俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
16話 敵の大将は俺が田中玉で殺すしかない……
薄暗い玉座の間に、俺は一人、脚を組んで座っていた。
いつもの位置。
ロキが片膝をついてそばに控えている、いつもの光景。
目の前に浮かぶウィンドウには、再生数のグラフがずらり。
「本編が2億で……切り抜きなんかの動画を全部まとめた総再生数は……12億ぐらいか……まあまあかな。できれば20億ぐらい行ってほしかったけどなぁ……」
数字だけは正直読めない。
あれだけ念入りにやったのだから、このぐらい見てほしいな……と思った動画はあまりのびず、
ただ配信ボタンを切り忘れただけのミスがアホみたいに伸びたりする。
「旦那様」
ロキが、静かに口を開いた。
「はい、なんすか」
「なぜ、旦那様に無礼を働いた男を許したのですか?」
「綾大路のこと? あいつ普通に有能なんだよ」
俺は、ウィンドウを指先で流し見ながら答える。
「協会の支部長に上り詰めただけあって、自分のポジションを守るためなら何でもできるっていう気概もある。あと、あいつがプロデュースした『S級チームのダンジョン探索チャンネル』は、総再生数が1億をこえてる」
死ぬほど伸びているわけではないが……
手堅く時流を読んでいる感じ。
これができる人間は案外少ない。
「ほかにもいくつか配信チャンネルのプロデューサーをやってるみたいだけど、どれも、ある程度のびてるんだよなぁ。こういう使える駒を無意味に減らすのはただのバカ」
「常に先の先を見据えたご判断……感服いたします」
「再生回数稼げるやつには頑張ってもらうってだけの話なんだけどねぇ……」
「旦那様の特筆すべき点は、その美しき知性と品格だと再認識いたしました」
「知性と品格(笑)」
思わず乾いた声が出た。
「猛田をボコボコにすることで再生数を稼ごうとしている俺にふさわしい言葉じゃないな」
「すべてはこの世界を守るため……旦那様は自ら汚れ役を担ってくださって――」
「おっけー、わかった、もうそれでいいよ」
俺は、話を打ち切って、ウィンドウを操作しながら、現在のダンジョンポイントに目を落とした。
「これで……今使えるダンジョンポイントは25億か……微妙だなぁ……もっと一気に稼げねぇかなぁ……はぁ……どうするかなぁ……」
改造モンスターを量産する案も考えたが、あいつら、レベルが微妙だからなぁ……
大量に創っても、おそらく、敵の総大将が範囲攻撃を放てば、それだけで一掃されるだろう。
「……ここから、さらに稼いで、新しくNPCを作る? それとも、今いる連中を強くする?」
最善の答えが出ない。
どれも一長一短に思える。
「猛田のレベルを上げるってのもありだよなぁ……1億で100あがるから……現段階でも、あいつのレベルを2500以上にできる」
肉壁として本格運用するなら、悪くない投資ではある。
と、そこで、ロキが、
「旦那様」
「はい、なんすか」
「今の旦那様のダンジョン魔王としての『格』では、ダンジョン配信者を強化できる上限値は1000でございます。私たち『上級配下』は2000が上限となっております」
「……あ、マジ?」
俺は、思わずウィンドウから顔を上げた。
「最初に言ってほしかったかも」
「申し訳ございません。愚かな私に、どうか罰を」
「じゃあ、スクワット5回」
「……それは罰では……」
「ちょっと、黙って。考えるから」
「承知しました」
視界の隅で、ロキが、律儀にスクワットを始めた。
……マジでやらなくていいのに。
小ボケだってことぐらいわかってほしかったけど……
……しかし、2000までかぁ……
レベル差って、マジでデカいんだよなぁ……
倍あると、もう勝てない域に入ってくる。
俺、異世界で、レベル10のスライムに勝てなかったもん……
いくら殴っても、死にゃしねぇ……
「……総大将は、俺が田中玉でコロすしかねぇなぁ……」
よけられたら、それで世界が終わる。
プレッシャー、えぐ……
「ロキ……上級配下ってのは、どこまで? 田中オーガニクとかも?」
「いえ、私、ジャンヌダルク、ゲムゥシャのみでございます。改造モンスター、ガーディアン、一般ポップモンスター……すべて『下級配下』でございます」
「アシュラや傾国部隊もカテゴリは下級か。……なるほど。……ふむ……で、ダンジョン魔王としての格は、異世界侵略軍を倒さないと上がらない……だっけ?」
「その通りでございます」
「……んー……」
悩んだ末、
「とりあえず、もうちょい稼いで……ロキ、ジャンヌ、ゲムゥシャを上限の2000にするか」
指折り数えてから、俺は小さく唸った。