放課後になり、次回の特別試験も控えているということもあり、部活動に向かう生徒以外は真っ直ぐ帰る者が多い中、帰宅部最速の足を持つとされる僕も例に漏れず帰路につこうとしていた。
「あ、あの、斉木くん」
最近はよく下駄箱で声をかけられるなと思いつつ、下履きの靴を持って声の主を見やると2年生になってからは挨拶程度しか交わしていなかった佐倉さんがいた。
「ごめん、急に声、かけて……その、少し聞きたいことがあって……」
まさか満場一致試験で僕に賛成し続けろとでも言うのか。
当然そんなことはなく、佐倉さんの聞きたいことと言うと、綾小路と軽井沢さんが付き合っている件だろう。
帰りながらだと、クラスメイトやCクラスの生徒に見られて変な憶測や噂を呼ばれる可能性がある。
この時間なら校舎裏であれば、人も寄り付かないし、万が一近付いてきても僕のテレパシーや透視で察知できる。
目立つから場所を変えようと提案すると佐倉さんは頷いてくれる。
「ごめんね、時間、取らせちゃって……」
構わないと首を振り、僕は佐倉さんの話を聞くことにした。
「その、清隆くんと、軽井沢さんが……付き合ってるって話、し、知ってる?」
な、なんだって……。
学年でも有名なカースト上位女子であるが、実は壮絶ないじめにあっていたという過去を持つ軽井沢さんと、イケメンランキング上位に入るものの地味でコミュ障という印象を持たれていて既に人間の学習範囲を終えている綾小路が!?
まぁ、付き合い始めた時からというか、馴れ初めのようなものから知ってはいるが。
とりあえず質問のメインである、あの2人が恋人関係にあることを知っていることに肯定する。
「そう、だよね……(昼休みには他のクラスにまで響き渡る噂になったって聞くし……)」
響き渡った主な理由は軽井沢さんが平田の次に付き合った相手が綾小路だったということが意外性を集めた結果だ。
Cクラスの方では特に意外も意外なのだろうが、他クラスからすれば「そーなのかー」という反応が主だ。
「清隆くんが誰と付き合うのも自由、なんだけど……(どうして軽井沢さんなんだろう……)」
入学から2月のバレンタイン辺りまでは平田と付き合っており、軽井沢さんはいじめられていたという過去を隠すために色々と捏造していたこともあり、男女ともにあまりいい印象は抱かれていないようだ。
それでカースト上位に属せているのだから大したものだと思う。
「斉木くんって、清隆くんと仲、良いんだよね? その、知ってたの? (軽井沢さんと仲のいい佐藤さんは知ってたみたい、だったけど)」
知っていたと言えば知っていたが、綾小路に言った通り、4月辺りからなんとなくは気付いていたが指摘はしなかったとしておくか。
「そう、なんだ……(私はクラスも一緒なのに全然気づかなかった……)」
しまった。
が、今の佐倉さんには割と何を言っても傷つけてしまったり、ダメージを与える可能性の方が高い。
だが、ここであえて隠したり、はぐらかしても後々同じことになる。
ここは聞かれたことにはなるべく素直に答えた方が今後の佐倉さん自身のためにもなるはずだ。
「波瑠加ちゃん……あ、えっと、長谷部さんと昼休みに話したんだけど、どういう経緯とか、どっちが告白したかとかって、知ってたりする、かな……?」
去年の夏休みの船上試験で軽井沢さんと同じグループになった綾小路が、その性格が災いして真鍋さんたちと衝突した軽井沢さんを利用するために助けたのが始まりだな。
告白は綾小路から、でいいのだろうか。
付き合うか? と提案していたし、言い出したのはあいつでいいか。
ただこの辺の話は僕が話すと少し面倒になりそうだ。
そこまでは知らないと答えると「そっ、か」と佐倉さんは残念そうな表情を浮かべた。
「ご、ごめんね、斉木くんなら、なんでも知ってそう……って思っちゃって……」
なんでもは知らない。
知ってることだけしか知らないな。
「こんなの嫌だって思ってたのに……」
なんの事だ?
「その、勝手に期待してさ、清隆くん、彼女いないし、そういうことに興味ないのかなって思ったら、この前、水着は見てくれて……だから、私でもいけるかなって……思ってたのに……裏切られた気になって……」
そう言うと佐倉さんは声を震わせ、瞬きして見れば瞳から涙を零し始めた。
「ごめんね、急に泣いちゃって……ごめん……」
どうしたらいいものか。
元々の原因としては、僕に好意を向けていた佐倉さんを綾小路に任せてしまったことだろうか。
ただ、これは佐倉さんが惚れっぽい性格をしているのもあるため、一概に僕と綾小路が悪いとは言えないと思う。
ただ佐倉さんも善悪とまではいかずとも、しっかりと相手を選んでいる節もある。
その時は僕への好意があったとは言え、山内辺りに好意を寄せられていても山内を好きになることはなかった。
彼女なりに好きになる理由はちゃんとあって、それを伝えるため、好きになってもらうための努力はしている。
ただそれが実る前に壁にぶち当たってしまったというわけだ。
泣き止ませることだけなら僕の力で容易に可能だが、それでは解決にならない。
しかし、泣いている女子を見てなにもしない訳にはいかないのだが、僕自身どうしたらいいのかわからない。
ルルーシュがシャーリーにやったように、綾小路のことを忘れさせてやってもいいが、長谷部さんや綾小路と佐倉さんと共通して仲のいいクラスメイトは違和感を覚えるだろう。
こういう時の超能力は役に立たないな。
泣いている人にかける言葉を思いつく人は天才か何かだろう。
取り敢えずハンカチはあった。
ハンカチを取り出し、佐倉さんに差し出す。
佐倉さんは小さく感謝しつつ受け取った。
「私、これから、どうしたらいいかな……」
次の恋を探すか、綾小路が軽井沢さんと別れるのを待つか、あるいは綾小路が2股上等になるか。
なんにせよ、佐倉さんがすることと言えば恋愛を成就させるために少しでもOAAを上げるしかない。
というか、なんで綾小路たちと勉強会をしているのにOAAがほとんど伸びてないのか。
多少伸びたところで、綾小路が佐倉さんに振り向く可能性はないのだが、自分の身を守るためには必要なことだ。
仮に今後の特別試験などで誰かを退学させなければならないとなれば、綾小路は特別な理由がなければ最もOAAが低い生徒を切るはずだ。
そうなれば、今のままだと佐倉さんがそうなる可能性が高い。
『僕から言えるのは今以上に勉強と運動、人付き合いを頑張るしかないんじゃないのか』
「そう、だよね……(勉強は啓誠くんに教えてもらえばいいかな……運動はどうしよう……スタイルの維持とかはできるけど……)」
それができるならなんとでもなりそうだが……2次元のキャラクターへの愛を原動力にダイエットに成功したという女性もいる。
綾小路の為に頑張れるというのなら出来ないことではないだろう。
「斉木くん、2学期の間だけでいいから、その勉強とか、見てもらえたりしない、かな……?」
僕が?
これ以上Cクラスに塩を送るのは遠慮しておきたいが、櫛田さんと同じ方式でいいなら可能ではあるか。
やるかどうかは佐倉さんの自由意志に任せれば問題はないだろう。
『わかった。ただ、メニューを送るだけでやるかどうかは佐倉さんに任せる。それでいいか?』
「う、うん、あ、ありがと……」
連絡先を交換し、2人で出ていくと妙な勘ぐりを受けるかもしれないため、先に出るかと尋ねれば、佐倉さんは少し1人でいたいからとここに残ると言う。
そのため僕は校舎裏から離れて、寮への道を歩いていく。
途中で佐倉さんを励ますために学校に引き返す長谷部さんとすれ違う。
彼女は綾小路から大体のことは聞けたのか、僕にはそもそも興味が無いのかそのまま通り過ぎていく。
そういえば1人で帰るのは久しぶりな気がするな。
部活がない日は柴田がいて、ある日は神崎や浜口、最近だと渡辺と帰ることもあった。
そいつらがいなくても途中で橋本や一之瀬さん、櫛田さんや椎名さんと会えば寮まで歩くことは多かった。
今日は特別試験前ということもあってか、帰りの時間はまばらで知り合いを見かけることなく寮に着いた。
寮に入ると、ロビーのソファーで堀北さんが綾小路を待って腰掛けていた。
あちらも僕に気付いたようだが、他クラスの生徒との無用な接触を避けるべきと考えたのか、堀北さんはすぐに視線を別の場所へと向ける。
僕はエレベーターに乗り込み、自分の部屋のある階を押し、いつも通りに部屋へと帰ることができた。
『平和だ』
2学期が始まってすぐに空助のことがあって、僕というよりは周囲が騒がしかったため、こうして1人で過ごすことになるのは久しぶりだ。
思わず出てきた言葉に我ながらうんうんと頷きつつ、佐倉さんに向けた勉強メニューと運動メニューを考えてやる。
あとはコミュニケーション術なども身につけさせてやりたいが、2学期から変わっていくことを宣言していたようだし、そこは様子を見つつでいいだろう。
これで僕に再び好意が向き直さないように注意は必要だが、努力して変わることができるのであればそうするべきだと僕は思う。
僕にはできないことだからな。
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恵との関係を公にしたり、それに伴う波瑠加の説明や、特別試験に備えた堀北や平田、恵への根回しも済んでようやく一息つけた午後10時過ぎ。
ベッドの上で携帯を見ていたオレの下に1本の電話が入る。
登録こそしていないが、見覚えのある番号だ。
「もしもし」
「夜分遅くにすまないね。今少しだけいいかな?」
「大丈夫です。ご無沙汰しています、坂柳理事長」
電話番号の持ち主はこの高度育成高等学校の理事長を務めており、2年Bクラスの坂柳有栖の父親だ。
「すまなかったね。君には色々と不安な思いをさせたかもしれないが、もう大丈夫だよ」
元気そうと思いきやその声は少し疲れが滲んでいるような気がした。
「何かあったんですか? お疲れのようですが」
「うん、まぁね。厄介な客人を招いてしまったというか、毒を以て毒を制す……というやつなのかなと身に染みているところさ」
電話の向こう側で乾いた笑いを浮かべているのであろう坂柳理事長の招いた客人というと、斉木の兄貴のことだろうか。
「そんなことより、君も大変だったんじゃないか? あの非常に不利な戦いの中で、何事もなくこの学校に留まり続けられていることには驚きを隠せないよ」
「友人のおかげですかね。あと、彼が本気でなかったのもありますが」
彼というのは坂柳理事長の代わりに理事長代理をしていた月城のことだ。
「うん。終わってみれば僕も彼の行動にはいくつか疑問点はあるが、その話は別にしよう。今日は別件でね」
そう言って話を続ける坂柳理事長は自分が不在の間に文化祭の開催が決定してしまったことを詫びてくる。
既に政府関係者とその家族が招致されているため、もしかするとあの男やその関係者が来賓としてやってくる可能性があると言う。
体育祭でも一部の来賓がやって来るそうだ。
「元を辿れば体育祭というものは生徒たちの親御さんが観に来るものだからね。そういう意味では来賓を迎えるというスタイルそのものは異質ではないんだけどね」
「なるほど」
テレビ等の特集を見ていても、運動会や体育祭と呼ばれる行事ではカメラを構えた家族やお弁当を作ってくる家族の姿が映し出されているイメージがあるのは事実だ。
ただ、学校としては来賓を迎えるのが前代未聞のことであるため、いきなり文化祭で来賓客を自由にさせてはセキリュティーに不安が残るそうだ。
本格的に大勢の来賓を迎え入れるための下準備、リハーサルということだろうか。
「人選は全て上の人達が決めることになっている。もしかしたら先生が……君の父上が関与している可能性も捨てきれない状態でね。そこで君に危険が迫ることを考慮して、監視役を数名傍に置きたいと思っている」
「お気持ちは嬉しいですが、オレはこの学校の生徒の1人に過ぎません。そのような特別待遇は望みませんよ」
「しかし、君は先生が送り込んでくる刺客に遭遇したらどうするつもりだい?」
「腹パンして黙らせます」
「ん……?」
「冗談です。実力行使で乗り切れるとは思っていないので」
人目のつかないところで狙ってくることはないだろうし、周囲に知人や友人がいる状態で学校関係者として姿を見せてオレについてくるように指示を出されれば断る術はない。
「君がなんらかの形で退学ということになれば、きっと僕は悔いると思う。やれることをやらずに防げなかったことを後悔したくない。これは僕のわがままでもある」
「仮に理事長の指示に従うとしても、監視役を置けば不自然になります」
「そうだね。だから、僕としては君には体育祭を欠席してもらいたい」
「欠席……ですか」
オレの想定にはなかったことだが、理事長曰く、体育祭や文化祭には避けられない病欠が存在する。
クラスが不利になることはあれど、強制的な退学などのペナルティはない。
オレはメディカルチェックを受けたという前提での病欠で、寮に籠り、坂柳理事長が信頼する監視役を堂々と部屋の外に置くと言う。
確かにそれならばあの男の手から逃れることはできるかもしれない。
だが、オレの答えは既に出ている。
「お断りします」
「えっ」
検討の余地すらなく断られると思っていなかったのか、坂柳理事長は驚いた声を出す。
「厚意と心配は嬉しいですが、オレは今回の体育祭は絶対に出たいと思っていたので申し訳ありませんが病欠は受け入れられません」
「……理由を聞いてもいいかな?」
「戦ってみたい相手がいるからです」
まぁそいつがオレと競い合ってくれるかは別にして、今の注目度からして去年の体育祭のように最初から手を抜くということは出来ないだろう。
それはオレも同じではあるが、ある程度種は蒔いてある。
多少本気を出してもあいつよりは目立つことは無いはずだ。
「はぁ、なるほどね……わかった。そういうことなら不本意ではあるけど、彼にも君の護衛を頼んでおくよ」
「彼?」
「僕の予想が間違っていなければだが……君が戦ってみたいと言っている生徒のお兄さんだ」
最近うちの学校に来たんだと言われれば、誰でもそれが誰なのか確信出来る。
無人島試験で見せた謎の機動メカや多彩な技術を持つ斉木の兄であれば、あの男の刺客やホワイトルームの教官たちでも相手をするのは一苦労だろう。
「心強いですね。けど、手伝ってくれるんですか?」
「ああ。1学期から色々と動いてくれてたんだよ? 君に不利な試験の内容を変更してくれたりね……」
そのついでに何やら面倒なことをしたような言い方だ。
もしかすると斉木のオールA+は斉木の兄貴のせいなのかもしれない。
「空助くんには僕から話しておくよ。ただ、彼から君の身の安全が保証できないなんて言われた時はまた連絡させてもらうよ」
「わかりました。お手数おかけしますが、よろしくお願いします」
斉木の兄貴の実力は弟と同じく未知数ではあるが、聞いた実績を踏まえればこの学校で最も頼れる教師ではあるはずだ。
通話を終えて、オレは自分抜きで行われていたかもしれない体育祭について考えるも、学校最強と呼ばれる生徒が他クラスにおり、そのクラスは団結力においては学年1を誇る。
今のCクラスでは勝つことは出来ないだろう。
「いや、まずは目の前の特別試験に集中すべきか」
今回の特別試験は、課題によってはどの特別試験よりも苦しいかもしれない。
今までの試験は、どんな形であれ対策を講じることができたが、今回の試験では確実な戦略が一切存在しない。
クラスメイトを信じ、そして一丸となることが求められている。
外部から来賓の訪れる体育祭に文化祭と去年にはなかった心配事が新しく出てきているが、全ては明日の特別試験を無事に終えてからだ。
綾小路が軽井沢と付き合ってると知って驚いたのはCクラスの生徒くらいで他クラスからすれば「そうなんだ。へー」みたいな感じ
これがくーちゃんと軽井沢とかだったら全クラスめちゃくちゃ揺れてた
どれくらいかと言うとくーちゃんに好意を持つ女子がギャルになったり、それを見てその子たちに好意を寄せているクラスメイトの男子たちが阿鼻叫喚になるくらい。
佐倉さんなんでOAA伸びてないねーん!幸村何しとんねーん!
グラドルやってるなら体調と肉体管理はできそうやからプランさえ立てればやるやろ。やれ。
ってことで佐倉強化入ります。
まぁ本人的には退学した方が幸せなのでは?と思うが他人が本人の幸せを決めてはいけないのでね。
なお、綾小路からくーちゃんに乗り換える可能性はフリーザ編で悟飯がフリーザに勝つくらいにはある(他の二次創作でも使った例え)
次回の更新ですが……好きな小説の最新巻がようやく出るのです。
来たのか!?遅せぇんだよ!待ちかねたぞ少年って感じです。
それを買いに行くのと読むのもあって、少し投稿が空きます。
また更新する時はXに放り投げるか無言で更新したりします。
では、今回はこの辺りで。
おまけ
綾小路が軽井沢と付き合った(ている)と聞いた時の反応
椎名▶︎そうなんですか? 良かったですね、綾小路くん。お幸せに。お付き合いされている方がいるなら、私のことは下の名前で呼ばない方がいいんじゃないでしょうか?軽井沢さんが嫉妬とかしなければ構わないと思うのですが、一応、念の為。
櫛田▶︎へー。意外ではあるけど別に驚かないっていうか……。まぁ、お幸せに?
坂柳▶︎あらあら、綾小路くんは残酷なことをしますね。でも、お幸せにと心ばかりの祝辞は述べておきますね。
一之瀬▶︎おめでとう!正直びっくりな組み合わせだけど、そういう意外な2人が付き合うのって悪くないよね。
龍園▶︎真鍋の言ってたやつは綾小路だったってわけか。クク、身体能力も高いが知略もいけるとはな。真鍋を利用して軽井沢を引き込んだってわけだろ?やることが俺好みでいいじゃねぇか。