異端の小鬼の冒険譚   作:増えることに飽きたプラナリア

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異端の小鬼が理解した日

森の中を走る。心臓が張り裂けそうなほどに早く脈打つ…その鼓動を感じながら。口から血反吐を吐きそうになりながらも私は走り続けていた

 

どれほど走っただろう。気が付けば川のほとり…森の開けたその場所で私は唖然と膝をついていた

 

そうして疲れ果てるほどに走り抜いたおかげか、あの頭の中を埋め尽くした何故かは一応渦巻くのをやめ、感じていた気分の悪さは限界を迎えた肉体の悲鳴のような痛みと苦しさによって幾らかは消え去ってくれた

 

疲れたと、私は絞り出すようにそう呟いた後、川辺に腰を下ろした

 

逃げ出したのは良くなかったな、などと今更なことを考えながら…私はそれを早々に切り捨て自分の理解へと思考を切り替えた。この世界で生きて行くために、一々ギャップに悩んでこんなことになっていてはとても生きていけない

 

だが、感があてみれば簡単に仮説は建てられる。恐らくだが私という存在は二つの思考ロジックを持っている、というふうに仮定すべきだろう

 

まずは人間としての私が持つ全てで構成された人間の思考ロジック

 

もう一つは生まれ持ったゴブリンの価値観や判断基準などで構成されたゴブリンの思考ロジックである

 

前者は当然持っていて然るべきだろうが、後者に関してはゴブリンとして存在していた記憶がかけらもない私に何故この思考ロジックが形成されているのかはいささか疑問符が多くつくが、とりあえず今それを紐解くための情報があまりにもないため放置する他ない。とりあえずはある前提で話す

 

こうして前提条件を用意してしまえば、私がさっき激しく取り乱してしまったことにも一つの仮説が建てられる

 

これは自分が転生したという事実を理解した際に多少話したことも絡んでくるのだが、恐らく私が取り乱した根本の原因はズバリ【一つの事象に対して理解と拒絶を同時にしてしまったこと】だろう

 

当然と言えば当然のことであるが、人肉を食べるなどという行為は到底人間としての私は理解できないししたくもないし、それを許容することも当然ながらできない

 

しかしゴブリンの思考ロジックであればそれは180度逆転してしまう。そんなことが同時に起こった結果、私は何で許容できるのか? とゴブリンの思考ロジックに反発し、ゴブリンのそれもまた私の思考ロジックに対して反発する。むしろ発狂してその場で叫ばなかった自分はかなり偉いのではないだろうか? 常人ならば発狂してもおかしくはないだろう。なんせ文字通り自分が2人いるようなものである

 

だがそうなるととても悲しいことに、私は今後この世界の情報…当面はゴブリンの生活スタイルなどになるだろうが、それに触れるたびにこのようなバグを引き起こしてしまうことを意味している

 

どう考えても人生ベリーハードである。が、唯一の救いは思考の主導権が人間の…私の側にあることだろう。これでもしゴブリンの思考ロジックにも、私の人格のようなものが備わっていた場合は最悪体の主導権をめぐって殺し合いになっていたかもしれない

 

現状は酷いものだが、整理して仕舞えばまだ最悪とは呼べない……むしろ、考え方によっては大きな➕になるかもしれない

 

何故か? それは私がこの世界のことに無知であり。その無知を補いうる要素としてゴブリンの思考ロジックが当てはまる可能性があるのだ

 

例えばゴブリンにしかわからない種族特有の行動をとらなければならない際、私はわからずともゴブリンの思考ロジックを使えば周囲のゴブリンたちに怪しまれない程度に行動できるかもしれないのだ

 

そう考えれば、このもう一つの思考ロジックとの上手な付き合い方を見つけることさえできれば、この世界を生き抜く上での命綱になるかもしれないのである。具体的にどうするんだと書かれてしまうととても困ってしまうわけであるが……見当もつかないわけであるし

 

と、そこまで考えたところで、私の腹から特大の音が鳴り響く。思えば目覚めてから何も口にしていない状態で走り回ったわけであるから、腹が減って当然なわけである

 

しかし戻って人肉パーティーに混ざるわけにはいかない。しかし強い空腹感と疲労が私に焦りを植え付けてくる

 

その時、水面から水飛沫が上がり、特徴的な水音と共に一匹の川魚が水面を跳ねた

 

これだ、と私は先ほどまで川魚が見えた場所を指差す。人肉パーティーがダメなら、他の食材で代用すればいいじゃない作戦である

 

しかしここで問題が発生する。川魚を取る手段がない

 

しかしこのチャンスを流すわけにもいかない。どうにかして取れないものかと思考する私の脳内に、ふとひらめきが起こる

 

適当な枝を使って簡易的なモリを作れば良い、と

 

さらに言えば、どんな枝が候補として使えるのか、などの情報が追加で湧いてくる。私はそこでこの情報が私自身の思考によるものではなく。ゴブリンのものから出てきたという事実を理解する

 

これで上をしのげる。と私は歓喜にガッツポーズをしつつ、心の中でゴブリンの思考ロジックに感謝を述べると、急いで行動に映る

 

まずは川辺の石の中から手頃なサイズの石を確保し、続けてそれを両手に持って手頃なサイズの枝に叩きつける

 

すると想像よりも簡単に枝を叩き折ることに成功し、その枝を持って再び川辺へと行き、ある程度の大きさで、楽々と持てるお椀型の石を見つけると、それでモリにする予定の枝から枝分かれした小枝たちを削り落とし、持ち手となる部分の樹皮を削りっていく

 

多少根気のある作業であるが、ゴブリンの思考ロジックのおかげで作業自体にしんどさや苦しさと言ったものを感じることもなく無事に作業を終えた

 

あとは森を獲物に突き立てるだけだが。そこもゴブリンの思考ロジックが活躍する。私には到底できないが気配を殺し、獲物が油断する好機を見分ける、まさに野生の勘、とでもいうべきものを武器とし、あっさりと川魚を仕留めてしまう

 

 

我ながら呆気なさすぎる晩餐の獲得に拍子抜けしながらも。無事に獲物を取れたことに対する安堵と、ふつふつと湧き上がり始めた喜びに笑みを作りながら。続けて4匹ほど川魚を仕留めはことに成功する

 

そこからは血抜きやらの下処理が始まるのだが。どうやらゴブリンは生のままでもかぶりついて食べれるらしいということを思考ロジックを通じて何となく理解した私は。拒否感を感じながらも意を決して生のまま川魚を貪って行く

 

すると、当初の私の予想に反して美味い、という素直な感想を抱けてしまう。そのままばくばくと川魚を食べ尽くした私は、そこで自分の肉体がゴブリンのものなら、五感や美醜の感じ方などの本能的な部分はゴブリンの思考ロジックが基準となることを理解した

 

そうなると、今後もゴブリンの思考ロジックと、私自身の思考ロジックとの間で、幾度も激しい対立が起きることが予想できる

 

その未来を想像した私は、己の前途が険しいことを理解してため息を吐きだ。しかし考え方によってはこの世界で生き抜く上で強力な武器たるこのゴブリン思考ロジックがあることは、間違いなく幸運と言えるだろう

 

まずはこの相反する思考ロジック達といかに上手に付き合って行くべきか、それを考えつつ、ゆっくりと立ち上がった私は、警鐘を鳴らすゴブリンの思考ロジックに従い、なんとなく先輩のある廃村がありそうな方向へ向かって歩き出すのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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