みのようだ。
賛成や反対といったボタンの位置も入れ替わるらしく、隣の生徒を盗み見して指の位置からどれに投票したかを推測することを阻止するためだと言う。
「他の子の投票先は天井にでも目がついてないと看破することはできないから安心してね」
なるほど、それは安心だな。
「話し合いに目処がついてきたら各自好きなタイミングで投票を行ってね。1人推薦したい生徒を選んでタップするだけだよ。インターバルの最中なら、繰り返し推薦する生徒の変更もできるから」
インターバルとなる10分終了時点で過半数、このクラスなら21票を集めていた生徒が特定の生徒として認められる。
「仮にだけど、そうだねぇ……(一之瀬さんと斉木くんだと一発賛成されかねないし、微妙な塩梅で笑いに変えてくれそうな)柴田くんが推薦によって選ばれたことにしよっか」
突然指名されたにも関わらず、柴田はベジータのような余裕のある不敵な笑みを浮かべた。
「当然だ」
「当人である柴田くんに投票権はなくなって、それ以外の39人で投票を行うよ」
過半数を超えた生徒は当然満場一致にも近いため、それが推薦の仕組みなのだろう。
新たな投票が始まり、柴田颯に100万プライベートポイントを与えることに賛成か反対かが問われる。
結果は賛成12票、反対28票という星之宮先生の予想通りなんとも言えない結果になった。
「いや笑いにしにくい微妙な結果すぎる」
「でも12人も入れてくれてよかったですね」
いっそ反対に満票入って欲しかったと嘆く柴田に浜口が優しくフォローする。
「柴田くんを対象にしたこの投票で反対による満場一致にはならなかったから、リストからは除外されないよ。もし全員が反対に入れていたら、柴田くんをリストから除外して残った39人から選び直しって形になるね。ただし、時間切れまでに付与する対象を決められず満場一致が果たせなかったら試験は失敗。その上100万ポイントも与えられないことになるから気をつけてね」
今回は例のため先生が柴田を選んだが本来ならば立候補か話し合いによる推薦で決定される。
ただし立候補は課題1つにつき1人1度までしか認められない。
10分間で特定の生徒への推薦票が過半数集まらなかったり、立候補が出なかった場合はクラス内からランダムで選出されることになる。
「(ランダムに選ばれた子で決まるとは思えないし)この試験、思ってたよりも厄介かもしれないね」
一之瀬さんがそう呟くが、僕に言ってるのか独り言なのか判断に困るな。
それは柴田も同じことを思ったのか、少し遠慮がちに後ろを振り向く。
「一之瀬、今のは独り言なのか、楠雄か俺に言ったのか?」
「ひゃっ!? えっと、今のはその……独り言だから大丈夫……」
「お、おう、そっか……」
それならいいが。
僕は投票するだけで終わりという試験と思っているため、特に何も感じない。
話し合えば必ず解決する課題ばかりではないが、解決しなければ前に進まないこともある。
この試験を好意的に解釈するのであれば、どうしても選択しなければならない事に対処する力を見る試験と考えることができる。
「じゃあ最後にもう1つだけ例題を出そうかな。今度は実戦形式でやってみよう」
[例題・ケヤキモール内に施設を増設することが決定した。次の内、どれを希望するか]
※4クラスの投票結果を元に最多表の施設が採用される。
①飲食店
②雑貨店
③娯楽施設
④医療施設
これまでの例題とは異なる4択から選ぶという方式に変わる。
これは実際の試験でもこのような問題が出る可能性があるという示唆である。
「今回の課題みたいに全体に影響を及ぼすものは、満場一致になった選択肢を自クラスの選んだ1票として決定するだけだから、このクラスで娯楽施設が満場一致になったとしても、残りの3クラスの満場一致が飲食店だった場合は、3票を得た飲食店が追加されることになるよ」
課題は即実行能力を持つものと、あくまでクラスの1票として提示するものの2通りに分かれるため、どちらにせよ慎重に投票、議論をしながら満場一致に導いていくことが求められる。
1回目の投票前は私語が禁止されているため、どんな施設ができるのかは知らないが4つの中ならこれだなと僕は飲食店を選ぶ。
例題ということもあり、他のクラスメイトも概ね似たような決め方だ。
(スイーツとかデザートが美味しいお店なら楠雄くんと行けるし飲食店かなぁ)
(俺は娯楽施設だと嬉しいからこっちだな)
(医療施設ってどんなの作るんだろ。病院とかあるのに。無難なのは飲食店だよね)
一之瀬さんのように特定の誰かと行きたいとまでは考えていないが、クラスの大多数は飲食店を選んでおり、柴田のように遊ぶ施設が増えて欲しいと思う者は娯楽施設を選択する。
雑貨店はほんの少数で、医療施設は1人もいないようだ。
第1回投票結果 飲食店26票 雑貨屋2票 娯楽施設12票 医療施設0票
「満場一致にならなかったから10分間のインターバルを行うよー」
教壇の後ろにあるモニターで10分のカウントダウンが始まる。
時間切れになり、強制的に次の投票時間が始まるまではこの状況が続くことになる。
クラスメイトは自由に席を立ち、大声で話そうと特定の誰かと小声で話しても、好きなように意見をまとめていくことが許される。
姫野さんはこちらを振り向くと何に入れたを聞いてきたので、素直に飲食店と言えば「やっぱり」と言われる。
一之瀬さんのもとには仲の良いクラスメイトが集まり、指示などを出すことはなく好き勝手に雑談するだけの時間となる。
「インターバル終了直前には席に戻って、投票の準備をしてもらうよ。投票に与えられる時間は最大60秒。もし全員が速やかに投票を終えた場合は制限時間を持たずに結果発表に移るよ」
もし60秒以内に投票を完了しなかった生徒には時間経過のペナルティが与えられ、個人が持つ持ち時間は試験中を通して90秒。
5つの課題をクリアする前に合計90秒の時間超過をさせてしまった生徒は持ち時間が0になり退学になるようだ。
2回目の投票が終わるも、満場一致とはならなかったが、例題はここで終わりになるため、試験の説明へと戻る。
「この特別試験をクリアするための条件は5時間以内に5つの課題を満場一致にさせること。もし5時間の中で全ての課題を終わらせることができなかった場合は、クラスポイントがマイナス300されるから」
「さ、さんびゃくぅ……?」
クリアしなければ来月以降も貰えるかもしれなかった3万プライベートポイントが水の泡ということか。
学校側が生徒に投票させるために色々と縛りを設けているのはよくわかった。
課題は5つで、時間は5時間となれば1つの課題を1時間で終えれば、試験を終えることができる。
理論上は、だが。
課題によってはすぐに終わるだろうし、時間がかかったとしてもペナルティのことを考えれば最終的には決着がつくことになる。
この試験の概要とルールをまとめた画像がタブレットに表示され、必要であればキャプチャーするように指示される。
「どんな試験が出されるかは私たち先生も知らないけど、決して油断しないでね。あと、今回の試験では他の生徒に対して特定の選択肢に投票を縛ったりするような契約はしちゃダメだよ。それ以外にも金銭のやり取りをして相手の選択肢を縛るのもね。これは他クラスだけじゃなく、自クラスにも同じことだから(まぁこのクラスの子はしないだろうけど)」
ペナルティのことを考えると、選択肢を縛られた生徒がいるだけで満場一致に導ける可能性はぐっと低くなる。
例題のように賛成しなければメリットが得られない課題が多く出てしまえば、反対に縛られた生徒がいるとそのクラスは何のメリットも得ることなく試験を終えることになる。
ルールの監視は学校側が行い、クラスの第三者が関係したことで、一方的な選択肢を選び続けられるなどのことが判明した場合は関係者全員、容赦なく退学になる可能性があると注意が促される。
不正を持ち掛けられた段階で学校に申し出れば、申し込んだ生徒のみが罰を受けるようなので、直ちに学校に報告することが推奨される。
今回の試験に限り、公平性を保つためプロテクトポイントが無効化されることも伝えられるが、あったなそんなのという感じだった。
それでも個人かクラス全体で2000万プライベートポイントを支払うと退学を免れることができる。
流石にまだ2000万には届いていないから、万が一退学になってしまったらどうしようもないな。
「あと、特別試験中は携帯とかの通信機器の類は全て回収するからね。この試験は誰かと連絡を取ることで不文律を生む可能性があるから。万が一持ってたら……って言わなくてもわかるよね」
テレパシー持ちの僕は試験に参加しない方がいいんじゃないだろうか。
その気になれば全員の投票先を操ることや、意識を奪ってテレパシーで無理やり投票させることもできるし。
ただ、どのクラスにしたとしても、試験を早く終わらせたいからと言って僕は超能力を意図的に行使するつもりはない。
それにこのクラスは最もその必要がないクラスと言える。
担任の星之宮先生も、他のクラスの担任もこのクラスが最も平和的に試験を終えられると考えているように、僕もこのクラスが最速で5つの課題をクリアできると確信している。
昼休みになると、神崎と一之瀬さんが壇上に立った。
「すまない。昼休みの前に少し時間をくれないだろうか」
神崎がクラスメイト達にそう言うとお弁当を広げようとしていた生徒たちの手が止まる。
僕も命をくれと言われたわけじゃないため、教室の外に行こうとしていた足を止める。
「今回の特別試験、課題の内容によっては選択肢が分かれることが予想される。万が一それで揉めて時間を浪費することを防ぐためにリーダーを決めた方がいいと思うんだが、みんなはどう思う?」
「リーダーの選択肢に従って特別試験をクリアするってこと? それってペナルティに触れるんじゃ……」
不安そうに言う安藤さんに、神崎は首を振った。
「いや選択肢を常に縛り続けるのはルール違反になるが、2回目以降の投票前に設けられるインターバル中の話し合いで決定したことなら問題ないはずだ。最初の投票は心のままにやってくれて構わない。だが、その後の投票で意見がまとまらないということになればリーダーの意見に従う。そうすればクラスポイントを失うという最悪の事態は防ぐことができるはずだ」
「たしかにな。俺は賛成だぜ……って、ここでも満場一致させなきゃ前に進めないんじゃね?」
試験前の前哨戦とも言うべき議題だと口にする柴田にクラスメイトたちからも同意の声やテレパシーが流れてくる。
そして、そのリーダーも自然と1人に絞られる。
「私と神崎くんの意見に賛成。もちろん、選ばれなかった選択肢を支持する子からは批判もあるかもしれないけど、みんなが納得して決めたリーダーになら任せられるんじゃないかな」
小橋さんがそう言うとクラスは最終的な判断をするリーダーを立てる方向になっていく。
「一之瀬、いつもお前にばかり負担をかけて悪いが……頼めるか?」
「私に?」
「ああ。お前はこれまでこのクラスのリーダーとして、何より中立の立場で不公平が出ないように意見を出してくれると思っている。大きく意見が分かれた時だけでいい、クラスが最悪の結果にならないように力を貸してくれないか」
「……うん、いいよ。私で良ければ(中立で公平な意見なら楠雄くんの方が出してくれそうだけど……柄じゃないって言って引き受けなさそうだし、仕方ないよね)」
なんだか僕のせいで一之瀬さんがリーダーをすることになってるみたいになってるが、僕は悪くないぞ。
それに、どう考えても僕がやるよりも一之瀬さんがやる方がクラスメイトも納得するだろう。
それに僕は言われるほど公平性もないしな。
もし100万ポイントもらえるか最高級コーヒーゼリー1年半分のどちらかが貰えるという課題が出たら僕は迷わず後者に行く。
100万ポイントがあれば買えると言われてもな。
そうして、万が一の場合のみ一之瀬さんの意見を採用するということで満場一致試験に望むことが決まった。
そして昼休みに綾小路と軽井沢さんが交際していることが大々的に流れてきたが、既に知っていた僕としては大したニュースではない。
ただ、小橋さんや安藤さんたちからの(斉木くんと帆波ちゃんも実は付き合ってるとかないかなぁ……)と悪質な思考が流れてきたが、口にしてなかったから聞き流すことにした。
星之宮先生はトラウマ克服というか、まぁあの件は私悪くないし、このクラスは私たちの時みたいなことにならないし大丈夫でしょっていう信頼から普通にやってる。
まぁサエちゃんも説明の時は普通だったしね(崩れたのは退学課題が発表されてからだから)
クラス自体が安定しているため原作みたいなことにはならない一之瀬クラス
割れるとしたら修学旅行の行先くらい?
説明回でしかないから特に語ることがないな……
強いて言うならくーちゃんが星之宮先生から「お兄さんも甘いもの好きなのかな?好みのタイプは?香水とか化粧とか気にする方?今まで付き合って子がどんな子とか知ってたりしない?」と過去一詰め寄られたくらい?
たまたま通りがかった一之瀬が「先生、す、ストップ!(近い近い!)楠雄くん困って……ってすごい嫌そうな顔してる!?」って間に入ってる。
兄貴に自分の担任がほの字なの普通に嫌でしょ。
直接聞けとくーちゃんが一蹴したのでこの会話はここで終わってる。
てことでまた次回