俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
10話 猛田のイライラが止まらない。
「――あー、クソが……頭痛ぇ……イライラする」
猛田はしばらくブツブツ言っていたかと思うと、
急に、ギロッとこっちを睨んできた。
「……砦。てめぇ、ダンジョンに入る前に、自分の口から、釈明しとけ」
「はい?」
「視聴者が誤解してんだよ。お前が『実はすごいやつで、実力を隠していた』みたいにな。むかつくから、ちゃんと否定しとけ。あの鬼を倒したのは俺で、お前はハイエナ。だましてすいませんでしたって、頭を下げろ。それがマナーだろ」
「……はいはい」
俺は素直に頷いた。
猛田相手に反論しても無駄だから。
それに、元からそうするつもりだった。
俺は自分のチャンネルを開き、配信を開始する。
……昨日の今日だから、さすがにいつもよりは人が多く来るか?
などと思っていたが、
「――うわ」
予想以上だった。
開始1分で、視聴者数が数百人を超えた。
「……こんなにくるんだ……バズってるなぁ、俺。……バズってるっていうか、気分的には炎上している感じだけど……」
困惑している間にも、どんどん数字が膨れ上がっていく。
1万、5万、10万――
気づけば、20万人を突破していた。
『田中玉!』
『田中玉!』
『田中玉!』
『かっこいいよ、田中玉!』
『いや、名前はひでぇよ、強いけどw』
『実は最強の田中玉!』
『鬼殺しの田中玉!』
コメント欄が、黒歴史で埋め尽くされていく。
もちろん、田中玉以外に関する内容もたくさんあるけど、
あまりにもキャッチーすぎる『田中玉イジリ』が無限に止まらない感じ。
思春期の男子相手に、なんてひどいことを……
人の心とかないんか……
「あー……えっと、みなさん、すいません。昨日の件で、ちょっと誤解があるみたいなので、釈明させてもらいます」
俺は、咳払いを一つ挟んでから、
「まず、昨日、鬼を倒したことについてなんですけど……あれは、俺の自慢のクラスメイトたちが、めちゃくちゃ頑張って削ってくれたからで……要するに、あの鬼は瀕死だったんですよ。俺はトドメを奪っただけのハイエナなので……」
『えぇ……そうなの?』
『でも、あの爆発、ものすごい威力に見えたけど?』
「あと、田中玉についてなんですけど。そんな大した威力じゃないです。見た目が変に派手なだけで……皆さんご存じ『坂田』の『豪魔弾』の劣化って感じです」
『確かに似てるかも』
『上位互換に見えたけどなぁ』
『なに? もしかして自分が強いのを隠したい系?』
「あと、指揮に関しても……えっと、俺、異世界にいた半年間、ずっと後ろから指示だしばっかりやってたんで、多少慣れてるだけです。うちのクラス、優秀なやつばっかりなんで、猛田とか、委員長の琥珀とかがやったら、俺よりずっとうまくできると思います」
言い終えると、コメント欄が、真っ二つに割れた。
『ほんとに? 言い訳くさくない?』
『でも、こいつら時空ヶ丘だしなぁ……』
『本人がそう言うなら、そうなんじゃね』
『なんだ、やっぱそうか。安心した』
『いやいや、あの鬼、だいぶ元気だったって』
『俺はずっと、砦がすげぇと思ってたけどな。レベル5だけど、一応、時空ヶ丘だし』
『いや、砦はレベル5のゴミ。猛田くんこそ至高』
『田中玉とかどうでもいい。こいつの頭はガチ』
『え、砦の嘘、信じるの? 明らかに、強すぎる人が、それを隠そうとするムーブじゃん』
「とりあえず、ジュリア様との関係を教えてもろて」
『バカばっかり。砦は最強。あの采配がどれだけすごいかわかってない』
『俺、将棋の奨励会員だけど、たぶん、砦が将棋をガチったら余裕で負ける。こいつの俯瞰と演算能力はやばすぎる。みんな、ちゃんと動画見ろ』
『なんか、砦ファンって変な人おおくね?』
まだ、俺に過剰な期待をする人も多少いるけど、
『田中玉最強!』の空気は薄くなったかな……
あぁ、よかった……
耐えたぁ……
「そんな感じです。お騒がせしました……それでは、そろそろ、いつものダンジョン配信をはじめます」
★
ダンジョン探索中、
「そろそろ、地下2階に行きたいよなぁ」
「何があるんだろうなぁ……」
「また、魔王とか?」
「それじゃ二番煎《にばんせん》じだろ。俺は神がいると見た」
クラスメイトたちが、そんな話をしている。
――地下2階に降りる階段は、だいぶ前に発見されている。
ただ、その階段の前を、『SS級ガーディアン』がずっと陣取っているから、誰も地下2階には進めない。
ガーディアンはレベル250で、オーガニクより強いから、誰も絶対に突破できないのだ。
ダンジョン魔王になってから、ロキに教えてもらったり、地下17階にある図書館で資料をあさったりして、このダンジョンに関する情報は、ある程度頭に入れている。
ちなみに、ダンジョン魔王となったことで、
あのガーディアンも俺の命令を聞くようにはなっている。
名称も変更できたので『田中ガードナー』にしておいた。
このダンジョンは全部で20階層になっているのだけれど、
全部の階層に『強力なガーディアン』がいて、
下の階層にいくほどガーディアンのレベルが上がっていく。
ただ、残念なことに、ガーディアンたちは『防衛戦』では使えないんだよなぁ……
なんで、そんなルールになってんだよ……と心底から文句を言いたい。
19階層のガーディアン『田中アシュラ』とか、レベル900だから、普通に参戦してほしいんだけどねぇ……