俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
サイド 猛田視点。
協会のゴミが『話があるから本部にこい』と言ってきたので、『てめぇが来い、死ね』と言ってやった。
すると、マジで迎えにきやがった。
鬱陶しい連中だ。
しかし、支部長の綾大路が直々に頭を下げて迎えにきたのは評価に値する。
寛大な心で、ちょっとぐらいは話を聞いてやろうと思う。
俺は本当に優しい人間だと思う。
なんで、俺はこんなに完璧なんだろう……
そして、なぜ、こんなにも完璧なのに、それにふさわしい評価を得られないのだろう……
この世は謎と不思議と理不尽と不条理ばかりだ……
★
――迎えの車は、最高級リムジンだった。
革張りのシートに深く沈み込みながら、俺は窓の外を流れる風景を眺める。
このハイクラスなシチュエーションは俺にふさわしい。
砦にはふさわしくない。
眉目秀麗《びもくしゅうれい》な俺だからこそ映《ば》える。
「で? 俺にどうしろと?」
対面に座る綾大路が、恭《うやうや》しく頭を下げた。
「契約を結びたい。君に、人類の守護者になってほしい。望むものはすべてあたえる。だから、我々が出動要請を出した際に、受け入れてほしい」
「ふっ……ジュリアに断られたから、仕方なく俺か?」
「いや、彼女には持ち掛けていない。確認してくれてもかまわない」
「最初から断られるのがわかっているからな。そして、その前提を利用して、『俺だけを信頼している』という証にしようって? そうやってプライドをくすぐってやれば、俺が喜びそうだから?」
「……」
綾大路の顔が、一瞬こわばる。
図星を突かれたときの、わかりやすい反応。
「お前さ……もしかして、俺のこと、『おだてれば木に登る豚』だとでも思ってる? 日本一の進学校、時空ヶ丘で一年の時からずっと全教科満点をとっている、この猛田カルマを」
俺が通っている時空ヶ丘《じくうがおか》学園は、日本一の進学校――
というより、日本にただ一つしかない、内閣官房直轄《ないかくかんぼうちょっかつ》の特別進学校。
一学年、わずか2クラス。
全校生徒を合わせても、150人に満たない。
文部科学省の管轄《かんかつ》外に置かれ、独自のカリキュラムを持つ特別教育機関。
入学するには、全国統一の特別選抜試験に合格しなければならない。
偏差値は最低83。
倍率は、毎年600倍以上。
――綾大路が、額の汗をハンカチで拭きながら、
「愚かだとは思っていない。君が人類の中で最高峰に強く、そして賢い人間であると理解している。だから、人類の守護者を担ってほしいと懇願《こんがん》している」
「くく……ま、悪い気分じゃないが」
そうだ。
俺はこの星の一等賞。
完璧な才能。
究極の資質。
名実ともにナンバーワンの実力者。
実質的な、この星の支配者。
超スキルにも覚醒した今、間違いなくジュリアより上。
砦なんか足元にも及ばない。
俺こそが最強で最高の力を持つ。
――なのに。
なんで、ずっと、苦しい。
なんでだ……
胸の奥で、黒い塊がちりちりと焦げているような感覚が、ずっと消えない。
「猛田カルマくん。私も、時空ヶ丘出身だ。入学から卒業まで、ずっと全教科満点だったよ。だから、君の高みは理解できているつもりだ」
「ま、そうじゃなきゃ、『事実上の世界政府』といってもいい『ダンジョン対策協会』の支部長になんかなれねぇよな」
「私は君に強いシンパシーを感じている」
「シャレた言葉を使うなよ。……俺はあんたより上だ。俺より上がいないのはもちろん、同列も存在しねぇ」
「……了解した。君は世界一の勇者だ。右にも左にも誰もいない。……だから、頼む。その地位にふさわしい仕事を担ってほしい。大いなる力には大いなる責任が伴うもの」
「それは凡人の話だ。俺はこの星の王だから、責任からも自由でいられる」
「……」
綾大路の目が、微かに泳いだ。
「どうした。イラついた顔してんぞ。ケンカするか? いいぜ、先手はやるよ。銃でもミサイルでも好きなだけ使っていい」
「ふふ……すごいな。本当に尊敬するよ。そこまで尊大になれる人間はそういない。君の覚悟は見事だ」
「上からモノ言ってんじゃねぇよ、殺すぞ」
「……失礼。猛田くん……伏してお願い申し上げる。人類を守ってくれ」
そう言って、綾大路は、リムジンの床に額をこすりつけた。
でかい車だから、土下座するスペースも十分。
「……別に断ってねぇだろ、最初から」
俺は、そういいながら、綾大路の頭を踏みつけてやった。
ヤツのこめかみからビキっという音がしたが、気にしないでおいてやる。
ムカつく気持ちはわかるぜ。
けど、どうしようもねぇよな。
お前、雑魚だから。
強くて賢い俺の前では、
這《は》いつくばって懇願するのが精々。
……あいつらもそうすべきなんだ。
砦も……ジュリアも……
「俺の要求には従ってもらう。それが絶対条件だ」
「了解した……それで、君は何を望む?」
「砦を殺せ」
「……」
綾大路が、息を呑んだのがわかった。
「理由を何かしらでっちあげて、史上最悪のテロリストと認定し、正式に全人類の前で処刑しろ」
「……」
「できないのか?」
「……彼は君と同じく時空ヶ丘の首席だ……モンスターと戦う力をもっていて、暁宮ジュリアと仲がいいという特異な人脈も持っている……彼を殺すことは人類の痛手……協会は許可しないだろう……」
「どいつもこいつも……あのカスを過剰に買いかぶりやがって……あいつは俺の完全下位互換だって、なんでわかんねぇんだ。俺さえいれば問題ねぇだろ……俺が最強なんだ……俺が一番すげぇんだよ……なんで……なんで、そんな簡単なことが……」
声が、自分でも驚くほど震えていた。
ムカつきすぎて吐きそう。
綾大路の頭の上にゲロをぶちまけてやろうか。
「……と、砦トウシを殺す以外で、何かないかね?」
「ヴゥァーカ……そもそも、お前らにあいつをやらせるかよ。小粋なジョークに決まってんだろ、カス」
「……」
「あいつは俺が殺すんだよ……もう、決めたんだ……あいつは俺を笑いやがった……下位互換の分際で……この俺を……」
「そ、そうか……まあ、君がどう思うかは自由だ。ただ、これだけは確認させてくれ。我々と契約してくれるのかね?」
「厄介なことがあったら、俺に言え。助けてやるよ。世界最強のこの俺、猛田カルマ様がなぁ」
「ほ、本当か?」
「そのかわり、なんでも言うことを聞いてもらうぜ」
「もちろんだ。なにがほしい?」
「とりあえず、酒とたばこだ」
「わかった。最高峰を用意しよう」
「バァカ! 未成年に、そんなもん提供しちゃダメだろ!」
俺は、綾大路の頭を蹴飛ばしてやった。
このゴミで遊べば、少しは楽しめるかと思ったが――
気分は、ちっとも晴れなかった。
アホを殴ってもむなしいだけだ。