俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
サイド 猛田視点1
昨日から、世界中が、『変な女ども』の話題で持ちきりだった。
『速報:各国の刑務所を襲撃する謎の美女集団、依然正体は一切不明』
『先ほど、謎の美女集団が声明文を出しました』
『――我々は傾国部隊……人類を粛正する女神なり』
『それぞれ……クレオパトラ、ヨーキヒ、カグヤ、ダッキ、フジコを名乗っており、おそらく、コードネームで――』
最初にバズった動画は、東欧のとある刑務所の監視カメラ映像だった。
鉄格子が紙のように引き裂かれ、看守が為すすべもなく無力化されていく。
そして、凶悪犯罪者たちが次々と凄惨な粛正を受けていた。
その中心に、艶やかで煽情《せんじょう》的なドレスをまとった五人の女がいた。
次にバズったのは、A級の配信者パーティが『治安のため』に現地入りし、秒で壊滅する映像。
その次は、世界的に有名なSランク配信者チーム『バビロンズ』が、意気揚々と挑んで、こちらも数秒で全滅する映像。
『は? バビロンズが瞬殺されたって?』
『嘘だろ、リーダーのアレックスはレベル32だぞ』
『時空ヶ丘をのぞけば、人類最強のチームなのに……』
『この傾国部隊って美人すぎん? そこらのアイドルチームなんか目じゃねぇぞ』
『AI絵より美形じゃね?』
『これ、誰も殺してない感じ?』
『報道によると、マジでやばい凶悪犯罪者だけ粛正して、それ以外のやつはスルーされているっぽい』
『凶悪犯罪者も死んではいないみたいだな』
『こいつら、ガチ女神なんじゃね?』
俺は、スマホの画面越しに、傾国部隊を名乗る女どもの姿を、何度も、何度も見返す。
「……ずいぶんと、まあ、出来のいい女どもだ……」
思わず、声が漏れた。
人形のように整った顔、それでいて、瞳の奥に宿る獰猛《どうもう》な光。
豊満で高身長で、それなのにスレンダー。
女と男の両方の夢をそのまま形にしたような美女が……5人……
「こいつらは俺にふさわしい。……そして、こいつらも俺を知れば、同じことを思うだろう。自分たちにふさわしいのは、猛田カルマだけだと」
その日の夜、協会から連絡がきた。
こいつらをどうにかしてくれ、という依頼。
すべてが、俺にとって都合よく進む。
やはり、俺は愛されている。
すべてから。
俺に嫉妬しているアンチどもも、結局のところは、俺を愛している。
『低能な自分たちじゃあ、俺から愛されることはありえない』と本能で理解できているから、反転してアンチになっているだけ。
世界最高スペックを誇る俺はすべてから愛される。
それがこの世界の道理。
★
協会日本支部長・綾大路の執務室に呼び出された俺は、
対面のソファーに深く沈み込みながら、映像資料に目を通していた。
「猛田くん……頼む。S級の配信チームだけではなく、世界中の連合軍が総出で挑んだが、すでに三度、彼女たちに敗れている。死者こそ出ていないが……と言うか、それこそが何より恐ろしいのだが……このままでは、各国の治安機能そのものが崩壊しかねない」
綾大路が、額の汗を拭いながら、そう言った。
軍が挑んで負けて……それで誰も死んでねぇ……
確かにえぐいな。
つまりは、それだけ力の差があるってこと……
『制圧戦』では、殺すより、殺さない方がはるかに難しい。
この俺に近い知性や力がないと不可能な領域……
「奴らは、今、日本の刑務所を次から次へと荒らしている。彼女たちが何者かは知らないが、その力は一人一人がSS級モンスター以上ではないかという予測が出ている。……こうなったら頼れるのは、時空ヶ丘2年B組の最大戦力である君だけだ……ほかのメンツにも一応声をかけたのだが……『SS級以上が相手だと勝てない』と尻込みするばかり……」
「だろうな……あいつらはバカじゃねぇ。そして、俺ほどは強くねぇ」
俺は、資料の中の写真を、指でなぞる。
「なあ、綾大路《あやのおおじ》。こいつらを捕獲した後……その後は、俺の好きにさせてもらえるってんなら、動いてやってもいいぜ」
「……」
綾大路の顔が、一瞬こわばった。
「君の言う『好きに』とは……」
「みなまで言わせるなよ、野暮《やぼ》だぜ」
「……」
綾大路は、しばらく黙り込んだ。
このオッサン、迷ってやがる。
愚かしいぜ……時間の無駄でしかねぇ。
「猛田くん……いくらなんでも、それは――」
と、そこで、隣に控えていた女幹部が、綾大路の耳元で何かを囁く。
「……追加の被害報告が届きました。現在、奴らが襲っているのは、このすぐ近くにある東原刑務所です。執拗に刑務所ばかりを狙っている集団ですから、この支部が狙われることはないと思いますが……絶対ではありません。われわれダンジョン対策協会を危険因子とみなして襲ってくる可能性も……ゼロでは……」
「――くっ」
綾大路の眉間に、深いしわが刻まれる。
「……わかった。緊急事態だ。彼女たちを制圧してくれるのであれば……その後の処遇について、我々は、深くは追及しない」
「よっしゃ……ふふ……くく」
俺は、ソファーから立ち上がりながら、口元を歪めた。