俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
8話 トウシの実力がバレた!
背筋を、冷たい汗が伝った。
田中玉を使っているところが……バレた。
もちろん、動画はすぐに削除したけど……
震える指でスマホを操作し、SNSを調べてみる。
案の定――俺の『田中玉』が、トレンド入りしていた。
「……最悪だ……」
すでに動画は何百本単位で切り抜かれ、山ほど拡散されていた。
その中のひとつを、恐る恐る再生してみる。
画面の中で、俺が手を突き出しながら、
『田中玉ぁあああああ!!』
と絶叫している。
わぁ……
「――マジかぁ……」
思わず声が漏れた。
コメント欄が異常な速度で流れていく……
『猛田やジュリアでも勝てない鬼をワンパンって……どういうこと?』
『もしかして、この金魚の糞、めっちゃ強いの?』
『実は陰の実力者だったり?』
『力を隠していたパターンね』
『なんで隠してたんだ?』
『てか、それより指揮だろ。すごすぎるって。こいつ、頭どうなってんの?!』
ざわつきは、そこで止まらなかった。
スクロールするごとに、話は妙な方向へと膨らんでいく。
『てか、あの鬼が弱かったんじゃね?』
『それはないだろ』
『可能性はゼロじゃない』
『猛田もジュリアも実際、大したことないんじゃないか?』
『今までのは、全部やらせだったとか?』
『お前らバカか。ダンジョンのモンスター、ナメんな。俺も配信者だから、わかる。モンスターはバカ強いし、猛田やジュリアはマジ、鬼神だから』
『そんな二人でも倒せない鬼をワンパンってことは……やっぱ、砦、エグい?』
『まず、大事なのは天才的な指揮だって……田中玉とかどうでもいい』
――そして、極めつけがこれだった。
『ジュリア嫌いだったから、この展開、メシウマ。顔がいいだけのチーターが調子乗るな。ここからは天才軍師にして最強の力を持つ砦の時代!』
その一文を読んだ瞬間、サァっと血が冷たくなった。
「ジュリアは……異世界で……誰も死なさなかったんだぞ……」
絞り出すように、そう呟く。
「……クラスメイト20人以上全員を……誰も死なさずに守り切ったんだ……それが……どれだけ凄いことか……」
ワナワナと、体が震える。
怒りで爆発しそうだったが、
しかし、
「すぅ……はぁ……」
深く息を吸って、吐く。
(……落ち着け)
スマホの画面に映る、荒れコメント欄を睨みつけながら、俺は必死に頭を巡らせた。
……そして決意する。
「ここから先、俺は侵略者どもからこの世界を守る……その全てを……ジュリアの功績にしてやる」
★
俺の田中玉動画が凶悪にバズったことで、
ダンジョンポイントをさらに10億近く稼ぐことができた。
……どんだけバズってんだ……
『強すぎだろ、田中玉』
『私はもともと砦がすごいって思ってたよ。目が違うもん』
『このレベルの指示だしはマジで無理。こいつ天才』
『将棋やらせたら、名人に勝つんじゃない?』
『こっから先、砦が全部、敵を倒すのかな?』
『荷物持ちの成り上がりって感じでおもろいやん』
『砦、スゲェエエエエエエエ!』
『この先、ずっと砦のターン』
『この世界で一番強く賢い怪物……それが砦トウシ!!』
ちょっとだけ調べたところ、
切り抜き、転載、リアクション動画。
その全てがバズりまくっている……
おかげで、新しいNPCを創造することができる。
「いでよ、田中ゲムゥシャ! そしてシモベになりたまえ」
専用のセリフを口にした瞬間、足元に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
中から現れたのは、ドロドロと蠢《うごめ》く粘液《ねんえき》の塊だった。
擬態を得意とする『グレータースライム』をベースに創造した配下。
うようよと体を波打たせたかと思うと、数秒のうちに、ジュリアそっくりの姿へと擬態を完了させる。
ゲムゥシャは、俺の足元に傅《かしず》いて、
「――なんなりとご命令を。偉大な王よ。あなた様に私の全てを捧げます」
「君はジュリアの影武者だ。君が敵を倒すところを配信し、世界中にジュリアの凄さを理解させたい」
「かしこまりました」
と、そこで、ロキが、
「旦那様」
「なんだ?」
「敵大将は、あなた様しか倒せないと思われますが……」
「……ああ、そうか。そういう問題もあるな……」
相手のレベル的に、ゲムゥシャじゃ厳しい……
「まだ時間はあるんだ……その辺も色々と考えるか」
「どうあがいても、あなた様以外では無理だと思いますが……」
『砦の采配、マジでえぐいって。これ、みんなわかんないの?』
『田中玉とか、ただの魔法だろ。それよりこいつの頭の凄さ、みんなわかって』
『天才すぎる』
『田中玉最強ぉ!』
『猛田がゴミに思える』
――異世界侵略部隊が来るまで、あと9日。