俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
1話 名字が田中になる。
「もう魔王との最終決戦目前なのに、いまだにスライムも倒せないって……いい加減にしてくれよ。みんな、お前には迷惑してんだよ」
冒険者ギルドの一角で、猛田《たけだ》が、俺の胸倉をつかんで凄んできた。
とめてくれたのは、いつも通り、暁宮《あけみや》ジュリアだった。
「やめろ。トウシが弱いのはトウシのせいじゃない。いくらなんでもスキルが酷すぎた。あれでは何もできない」
「……なんで、いつもそんな雑魚をかばうんだ。俺はお前らのために言ってやってんのに。大事にすべきは最強の剣士である俺だろ」
★
……俺たち時空ヶ丘《じくうがおか》学園2年B組は、
半年前、突然のクラス転移に巻き込まれた。
気づけば目の前には女神を名乗る存在がいて、
「魔王を倒し、この世界の危機を救ってほしいのです」
ありがちな展開に、クラス中がどよめいたのを覚えている。
「皆さんには一つずつ、強力なスキルを授けます」
みんなは確かに凄まじいチートスキルをもらった。
しかし、俺が得たスキルは――
『名字が田中になる』(効果:スキル使用中は近くに田中姓の人間がいると、『同じ苗字の人がいる!』とちょっと嬉しくなって、少しだけ元気を分けてもらえる)
俺の本名は『砦《とりで》トウシ』だが、
スキルを使っている間は『田中トウシ』になる。
……ふざけやがって……
うちのクラスに田中姓は『田中ユウト』くん一人だけ。
異世界だから他に田中姓はいない。
田中ユウトくんが近くにいるときにスキルを使うと、確かに、若干元気になれたが……
だから何だってんだ……
「は? スキルのデメリットで『レベルが上がらない』? なんで、メリットゼロなのに、デメリットだけそんなに重てぇんだ」
「それは俺のせいじゃ――」
「いい加減にしてくれよ……マジで、足ばっかり引っ張りやがって!」
猛田はイライラが限界に達したようで、俺の顔面を思いっきりぶん殴った。
女神をぶん殴れよ、と思った。
★
みんな、必死に魔王軍と戦って、
軒並みレベルが100を超えた。
俺だけが、ずっとレベル5のまま。
「おい、雑用。これも洗っておけ」
戦えない俺は、荷物運び、食事、洗濯、アイテム管理、
戦闘中は後方からポーションを配り、みんなに声をかける、
……などなど『その他全ての雑用係』として、
朝から晩まで働き通しだった。
「洗濯か、私も手伝おう」
「あ、だめだめ。ジュリアに手伝わせたことがばれたら、あとで猛田に殴られる」
「あのバカが……大事な味方への暴力はやめろと何度も注意しているのに……」
「いいんだ。ありがとう。気持ちはすごく嬉しい。おかげで、俺は今日も生きていられる」
★
野宿の時は夜襲にそなえ、一晩中見張りをした。
毒沼を越えた夜には、全員分の泥まみれの装備を慎重に洗った。
できる雑用は全部やった。
……異世界の生活は大変だったが、
幸い、俺のクラスメイトは全員が英雄級だったので……
〔グォオオ! マサカ……コノ私ガ……〕
わりと早めに魔王を倒すことに成功した。
俺は、最後の最後まで後ろから見ているだけだった。
「よっしゃぁああああ!!」
「これで終わり? 帰れる?」
クラス中が沸き立つ中、俺は、ジュリアに、
「ありがとう……ずっと、ずっと助けてくれて。魔王戦の時だって、俺の盾になって大ケガを――」
「当たり前のことをしただけだ。君はサポートとして頑張ってくれた。こちらこそ感謝している」
「ありがとう……ありが……とう」
★
俺たちは無事、日本へ帰還した。
普通なら、それで『めでたし、めでたし』だろうが……
――日本には、モンスターだらけの『巨大な地下迷宮《ダンジョン》』が出現していた。
そして、腕っぷしに自信のある連中が、こぞってそのダンジョンに挑戦し、その様子を配信することで結構な収益を得ていた。
「これさ……俺ら、めちゃくちゃ金儲けできるんじゃね?」
「ダンジョン配信者やっちゃう?」
その一言に、クラスメイト全員が乗った。
みんな、異世界で磨いた力をフルに使い、
ダンジョンを攻略し、その様子を配信して、
大金と名声を手にしていく。
「地球のダンジョン配信者って、最強のやつでもレベル30?」
「よっわ。ランクCのモンスターに苦労するとか」
「私たちならSでも余裕だよね」
文字通りレベルが違うジュリア達の無双ぶりに、コメント欄は大いに沸いた。
『すげぇ! ベヒモス一撃?!』
『一流の配信者30人で挑む敵だぞ?!』
『12:34 ベヒモス瞬殺』
『こいつら、何者?!』
初配信で同接3000を記録し、
クリップがSNSで拡散されると、
――翌日の配信では同接10万を超えた。
『みんな強すぎ!!』
『ドリームチーム! 奇跡の世代!』
『猛田くん、かっこいい』
『ジュリア様、美しすぎるだろ!』
『マジで、なんなんだ、お前ら!!』
みんな、一躍、時の人。
たった数日で、俺以外のクラスメイト全員がスターダムの最上段まで駆け上がった。
政府の偉い人とかも、こぞって、ジュリアたちにすり寄った。
歌手とか俳優とかアスリートとかも、猛田やジュリアにサインを求めた。
……俺は、異世界の時と同じく、雑用係を担っていた。
少しでもジュリアの役に立ちたかったから。
一応、俺も配信しているのだが、同接は20人ぐらい。
おまけに、
『お前みたいな金魚のフン、いらないんだけど』
『猛田君の邪魔』
『ジュリア様に近づくな』
『どこにでもいるよな、落ちこぼれって』
『せっかくのドリームチームを穢すな』
……などとコメントでバカにされる毎日。
みんなは毎日、数百万~数千万円単位で稼いでいるけど、俺は収益化の申請すら通らない。
そんなある日のこと。
ダンジョン探索中、
「――ん? おい! トウシ!! 危ない!」
ジュリアが叫んだと思った時には遅かった。
足元の地面が、光の紋様を描いて浮かび上がる。
俺は、転移の罠を踏んでいた。
「あ、やばいよ、これ……」
解析系のスキルを持つクラスメイト『田中ユウト』くんが、
エアウィンドウを覗き込みながら呟く。
猛田が鼻で笑って、
「放っておけよ。いまだに『スキルⅡ』にも進化してないゴミが死のうが、どうでも……っと、今、配信してねぇよな? あぶねぇ……俺が冷たい人間だって誤解されるところだった」
視界が、白く塗りつぶされていく。
★
気づいた時、俺は変な空間にいた。
目の前には玉座があり、
――そこには、『えげつないオーラを放つ美女』が座っていた。
燃えるような紅い瞳、透き通るような白い肌。
艶やかな黄金の髪は、まるで陽光そのものを紡いだかのように玉座の下まで流れ落ちている。
ただ座っているだけなのに、その場の空気ごと支配しているような、圧倒的な存在感があった。
「ぁ、ぁ……あなたは、まさか……このダンジョンの魔王……とか……?」
「その通り」
「……ま、まじかよ……」
声が震える。
逃げ場はどこにもなかった。
「困難を乗り越え、ダンジョンの最奥にたどり着いた誉れ高き賢者よ。あなたに世界の真実を教えよう」
いや、困難もクソも……
俺、ワナにかかっただけなんだけど……
その後、なんか色々と説明を受けた。
無駄に壮大で、頭に入りきらないほどの情報量だった。
――要約すると以下の二点。
・このダンジョンの支配者である彼女のレベルは1000以上。
・10日後、異世界から、彼女より強い侵略者の軍勢がくる。負ければ世界は滅びる。
「それでは戦いを始めよう。私に勝利すれば、あなたは私の全てを得ることができる。それは侵略者に対する大きな力となろう」
答える暇もなかった。
「うわうわうわ、ちょ、待っ――」
振り下ろされた一撃を、ギリギリかわした、
――つもりだったが、かすってしまう。
それだけで致命傷を負った。
「ぎゃあああああああ!!」
……俺はどんだけ弱いんだ。
「う……あ……」
視界が霞んでいく。
ああ、これが死ぬということか、
と、他人事のように思った。
死に際に思ったのは、たった一つだけ。
「……せ、せめて、ジュリアに恩返しがしたかった……な……」
意識を失いかけたとき、ふと思う。
「……このままだと、俺だけじゃなく、彼女だって死ぬんじゃ……」
この魔王は強すぎる。
……異世界での思い出はゴミばかりだけど、
ジュリアがずっと助けてくれたことだけは宝物。
俺はマジで何の役にも立たなかったのに……
彼女だって、危険だらけの異世界に飛ばされて心細かっただろうに、
いつも、彼女は、『猛田』や『他のモンスター』から俺をかばってくれた。
後ろで震えているだけだった俺の盾になって、大ケガを負ったことさえ……
「……こ、このまま死ぬわけには……いかねぇだろ……」
薄れゆく意識の中、俺は立ち上がる。
膝がガクガクしている。
それでも、立った。
自分でも不思議だったよ。
「……俺はまだ何も返せていない。何かできないか……何か……何かぁ!」
その時、俺の中で何かが弾けた。
声が聞こえる。
世界の声。
《――致命傷を受けたことで、田中スキルⅡ『田中玉』が解放されました》
効果「世界中の田中から強制的に少しずつ元気を分けてもらってエネルギーの玉をつくれる」
《現在接続可能な田中:128万7677名》