アスハ家のハラキリ令嬢   作:アキ山

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読者の皆様の中にギャルゲーマスター!

ギャルゲーを極めた方はいらっしゃいませんか!?

ここからキラが切腹幼女の好感度を上げる方法を教えてくださいませ!!

(なお、現状は名簿の横に爆弾ならぬ核弾頭がセットされているものとする)

※ネタです。アンケートにあらず。



第6話

 キラ・ヤマトは夢を見る。

 

 だが、それは楽なモノでは断じてない。

 

 イージスが投げた盾が機首にぶつかり、砕け散ったスカイグラスパーのコクピットを覆っていたキャノピーと共にパイロットであるトール・ケーニッヒの首が飛ぶ。

 

 ヘリオポリスのカレッジで自分を支えてくれた親友の死。

 

 それを齎したのは、幼馴染であるアスラン・ザラだ。

 

 かつての悲劇を目の当たりにして、当時の嘆きと怒りが蘇る。

 

 しかし自分にはアスランへそれ等をぶつける資格がない。

 

 場面が切り替わり、今度は己の振るった対艦刀のレーザー刃がブリッツのコクピットへ食らいつく。

 

 爆発と共にアスランの悲痛な叫びが木霊する。

 

 何故なら先に彼の戦友を殺めたのは自分だからだ。

 

 再び場面は切り替わる。

 

 キラが立っているのは古びた実験施設だ。

 

 彼の隣には兄貴分として自分を支えてくれていたムウ・ラ・フラガが立っており、その視線の先には仮面の男ラウ・ル・クルーゼの姿がある。

 

「君は知っていたのかね? 今のご両親が自分の本当の親ではない事を」

 

 わき腹の負傷に加えて利き腕に銃弾を受けたムウは戦えず、自分が銃を突きつける事で拮抗を保つ中、クルーゼはキラの根幹を揺るがす言葉を放つ。

 

「な…なにを……!」

 

 自分達の心を乱す為のデマだと思いたかった。

 

 しかし、事前にクルーゼが投げ入れた資料の中に紛れた写真。

 

 自分によく似た女性が双子であろう赤ん坊を愛おしそうに抱く一枚が、クルーゼの言葉に信ぴょう性をもたせている。

 

「だろうな。知っていれば、そんな風に育つはずがない。何の陰もない、そんな普通の子供に」

 

 クルーゼの重ねる言葉は、キラにとって突きつけられた銃口よりも恐ろしいモノだった。

 

 彼の吐き出す悪意は、自分が今まで組み上げてきた『キラ・ヤマト』を崩壊させるものだったからだ。

 

「アスランから名を聞いた時は思いもしなかったよ。君が彼だとは」

 

「なにせ死んだものだと思っていたからね。その写真に写っている双子、とくに君の方は」

 

 眼前にいる仮面の男の言葉を聞いてはいけない。

 

 彼をしゃべらせてはいけない。

 

 恐怖心が警鐘を鳴してもキラは手にした銃の引き金を引くことはできなかった。

 

 直接人を殺すのが怖かったのもある。

 

 しかし、真実を知りたいという心があったのも事実だ。

 

「その生みの親であるヒビキ博士と共に、当時のブルーコスモスの最大の標的だったのだから」

 

「な…なにを……」

 

「君は人類最高のコーディネーターだ」

 

「っ!?」

 

「そんな願いの下に開発されたヒビキ博士の人工子宮によって、数多の失敗と犠牲の上に生み出された唯一の成功例だよ」

 

 ───それが自分を地獄へ突き落す結果になっても。

 

 そしてまた場面は切り替わる。

 

 ヤキン・ドゥーエの最終決戦の最中、沈みゆく連合の船ドミニオンから吐き出された脱出艇があった。

 

 それに乗るドミニオンのクルーの中には情を重ね擦れ違ってしまった少女、フレイ・アルスターが乗っていた。

 

「フレイッ!」

 

 愛機であるフリーダムで保護するべく宇宙を駆けるキラ。 

 

 しかし無情にも彼の目の前で脱出艇は撃墜されてしまう。

 

「あ…あぁ……」 

 

 失意と悲しみの中、キラはフレイの幻影を見た。

 

 しかし『貴方を守る』といった彼女は、果たして本当にフレイだったのか?

 

 自分が生み出した都合のいい虚像だったのではないか?

 

 答えは今も分からない。

 

 その後、怒りと殺意でSEEDを覚醒させたキラは、その感情のままに下手人であるクルーゼを撃破した。

 

「それでも……護りたい世界があるんだぁぁぁぁっっ!!」  

 

 世界の滅亡を望む宿敵に返した叫び。

 

 果たして、それは本心からのモノだったのか?

 

 友を無くし、愛する人を喪い、自分の帰りを待つ家族との関係も真実を知った事で歪に変わった。

 

 自分の護りたい世界などとっくに消え去ったのではないか?

 

 この疑問は2年前からキラの心に刺さったままの棘だ。

 

 そうしてゆっくりと意識が浮上する感覚の後、キラは目を覚ました。

 

 重い体を引きずって洗面台に向かえば、鏡に映るのは涙の痕を付けた無表情な己の顔。

 

「……駄目だ。これじゃあ、皆に心配をかけちゃう」

 

 そういってキラは強張った表情筋をほぐし、何時ものように泰然とした薄笑みを張り付ける。

 

 2年前の戦争に巻き込まれた時から、キラは本当の意味で笑みを浮かべた事はない。

 

 この顔も虚無の表情でいると皆が心配するからやっているだけだ。

 

「おはよう、ラクス」

 

 そうしてアークエンジェルの食堂へ顔を出すと、そこにはラクス・クラインがいた。

 

「おはようございます、キラ。ダータルネス沖の戦いは何とか止めることが出来ましたわね」

 

「うん。最後は力業になってしまったけどね」

 

 数日前に起きた大西洋連邦とザフト軍の海戦。

 

 キラ達はそれに武力介入を行い、両者の主要戦力を無力化する事で戦闘を中断させた。

 

「アスランは私達の行動に反対のようです」

 

「彼がカガリの下を離れてプラントに戻ったのは、きっとこの戦争を止める為だよ。今は別の道を歩いていても、目的が同じなら前の様に手を取り合える」

 

 ザフトの最新鋭艦ミネルバの尖峰を務める新型機を無力化した後、キラの前に立ちふさがったのはアスランだった。

 

 刃を交えた彼はキラ達の行動は無意味であり、戦争の事は自分にまかせてオーブへ戻るように説得してきた。

 

 そこからキラはアスランも自分と目的は同じだと判断したのだ。

 

(そうだ。僕たちはもう二度と、あんな悲しい戦争を起こしちゃいけない)

 

 必死に呼びかけていたアスランの声を思い出しながらキラは胸中で独り言ちる。

 

(トールが死んだ時、ミリィは見ていられないくらいに悲しんだ。きっと友人を亡くしたアスランも同じだったんだろう。カガリだって、ウズミ様を亡くして妹さんがあんな有様になって本当にひどい状態だった。マリューさんもムウさんが死んでずっと落ち込んでいた。それに僕だって……)

 

 キラの脳裏に過ったのはフレイが宇宙の藻屑と消えた時の光景、それによって我知らず手に力が籠る。

 

(世界が止まれないのなら僕たちが止めるしかない。あの時の様に……)

 

 そう考えた時、キラの脳裏に決まって浮かぶのは例の仮面の男だ。

 

「──人の夢、人の望み、人の業」

 

「キラ?」

 

「ううん、何でもないよ」

 

 思わず口を付いた呟きを、キラは苦笑いで誤魔化す。

 

(理想の人間、最高のコーディネーターとして生み出されたのなら出来るはずだ。いや、出来なければ何のために僕は生まれてきたんだ)

 

 コロニー・メンデルで、そして最終決戦の中でクルーゼから浴びせられた言葉はキラにとって呪いとなった。

 

 自分は人工的に造られた超人である。

 

 ならば、人が出来ない事を熟さねば存在する意味はない、と。

 

 それが前大戦の過酷な経験から来る戦争への忌避感と結びついた結果、己を平和の守り手と定めてしまったのだ。

 

「ご馳走様。ラクス、先にブリッジへ行くね」 

 

「はい」

 

 仮にアカツキ島で送ったラクスや孤児院の子供達との生活が続いていたのなら、キラの中にある心の傷も少しづつ癒すことが出来ただろう。

 

 だがザフトと思われるМSの襲撃によって、彼は精神的損傷から立ち直る前に再び戦場へ呼び戻されてしまった。

 

 しかもラクスが狙われた事で『自分の大切な誰かが失われる』というトラウマを抉られる形でだ。

 

 結果としてラクスや孤児院の子供達を守る事は出来た。

 

 しかし、これはキラに強迫観念を植え付けてしまった。

 

 『戦争になれば、自分の大切な人達が失われる。だからこそ、被害が出る前に戦争を止めねばならない』と。

 

 そこに再び戦火を広げる事は、前大戦で散って逝った人達の犠牲が無駄になるという補強が成された為に強硬的な手段を辞さなくなった。

 

「おはようございます。……どうしたんですか?」

 

 そうしてアークエンジェルのブリッジへ向かうと、マリューを始めとするクルーたちが暗い表情を浮かべていた。

 

「キラ君、オーブが私達をテロリスト認定したわ」

 

 硬い表情のまま告げるマリューの言葉にキラは一瞬息を呑む。

 

「まあ、当然だろうな。国を上げての一大イベントの最中に国家元首を攫ったんだ、面子を潰されたオーブが怒らない筈がない」

 

 それを聞いた副官席のバルトフェルドは肩をすくめて見せる。

 

「それでもカガリがそんな事をするとは思えない。その声明を出したのはユウナ・ロマ・セイランですか?」 

 

 姉がアークエンジェルを出ていく時、彼女は戦艦とフリーダムを何らかの形で処分して戻ってこいと言っていた。

 

 自分達が国に帰って来られないようにするとは思えない。

 

 となれば、下手人は恥をかかされた夫予定のユウナが有力だ。

 

「いや、カガリの妹だ」

 

 キラへ返したバルトフェルドの答えに、総舵手のアーノルド・ノイマンが言葉を挟む。

 

「でも、これっておかしいですよね。カガリさんがルージュでアークエンジェルを出たのはかなり前です。当時の艦の位置を考えたら、まだ国に戻っていないなんて事はありえない」

 

「保護名目で、どこかに軟禁されているんじゃないかしら。そしてカガリさんの代わりにセイランがサクヤちゃんを傀儡に選んだのでは?」

 

「どうかな。あのお嬢さんは国民の為に自分の腹を切れる子だ。しかも自分の血筋を利用して、戦勝国である連合をハメるくらいには頭も切れる。セイランごときの操り人形になるタマとは思えんがね」 

 

「じゃあ、テロリスト認定はあの子が出したというんですか?」

 

「おかしな話じゃないさ。知らなかったとはいえ、僕達は彼女の姉を攫ってその決意に泥を塗ったんだ。それに万が一にも逃げたカガリに何かあった場合、それも我々の責任になる。恨まれる理由は十分だな」

 

 コーヒーが入ったカップを片手に肩をすくめるバルトフェルド。

 

 飄々とした態度は崩していないが、彼とて現状が拙い事は理解している。

 

 彼等は表向きにでも帰る場所を失ったことになるのだから。

 

(補給の方はクライン派の方で何とかなっているが、それも何時までもつか。それにオーブのテロ認定が他の国に波及すれば、僕たちは四面楚歌に追い込まれる)  

 

 真綿で首を絞められるような錯覚に内心で渋面を浮かべるバルトフェルド。

 

 そんな彼を現実へ引き戻したのはキラの言葉だった。

 

「一度オーブに連絡を取ってみましょう。カガリの事も気になるし、サクヤちゃんがセイランに操られていないのなら僕達の言葉は届くはずです」

 

「もし傀儡だった場合は?」

 

「カガリと共に助け出します」

 

 迷いのないキラの言葉にブリッジにいる誰もが頷く。

 

 その迷いの無さは自分達の行いが正しいという確信があってこそのもの。

 

 しかし彼等は気づかない、いや気付けるはずがない。

  

 対話を行おうとする相手は、その正しさだけでは立ち行かない政治という名の伏魔殿に住む者である事を。

 

 

◆

 

 

「姉様、おいたわしい……」

 

 純白のベッドの上で、お腹を押さえてウンウンと唸っているカガリを前にサクヤはハンカチで涙を拭う。

 

 感動(?)の再会の後、サクヤは姉を病院へ連れて行った。

 

 結婚式の煌びやかさなど見る影もない彼女の様子に、万が一にも体に悪影響が在ってはいけないと考えたのだ。

 

 そんなサクヤの懸念は大当たりだった。

 

 検査の結果。カガリの体内から複数の寄生虫が発見されたのだ。

 

 アニサキスに赤痢アメーバ、住血吸虫とサナダ虫。

 

 他にマラリア原虫も見つかった。

 

 今、カガリが腹部を押さえて苦しんでいるのはアニサキスの影響だという。

 

「おそらく無人島生活で食べた物が悪かったのでしょう。ですが徹底的に検査してよかった。マラリアや住血吸虫は重症化すれば命に係わりますからな」

 

「そうですね」

 

 トダカ一佐の言葉にサクヤは頷く。

 

 住血吸虫は肝脾腫の原因となる寄生虫で、種類によっては脳炎や頭蓋内にある硬膜が炎症を引き起こす原因となる。

 

 そうなれば命を落とすのはもちろん、仮に一命を取り留めても後遺症が残る危険性だって否めない。

 

 赤痢やアニサキス。そしてサナダ虫は住血吸虫に比べれば危険は低いが、それでも重い食中毒の原因だ。

 

「念の為に一か月は入院だそうよ。サクヤには苦労を掛ける事になるわね」

 

「いいえ、私に出来る事なんて微々たるものです。ミヤビ姉様や官僚の皆様にはお世話を掛ける事になりますが、よろしくお願いします」

 

 ミヤビに小さく頭を下げると、サクヤはカガリの額に浮かんだ寝汗を優しく拭う。

 

「それでは行ってきます、姉様。ご自愛ください」

 

 名残惜しいが今のサクヤは国家代表。

 

 ゆっくりと姉を見舞う時間はないのだ。

 

「サクヤ、今から軍へアークエンジェルの件を説明するんでしょ? 悪いけど先に政庁へ戻っていてくれない。私はトダカ一佐と少し話があるから」

 

 こうして病室を出ると、ミヤビはサクヤへこう告げた。

 

「わかりました」

 

 ミヤビの言葉に頷くと護衛と共にサクヤは病院を後にする。

 

 そしてミヤビはトダカと共に病院に用意してもらった応接室の一つに入る。

 

「それでミヤビ様、私の話とは?」 

 

「バタバタしていて遅くなっちゃったけど、アスハ派閥の重鎮である貴方には伝えておきたかったのよ。───サクヤを担ぎ出した事のリスクをね」 

 

 道中で買ったペットボトル入りのお茶を差し出しながら告げたミヤビの言葉。

 

「そこは理解していますよ。あの方を政治の場に出した事を知れば、カガリ様は激怒するでしょうからな。再就職先も決めています」

 

 それに苦笑いで応じるトダカだが、ミヤビはため息交じりに首を横に振る。

 

「悪いけど、そういう事じゃないわ。今、オーブは国外の日系人から厳しい目を向けられているの。理由は分かるでしょう?」 

 

 ミヤビの言葉にトダカは表情を引き締める。

 

 ここで心当たりがない等と言うほど彼とて無能ではない。

 

「2年前の切腹の件、ですか?」

 

 世界最多の日系人を抱えるオーブを海外の同胞がそのように見る理由など、これ以外の考え付かない。

 

「ええ。あの一件、海外の日系人たちはオーブの失態が原因でサクヤは詰腹を切らされたと考えている人が多いの」

 

「当時の事を考えるなら、そう取られても仕方ありませんな。敗戦の責など本来なら大人が背負うべきなのですから」

 

「そうね。問題なのは、サクヤがアサヒ様の娘という事よ。世界中にいる日系人達の大半は今でも皇族を自分達の象徴と考えているわ。そして現存する皇族は暗殺を恐れて、完全に雲隠れしてしまっている」 

 

「我々もホムラ様からアサヒ様の血筋を知らされた時は仰天したものです」

 

「実際アサヒ様がアスハ家に嫁いだ後、ご実家の方は一切の接触を断っているわ。今彼等が何処にいるかはオーブの行政府だって掴めていないもの」

 

 ミヤビは以前にウミトから日本の皇族は帝であると同時に、神道と言う宗教におけるシャーマンの王でもあったという話を聞いたことがある。

  

 そして日本で古代から伝わる呪いを使用できたとも。

 

(にわかに信じられないけど、これが本当だとすれば彼等が政府の追跡から逃れたのも呪術によるものなのかしら)

 

 再構成戦争から100年、彼等は世間から身を隠していったい何を企んでいるのか?

 

 それを考えるとミヤビの背に冷たいモノが奔る。

 

「おそらくだけど、それは海外の日系人も同じなのよ。つまり、サクヤは現在確認できる唯一の皇族という事になるわ」

 

「それは……彼等の目が厳しくなるのも当然ですな」

 

「そこに来て去年に大西洋連邦が出したスキャンダルでしょ。養子であるカガリが家督を継ぎ、ウズミ様の実子であるサクヤは監禁状態。世間的からはさぞ冷遇されているように見えるでしょうね」

 

「ですが、五大氏族の中では実子ではなく優秀な養子に家督を継がせるのは珍しくないでしょう」

 

「それが通るのはオーブの中だけの話よ。普通はね、その手の名家は何よりも血筋を絶やさない事を重視するの。養子を跡継ぎにするのは、実子が急死したりした際の最終手段。それにしたって、分家から血の繋がりのある者を選ぶのが常道よ」

 

 トダカの言葉にミヤビは令嬢らしからぬ態度で後頭部を掻く。 

 

「そういう事もあって、大西洋連邦にいる日系人の中にはサクヤを引き取ろうと画策する輩も出てきているわ。それもトヨタや三菱、住友に三井なんかの世界に名だたる大企業のトップばかり。日本の三大財閥が動いているのを見るに、彼等は本気でサクヤを自分達の象徴に担ぎ上げるつもりみたいね」

 

「終戦後、海外の日系企業や資産家から相当な額の支援金が来たと小耳に挟みましたが、まさかこの布石なのでしょうか?」

 

「可能性はゼロじゃないわね。実際、あの支援って全部サクヤ個人宛のだったもの」

 

 件の資金援助はウズミが爆破したマスドライバー『カグヤ』を再建して余りある程の額だった。

 

 サクヤが皇族の末裔である事を加味しても、まともじゃない程の大金だ。

 

 しかし、あの金がサクヤを手中に収めるための布石だったとすれば話は変わってくる。

 

 五大氏族の娘を引き取る……いや、皇族をお迎えするには、その為に支度金にも箔という物が必要だからだ。

 

「それが本当なら厄介な話ですが、そんな事が本当に可能なのですか?」 

 

「サクヤはまだ未成年だから財閥の一族が養子にするなり、それがダメならその一族と婚約させるなり、やり様はあるでしょうね。断ろうにも、あの莫大な金が足かせになる。まあ、サクヤは応じないでしょうけど」

 

 そう告げたものの、ミヤビはこの代行期間にサクヤが政治的に有能さを示す事を懸念している。

 

 カガリが国家元首に復職すれば、今回の事を踏まえてサクヤは再び監禁生活に戻る事になるだろう。

 

 彼女としては可愛い妹を護ろうとした行為でも、世間的に見れば有能な妹が自分の地位を脅かさない為に幽閉したようにしか見えない。

 

 そうなれば国外はもちろん、国内の日系人からも批判が出る可能性がある。

 

「サクヤの人気は国民の間でもカガリに迫るものよ、日系人には特にね。だからこそ民族特有のネットワークで内応を起こされたら目も当てられないわ」 

 

「……どう対策をすればよいのでしょう?」

 

「カガリが復帰した後も冷遇されていない事をアピールするしか思いつかないわね。ただ、あの子はサクヤが政治に関わる事を良しとしないでしょうけど」

 

「あの切腹騒ぎがトラウマになっていますからな」

 

 トダカの言葉に二人は深々とため息をつく。

 

 この件に関してはカガリは酷く頑なだ。

 

 今の話をすれば少しは考えも変わるだろうが、それも何処まで効果があるか……。

 

「とにかく、この事は頭に入れて置いてちょうだい。それとサクヤの身辺警護は増強しておいて」

 

「分かっております。セイラン家の反発や、東アジアの中華・朝鮮派閥が動く可能性がありますからな」

 

 ミヤビの言葉にトダカは頷くとお互い席を立つ。

 

 彼の勢力が再構成戦争後に日本の皇族を根絶やしにしようとしていた事は、外交に携わる者にとっては有名な話だ。

 

 ある有識者は数千年イスラエルと聖地エルサレムを求め続けたユダヤ人を例に例えて、『日本人は日本列島奪還を諦めていない。東アジアはそれを恐れて、民族の要になる皇族を狙っている』と分析している。

 

 つまり東アジアにしてもサクヤの存在は都合が悪いのだ。

 

(仕方がないとはいえ、あの子を引っ張り出したツケは重そうね) 

 

 内心で深いため息をつきながら二人は応接室を後にするのだった。

 

 

◆

 

 

 姉様がとっても心配な国家主席代行11歳です。

 

 フリーダムとアークエンジェルのテロリスト認定から2日が経ちました。

 

 軍の方々も話を切り出した時は難色を示す人も何人かいましたが、他国の戦闘に武力介入を行うという暴挙を説明すると彼等も納得してくれました。

 

「……セイラン家がマフィアと連絡を取っていた、ですか。その組織も翌日には壊滅しているのですね。警察が動いたのですか?」

 

「いいえ。地元ヤクザにカチコミを掛けられて全滅したそうです」

 

「なるほど」

 

 護衛に付いてくださっているアマギ一尉の言葉に私は納得の声を上げます。

 

 意外と思われるかもしれませんが、オーブの裏社会を牛耳っているのは極道組織だったりします。

 

 こちらに流れてきた日本からの移民の中にそういった人たちがいたのでしょう、彼等はオーブ建国の際に未熟だった現地の裏社会へ手を伸ばしあっさりと掌握してしまったのです。

 

 ただ、国にとって幸いだったのは彼等が暴力団ではなく任侠に近い人々だった事でしょう。

 

 薬物の取引や人身売買など治安を脅かすような犯罪には手を染める事無く、店への用心棒代やお祭りなどの屋台出店やその仕切り、他にも建設業の会社を立ち上げて運営するなど真っ当に近い手段で生計を立ててくれています。

 

 そのため警察は公的機関も過度に彼等を締め付ける事はなく、司法の目が入りにくい裏社会の治安維持を担う形になっているのです。

 

 2年前の敗戦時も無法者による被害が出なかったのも、彼等が率先して自警団を組織してくれたからだと聞きます。

 

 そんな彼等から襲撃を受けたとなると、件のマフィア達も悪どい事を考えていたのでしょう。

 

 極道の人達はそういった事が大嫌いですから。

 

「警察にはセイランがマフィアと何を企んでいたのか、突き止めるように連絡をお願いします」 

 

「わかりました」

 

 可能性としてあり得るのは私の暗殺とか大西洋連邦への高跳びとか、ロクでもない企みなのでしょう。 

 

 私が代表代行になって日が浅いとはいえ、ウナト氏は下級氏族時代から政治に関わってきた老獪な男。

 

 その危険に対する嗅覚は侮れません。

 

 彼等がこちらを揺さぶる一手を繰り出す前に、身柄を拘束するに足る証拠を押さえなければなりません。

 

 積み重なる厄介事に零れそうになる溜息を我慢した時でした。

 

「これは……?」

 

 首長席にある直通回線が着信を伝えているではありませんか。

 

 相手先を見てみると、そこに書かれているのは『A』というただ一文字のみ。

 

「いったい誰なのでしょうか?」

 

 私は首を傾げながらも通信機の応答ボタンを押します。

 

 仮にも国家代表の直通回線を知っているのです、不審者や賊の類ではないでしょう。

 

 ですが通信画面に映った光景は、私のそんな甘い認識を嘲笑うものでした。

 

 戦艦のブリッジと思われる背景に、何故かオーブの軍服を着て立つ栗色の髪と紫紺の瞳が特徴の青年。

 

 その後ろには艦長席に付いている長い茶髪が特徴の妙齢な女性も見えます。

 

 前方の殿方は私も知っています。

 

 キラ・ヤマト氏。

 

 以前、姉様に紹介されたフリーダムのパイロット。

 

 つまり、今を時めくテロリスト様です。

 

『あの……』

 

「失礼」

 

 私は彼が口を開く前に通信を切りました。

 

 そのまま流れるような動きで内線放送に手を伸ばすと、全館と書かれたボタンに指を掛けます。、

 

「サクヤ代表代行から各省庁責任者に申し上げます。至急首長執務室へ来てください。繰り返します。サクヤ代表代行から各省庁責任者へ。至急首長執務室へ来てください」

 

「さ…サクヤ様」

 

「想定外の事態ですので、一度皆様と相談いたします」

 

 アマギ一尉へ笑顔で答えると、何故か彼は顔を引きつらせました。

 

「……つまり終戦後に何かあった場合を考えて、姉様が彼等に直通回線の番号を教えていたという事ですね」

 

「ええ、そうです」

 

 アレックス氏が着任するまで姉様の専属武官であったレドニル・キサカ一佐の言葉に私は頭を抱えたくなりました。

 

 当時は姉様もこんな事になるなんて考えていなかったのですから責めるのは筋違いでしょう。

 

 それでもタイミングが悪すぎます。

 

「まったく、どうすればいいのかしらね」

 

「ここは無視するのが正解なのでは?」

 

「ええ。すでに我等はアークエンジェルをテロリストと定めたのです」

 

「テロリストとは如何なる交渉もしない。これは国際常識です」

 

 ミヤビ姉様のため息交じりの言葉に応じたのはアマギ一尉や軍の方々です。

 

 実際、フリーダムが姉様を拉致した事で軍部の面子は丸潰れですからね。

 

 恨みがあるのは当然と言えましょう。

 

「とはいえ、彼等にはカガリ様と繋がりがあるという厄介な手札がありますからな。無視された腹いせにと妙な事を喧伝されてはオーブの国際的な信用が揺らいでしまう」

 

「例の武力介入騒ぎが我々の差し金などと言われては、連合とザフトを相手に二面戦争をする羽目になりかねない。そんな事になっては最悪だ!」

 

 そんな軍関係者の方々の弁に異を唱えたのは外務省や経産省の次官たちです。

 

 たしかに、彼等の言う事態はオーブが最も避けなくてはならないものです。

 

「彼等はテロリスト認定に関して物申したいのでしょう。正直、無視したいところですが自棄を起こされても困ります。対応するしかありません」

 

 本当に頭の痛い話ですが、嘆いたところで何かが変わるものでも無し。

 

「よろしいのですか?」

 

「はい。もちろん、彼等の要求は一切聞くつもりはありませんよ。こちらも彼等にはたっぷりと迷惑を掛けられているのです。停戦を目的にしているようなので、世の中の常識はどうなっていて、自分達の行動がどれだけ周りに迷惑を掛けているかを懇切丁寧に説明して差し上げましょう。皆さま、この通信に立ち会っていただけますか?」 

 

 私の問いかけに首を横に振る方はいませんでした。 

 

 そうして一度深呼吸を行うと、私は未だ点滅を続けるボタンを押しました。

 

『あ……』

 

 無視されると思っていたのでしょうか、再び繋がった通信に安堵の息を吐くヤマト氏

 

 そんな彼に、居並ぶ官僚の皆様を背に私は笑みを浮かべます。

 

「先ほどは失礼しました。それでオーブに掛けた迷惑の数々、どのように弁明されるのでしょうか。──キラ・ヤマト氏、そしてアークエンジェルの皆様?」

 

 

 

 

 

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