俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
サイド 対見視点1
私の名前は対見《ついみ》リコ。
ジュリアたちと一緒に異世界に飛んだクラスメイトの一人。
うちのクラスは、全員天才みたいなものだけど、
――その中でも、別格の実力者が3人いる。
バカの『猛田』。
美女の『ジュリア』。
そして、
――神童『砦トウシ』。
高校生になるまで、私は、自分のことを神童だと誤解していた。
周囲の人からずっとそう呼ばれていたし、テストで分からない問題というのがなかったから。
……けど、砦を知ったことで、私は自分が凡人だという事実に気づけた。
それ以降、私は、何の気負いもなく自由に生きている。
好きなオシャレをして、好きな時間に遊んで、勉強や習い事はほどほどに頑張っている。
★
ダンジョン配信終わりの帰り道。
人通りの少ない路地を歩いていたら、後ろから声をかけられた。
「あ、もしかして、対見様?! うわ、マジ?! うーわ、奇跡!!」
20代中盤のヤンチャそうなお兄さん。
私の支持層は、わかりやすいオタク系が7割で、
残りの3割はこの手のタイプ。
「ね、ね、ね、握手してください」
こういうのは、正直、しょっちゅうあるので、
私は、サラっと、
「応援、ありがとうございまーす」
愛想笑いで流そうとしたんだけど、
男は、しつこく距離を詰めてきて、
「ね、ね、写真も! 俺、赤スパ投げたこともあるんだ! 『カレーチューバー』ってハンドルネーム、知ってるよね?」
見た事あるような……ないような……
正直、一回か二回だけ赤スパをくれた人の名前まで覚えていない。
毎日、何百人もがスパチャを投げてくれるんだから。
「あ、じゃ、はーい」
一応、礼儀として写真はとってあげた。
それで終わってくれたら、何の問題もなかったんだけど……
「あと、もう一枚! ね、ね!」
「え、あ、まあ、はい」
さすがにウザくなってきた。
けど、まあ、もう一枚くらい……
と思っていると、
「優しい……ほかのゴミ配信者どもとは大違い……あ、あの、対見様……いや、リコちゃん! お、お、俺、好きなんだ、君のことが、ずっと! 君もたぶん、そうなんだよね! そうじゃなきゃ、俺にこんな、こんな優しくっ――うひひ」
いきなり、腕をつかまれた。
「いやいやいや、ちょっと」
やばい。
えぐいタイプの人だった……
あっさりヤンチャ系じゃなく、こってり系の人だった……
ミスったぁ……
「あの……やめてください」
振り払う前に、顔が近づいてくる。
強引にキスされそうになって、
――頭の中で、憎悪と恐怖心が膨らんだ。
レベル100を超えている私の力は、この人の視点だとクマ以上。
わかっている。
手加減しなきゃいけないことは。
でも……不快感や恐怖心が理性を上回って、手加減できず……
「いやぁああ!」
気づいた時には、思いっきり殴っていた。
「……あ」
男が、糸の切れた人形みたいに、地面に崩れ落ちる。
「……え?」
動かない。
「う、うそ……うそでしょ……」
膝から崩れて、震える手で肩を揺すった。
反応がない。
胸に耳をあてる。
――呼吸してない。
「え……え……わたし……人を……」
頭が真っ白になって、指先が氷みたいに冷たくなっていく。
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
「……どうした? なんかあった?」
ふらっと、暗がりから、砦が現れた。
いつも通りの、気の抜けた声で。
「砦……なんで……」
「いや、普通に、帰ろうとしたら、対見の悲鳴が聞こえてきたから……魔王でも出たのかと思ったんだけど……」
「と、砦……わたし……この人……襲われて……反射的に殴ったら……し、し、死んで……」
うまく言葉にならなかった。
砦は、
「……あー……おっけぇ。だいたい理解した」
のんびりとした足取りのまま近づいてきて、男の目の前でしゃがみこむ。
脈を確認して、
「ギリ、生きてるな……」
「ぇ」
「首の一発が、変な入り方したっぽい。気道が、ちょっと詰まってる」
砦は、男の顔を横向きにして、口の中を指で確認する。
「うわ……舌根沈下《ぜっこんちんか》起こしてんな……」