俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
12話 『猛田おわったな』『猛田? 知らない子ですね』
「く、くそがぁ……」
猛田が、震える声でつぶやいた。
レベル200級の改造モンスターが、三体。
オーガニク、オーガニク2、そして漆黒の龍・田中シエロン。
……俺のかわいい配下たちを前に、全員がおびえている。
さすがのジュリアも、額に汗を浮かべていた。
……そりゃそうだ。
俺も、自分で創っておきながら、シエロンの威容に、軽くビビってる。
自分の配下だってわかっていても、龍ってやっぱ怖いね。
スマホをチラ見すると、コメント欄も引いている。
『おいおいおい、やばいって』
『これ、全員、死ぬんじゃねぇ?』
『みんな、逃げてぇええ!』
俺は、そこで、息を吸って、
「逃げ場はない! 全員、死ぬ気で戦うしかない! 気合をいれてくれ、みんな!」
「う、うん……あ、そうだ……す、スマホ、切った方がいいよね」
と、山本コハルがそう言ってきたので、
「いや、それはやめておこう!」
「え……なんで? 配信なんかせず、全力で戦った方が……」
「正直、スマホを浮かべる分の魔力を戻しても大した差はない。それより、この状況のヤバさを外の人にも知ってもらった方がいい!」
「……っ」
「考えたくないけど……もし、俺らがここで全滅したとしても……このとんでもない怪物たちの映像が残っていれば、外の誰かが、対処法を思いつくかもしれない!」
俺の発言に、コメント欄が、同意してくれる。
『やっぱ、砦あたまいいな』
『てか、全滅しないでくれよ!』
『SSが3体は……厳しくねぇか』
『対見《ついみ》様だけは逃げてくれ!! 頼む!! 俺の女神!!』
――さて、いい感じに、緊張感が高まってきた。
現在、同接1200万人。
この勢いだと、まだまだ、のびるだろう。
「トウシ……逃げろ」
と、背後から近づいてきたジュリアが、そんなたわけた事を言った。
仮にこれがガチのピンチでも、ジュリアを置いて逃げるわけないだろ。
俺をなんだと思っているんだ。
たまに思うんだけど……ジュリアって、もしかして、ちょっとバカなのかな?
もっと自分の価値ってものを理解した方がいい。
「逃げられないって。それより、勝つことを考えてくれ。大丈夫……ジュリアなら勝てる」
「……トウシに言われると、単なる慰めでも、心が強くなれるよ」
慰め?
そんな一円にもならないことはしない。
……実は、今回の展開のため、事前に手を打ってある。
昨日のうちに、ジュリアに1億ポイントを注ぎ込み、こっそりと強化しておいたのだ。
今の彼女のレベルは228。
そして、改造モンスターたちは、全員『打撃』に対して脆弱性をもっている。
打撃特化のモンクであるジュリアならば余裕で倒せるのだぁ!
ふはははは!
「みんな! 気合を入れて、ジュリアのサポートをするんだ! この状況をどうにかできるとしたら、2年B組が誇る最強の姫騎士ジュリアだけ!!」
と、俺はカメラ映《ば》えを考えつつ叫んだ。
完璧に準備は整った。
このまま、ジュリアに華々しく改造モンスターを撃破してもらう。
『ジュリア様最強伝説』の幕開けだ。
さあ、視聴者のみんな……歓喜の準備はできたか?
俺はできてる!
「ジュリア!! オーガニクの攻撃パターンは何度も見たから予想できる! 俺が指示するタイミングで、思いっきり全力の一撃を叩き込んでくれ!!」
「わかった!!」
力強くそう答えて、ジュリアが地を蹴った。
「――ッ!」
高速で接近してきたジュリアに対し、
反射的に、オーガニクは太い脚を前に出した。
牽制の前蹴り。
ジュリアは、紙一重でそれをかわした。
かすめた風圧だけで、彼女の髪が大きくなびく。
勢い余って体勢を崩したオーガニクが、たたらを踏みながらも、すぐに体を立て直す。
そして、次の一手に移るべく、大きく踏み込んできた。
ジュリアをロックオンしたその巨腕が、ゆっくりと、しかし力強く振りかぶられていく。
「ジュリア、今ぁ!」
叫んだ瞬間、無防備になった腹に、
「フルメテオビースト!!」
ジュリアが使える拳技の中で、最大火力を誇るスキルⅡが叩き込まれる。
拳が腹にめり込んだ瞬間、空気そのものが震えた。
「ガァアアアアア!!」
オーガニクの巨体が、内側から爆ぜるように吹き飛んだ。
瓦礫が舞い、砂塵が視界を埋め尽くす。
――ワンパン以外はありえない。
ジュリア様、最強!!
「はぁ……はぁ……」
肩で息をしながら、ジュリアが、
「な、なんだ? き、昨日の鬼より弱い……いや……まさか、私が強くなっているのか……?」
困惑した表情のジュリアに、コメント欄が沸き立つ。
『ジュリア様、マジ最強!』
『天使すぎて死んだっ!』
『尊すぎて無理!』
『昨日よりパワーアップしてる?!』
『やっぱ、田中玉より、ジュリア様の拳こそ正義』
『そもそも、砦の一番の武器は頭脳だから』
『猛田おわったな。これからはジュリア様一強の時代』
『いや、砦とジュリアの最強タッグ』
『誰だ、猛田って。知らん奴の名前出すな』
よしよし。
ちゃんとわかっているじゃないか
ほんとに、誰だよ、猛田って。
そんな奴、このクラスにいねぇよ。
さあ、このまま、ジュリアに、3体とも――
と、思ったその時、
――俺の完璧なバズリ計画を揺るがす大事件が発生した……
そんな……バカな……
こんなことが……