俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
25話 女は全員性奴隷! 男は皆殺し!
俺は止まらずに歩く。
恐怖で足が震えているけど、
それでもとまるわけにはいかない……
アカシアも、こっちに向かって歩いてくる。
たがいに時速3キロぐらいで近づいていき、
この広大なエリアの真ん中で相対する。
手を伸ばせば届く距離で、
アカシアは、俺に、
「震えているな。私を恐れているのか」
「見ればわかると思うけど……俺に力はない」
「雑魚にみせかけているブラフかもしれんな……そういう卑怯な手を使う王とも、かつては戦争をしたことがある」
「ないよ、何も、マジで……正直に言うけど……用意していた切り札が……使い物にならなくなったんだ……だから、こちらに勝機はない」
「……仮にそれが事実なら、貴様は王として最低だと言わざるをえない。不利になる情報は死ぬ気で隠さなければいけない。それが、多くの民の命を背負っている者の最低限の責務……その程度もわからんか?」
「わからないよ。俺は別に王じゃない……たまたま偶然、この場に立っているだけの……ただの何の力もないガキだ」
「……つまらんな。せっかく久々の戦争だったというのに……ゴミを薙《な》いで終わりとは……それではあの世で指をくわえて見ているといい。貴様の民が凌辱され、殺され、使いつぶされていく様を。すべては貴様の責任だ。王の地位を……そして戦争という狂気をナメた代償を払え」
そう言って矛を振りかぶるアカシアに、
俺は右手を向けて、
「待って」
「なんだ。命乞いか?」
「テーブルゲームで勝負してくれない?」
「……?」
「見てわかる通り、普通の殺し合いではあんたが100:0で勝つ。それはゲームになっていない。あんたもつまらないだろう」
「……」
「テーブルゲームなら、お互いに勝機が生まれる。もちろん、こちらが不利な条件でいい。ちゃんと勝負で決めないか?」
正直、これを受けてくれるとは思っていない。
向こうにメリットがなさすぎる。
俺は、みっともなくあがいているだけだ。
どうせ死ぬなら……せめてできることを……と、
そう考えて、必死にひねり出した懇願……
そんな俺の、正真正銘『一生に一度の頼み』を、
アカシアは、
「くくく……」
と一度、小ばかにしたように笑って、
「貴様は……頭脳戦ならば、勝機があると思っているのか?」
「頭脳戦なら勝機があるというより、肉体戦だと勝機がなさすぎるだけ……」
「一つ、絶望を積んでやろう。……私は肉体にも自信があるが……ソレ以上に、知性の方がはるかに優れているという自負がある」
そう言いながら、自分の頭をトントンと指さす。
すごいドヤ顔だ。
……どうやら、知能によっぽど自信があるらしい。
マジかよ。
なんで、そんな高スペックなやつが最初の敵なんだよ……
一面で裏ボス出てくんなよ……
そこで、アカシアは、ため息交じりに、
「貴様はレベル5で……向こうの女どもは……3匹ともレベル2000か……ふっ。このままでは、確かに、数回、矛を振るだけで終わってしまうな……」
鼻で一度笑ってから、
「いいだろう。受けてやる。……さらに、貴様にとって有利な形式で勝負してやろうではないか」
「ぇ……マジで?」
「この世界の遊戯の中から、貴様が自由に選んでかまわない」
「……え、でも、あんた……こっちのゲームのルールとか知らないよね? もしかして、事前に調べてきたとか?」
「この場で確認する。……ああ、ちなみに、運で勝負が決まるゲームは認めない。知力で差がつくゲームでなければ意味がない」
「それは確かに……」
「この世界の『運が絡まぬ、智謀《ちぼう》を競うゲーム』……何がある?」
「囲碁……将棋……チェス……あたりが運がほとんど絡まない」
「ふむふむ」
そう言いながら、アカシアは、
ぱちんと指を鳴らし、
「ライブラリリンクス」
と、何か呪文を唱えると、
「19路の盤上で白黒の地を争う囲碁。王将を逃げられぬ状態へ追い込む将棋。将棋と類似したチェスか……」
「なにを……しているの?」
「この世界の図書館の一つとリンクした……その中から、三つのゲームについての解説本を……今、読み終わった……」
「……マジすか……」
「確かに、運は介入しないようだ……チェスの方は、先手が著しく有利なゲームに思えるが。碁もコミ6目半だと、先手が有利すぎるな」
「……」
「どうした? まさか、本当に頭脳戦では勝機があるとでも思っていたのか? くく……愚かしい、実に愚かしいなぁ」
あんた、普通に、めっちゃめちゃ頭いいんかい……
マジで完全に終わったなぁ……
正直言って、別に俺は賢いわけじゃない……
ただ、頭脳戦なら、勝機はゼロじゃない……と思っただけ……
しかし、これは……思った以上に勝機ゼロくさいなぁ……
「さて、どうする? 将棋か囲碁……どっちでも好きな方を選べ。チェスを選んでもいいが……私が先手になった時点で私の勝利が決まるぞ。それは運で決まるのと変わらない」
「……じゃあ、将棋で……」
「くく……言っておくが、将棋は、私が最も得意とするタイプの遊戯だぞ」
「そんな感じがしますねぇ……はぁ……」
「すぐに詰んでやろう。驚くほどすぐにな」
そこで、アカシアは、またパチンと指を鳴らして、
「創造ランク60」
魔法を使うと、俺たちの前に将棋盤とコマが出てきた。
「ランク60っすか……」
ちなみに、ロキやジャンヌダルクも魔法を使えるが、彼女たちが使えるのは30が精々。
魔法のランクは1違うだけで、だいぶ性能が変わる。
……こいつ、ほんと、何もかもが規格外……
……正直、開戦前は、『田中玉で普通に勝てる』と思ってた……
ぶっちゃけ、直前までは『こいつの次の侵略者がくるまでに、どうやってバズらそうか』って、のんきにそんなことを考えていたよ。
あーあ……なんで、こんなことになるかなぁ……
アカシアは、矛を置いて、盤の前に座り、
「くく……それでは始めようか」
「……はい、やりましょうか……俺の人生最後のゲームを」
「そう悲観するな……ちょっとぐらいは勝機があるかもしれんぞ」
「……ないでしょ」
「くく、ないな」
こうして始まった。
俺とアカシアの将棋対決……
――結果は、