「ぬぅ…情報、ナイ…」
ヌヴィレットに遭遇してから数日、今日も今日とて夜の中を歩き回っているが、まったくもって見つかる気配がない。もしかして貴族にもう引き取られた?そうなったら本格的に私一人じゃ難しくなってくるぞ…?
「うーん、どうしたものかしら…」
ヌヴィレットだけを頼りにするわけにもいかないし、いっそのことカーレスたちに手伝ってもらうか?でも確たる証拠がない以上、下手に話すわけにもいかないし…。だが時間も無限にあるわけじゃない。リネットが貴族間で取引されたらそれこそゲームオーバー、収拾がつかなくなる。
くそっ、意識して人を探すのがこんなに難しいだなんて思わなかった。フォンテーヌに来たばかりの私じゃ人脈も情報も足りなさすぎる…。
「おやおや?君、そんな思いつめた顔をしてどうしたんだい?」
そう一人で思い悩みながら夜の街を歩いていると、声をかけられた。
「ん?この声は…」
高貴さ、優雅さ、自信。それらに満ち溢れた声の主はこの国に一人しかいない。「正義」の国・フォンテーヌ、その国を統べる神であり民衆たちの大スター。
「僕のいるこの国で、そんな顔は似合わない。せっかくだ、僕が君の悩みを直々に聞いてあげるとしよう。光栄に思うがいい!」
水神…フリーナ・ドゥ・フォンテーヌだった。
(し、しまったああ!少し夜の散歩をしていただけなのに、気づいたら話しかけてしまっていた!)
内心そう思いながらも、僕は話しかけた女性を先導する。だ、だって、あんな思いつめた顔をされたら気になってしまうじゃないか!いくら水神として地位の高い僕でも、あのような沈んだ顔の女性を放っておくわけにはいかないだろう!?
そうしてやがて、人目のつかないベンチに腰掛ける。もし万が一他の人に目撃されて、僕が一般人と一対一で話しているとなれば騒ぎになるかもしれないからな!
「ふふん、まずは君の名前を聞いておこうか」
「えっと…私はフォーリアといいます」
「フォーリアか、うむ、覚えたとも。無論、僕の自己紹介は不要だろう?何せ、このフォンテーヌの神なのだから!」
「もちろん存じておりますよ、フリーナ様」
しかし、このような突発的状況でも演技を崩さない。流石僕、積み重なった演技力は伊達ではないってことさ!そう、
──その先に何があるのか分からないとしても…
「フリーナ様?」
「…あ、ああ!すまない」
おっと、どうやら少し自分の世界に入りすぎてたみたいだ。いけないいけない、会話相手をおろそかにしてしまうなど淑女としてあるまじき行為だ。
「それで?君は何を悩んでいるんだい?」
「その、よいのですか?フリーナ様と話すために何カ月も待っている民などいくらでもいるでしょうに」
「僕だって、困っている人を見て見ぬふりをするほど薄情者じゃないさ。それとも君は、僕の善意をないがしろにしたいのかい?」
「いえ、そういうわけでは…」
フォーリア、僕を前にしてあまり動じていないな。僕と話せるとなれば、フォンテーヌ人なら舞い上がるほど喜んだり、興奮を隠せないといった表情を浮かべるのに、彼女は先ほどとあまり表情が変わっていない。
「遠慮はいらない。さあ!」
「そ、それでは…お言葉に甘えて…」
そうして、彼女は話し始めた。
「…最近、人探しが難航しているんです」
「ほう、人探し…人探し?」
「はい」
あれ、思ったよりも深刻っぽいぞ?なんかもっとこう、人間関係とか仕事関係とかそういう類だと思っていたのに、人探しとなっては僕でも何をアドバイスできるか分からないぞ…?いや落ち着けフリーナ。ここは演技を崩さず、まず誰を探しているのかを聞き出すんだ。
「えっと…フォーリアは誰を探しているのかな?」
「それが…孤児でして」
「こ、孤児?」
「実は私、サーンドル河で暮らしていまして」
ええっ!?サーンドル河ってあの治安が悪いで有名なところじゃないか!服装もしっかりとした黒服だし、あまりそうは見えないけれど…。しかし女性がそんなところで暮らしていても大丈夫なのだろうか?
「あ、私こう見えても腕っぷしはあるので心配は無用ですよ」
そんな僕の心配を表情から察したのか、フォーリアは二の腕で力こぶを作りながらこちらに笑いかける。こんな優しそうな女性が、本当だろうか…?
だが、このままでは脱線しすぎてしまうので、一旦話を本筋に戻すことにしよう。
「そうか…それで、どうして孤児を?」
「以前から見かけていた孤児をめっきり見かけなくなったんです。その子たちのことがどうしても頭から離れなくて…」
「…それってつまり、孤児たちをすでに引き取った者がいるということじゃないのかい?」
「いやまあ、それはそうかもしれないですけど…不安が拭い切れないんです。連続少女失踪事件なんて物騒な事件があるくらいですし」
うーん、まあ確かに彼女の言うことにも一理ある。それに、そういう予感は案外当たってしまうものだ。これに関しては物語の中だけの話じゃなく、それが審判の決定打となる瞬間を実際にこの目で何度か見てきた。
「だが、だとしても、一人であてもなく孤児を探し続けるというのは酷な話じゃないのか…?なぜそこまでして…」
「単に、私がそういう性分なだけですよ。それに、確証のないものに知り合いを巻き込むわけにもいきませんから」
「あっ…」
ああ、そうか。彼女も同じなんだ。自分がやるしかない、そう思ったらとことん自分一人で突き進んでしまうタイプなんだ。だからかもしれない、思わず僕が彼女に話しかけてしまったのは。でも、僕と彼女とでは決定的に違う点がある。
「…君の友人は、相談しても君のことを信じてくれないようなやつらばかりなのかい?」
「え?」
僕はベンチから立ち上がり、数歩前に出る。月明かりが静かに僕を照らす。
「その服装、よく見れば「棘薔薇の会」の服だろう?報告書で見たことがある。その一味なら、彼らを頼れば一人で探すよりずっと楽だ」
「で、でも…」
「人間何でも一人で解決できるわけじゃないだろう?時には誰かを頼るということも大切だぞ?」
そうだ、君は僕と違って誰かを頼ることが出来る。君には悩みを話せる仲間がいる。君を理解してくれる仲間がいる。いつまでも一人で思い悩むものじゃない。人は人と手をつなぎ、助け合うことが出来るのだから。
そんな僕の言葉に、フォーリアははっとしたような表情を浮かべる。
「それも…そうかもしれませんね」
「悩みは晴れたかい?そろそろいい時間だし、僕はこれにて失礼するよ」
僕には、そのような存在はいない。いや、作ってはいけない。僕が神でないことは誰にも知られてはいけない。僕を真の意味で理解してくれる存在など…
「フリーナっ!」
「ん?」
その場を立ち去ろうとした僕を、彼女は呼び止めた。
やべ、背中が寂しそうで思わず呼び止めちゃった…さらっと呼び捨てにしちゃったし。いや、成り行きとはいえ私だけ話を聞いてもらったっていうのもあれだし…でも天理を欺く計画を知ってますなんて言うわけにもいかないし…。
「あー、えと、その…また、こうして話しませんか?もちろん、今度は他愛もないお話を」
「…?」
「あっ!私のわがままなので、別に無理に来なくてm「分かった」…え?」
「何を驚いているんだい?君が提案したんだろう?」
えっと、それはそうなんだけど、そんな食い気味に返事が来るとは思わなくてですね。友人として接して少しでも苦悩を和らげてあげようとかいう浅はかな考えでございましてね?
そんな呆然としている私に対して、フリーナはあっ、と何かに気づいたように頬を赤らめた。
「か、勘違いするなよっ!僕はあくまでも君の提案に乗っただけだからな!?」
「…ええ、分かっていますよ。ではまた、いつかの夜にお会いしましょう」
そうしてその夜から、数日に一度の夜、密かにフリーナと会うことになった。
お労わしやフリーナ…せめてその道中だけでも孤独を和らげるんだぁ!フォーリアは割と行き当たりばったりで行動しているので計画性が無いです。今回も偶然の出会いとはいえ、呼び止めた理由は後付けですし。
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