俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
1話 傾国部隊と同じかそれ以上に派手な美貌の女性。
玉座の間に戻ると、
豪華絢爛なミニスカ浴衣に、燃えるような黒髪のツインテールという、傾国部隊と同じかそれ以上に派手な美貌の女性が、片膝をついた平伏の姿勢で待っていた。
「おかえりなさいませ、主上様」
「えっと……俺のことかな?」
「はい……偉大な御方……この上なく尊き命の王、果てなく美しい、私のご主人様。この世でただおひとり、私が身も心もささげた、唯一の神。けっして見間違えようのない、論理を超えた美の結晶。麗《うるわ》しき永劫《えいごう》にして栄光の閃光」
息継ぎのタイミングすら見当たらない、なめらかな賛美の羅列。
聞いているだけでクラクラしてくる。
『俺には過剰』とかのレベルじゃなく、それほどの称賛を受けるに値する人間は、どこを探してもいないと思う。
「……また、このタイプか……いや、今までで一番重たいかも。胃もたれがエグい……ぶっちゃけ、ストレス……」
ロキたちが天一こってりだとしたら、
アダムは二郎系って感じかな……
「……えっと、平伏しなくていいよ。普通に楽にしていてほしい、むしろ」
「かしこまりました」
そう言って立ち上がる。
とんでもないスタイルと肌のツヤ……えぐい美貌だ……
AI絵でも、ここまで極端な美の造形はなかなか出せないと思う……
ここまでバキバキに仕上がっていると、
もはや『きれいな人だなぁ』とかいう感想は皆無で、
『ごっついな……』としか思えない……
俺は、玉座に腰かけて、
「あの……全員、楽にしてくれていいよ。てか、マジで、そうじゃないと肩こるんだけど。俺の肩の安寧《あんねい》も考えてくれると助かるというか……」
と命令するも、全員、平伏のポーズをとったまま。
……もういい、めんどくさい。
勝手にしてくれ。
もう知らん。
そこで、俺は、ダンジョン魔王の権能を使って、
アダムのスペックを確認してみた。
「レベル……1200か。まあ、強いけど……殲滅ボーナスの最上級配下っていうから、もっとえぐいのを期待していたんだけど……案外、普通だな……」
正直、拍子抜けした。
もっと桁違いの数字が出てくるものだと身構えていたのに。
と、そうつぶやくと、
「主上様」
「え、あ、はい、なんでしょう」
慣れねぇなぁ……
俺のことは、砦って呼び捨てにしてくれないかなぁ……
もしくは『金魚のフン』とかでいいよ。
そっちの方がわかりやすいし、精神的にも楽なんだけど……
「私は固有スキル『閃化』を獲得しておりまして……一時的にですが、レベルを上昇させることが可能です」
「あ、そうなんだ……へぇ」
このダンジョン、なんか、やたら『閃光』の字を推してくるな……
そういえば、ウチの担任の苗字も『閃』だったなぁ……
あの人、どこいったんだろ……なんかいなくなってるけど……
まあ、別にいいんだけど……
「えっと、その、閃化ってやつ、やってみてくれる?」
「かしこまりました」
そう言いながら、アダムは胸の前で手をあわせた。
神様にお祈りするみたいなポーズ。
そして、
「閃化」
とつぶやいた瞬間、彼女の輪郭が、燃えるような輝きに包まれた。
空間の空気そのものが、ずしりと重みを増す。
「ぉお……レベル12000に上がった……10倍になるのか……すごいね」
「おそれいります」
「これは、ぜひ、レベルを借りたいねぇ……って、あれ……名前、かえられない……田中アダムにしたいのに……」
ウィンドウの改名欄を何度タップしても、入力を弾かれる。
「おそれいります、主上様……私の名は固定されておりまして、ダンジョン魔王権能で変更することができません」
「そうなんだ……最上級配下は田中として運用できないのか……まあ、でも、それだけ強いなら……別にいいか……」
「もったいないお言葉」
「てか、あれだね……アダムっていうから、男性かと思っていたけど……女性なんだね。……あれかな。もしかして、女性の恰好をしているだけで、実は男性だったりするのかな?」
「いえ、私の性別はメスでございます」
「……め、メスて……やめようよ、なんか、コンプラ引っ掛かりそうで怖いよ……」
「私の原初種族はエビルアメーバでございまして、オスメス明記が普通でございました。が、主上様が、別の表記を望まれるのであれば、そのように」
「あ、そうすか……じゃあ、普通に女性ってことでいいよね」
「もちろんでございます。私の魂《こん》も魄《はく》も、すべて主上様のもの。すべて、ご自由に」
「……あ、ありがとうございます。助かります。おもに、戦力的な意味ですけど」
12000の無料追加はマジで助かる。
これで、10日後の戦争は楽勝だ。
問題はその次だよなぁ……
12日後にくる敵の大将……
……なんだよ、レベル53万って……
ナメやがって……
てか、この数字、不穏なんだよなぁ……
まさかと思うけど、53万は第一形態の話で、
実は第四形態まで変身できます……とか言わないだろうな……
それだけは勘弁してくれよ、マジで……
玉座の背もたれに深く体を預けながら、俺は、まだ見ぬ次の敵の顔を想像して、小さく身震いした。