俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
21話 決戦前夜。
ついに残り1日。
つぅか、明日が決戦!
ゲロ吐きそうなぐらい緊張しているけど、こういうときこそ丁寧かつ慎重に数字を見ておかないとな。
昨日のカラオケで、なんだかんだダンジョンポイントを10億ほど稼いだ。
これで、残りは25億……
仮に今日、何かしらでちょこっと5億や10億バズっても、NPCを作成することもできねぇ。
中途半端に稼いでも中途半端に終わる。
なら、今日は別のことに時間を使った方がいい。
猛田のレベルを上げて参加させるかどうか、ちょっと悩んだが、
1000だとなぁ……ここで死ぬ可能性も高い。
あいつは高い視聴率をもっているから、今後のことも考えると、ここで肉壁使用するのははばかられる。
というわけで、俺は今日、地下迷宮センエース第18階の鍛錬世界で戦闘訓練を積むことにした。
俺は異世界でも、一度もまともに戦っていないから、戦闘能力が皆無に等しい。
別に俺は田中玉を撃つだけの一発屋固定砲台だから、
戦闘技術を鍛える必要はないんだけど……
まあ、一応、やれることは全部やっておこうと思ってね。
役目が一発屋だから、別に体を休める必要すらないし。
第18階は、天井が異様に高い、円形の闘技場のような空間。
床は磨き上げられた黒石で、蹴り込むたびに、乾いた音が反響する。
空気自体が、いつもの迷宮とは違って、ピリピリと張り詰めていた。
というわけで、現在、ここには、ロキ、ジャンヌダルク、ゲムゥシャ、傾国部隊の5人、アシュラ、がそろっている。
みんながいつもやっている組手とか、鍛錬とかもろもろ見せてもらったが、えぐいね。
拳が空気を裂く音、地面が抉れる音、そのたびに、俺の心臓が変な感じにきゅっとなる。
すごい、すごい。
みんな、一流アスリートが泡吹いて倒れるレベルの動きをしている。
これは、俺がなんかする必要はマジでないな……
と心の底から思ったものの、一応、体を動かしておく。
「旦那様……腰をこう回す感じでございまして」
ロキが、律儀に手本を見せながら、そう教えてくれる。
流れるような、無駄のない動き。
同じことをやっているはずなのに、俺がやると、なぜか、おじいちゃんの体操になる。
「こうっすかね……」
言われた通り、見様見真似で真似てみる。
「すばらしい。さすが、旦那様」
生暖かい目で拍手を送ってきやがる……
3歳児をあやすみたいに言われてもうれしくないよ?
なんせ、俺、高校2年生だからさぁ……
今日一日ずっと、正拳突きのやりかたを教えてもらっているのだが、まあ、うまくいかないね。
俺は、運動神経がぴったし60点なんだ。
俺にできることは、テストの点で普通に間違わないことだけ。
それ以外は何もできないポンコツ。
俺が、もう一度、しっかりと正拳突きをすると、
周囲にいた傾国部隊が、
5人そろって、盛大な拍手をしながら、
「「「「「すばらしい!!!」」」」」
とあおってきやがった。
許されざる挑発。
てめぇらの血は何色だ……
あろうことか、アシュラまで、
「さすがは王……これほどまで見事な拳は見た事ありません」
「なるほど……今まで、拳ってのを見たことなかったんだな。ずいぶん特殊な人生だったな……」
ジャンヌダルクとゲムゥシャも、同じようにほめてきやがった。
全員正座させて、一発ずつ殴ってやろうかな。
お前らがアホみたいにほめてきた正拳突きでよぉ……
しばらくそんな調子で稽古を続けたあと、ロキが、思い出したように口を開いた。
「最後に、この地下迷宮センエースに伝わる伝説の必殺技を伝授いたします」
「……そんなのあるんだ」
「やり方はいたってシンプル。先ほど教えさせていただいた正拳突きをしながら、『閃拳《せんけん》』と叫ぶだけでございます」
「……これ以上、必殺技の名前を叫ぶのやだなぁ……まあ、名称的に、田中玉よりはましだけど……改めて考えると、田中玉ってほんとひどいな……」
俺はブツブツと文句を垂れつつ、一応、言われた通り、腰を回して、拳を突き出しながら、
「閃拳」
と口に出してみた。
すると、先ほどまでのヒョロイ拳ではなく、ビュッっと、空気を切り裂くことができた。
突き出した拳の周りだけ、一瞬、空気がゆらりと歪んで見えた。
必殺技の名前を口に出しただけなのに、明らかに精度が上がっている。
それも、なんか……体感、『威力3倍』ぐらいに強くなってないか?
「ぇ……なんで?」
「お見事でございます。さすが、旦那様」
「さすがもクソも……俺、閃拳って言っただけなんだけど……」
「それこそが、このダンジョンに伝わる必殺技……閃拳でございます」