俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
サイド 猛田視点。
「みなさん、大変です! 大事な仲間である砦トウシが、転移のワナに引っかかってしまった! あいつは戦力にはならないけど、大事な大事な味方! 俺たちは、今、あいつを必死に探しています! 皆さんも、あいつが見つかるよう、祈っていてください!」
スマホのカメラに向かって、俺は精一杯の真剣な顔を作って叫んだ。
コメント欄が、すぐに沸き立つ。
『さすが、猛田くん!』
『強いだけじゃなく、優しい!』
バカばっかりだ。
しかし、養分としては十分。
力も金も地位も……俺は全部手に入れた。
異世界に召喚されて、本当にラッキーだった。
俺が手に入れていないものは、あと一つだけ――
「ジュリア……砦は見つかったか?」
少し離れた場所で、探索の手を止めずに黙々と地形を調べているジュリアに声をかける。
「……」
返事はなかった。
無視しやがった。
この俺を。
異世界でも、こいつは俺に反抗的だったし、
なんだったら、その前から、ずっと俺に対する態度がなっていない。
砦みたいなカスばかり気にして、
この俺を見ようともしない。
いつか必ず、屈服させてやる。
――と、そこで俺は気づいた。
「ん? あれは……」
視界の端に、赤黒い巨体が蠢いている。
身の丈は優に3メートルを超え、額から二本の角が突き出ている。
――鬼だ。
明らかに他のモンスターとオーラが違う。
おそらく、『協会』が危惧していたSSランクのモンスターだろう。
悪くない。
ちょうど、雑魚討伐の配信ばかりで視聴者も飽きてきているところだった。
ちょっと苦戦するふりをして、ギリギリのところで倒す演出をしてやろう。
そうすりゃ、もっと数字がはねる。
金と名誉はいくらあってもいい。
「皆さん、とんでもないモンスターが出てきました! すさまじいオーラの鬼です! あいつは強そうだ! 俺でも勝てるかどうか! ぜひぜひ、高評価やスパチャやチャンネル登録で応援してください!」
そう叫んでから、俺は、
「砦! 念のため、ポーションの準備をしておけ!」
いつも通り、あのバカに命令した。
しかし、答えたのは田中ユウトだった。
「いや、あの……だから、その砦を探していたんだろ?」
「ぇ、あ、ああ……そうだったな。つい、くせで……」
ダセぇザマをさらしてしまった……
俺は、その恥を払拭するように、鬼へ突撃した。
★
――鬼は信じられないぐらい強かった。
火力がバカみたいに高いし、
俺の最強のスキルⅢ『爆双斬』ですら、まったくダメージが通らねぇ。
「な、なんだ、こいつ……」
振り切った剣は、まるで岩壁に当たったかのように弾き返される。
そのまま、鬼が振るった金棒の一撃が、
「うぁああ!!」
俺の身体を吹き飛ばした。
『猛田くん、頑張って!』
『負けないでぇ!』
コメントを読む暇もねぇ。
やばい……マジでやばい……っ
「ぐぁあああああああああ!!」
振り下ろされた鬼の金棒が、俺の右腕をとらえる。
骨が軋む嫌な音がして、そのままヘシ折れた。
勝てない……やばいっ!
この鬼、俺が異世界で倒した魔王より強ぇ!
「砦ぇ! ポーショ……」
そこで思い出す。
そうだ、あのバカ、いないんだ……
肝心な時に、あのクソぼけ……
高位の回復アイテムは全部あいつに預けているってのに……
仕方なく、俺は、
「山本! 回復魔法を……って……あ?」
今まで無我夢中で気が付かなかったが、
周囲を見てみると、
「おまえら……なんで、バラバラに戦ってんだ……相手が強敵なことぐらい……わかるだろ……そういう時は、いつもみたいに連携――」
アホの田中ユウトが、青い顔で、
「いや、だって……砦がいないから、誰も指揮でき――」
そこで、鬼が追撃してきた。
よけきれねぇ!!
「ぐあぁあああああああ!」
左腕も折られたぁ!
こ、これじゃあ、もう武器を握れねぇ……
し、死ぬ……
やばいぃいい!
「た、たすけろぉ! ジュリアぁ!」
演出でも何でもない、本物の悲鳴が喉から飛び出す。
『猛田、ださ……』
『ジュリア様に命令すんな』
『てか、あの鬼、強すぎね?』
『え、これ大丈夫? もしかして、全滅するんじゃ……』
コメント欄の温度が、一瞬で下がったのが分かった。
その時、視界の端で影が動いた。
ジュリアだった。
ジュリアは無言のまま地を蹴った。
踏み込みの一歩で、地面が爆ぜる。
鬼との間合いは優に十メートルはあったはずなのに、瞬きの間にゼロになっていた。
「――ッ!」
鬼が金棒を持ち上げるヒマすらなかった。
ジュリアの拳が、鬼の腹に沈み込む。
次の瞬間、鬼の巨体が『くの字』に折れ曲がった。
遅れて、腹の底に響くような衝撃波が周囲へと広がり、通路の壁がえぐれて岩片が飛び散る。
鬼は数メートル後方まで弾き飛ばされ、地面に片膝をついた。
「ギ……ギギ……」
角の生えた顔が、初めて怯えの色を浮かべる。
『キタァア!』
『ヨシっ! ジュリア様最強! ヨシッッ!!』
『猛田なんかいらんかったんや』
鬼は低く唸ると、じりじりと後ずさり、
やがて背を向け、ダンジョンの奥へと一目散に逃げていった。
「に、逃げた……? ……はぁ、はぁ、はぁ……た、たすかった……」
なんとか死なずにすんだ……けど……
『猛田、かっこわる』
『やっぱ、ジュリア様なんよ』
『てか、今の鬼、マジでやばくない?』
地面に這いつくばりながら、
俺はコメント欄の文字を見た。
『猛田、追いかけろ』
『ださすぎ』
『〇ね』
――さっきまで俺を持ち上げていた連中が、えぐいほど掌を返している。
クソども……
安全圏から文句たれるだけのゴミども……
俺がその気になったら、お前ら全員、一瞬で殺せるんだぞ。
ぐ……
キレるな……
まだ立て直せる……
俺はスマホに向かって、笑顔をつくって、
「さ、さすが、我らが姫騎士様! やっぱ、ジュリアには敵わないなぁ! けど、俺も結構、頑張ったでしょ?! これからも必死に頑張って、このダンジョンの謎を解こうと思っているので、応援よろしくです!!」
コメント欄では、俺に対する『負けてダセェ』というアンチ連中と、
『頑張って戦った人にそういう言い方はないと思う』というファン連中が闘っている。
もっと押せよ、俺のファンども……
アンチに負けるんじゃねぇ……
ほんっとに、どいつもこいつも低能ばっかり……
……俺はもっと上にいくんだ……
もっともっと力も地位も名誉も金も膨らませて、世界中のいい女を全部俺のものにして……
だから……こんなところで、つまずいていられねぇ……
……死ぬほど屈辱的な事に、
皮肉にも、俺が無様をさらしている動画が、
今までのどの動画よりもバズった。
同接500万……マジで、エグいぐらい見られている……
……くそったれが。
……と、ところで、この胸に刻まれた毒々しいマークはなんだ……?
あの鬼に、何か『呪い』でもかけられたのか?
あとで山本に解呪させねぇと……