俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
サイド 綾大路視点1
私はダンジョン対策協会日本支部の支部長、綾大路藤明《あやのおおじとうめい》。
今日、私は、ゴミみたいな高校生に非常に不愉快な態度をとられた。
あの砦トウシとかいう生意気で、いまいましいクソガキ……本当に腹立たしい。
あのクラスの連中は全員そうだ。
たまたま、特異な力をもっていただけの分際で、この世界の正統なる支配者である我々にあのような態度をとるとは……
苛立ちを鎮めるように、私は執務室の椅子に深く腰かけ、デスクの上に届いた書類に目を通していた。
外はもうすっかり暗い。
窓の向こうに、都心の明かりが幾重にも連なっている。
「支部長!」
乱暴にドアが開いた。
顔を真っ青にした若い職員が、転がり込むように入ってくる。
「……なんだ、騒々しい。君も、この栄えあるダンジョン対策協会の職員なのだから、その自覚をもって何事もスマートかつエレガントに――」
「ダ、ダダダダンジョンから……モモモモンスターが……!」
「? 落ち着いて言いなさい」
「だから! ダンジョンからモンスターが出てきて暴れているんです!!!」
「なにぃい??!! ばかなぁ!! やつらは外には出られないはずでは?!!」
ダンジョンが出現して以降、モンスターが外に出てきたことは、一度もなかった。
だから、てっきり、出られないものだと、私たちは勝手にそう思い込んでいた……
「――うぁあああ!」
「やめろぉおおお!」
「助けてぇえええ!」
廊下の奥から悲鳴が響く。
立て続けに、何かが壁に叩きつけられるような重い音。
私はあわてて席を立ち、扉の外に出た。
――視界に飛び込んできたのは、地獄だった。
見たこともない、巨大な魔獣。
全身を覆う異形の筋肉、ごうごうと光る紅い双眸《そうぼう》。
割れた強化ガラスの破片が、絨毯《じゅうたん》の上に散らばっている。
ひっくり返った円卓、崩れた壁。
血まみれの幹部たちが、床を這いずり回って、
職員たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
「な、なぜ……こんな……」
モンスターの映像は、何度も見てきた。
だが、生で目にするのは、これが初めてだった。
本能に直接訴えかけてくるような恐怖。
膝が笑って、体が言うことを聞かない。
「ひ……ひ……」
巨体が、ゆっくりとこちらに向き直る。
地響きのような足音が、一歩ごとに近づいてくる。
魔獣の紅い瞳が、私を捉えた。
ロックオンされたと悟った瞬間には、もう遅かった。
「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」
振るわれた爪が、私の胸を裂く。
とんでもない激痛。
気絶するかと思った。
いっそ、気絶したかった……
「な、なんで、私が……こんな目に……」
服の下から、じわりと熱いものが広がっていく。
自分のものとは思えないほど大量の血が、床に広がっていく。
死ぬ。
いやだ。
こんなところで……こんな、得体の知れない化け物に……
薄れゆく意識の中、場違いなほど呑気な声が降ってきた。
「どうも、こんにちは。なんか大変そうですね」
瓦礫《がれき》の隙間から、のんびりとした足取りで歩いてくる姿があった。
片手にスマホを構え、まるで観光名所でも撮影しているかのような、あまりにも場違いな余裕。
――砦トウシ。
時空ヶ丘2年B組の一人……
「た、助けろ……何を見ている……たすけ――」
「無理ですよ。俺、レベル5ですもん」
眉一つ動かさず、砦は淡々とそう答えた。
「ぁ、あれが……あるだろ……あの……田中玉とかいう……」
「あれは一日一回しか撃てません。今日はダンジョンでもう撃っちゃいました……てか、そもそも、俺の田中玉じゃあ、あのモンスターは倒せないでしょうね……あれ、どう見てもSS級のモンスターなんで。俺が殺せるのはCかBがせいぜいです」
……な、なんて使えないゴミ……
と思っていると、砦が、
「確か、指揮官として命令するのと、前線でダメージを負うのだと……前者の方がはるかに痛いんでしたっけ。じゃあ、大丈夫ですね。いつもよりは痛くないはずなので」