俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
2話 民間人を次々に殺していくアダム。
傾国部隊チャンネルを稼働させたことで、結構なポイントを稼ぐことができた。
一日で、切り抜き等含めて、合計7億ぐらい稼いでくれて、非常に助かる。
それは間違いない……
……のだが、
「そもそも、商品が高すぎるんだよなぁ……」
7億再生なんて、普通の視点だとありえないほどの再生数なのに……
それだけの数を稼げるって、本当にすごいことなのに……
「ガチャに……ロキたちのレベルに……できたら、新NPC……だめだ……やりたいことは無限にあるのに……ポイントがまったく足りない……」
現在、合計で『32億ポイント』ぐらい……これじゃあ、ガチャの一つも回せない。
一応、今後、傾国部隊チャンネルを積極的に走らせていくつもりだから、前よりは効率的に稼げるだろう。
あいつらは本当に有能。
ああいう人材が配下でよかった。
……まあ、そういうことを正面から言うと、号泣の勢いで美辞麗句を並べ立ててくるから、なかなか当人たちには言いづらいんだけどね。
「……次の『レベル10000』はともかくとして、『レベル530000の強敵』を殺さないといけないとなると……生半可じゃ話にならねぇ……ちょっと、本格的にバズらせにいかねぇと……どうする……どうすれば……」
このまま、地道に稼ぐだけだと、決戦の日までに必要なポイントが集まらない。
やるなら、とことんやらないと……全員が殺される。
ん……
一つ、思いついてはいるんだけど……
確実にバズるプランを……
うーん……
……できれば、この作戦はとりたくなかったけど……
悩んだ末に、俺はアダムを見て、
「汚れ役を……やってもらいたいんだけど、いける? いやなら、断ってくれても――」
「あなた様のご命令であれば、それがどのような内容であれ、喜んで」
「……ありがとう。俺にできるお礼はなんでもするから、思いついたら言ってくれ」
そこで、プランを伝える。
「やってほしいのは――」
★
――翌日のダンジョン配信。
それは、ダンジョンに入って2分もたっていない頃に起きた出来事。
ダンジョンの通路の隅に、
『まがまがしい紋様の刻まれたツボ』が転がっているのを、
最初に、田中ユウトくんが見つけた。
それが今回のバズりの始まりだった……
「なんだろう、これ?」
「汚ぇツボだぜ」
猛田が、興味なさそうに足で蹴り飛ばす。
――『この配置にすれば蹴るかなぁ』とは思っていたけれど……マジで、普通に蹴りやがった。
足が勝手に動いてしまう『混乱のワナ』とか用意していたんだけど……猛田がバカで本当に色々と助かる。
ツボが砕けた瞬間、内側から、おどろおどろしい大量の煙が噴き出した。
みんなが慌てて後ずさる中、煙が晴れると、
――そこには、すさまじい美貌の女が立っていた。
まあ、つまりはアダムである。
ミニスカ浴衣で、燃えるような黒髪のツインテール。
そして、似合っていない、禍々《まがまが》しいネックレス。
「お、おお、すげぇ、美女……」
「傾国部隊と同じか……いや、それ以上……?」
「やっば、えっろ」
ざわつくのはクラスメイトたちだけじゃない。
当然、コメント欄も、
『最近、美人、いっぱい出るな……』
『ネックレス、でかっ』
『おっぱい、やばすぎて家族で見れません』
『名前、聞いてぇ!』
『かわいすぎ』
『え、これもモンスター?』
『捕獲しようぜ』
などと、欲望でいっぱいの男たちが喚き散らかす。
ちょっと、男子ぃ、やめなぁー。
なんて、俺が心の中で風紀委員長をやっていると、
アダムは、静かに宣言する。
「我が名はアダム。人類を滅亡させるために存在する邪神である」
その場の全員が絶句した。
スマホのコメント欄も、あっという間に色を変える。
『やばくない?』
『え、どういうこと?』
『ガチ?』
『人類……滅ぶの?』
『さすがにドッキリの方向で』
『ちょっと待って、マジ邪神?』
「私を封じていたツボを壊してくれたのは誰だ?」
全員の視線が、自然と猛田に集まる。
普通に文句なしで、猛田のせいなので、
さすがの猛田も、反論一つせず、ただただ眉間にしわを寄せている。
「貴様か……礼をしないとな」
そう言うと、アダムは猛田に向かって歩み寄り、
問答無用で拳を握り締めると、
「ぐぁあああああああああ!」
むちゃくちゃ、ボコボコにしていく。
ちょっと、アダムさん……マジで、やりすぎだな。
猛田、左目が取れかかっているんだけど……グロいって……
そこまでやれとはマジで言ってないって……あんまりえぐすぎると、視聴者も引くんだって……
ものすごい勢いでボコボコにされる猛田。
猛田は必死に抵抗しようとするが、まったく歯が立たない。
とことんいたぶられ、最後はみじめに気絶した。
マジですまん、猛田。
今回ばかりはアダムが悪い。
やりすぎ。
どうしちゃったの、アダムさん……
初配信で、テンション上がっちゃった?
「それでは、この世界には、地獄を見てもらおうか」
アダムの表情から、感情の色が消える。
「転移ランク23」
魔法を使うと、シュンと消えた。
それを見て、とりあえず、俺が、
「おい、やばくない? あの邪神、もしかして、地上に転移したんじゃない?」
と、みんなの思考を誘導しておく。
俺の思考誘導にまんまと引っ掛かった皆の衆は、倒れている猛田を放っておいて、全力ダッシュでダンジョンの外に出る。
すると、そこは阿鼻叫喚であった。
アダムがナイフを片手に、ダンジョン近くにいる通行人を次々と殺傷していく。
アダムのナイフで斬り付けられた者は、血を吹き出すこともなく、まるで溶けるように消えてしまった。
俺は、その光景を指さしながら、
「まずいぞ! あのやばい邪神、人を殺しまくっている! なんとかして止めないと!」
『アダムが人を殺している』……という思考誘導をかかさない。
種明かしすると……彼女には、事前に、玉座の間の『宝物庫』に眠っていた神器『虹貌刃《こうぼうじん》』を渡してある。
攻撃力は0で、直接の殺傷力は持たない代物だが、斬った相手の魂を刃の中に封じ込め、自在に出し入れできるという特性を持つ。
アダムは、その刃を使い、近くにいた大人たちを次々と斬りつけていく。
斬られた者は、肉体ごと虹色の光となり、刃の中へと吸い込まれるように消えていく。
――本当は、この演出に子供とか小動物とかを巻き込んだ方が、刺激が増してバズりの勢いは増すだろうけど……そうすると、猛田に向かうヘイトがあまりにえぐくなりすぎるから、今回は大人限定にした。
ここ最近『数字の鬼』になっている俺にも、最低限の線引きみたいなものはある。