俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
サイド 猛田視点3
……なんだ。
なんなんだ、この差は。
俺は、震える足で、なんとか立ち上がる。
「く、くそが……ま、まだだ……っ!!」
立てた。
それだけで、死ぬほど自分を誇りに思う。
俺は強い。
強さも、賢さも、根性も、美しさも、すべて人類最高峰!
それだけは絶対にゆるぎない事実!!
……なのに、女は、最強の俺を見下して、
「……『まだ』なのは当たり前だろ。なんで、この程度で終われると思っている? 甘えるな。お前の地獄は、ここから始まるんだよ」
そう言いながら、女は接近してきて、容赦なく俺をボコボコにした。
「ぐっ、がっ! くっ……れ、煉獄・爆双斬!!」
相手の攻撃の合間を縫《ぬ》って、どうにか超スキルを発動させるが、
「なるほど……確かに、それなりに高火力だ。この一撃なら……相性しだいで、レベル300ぐらいの相手にも、もしかしたら勝てるかもな」
「煉獄――」
「まあ、でも、それが限界」
そう言いながら、女は俺の超スキルを途中でカットするように、俺の腹に前蹴りを入れてきた。
動きは少ないのに、とんでもない火力のヤクザキック。
俺は思わずゲロをぶちまけた。
「げはっ、ぐほっ……」
「まだだぞ。まだ終わらない……本当なら惨殺したいんだが、それは許されていないから、せめて、その手前まではやる……」
えぐすぎる……
手も足も出ねぇ……
い、いくらなんでも、強すぎるだろ……
なんだ、こいつ……
拳が届く前に、毎回カウンターをくらう。
どうにか相手の呼吸を覚えてえ、回避に成功したと思ったら、
次に、もっと踏み込んだ攻撃がやってくる。
ありえねぇだろ……
俺は、SSモンスターを一撃で倒せる勇者なんだぞ……
この女……異常……
さすがにこれほどの強さは、こいつだけだろ……
こいつだけが、この美女チームの中で、飛びぬけて強いに違いなーー
「言っておくが、余《よ》は傾国部隊の中で飛びぬけて強いわけじゃないぞ。我々5人の実力は拮抗している」
うそだ……
こんなバケモノが……
全部で五人もいるなんて……
あ、ありえねぇ……
視界の端に、まだ何もしていない残りの四人が映る。
誰一人、こちらに向かって構えすらしていない。
構える必要すらない、とでも言いたげに……
(――ブラフだ。そんなわけねぇ。おそらく、こいつらは……えっと……えっと……そうだ……何かしらの強力な『神器』を使ってんだ……)
異世界で聞いた伝説。
世界のどこかには、とんでもない究極アイテム――『神器』が眠っているという噂。
俺はまだ見たことねぇが……噂じゃ、装備するだけでレベルが100上がるアイテムなんてのもあるそうだ。
こいつらは、おそらく、それを使っている。
あと、たぶん、後ろの連中が、無詠唱で、剣減領域を使ってんだ……
あと、ほかにも、たぶん、いろいろデバフ魔法を使ってんだろう……
なんて卑怯な連中……俺とこの女の神聖な一騎打ちを邪魔しやがって……
正々堂々と戦いやがれ……
本当なら、俺はお前らより強い……
俺は最強なんだ……
お前らを従えるにふさわしい王なんだ……
「猛田カルマ……噂は聞いているぞ」
濃紺の髪の女が、俺の髪をつかみ上げて、
「この世で最も醜いゴミ……誰よりも愚かで、救いようのないクズ」
「…………ぅ……ぐぅ……」
「なるほど、なるほど。噂通り、これは醜いな……ヘドがでる」
吐き捨てながら、女は、俺の顔面に、容赦のない拳を突き刺した。
「がぁあああ!」
骨が軋む音。
視界がぐるぐると回り、天井と床の区別すらつかなくなる。
鼻が折れて、歯が折れて……
それなのに、女はまだ俺を殴り続ける。
「や、やめ――」
「貴様ごときの命令を、なぜ余が聞かなければいけない?」
その後も、俺は、なすすべもなく、殴られ、蹴られ、地面に叩きつけられ続けた。
最強のはずの超スキルは、一度たりとも、あの女たちに届かなかった。
殴られるたびに、俺という人間を形作っていたものが、一枚ずつ、剥がれ落ちていく気がした。
天才。
最強。
この星の王。
――そんな言葉が、次々と、地面に転がる自分の歯と一緒に、砕けて散らばっていく。
「ふざ……けるな……」
俺は、バラバラになったそれらを、どうにかかき集めて、
「俺は……負けて……ない……」
気づけば、俺は、瓦礫《がれき》の中で仰向けに倒れていた。
視界の端で、まだ生きているスマホの画面には、コメントが、恐ろしい速度で流れ続けている。
『猛田、ざまぁ』
『まだ猛田生きてるな……やっぱこの美女たち、殺しはしないんだね』
『じゃあ、別にいいんじゃない? 犯罪者をいじめてるだけだし』
『あの美女たちは人類のゴミを掃除しているのかも』
『本当の人類の救世主?』
『まあ、猛田はゴミだもんなぁ』
『私刑はダメだろ。法治国家なんだから』
『薄っぺらいコメントw』
『猛田くん、がんばれ!』
『あ、まだ猛田応援するバカいるんだ』
『引くぅw』
『ジュリア様、こないの?』
のんきなバカどもだ……
何もわかってねぇ……
俺は勝ってた……
正々堂々の実力勝負なら……確実に……
本当なら楽勝で勝って……ベッドで、この女どもをひーひー言わせていたんだ……
そうだ……俺は……負けて――
「お前、マジで、キッショ」
俺の顔にタンを吐きながら、女は俺の顔を思いっきり踏みつけた。
『ご褒美です!』
『猛田、そこ変われ!』
『傾国部隊、ありがとう!』
『猛田くん、立って!』
『よっしゃぁあああ! 猛田、逝《い》ったぁあああ!』
『うれしぃいい!』
『生まれてきて一番幸せ。生きててよかった』
――そして、俺の意識は途切れる。