俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
サイド 田中アシュラ視点1
吾輩《わがはい》の名は田中アシュラ。
栄えある地下迷宮センエース第19階層のガーディアンである。
偉大なる王から直々に『田中』という名字を賜《たまわ》った幸運な配下。
素晴らしい王の誕生に関して、文句は何もない。
砦トウシ陛下は、この世で最も偉大で完璧な理想の支配者。
主人に対する不満はないのだが、職場環境には少し不満……というか、悩みの種がある……
それは……
「アシュラってモテなさそうだよな」
「わかりますわ、死んだ魚みたいな目していますもの」
「てかさ、あーしのグラス、酒なくなってんの、見てわかんない?」
「…………罰ゲームとして、アシュラのチン〇ン、切っていい?」
「ダッキったらぁ、下品ねぇ」
吾輩は今、共にこの階層を守っている傾国部隊の5人とお茶をしている。
……お茶、と呼んでいいものか、正直、自信がない。
テーブルの上に並んでいるのは、極上の酒瓶《さかびん》と、
口をつけられないまま冷めていく吾輩の紅茶だけだ。
19階層は、階段まで一本道のステージになっているが、
我々だけが持つ専用のカードキーを使うことで、
我々の居住区である『裏面』に入ることができる。
黒曜石を敷き詰めたような艶やかな床、天井いっぱいに広がる人工の星空。
王門の間の裏に、こんな贅沢な空間があるとは、侵入者の誰も思うまい。
ここまで侵入者がくることはありえないので、
基本的には裏面でのんびりしているか、
定期的に、18階層に上がってトレーニングを行っている。
「てかさ、地上の連中、ゴミすぎねぇ?」
「時空ヶ丘を除外すると、最大でもレベル32だったかしら?」
「アシュラ、酒ぇええ!」
「…………地上、マジでやばすぎ。妾《わらわ》たちなら一か月以内に、一人残らず、皆殺しにできる」
「できるでしょうけどぉ、やる意味ないわよねぇ」
――ダンジョン魔王護衛軍、傾国部隊の5人。
この5人は、破格の美しさと次元違いの艶《あで》やかさを誇るうえ、王を守る剣盾として非常に優秀。
……なのだが、全員、見事に性根が腐っている。
傍若無人なリーダー、田中クレオパトラ。
猛毒舌の瞬間湯沸かし器、田中ヨーキヒ。
酒乱の暴れん坊、田中カグヤ。
サイコパス殺人鬼の田中ダッキ。
性格が終わっている田中フジコ。
吾輩は……というか、誰でもであろうが、
この悪女たちが、大の苦手である。
同じ職場に苦手な同僚が5人もいるというのは、長々と説明せずとも、とんでもない地獄だとご理解いただけるであろう。
吾輩が、カグヤのグラスに酒を注いでいると、
下の階から一人の女性が上がってくる。
田中ゲムゥシャ。
偉大なる王に創造された上級配下。
吾輩は、片膝をつき、
「鍛錬《たんれん》、ご苦労様です。ゲムゥシャ猊下《げいか》」
相手は上級配下で、こちらは下級配下。
かしずくのが当然であるのだが……
しかし、傾国部隊の5人は、
「よぉ、ゲムゥシャ。相変わらず派手なツラしてんな。殴っていいか?」
「ケバすぎて、ゲロ吐きそうですわ。もう少し、メイクの仕方を覚えてはいかが? せめて小学生低学年レベルにまで成長していただけますと助かりますわね」
「アシュラが注いだ酒、なんでこんなマジィの? もしかして、タンでも入れた? 殺すぞ」
「…………おい、ゲムゥシャ、なんだ、その目。殺《や》るの? 別にいいけど」
「まあまあ、皆さぁん、あまり、煽らないであげてぇ。震えているじゃなぁい、かわいそうにぃ」
ヤバすぎる、こいつら……
ああ、胃が痛い。
ゲムゥシャ殿下は、渋い顔で、腕を組み、
「ウチも別に性格いいつもりはないけど……あんたら、マジでひどいな。比べたら、自分が聖人に思えてくる」
「「「「「あ?」」」」」
五人の声が、見事に重なった。
煽っておいて、煽られたらブチ切れる……
本当に、この最低の悪女どもは終わっている……