俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
18話 猛田はいつでも、トウシに恥をかかせたい。
俺の名前は砦トウシ。
時空ヶ丘のレベル5だ。
――ダンジョン配信を終え、俺たちはダンジョン入口前でたむろっていた。
空を染めていた夕焼けが、赤紫色へ変わりかけている。
今日の配信はゴミだった……ヤマもオチもなかった……
そう簡単にバズるネタなんか思いつかないからなぁ……
もうすでに、アイディアは出し切ってしまった。
いや、まだ、あるにはあるんだけどねぇ……
それぞれ、適切なタイミングとか事前準備とか……
「なぁんか、最近、ずっと配信ばっかやってんなぁ……」
坂田が、伸びをしながら、大きなあくびを一つ挟んだ。
「こっちに帰ってきてから、俺ら仕事しかしてねぇよ。前みたいに、カラオケとか行こうぜ。金は腐るほどあるのに、全然使ってねぇよ」
「カラオケなんて一人2000円前後だから、お金使うってレベルじゃないけどね」
九条が、笑いながらつっこんだ。
「細けぇことはいいんだよ」
坂田は気にした様子もなく、周囲を見回し、
「なあ、いっそのこと、全員でいかねぇ? 全員でカラオケって行ったことねぇじゃん。異世界を生き抜いた戦友同士、ここらで、さらに親睦を深めようぜ」
その一言に、何人かが賛成の声をあげた。
陽キャ系はこれだからタチが悪い。
みんなでウェイウェイすることだけが正義だと思うなよ。
なんて思っているのは少数派らしく、次第に、結構な人数が、参加を表明しだす。
殺伐《さつばつ》とした異世界の記憶が、まだ、みんなの中に色濃く残っているせいだろうか。
こういう、なんてことない誘いが、やけに嬉しそうに見えた。
「砦もこいよ」
坂田の視線が、こっちに向いた。
バカ野郎が。
まったく……
陰キャをナメるなよ。
みんなとカラオケだと?
冗談は俺の終わっているスキルだけにしてくれ。
「悪いけど、俺、カラオケボックスに入ると死んでしまう病にかかっていてね」
「長っ鼻の狙撃手いるんだけど」
坂田のクリティカルなツッコミで、どっと笑いが起きる。
その笑いの輪の中心で、猛田だけが、にやりと笑いながら、こちらを見ていた。
「砦さんよぉ……お前、もしかして音痴なのか?」
「そっちは?」
「万能天才超人の俺にできないことがあるとでも?」
自信満々にそう言い切る猛田を見て、俺は、思わず、ボソっと、
「……マジで、普通にめちゃくちゃうまそうだなぁ……」
「98点以下はとったことがない」
「……あ、でも猛田でもオール100点は厳しいんだ」
「曲によっちゃあ、100が出ないのもあるからな。ラッドのセツ〇レンサとかな」
「……へぇ」
「ミセスも99が限度だ。ボカロ系も基本は無理だな。AIボーナスを調節して無理やり100を出すことはできるが、それは美しくねぇだろ」
「……いや、知らんけど……俺、カラオケは詳しくないから……」
いつも思うけど……なんで、こいつ、こんなクソなのに、こんななんでもかんでも高性能なんだ?
意味がわからん。
猛田はニっと笑い、
「砦くんよぉ……ぜひ、みんなとカラオケに行きましょうや。クラスメイトとの交流は大事だろ。お前は俺らの指揮官様なんだからよぉ」
その笑い方で、だいたい察しがついた。
俺が音痴だと予想し、みんなの前で歌わせて恥をかかせようという作戦か。
なんてわかりやすいんだ……
本当に頭いいのか、こいつ……
猛田は、頻繁に『突如としてバカになる』んだけど、なんかの病気か?
「この前の田中玉……痛かったなぁ……一緒にカラオケにいってくれないと、この心の傷は癒えないなぁ」
「いや、あれは完全にそっちが煽ってきたからじゃん。これ、撃たないと帰してくれないと思ったから撃っただけで――」
「うるせぇ、黙ってついて来るんだよ。そして、みんなの前で恥をかくんだよ。そうすることでしか得られない栄養があるんだよ」
むちゃくちゃ言ってらぁ。
こいつ、マジで終わってんな……
「行かねぇよ。そんな暇――」
と、そこまで言いかけて、俺は、ふと思いなおす。
……まて、これ、バズるんじゃないか?
こいつらは全員が世界的有名人。
歌がうまいかどうかは関係ない。
全員でカラオケで楽しそうにしているところを配信する……ということ自体に、意味がある。
普段見せている『無双する英雄たち』の顔とは違う、素の一面。
そういうギャップこそ、視聴者は求めているんじゃないか。
――と、そこで、少し離れた場所にいた琥珀《こはく》が、静かに口を開いた。
「砦さんはいかないのですね。では、申し訳ありませんが、わたくしは緊急かつ重大な用事がございますので帰らせていただきます」
続けて、ジュリアも、素っ気なく、
「私もいかない。意味がないから」
興味なさげに、そっぽを向いている。
対見《ついみ》も、
「私はどうしようかなぁ……別に行ってもいいけどぉ……」
と、腕を組みながら、マジでどっちでもよさそうに言った。
――が、
「俺、参加するわ」
俺がそう告げた、その瞬間。
「わたくしも参加します」
「参加する」
「あ、私も私も」
琥珀とジュリアと対見が、食い気味に参加を表明した。
いったい、今の一瞬にどんな心変わりがあったというんだ……
ワケのわからん連中だな……
女子の考えていることは、どんな時であろうと一ミリもわからん。
三人の勢いに、坂田が、若干引き気味に、
「お、おう……なら、みんなで行くか……」