俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
サイド 綾大路視点2
――我々も命を張っている。戦争では、一兵卒よりも、指揮官や政府高官の方がよっぽど苦しんでいるのだ――
それは、私が、自分の口で言った言葉……
それを、こんな形で、突きつけられるとは思ってもみなかった。
くそ……
このガキ……
ナメた事を……
「た……助けてくれ……頼む……金なら払う……いくらでも……」
「そんなに困っているんですか? けれど、戦場でダメージを負うより、デスクワークの方が大変なんですもんね。で、普段のデスクワークはさばけているんですもんね。……あ、じゃあ、問題ないですよね」
薄い笑みを浮かべたまま、砦は、私を見下ろしている。
助ける気配は、微塵《みじん》もない。
周囲では、まだ、魔獣たちが暴れまわっていた。
――と、そこへ、けたたましいエンジン音とともに、複数のバイクが乗りつけてきた。
ヘッドライトの光の中、革ジャンにきらびやかな装飾を纏った男たちが、次々とバイクを降りてくる。
胸には、企業ワッペン。
見るからに、金のかかったビジュアル。
「ビル内部をバイクで走って申し訳ない!」
「緊急事態ゆえ、ご容赦《ようしゃ》を!」
「綾大路さん、もう安心してください! 俺らが来たからにはもう大丈夫!」
「――お、おお! き……きてくれた……か!」
協会に正式雇用されている専属チーム『エンジェルライダーズ』。
国内最高峰のS級ダンジョン配信者たち。
武器を構え、颯爽《さっそう》と現れた彼らに、私は一縷《いちる》の望みを見た。
「ん? そこにいるのは、もしかして『田中玉』か?」
その一人が、砦を見つけて、にやりと笑う。
「ははは、動画、見たぜ。ダッセェなぁ、あれ」
「お前のクラスメイトほどじゃないが、俺達も人類の上澄みって自負がある!」
「指くわえてみてな! 俺らの華麗な技を!」
自信満々に、S級たちが魔獣へと躍りかかる。
――だが、魔獣が太い前腕を一振りしただけで、状況は決した。
薙《な》ぎ払いの衝撃が、まとめて彼らを吹き飛ばす。
振りかぶっていた武器は、それぞれの手を離れ、宙《ちゅう》で虚しく回転しながら床に転がった。
革ジャンの男たちは、受け身すら取れないまま、そのまま壁際まで飛ばされ、積み上がった瓦礫《がれき》の中に頭から突っ込んでいく。
……な、なにやってんだ、お前ら……
偉そうに出てきて、すぐ吹っ飛ばされて……
コントでもやってんのか……
「こ、こんな……」
「信じられねぇ……」
「死ぬぅ……死ぬぅ……」
誇らしげだった顔が、一瞬で恐慌に染まる。
地に伏し、砂埃《すなぼこり》にまみれる。
よく、そのザマで砦を笑えたな……
貴様らの方がよっぽどみっともないぞ……
――もう、だめだ。
……終わった……
薄れていく意識の中、私は、死を確信した。
その時だった。
夜風を切り裂くように、一つの影が舞い降りる。
「――ッ!」
着地の衝撃で、床のタイルが勢いよく跳ね上がる。
舞い上がった砂埃の向こうに、彼女の輪郭が浮かび上がった。
黒髪をなびかせたその少女は、一切の躊躇なく、魔獣の懐へと踏み込んだ。
一撃。
ただそれだけで、あれほど暴れ狂っていた化け物が、声もなく沈黙する。
――暁宮《あけみや》ジュリア。
間違いなく、人類最強格の超絶美少女……
彼女は、乱れた髪を軽く払うと、自分のスマホに向かって、静かに語りかけた。
「どうやら、モンスターは、ダンジョンの外に出てこれるらしい。ゆゆしき事態だ……が、どうにか私たち時空ヶ丘2年B組が対応する。心配しないでほしい」
どこか台本を読んでいるような……けれど、破格に凛としたその声に、崩れ落ちていた職員たちの間からも、すすり泣くような安堵の声が漏れる。
――人類の守護者。
まさに、その言葉がふさわしい。
朦朧《もうろう》とする意識の中、私は、彼女の輝きを、ただ見つめていた。
ふと……
背後から、砦の小さなつぶやきが耳に届く。
「……完璧だ、ジュリア……これは、バズるぞぉ……」