俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
4話 猛田ヤバ、自分に酔いすぎ。
目の前に立っていたのは――
白銀の鎧を纏った一人の女性だった。
背丈は180センチ近くあるだろうか。
腰まで届く銀髪が、光の名残を受けてきらきらと輝いている。
その瞳は、迷いなくまっすぐに俺を見据えていた。
田中ジャンヌダルクは、ゆっくりと片膝をつき、胸に手を当てた。
「――我が主。この身は、あなた様を守るために生まれ落ちました」
その声には、聞く者を安心させるような、澄んだ強さがあった。
「俺じゃなく、世界を守ってほしいんだけど……」
「あなた様の命こそが何よりも大事なもの」
「……変わっているねぇ。俺なんて、そこまで言ってもらえるような男じゃないよ。嬉しいし、ありがたいけどね……」
「尊き方……なんなりとご命令を」
「……あのさ……これは、ロキにも言っておきたいんだけど、俺は偉大でも尊くもないから。普通に接してくれていいよ」
そう言うと、ジャンヌダルクが、
「そんなことはございません。あなた様は、この世界の代表。至高なる頭脳の持ち主であり、高潔な精神の持ち主で、深き愛を知る究極の英雄!」
「……すごい英雄がいたもんだ。で、そのすごい人はどこにいるのかな? ちょっと見当たらないんだけど……」
きょろきょろと、英雄を探す俺に、ロキが、
「偉大なる王よ。あなた様は紛れもなく、この世界……いや、この銀河の支配者。願わくば、そのお立場にふさわしい態度をしてくださいますよう」
「……うん、わかった。もういいや、それで」
軽く流しながら、俺はポイントを確認する。
「ロキと同じ……レベル1000で創造できるのは助かるけど……相手のレベルが5000なんだよなぁ……再生数を稼いで、レベルを上げないとな……」
ダンジョンポイントは、再生数で決まる。
どうにかして、バズらせないと――
「うーん……そうだな……」
実は、ダンジョン魔王の力の一つに、
『全てのダンジョン配信者のチャンネルにアクセスできる』というのがある。
その力を使い、俺は片っ端からチャンネルを漁り、何が視聴者の心を打つのか分析していた。
その結果、たどり着いた答えは――
「猛田がピンチになって、ジュリアが助けた動画が……爆裂に伸びているな……」
悩んだ末に、俺は、
「よし……決めた」
とある作戦を開始する。
★
翌日、ダンジョン入口。
すでに集合していたクラスメイトたちの前に顔を出すと、真っ先にジュリアが振り返った。
「トウシ!」
すぐさま駆け寄ってきて、
「無事だったのか……怪我は?」
「ケガとかはしてないよ。ありがとう」
「……そうか。よかった」
そこで、猛田が、
「あ? なんだ、お前、生きてたのか。てか、どこいってた?」
「飛ばされた先がダンジョンの外だったんだ。転移したショックで気を失ってて……起きたのがさっきなんだよ」
「転移ぐらいで気絶って……どんだけ貧弱なんだ……マジでいい加減にしてくれ」
「俺なんかいなくても、別に問題なかったでしょ?」
「問題大アリだ、ぼけぇ。回復アイテムはてめぇに持たせてんだろうが。ふざけんな」
そう言いながら、猛田がまた殴ってきた。
痛いなぁ……世界中の田中から元気をわけてもらおうかな……
と思ったが、そこでジュリアが、
「味方を殴るな。何度言えばわかるんだ」
と猛田に切れると、猛田も牙をむいて、
「悪いのはコイツだろうが。なんで、俺を非難してんだ。頭おかしいのか、お前。寝不足でイラついてんだから、ヒスってくんじゃねぇよ」
よく見ると、猛田の目の下に、濃いクマができていた。
――呪いの効果で眠れなかったらしい。
これから毎晩くるしむことだろう。
猛田は、しんどそうな顔で俺に背を向けると、
「はぁ……よし、じゃあ、今日もダンジョン配信、頑張っていくぞ。昨日の恥をすすがねぇとな」
そこで田中ユウトが、おそるおそる口をはさむ。
「あと、普通に、昨日の鬼を倒さないと……もし、あれがダンジョンの外に出て暴れたら……」
「わかってるよ、いちいち言われなくても!」
声を荒げる猛田をよそに、回復担当の女子クラスメイト『山本コハル』が、小さくため息をついた。
「あの鬼……倒せるとしたら、私たちだけだよね……他のダンジョン配信者じゃ……手も足も出ないと思う……」
彼女の回復スキルはハンパじゃない。
昨日、粉々に折れた猛田の腕を、ものの数十分で元通りにしてみせた。
ポーションのような即効性はないが、時間さえかければ、たとえ足が引きちぎれても元に戻る。
俺のクラスメイトたちはマジで優秀。
★
ダンジョンに入り、探索を開始する。
みな、それぞれスマホを構えて配信中。
このダンジョンに入ると、誰でも『スマホを浮かして、自動的に撮影させる』という配信系魔法が使えるようになる。
猛田が両手をフリーにしたまま、カメラ映えする角度で振り返った。
「みなさん!! 昨日、取り逃がした鬼を、今日こそは退治しますよ! 皆様の安全はこの俺が守ります!」
コメント欄が、すぐに沸き立つ。
『猛田、ヤバ。自分に酔いすぎ』
『昨日みたいに、泣きわめく姿、期待』
『がんばれ、猛田くん』
『調子のんな、死ね』
『前から嫌いだったんだよ』
アンチとファンの闘いは圧倒的にアンチ優勢。
これも呪いの効果かな?