斉木家を見なよ……あぁそんなこともあったねとかそうだったか?しか言ってない。
教師の朝は生徒たちが思っているよりも忙しい。
それが女なら尚更。
顔を洗って、化粧水だとか乳液だとかでスキンケアを済ませたら、歯を磨いて、朝ごはんを食べて、ちゃんとしたお化粧をする。
「……よし」
鏡の前で髪を纏めて、いつも通り、ううん、いつもより可愛い私になる。
この学校は教師も寮生活だから敷地内にある職場、学校までにかかる時間は多くはない。
けど、やることは山のようにあったりする。
ただ、保険医の私は授業の準備とかはないけど、その分細々とした負担は多い。
でもその負担はサービスで、給料には上乗せされない。
勤務の開始時間はホームルーム開始と同時刻だから、朝の個別準備だとかミーティングは早く終わらせる方が吉だけど、特別試験が実施される日はそうもいかない。
生徒たちの人生、その一部に影響を与えるだけに学校側のミスは許されないから。
「今回の満場一致特別試験において、我々教師が最大限気をつけることはクラスへの介入です。自クラスの生徒を守りたいがために思わず手助けをしてしまう。そのような事態は絶対に避けるようにしてください」
今回の試験対象である2年生の担任4人を集めて、碇先生が厳しい顔つきで警告してくる。
でも、警告を出してくる割には試験監督をするのが自クラスというのは公平性に欠ける気がする。
11年前に実施された時は担当クラスと被らないようシャッフルする措置が取られていた。
なのに今回はそのまま担任の先生が自分のクラスを見守るのは、他クラスに担当クラスの情報を渡さないためだとか、生徒たちが余計な緊張感を持たないためだとか理由は色々考えられる。
それでも私は不満を顕にしていただろう。
昨年までの私なら。
上が決めたことなら私に文句を言う筋合いはないし、今更何か言ったところで変わることもない。
坂上先生以外は生徒側として試験に参加したわけだし、その辺もあるのかもしれない。
「もしアドバイスになると監視役が判断した場合は戒告。繰り返された場合には減給もあります」
他にも私たち教師が生徒が決めるべき選択肢を意図的に誘導するような悪質な介入をしたと判断した場合には、降格処分もあるらしい。
担任から外されるってことかな?
満場一致試験は選択肢が全てだし、教師が特定の選択肢に肩入れして導く行為をすれば特別試験そのものの本質を問われてしまう。
もし仮にそれが許されるのなら、私たちの時だって……と考えてしまうし、粛々と物事を進めていくべきだろう。
「以上となります。それでは本日の特別試験どうぞよろしくお願いします」
特別試験は午後からになるため、私は保健室で過ごすことになる。
他の3人は午前中に授業を行うことになっていて、真嶋くんと坂上先生は平静そのものだったけど、佐枝ちゃんだけは酷い顔をしていた。
慣れない化粧で目の下のクマを隠したのがバレバレだし、顔もいつも以上に酷い。
ちゃんとしてれば美人でクールで、頭でっかちな女の子なのに、今は覇気がなくて見てるこっちが滅入ってしまう。
あーヤダヤダと職員室を出て、扉越しに佐枝ちゃんの方を振り返る。
満場一致特別試験が発表されてから、ううん、それよりも前に真嶋くんから次の試験がこれだと聞かされてから佐枝ちゃんは気落ちしていた。
Dクラススタートではあったものの、せっかくAクラスになれるかもしれない逸材たちが集まっているクラスなのに、未だにCクラス。
私のAクラスとの差は途方もなく遠い。
そこに差し込まれたこの特別試験は佐枝にとって大きな痛手になっているに違いない。
佐枝ちゃんにAクラスを目指す資格なんてない。
私はそう思っていたけど、それは私もそうだった。
佐枝ちゃんが自分の過去を乗り越えるために生徒を使っているように、私もまた佐枝ちゃんが過去を乗り越えられないように生徒を使っている。
生徒は私たちの過去に何の関係もない。
所詮は過去、終わったことだと私は一之瀬さんから教わった。
一之瀬さんを取り巻いていた噂を、彼女自ら認めて、その上で前を向いていくと宣言していた。
そして、それを陰ながら見守っていたのであろう子は他クラスのリーダー格が退学になるかもという時に無償で、何の打算もなく助けて見せた。
クラス闘争なんて関係ないと示すかのように。
私たちの世代にはいなかった、私の生徒が持っていた輝き。
生徒会長たちが期待するのも私にはよくわかった。
あれだけの才能と実力を持っていながら誰に威張るわけでもなく、誰かを助けるためにその実力を振るう姿こそ、本物の実力者というやつなのかもしれない。
ただ、やや鈍感というか朴念仁というか……まぁ生徒同士の問題だろうしそこまで口を出すのはよくないと真嶋くんに怒られたばかりだから言うのはよそう。
午前が終わり、昼休みになって職員室に戻ると佐枝ちゃんは机の上にお弁当を広げたはいいものの、その手がほとんど進んでいなかった。
私は買ってきたサンドイッチとヨーグルトを食べながら佐枝ちゃんの様子を見ていたけど、3分の1ほど食べて箸が全く動かなくなっていた。
残ったお弁当に蓋をしていそいそと片付けると午後の始まりを告げる音を待っていた。
まるで裁判の判決を待つ被告人のように見えた。
それに私はため息をついて、立ち上がった。
「佐枝ちゃん」
「……知恵か」
「ちょっと来て」
「なんだ……? 悪いが今は……」
「いいから。来たらすぐ終わるから」
私は有無を言わせずに化粧品の入ったポーチを片手に佐枝ちゃんの手を引く。
向かうのは職員用のトイレで、佐枝ちゃんは意味がわからず立ち止まった。
「なんだこんな所に連れてきて……試験前だぞ」
「試験前にそんな二日酔いでゲロぶちまけた後みたいな顔されてたらこっちの気分も悪くなるの」
「……そんなに酷いか?」
洗面所の鏡を見て、佐枝ちゃんは聞いてくる。
自分でも分かってる癖に認めるのが怖いんだ。
「とりあえず顔洗いなよ。もうちょっとマシな顔にしてあげるから」
私がそう言うと佐枝ちゃんは驚いたように私の方を見てきた。
「何? そんな顔で生徒の前に出たら、みんな動揺するかもしれないでしょ。佐枝ちゃんのためじゃないから」
我ながらツンデレヒロインみたいなセリフだなと思いつつ、佐枝ちゃんに言う。
「割り切りなよ、これはあの子達の特別試験で、今の私たちは教師なんだから」
「……わかっている」
顔を洗って綺麗になった顔を拭いてやり、目元のクマを隠してやるためにコンシーラーを使ったりと色々やってやった。
「お前は変わったんだな……」
「どうだろ。根っこは変わってないと思うよ。今の佐枝ちゃんにAクラスになって欲しくないって気持ちはあるにはあるし」
じゃないと私がなんで教師になったのかよく分からないし。
まぁ今のクラスの生徒たちを見ているのは楽しくはあるけどね。
化粧品を仕舞っていると午後の授業、特別試験の開始まであと5分を告げる鐘の音が鳴る。
2人でトイレを出ると、教室に続く廊下を歩いていく。
「いよいよだね」
「ああ……」
「大丈夫だよ、きっと」
「何がだ」
「あの子達なら、今の2年生たちなら私たちみたいなことにはならないよ」
「……そう、かもな」
少しだけマシな顔になった佐枝ちゃんより先に自分の教室に着いた私はなるべく優しく佐枝の肩に手を置いた。
「ここを乗り越えないと佐枝ちゃんがAクラスになるなんて絶対に無理だからね」
私はそう言って何か言いたげな目をしていた佐枝ちゃんの視線から外れるように教室へと入る。
教室の後ろには今回の試験の監視役が立っていて、生徒たちは今回限りの定められた席に座っていた。
私の前には一之瀬さんがいて、ムードメーカーの柴田くんも隣にいる。
でも、2人とも、他のみんなもどことなく緊張した面持ちをしていた。
そして、斉木くんはクラスの最後列でいつも通りの無表情で試験の開始を待っているようだった。
これから彼らが挑むのは満場一致特別試験。
学校から出される5つの課題を複数の選択肢から選んで、満場一致になるまで繰り返すという、シンプルな試験。
特筆すべき点の少ない特別試験だけど、出される課題によっては一気に難易度の跳ね上がる試験になる。
事前に伝えていた通り、全ての通信機器を回収する。
「そろそろ時間だね。今から特別試験になるんだけど、今日は長く時間がかかるかもしれないから、トイレ休憩の時間を最大4回設けるよ。基本的には満場一致をもって次の課題に挑む前にだけ休憩可能だから、満場一致になっていない途中の段階では休憩は取れないよ。休憩は1回につき最大10分だけど、試験時間はカウントされ続けるから、いらないと思ったら休憩をスキップして時間短縮に宛ててね」
一応、トイレは試験前に済ませるように言っておいたし、しばらくは問題ないかな。
昼ごはんの後だから1回くらいはあるかもだけど。
「じゃあ、今から満場一致特別試験を開始します。ここからはルールに則って進行するから、インターバル以外で席を立つことや、禁止されたタイミングでの雑談は容赦なく注意するから気をつけてね」
私が言うよりも先に後ろの人が言うかもだけど。
モニターが切り替わってカウントダウンが始まる。
いよいよ始まる。
2年生全クラスの運命を変えるかもしれない特別試験が。
知恵ちゃん成長というか、考えを変えるきっかけは一之瀬さんの噂の時とくーちゃんのプライベートポイントマンを見てから。
知恵ちゃんには眩しすぎたんだよ、きっと。
佐枝ちゃんにもそんな生徒が現れるといいね。
このまま試験に入るか悩みましたが長くなりそうなのでぶった切りスクラッパー
次から一之瀬クラスを描写しつつ、あとがきとかで他クラスはどうなっているかという感じになるかなーと思います!
予想はされてると思いますがこの試験、特に何も無いです!
課題の内容を変更するということもしませんのでね。
内容は変えないけど選択肢は変えるかもね……♣︎(修学旅行の行先に忍舞県入れたり、1人退学で150に弄るとかね)
おまけ
くーちゃんから超能力者と明かされた時(タイミングは特に考えてないけど3年生編1学期末くらいの好感度と関係性になってると思ってください……まだ見てないのにどう思えと?▶︎俺の頭の中にある)
全員目の前でスプーン曲げからのグリグリ、空中浮遊、テレパシーで心読みされ、脳内に直接!話しかけられるという相卜にやった時とおなじ感じ
なお透視のことは教えてないよ
一之瀬▶︎照橋さんと似たような反応。「私の内面とか過去を知ってて優しくしてくれてたんだね。ありがとう。でも楠雄くんが優しいのは超能力者だからじゃないんでしょ?だったら、そんなの気にしないよ。楠雄くんは楠雄くんだもん(って、もしかして、春休みからずっと好き好き言ってたのバレてたってこと!?それは恥ずかしいよぉ〜!!)」って感じ。
くーちゃんも反応に困って、記憶飛ばすか過去に戻るか悩むと思う。
坂柳▶︎スプーングルグルとテレパシーで腰抜かして倒れそうになったのを瞬間移動で助けられて「えっ……私の好きな人すごすぎ……?」で気絶。
(天才は生まれながらに天才どころか、天才超えて超能力者なんて予想できませんよ)と好感度2乗されそう。
櫛田▶︎「そりゃ私の心の中読めるんなら、こっちの方がいいとか、素を見せても気にしないわけだ……はぁー……ズルすぎない?」
多分この子が1番超能力に寛容というか、教えたらテレポートで寮まで帰ろとかあいつの秘密教えてとかやってきそう。
椎名▶︎「そんな非科学的なものと思ってましたが実際に見せられると信じざるを得ませんね……他には何ができるんですか?せっかくなので見せて貰えませんか?」
この子もこの子でタフなので受け入れたあとは何ができるか知りたがるし、テレパシー圏内なら喋りかけてきそう。
あと本のネタバレしてたことを知ったら普通に謝る。えらいね。
時間がないから女の子3人だけ
男連中は「すげーっ!?道理で情報戦に強いわけだわ。フィジカルが強いのも超能力なんだろ?は?兄貴いわくあんまり関係ない……?すげぇ……」とか「これは私でも予想外だねぇ!だが、楠雄がエスパーだったとしても私たちの関係は変わらないさ。そうだろう?」とか「そりゃ勝てねぇわバカがよ。あ?身体能力は超能力関係ないって?嘘つけ」ってなるんじゃないですかね。
ではまた次回