俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
サイド 田中アシュラ視点2
ゲムゥシャ殿下はため息交じりに、吾輩に、
「大変だな、あんた」
「ご理解いただけましたこと、ありがたく思います」
そのまま、殿下は階段を上がり、玉座の間へと向かわれた。
その背中を無視して、
傾国部隊の5人は、ぺちゃくちゃと、
また、性根の腐ったおしゃべりをはじめる。
クレオパトラが、下卑《げび》た目で吾輩を見て、
「アシュラ、お前、あれだろ。ゲムゥシャを見て勃《た》ってんだろ。目ぇ見りゃわかんだからな、このむっつりドスケベが」
なぜ、こんなにも薄汚い言葉が次から次へと出てくるのか……不思議でならない……
こいつらも、高貴で高潔な王の配下だというのに……
吾輩は、空になったカグヤのグラスに酒を注ぎ足しながら、遠い目で天井の人工星空を見上げた。
と、そのとき。
肌がぴりっと痺れるような、とてつもなく強い……輝かしいオーラを感じた。
ゲムゥシャ殿下も、なかなかの覇気を放っていたが、比較すると雲泥の差……
空気の密度そのものが、変わったような気さえする。
この気配は……間違いなく……
「あ、全員そろっているね。ちょうどよかった」
偉大なる王。
この世界の正統なる支配者。
叡智《えいち》の神――砦トウシ陛下。
吾輩は、すぐさま平伏のポーズをとろうとした……
が、そんな吾輩より先に、
傾国部隊の5人が、陛下の足元で、完璧な完全平伏の姿勢をとっていた。
……この終わっている5人が、唯一、心底からひざまずく相手……
それが、砦トウシ陛下である。
先ほどまでの酒瓶も暴言も、まるで何事もなかったかのように、完璧な姿勢で床に伏す彼女たち……
半歩遅れて、吾輩も平伏する。
絶対の忠誠を態度で示す我々に、王は、
「これから君たち傾国部隊には、地上に出て、色々とやってほしいんだけど、大丈夫?」
その問いに、リーダーの田中クレオパトラが、顔を上げることなく答える。
「確認など必要ございません、愛《いと》しの君《きみ》よ。あなた様からの命令だけがわたくしどもの全て。いかなる命令であろうと、完全なる結果でもって応えてみせましょう。それが……それだけが、我々の、あなた様に対する愛の証」
「……愛ねぇ。そんなたいそうな感情を向けられても困るけど……命令を聞いてもらえるのはありがたいよ。君らの美貌と力があれば、だいぶ劇的にバズれると思うんだよね」
そう言いながら、王は手にもっている紙の束をテーブルの上に置いた。
束の厚みだけで、吾輩は、これから五人が担う仕事の重さを察する。
「これから指定する各所の刑務所で暴れてきてほしい。殺人や強姦の罪を犯しておきながら、まったく反省していない凶悪犯罪者のリストを渡すから、片っ端からボッコボコにしてきて。ただし殺さないで。……いうまでもなく、普通に反省している受刑者に手出しは厳禁。いけそう?」
「愛しき王のためならば、我々にできぬことなどございません」
クレオパトラが即答すると、他の四人も、こくこくと無言で頷く。
「じゃあ、よろしく」
そう言って、玉座の間に帰っていく王の背中を、
傾国部隊の5人は、最後の最後までしっかりと見送ってから、
「やっべぇ、イケメンすぎんだろ。オーラ、バグってる」
「気品、半端ないんですけどっ。やっばい……むしゃぶりつきたい」
「声聞くだけで、どんな酒より酔えるわ。あの人はやべぇ、毎秒抱いてほしい」
「…………あぁ、あの手で殺してほしい……」
「惚《ほう》けてる場合じゃないわぁ、みんなぁ。命令を確実に遂行しないとぉ」
フジコの言葉で、全員、ギラっと目を光らせる。
命令遂行のためなら何でもするという気概が見られる。
彼女たちは性根が腐っているが、
その実力は本物なので、
王の命令を確実に遂行できるだろう。
吾輩は、五人が慌ただしく武装を整えはじめるのを、少し離れた場所から眺めていた。
――先ほどまでの、あの下品な空気は、もうどこにもない。
あるのは、王の期待に応えるという一点だけに向けられた、恐ろしいほど純粋な殺気だった。