俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
9話 不本意にバズった翌日。
翌日の朝。
ダンジョン前にはもうみんな、集まっていた。
朝日が高層ビルの隙間から差し込み、集合した二十数人の影が、アスファルトの上に長く伸びている。
みんな、昨日の『死ぬほどバズった動画』のチェックをしていた。
「田中玉、派手だねぇ」
「名前はどうかと思うけどなぁ」
「強いんだけどねぇ……名前がねぇ……」
クラスメイトたちのスマホから漏れ聞こえる声に、俺は思わず耳を塞ぎたくなる。
勘弁してくれ……
ジュリアが俺を見つけて声をかけてくる。
「昨日は助かった。いつものことだが、トウシは本当に頼りになる。ところで、切り抜きで見たんだが、あの田中玉というのは?」
「ああ、えっと……あの瞬間、突然スキルⅡが覚醒したんだ」
「やはりそうか。みんな、そうじゃないかと噂していたんだ」
ちらっと、クラスメイトに視線を向けると、にやにやしながら、こっちを見ていた。
ギャルの対見《ついみ》が、『鬼を倒してくれてありがとう、田中玉くん』とあおってきた。
殺す。
ジュリアがまっすぐな目で、
「あのスキル、すさまじい威力だな。まさか、SSの鬼を一撃で倒すとは……」
その表情を見ていると、なんだか、こそばゆい気持ちになる。
そこで、猛田が、ずかずかと割り込んできた。
「ジュリア! なんで、てめぇまで、バカ視聴者共と同じコト言ってんだ。あの鬼は、俺達に削られて瀕死だった! 砦は、トドメをかっさらっただけだろ!」
いや、わずかにでもダメージを与えたのはジュリアで、お前は腕折られただけだろ……
と思ったが、言い返すと面倒なので黙っておく。
猛田が相手だと、みんな、こうなる。
マジで相手するのが面倒くさいスーパーメンヘラだからな、猛田って。
「動画を見たが、あの田中玉とかいうダセぇ技は、ようするに、『坂田』のスキルⅡ『豪魔弾』の劣化だろ。ああ、イラつくぜぇ……砦はただのハイエナなのに、なんで、こんな称賛されてんだ。本来なら、俺が受けるべき喝采を……なんでぇ」
「トウシが称賛されているのは、あの技だけではない。卓越した指揮能力も――」
「うしろから全体を見てんだから、スキルを使う適切なタイミングぐらいわかんだろうが! その気になれば、俺はこいつの何倍もうまくやれるぜ!」
これが、ただの大言壮語でもないってのが、猛田の何より厄介なところなんだよなぁ……
猛田って実は成績も悪くない。
全教科満点で学年1位。
性格が終わっているだけで、運動神経も頭脳もマジで高スペックな男。
だから、悔しいけど、猛田なら、確かに、俺の何倍もうまくやれるかもなぁ……
腹立つなぁ……
世界中の田中から元気を集めようかな……
「どいつもこいつもバカばっかり……ちゃんと俺を見ろよ。本当にすげぇのは俺だろうが……くそ、くそ、くそ……ああ、もう……頭痛ぇ……なんで、睡眠薬まで飲んでんのに眠れねぇんだ……くそがぁ……」
猛田が頭を抱えながらブツブツと呟いている。
目の下のクマは、日に日に濃くなっている気がする。
薬を飲んでもダメなのか……
呪いって、そういうのも無視するんだな。
ごめんなぁ……俺の手がすべったばっかりに……
いやぁ、申し訳ない(棒)
「……つか、アンチも増えすぎなんだよ……毎日、何人も殺害予告してくんだが。顧問弁護士に頼んで、片っ端から訴えているが……無限にわきやがる……」
猛田は本気で苛立った様子でスマホの画面をスワイプしている。
――『嫌われやすくなる呪い』の効果か……
マジで、呪いをかけて以降、すごい批判の嵐なんだよぁ……
と、そこで、ジュリアが、
「猛田のバカは気にするな。あいつがどんなに頑張っても、トウシの足元にも及ばないのはみんなわかっている」
「いや、そんなことないだろ。あいつ、頭いいぞ。学年1位だし。頭の回転もはやいし、普通に根性もある」
「学年1位は、このクラスに9人いるからな。大した称号ではない」
「あれ? 9人もいたの? 5人ぐらいだと思ってたんだけど……」
ウチのクラスの連中が『軒並み優秀』ってのは知っていたけど……
……ちなみにみんな、テストだけじゃなく、
色々な分野で賞を取ったり、大会で優勝したりしてた。
だから、こいつらと一緒にいると、
いつも、ちょっとヘコむんだよなぁ……
「私とトウシとあのバカ……それと琥珀《こはく》と白鳥と田中と九条と山本と氷室……みんな全教科満点だ」
ウチのクラス、頭いいやつ多すぎ。
琥珀たち以外も、ほぼみんな、全教科満点級。
90点以下をとってるやつを見たことがない。
「いつも思うが、トウシがほかの連中と同列というのが気に入らない。もし上限がないテストをすれば、トウシがぶっちぎりで1位になるだろうに」
「ならないよ……青天井でやると、普通に琥珀か猛田が一位になると思う」
俺は苦笑いしながら答える。
と、そこで、猛田が、
「砦。ちゃんと、ポーション、もってきてんだろうなぁ」
俺の背中を蹴りながら、偉そうに言ってきた。
痛いなぁ……もう一回呪うぞ。
「ああ、うん」
「お前の役目は、ほぼそれしかねぇんだから、当然だよなぁ。ちなみに、お前の、あのダセェ玉、実際、どんぐらいの威力なんだ? ランクCのモンスターぐらいは殺せんのか?」