俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
サイド ロキ視点。
偉大な王が誕生した。
これで、もう、この世界は安泰《あんたい》だろう。
私の名前は田中ロキ。
この世でもっとも強き王の妻である。
誰も私の旦那様には敵わない。
――砦トウシ様は究極の生命体。
超越的な頭脳と、無限に進化する最強スキル。
異世界のどんな怪物がやってこようと、旦那様を倒すことは絶対にできない。
旦那様は、暁宮ジュリアを目立たせたいようだが……それは叶わないだろう。
ハッキリ言って、この世界の危機を救えるのは旦那様だけだ。
民衆は愚かだが……しかし、旦那様の偉大さがわからないほど馬鹿ではない。
いずれ、この世の全員が気づくだろう。
全世界の頂点は、旦那様だけの指定席だということに。
★
――玉座の間は、いつも通り静かだった。
「ロキ……」
旦那様が創造なさった配下『田中ジャンヌダルク』が声をかけてきた。
創造されて以降、彼女は、旦那様の命令で、
地下18階層の『鍛錬世界』にこもり、ずっと訓練をしていた。
顔には、うっすらと汗の跡が残っている。
「王はどこに?」
「ゲムゥシャを創造なさった後は、地上に戻られた。再生数を稼ぐための方法を考えるとおっしゃっていたよ」
「ゲムゥシャ……そこにいる派手な女か」
ジャンヌダルクは、壁際に視線をむける。
そこでは、腕組みして壁にもたれかかっているゲムゥシャがいた。
ゲムゥシャはグレータースライムで、旦那様と暁宮ジュリアの姿に擬態することが可能。
現在は、『独自の形態』になっている。
盛られたピンク髪に褐色の肌、派手なメイクで、露出の多い恰好。
気だるげな立ち姿は上級配下にふさわしいとは言えない。
旦那様は、ゲムゥシャを創造する際、『能力』以外はランダムで決めたとおっしゃっていた。
旦那様にはなんの責任もないが……できれば、もっと気品のある姿で産まれてきてほしかった。
……ゲムゥシャは、ジャンヌダルクに視線を向けて、
「はじめまして……ウチは田中ゲムゥシャ。あんたと同列の存在」
「後輩だろう。あたしの方が先に創造された」
「立場は同じはずだけれど?」
二人の間に、ピリッとした空気が走る。
バチバチしあう二人に、
私は、こめかみを軽く押さえながら、
「配下同士で無意味に争わないでほしいのだけれど」
そう声をかけると、ジャンヌダルクが、
「争ってなどいない。ただ、先に創造されたのはあたしだと事実を述べたまで」
その言葉を、ゲムゥシャは鼻で笑い、
「チュートリアルのお試しで創造されただけのタンクでしょ。ウチは違う。栄誉ある影武者として生み出された。偉大な王の中ではウチの方が価値は高い」
そこで私は、ちょっとキレて、
「それ以上、無駄に言い争うのであれば、尊き王に、貴様らの『創りなおし』を進言す」
本気でしかりつけると、
二人も視線をそらして押し黙った。
レベルで言えば、私たちは同列だが、
正式な王の妻である私の権限は彼女たちより上。
と、そこで、
空気が、ふわりと揺れた。
輝かしい気配。
この世で最も偉大な御方のオーラ――
「あ、そろってたんだ。おつかれ」
旦那様が玉座の間に転移してきた。
ダンジョン魔王である旦那様は、自由にダンジョン内を移動できる。
『上級配下』である私たちもそれは同じ。
――私たちは三人揃って膝をつく。
「旦那様、どうなさいました?」
「ウケている動画の内容をもっと精査したくなってね。……全チャンネルに接続できる力が玉座の間限定なの、ダルいわぁ」
そう言いながら、旦那様は玉座に腰を下ろし、目の前に何十枚ものエアウィンドウを展開させた。
「弱いヤツが強いやつに挑む……ってのが、なんだかんだ結局伸びるんだよなぁ……あと、かわいいモフモフモンスターを使役するとか……あと、くたびれたオッサンが頑張っているところか……あとは田舎……病気の家族……スローライフ」
美しきその横顔は、まるで世界の理《ことわり》を紐解《ひもと》く賢者のようだった。
「山ほどの情報を一目で読み取る、その卓越した観察眼……おみそれしました」
「タグのランキングを分析しているだけなんだが……まあ、いいや」
旦那様は、軽く肩をすくめてそう仰って、
またすぐ、解析作業に入られた。
旦那様は、卓越した技能を有していながら、しかし、異常に自己評価が低くあらせられる。
私たちが傅いて、旦那様を見つめていると、
「いや、見てなくていいよ。それぞれ、好きなことをしてて」
「よろしければ、ご命令を」
「命令……えっと、じゃあ、3人とも、鍛錬世界で腕を磨いてきて。レベルは、ダンジョンポイントでしか上がらないけど、戦闘技術なら18階層で上がるんでしょ?」
「かしこまりました。それでは行ってまいります」
私たちは深く頭を下げ、その場を後にする。
鍛錬世界へと向かう通路を歩きながら、ジャンヌダルクが、ぽつりと呟いた。
「……王は、いつもああやって、ずっと働いておられる。ダンジョン魔王になって以降、一度も休まれていないのでは?」
「1~2時間の仮眠はしているようだけれど。もともとショートスリーパー体質らしくて、異世界を旅していた時も、一晩中見張りができていたとか」
「この銀河で最も偉大な王に見張りをさせるとは……王のクラスメイトは、どいつもこいつもバカばかりか。特に猛田とかいう、とんでもないクソバカは万死に値する」
ジャンヌダルクの言葉に、私も同意する。
ゲムゥシャもイラついているのか、目が血走っていた。
そこで、私は、
「どれだけ理不尽な目に遭おうと、どれだけの困難を前にしようと、決して折れることなく、解決策を見つけようと努力なさる」
旦那様の雄姿を思い出しながら、ぽつりと、
「あれぞまさしく王の姿。我々は、偉大な王に恥じない結果と忠誠心を示さねばならない」
この世界で最大の評価を受けるべきは旦那様だ。
決して、暁宮ジュリアではない。