俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
5話 砦って指揮官として超有能なんじゃ……
猛田が順調に嫌われているなぁ……
あぁ、かわいそうに……
などと思いつつ、しばらく探索をつづけると、
通路の奥、闇の中から、赤黒い巨体がのそりと姿を現した。
「――出やがったな」
猛田の声が、わずかに強張る。
「今日こそ殺す!!」
叫びながら、いつも通り猪突猛進で突撃していく。
そこで、田中ユウトが、すがるように振り返って、
「砦……どうしたらいい? いつも通り指揮してくれ」
続けて山本コハルも、
「お願い。私たちだけじゃ、アレには勝てない」
――ウチのメンバーは優秀だから、雑魚相手なら、指揮など必要ない。
だけど、俺が創った鬼『田中オーガニク』が相手となると、話は別だ。
俺は指揮官として優秀なわけじゃないけど、少しでも役に立ちたくて、全員の性格もスキルも癖も、丸ごと頭に叩き込んできた。
どうすれば、それぞれの強みが最大限に活きるか――
そればっかりを、異世界にいる間、ずっと、考え続けてきた。
だから、みんながバラバラで動くより、俺が指揮した方が、ちょっとはまとまりは出る。
こんなことは、その気になれば誰にでもできることだから、なんの自慢にもならないけど。
「いつも通り、前衛と中衛と後衛にわかれてポジションについて。アローフォーメーションで。それぞれのスキルを使うタイミングは、いつものコールを出すから聞き逃さないように」
「「「了解!」」」
猛田以外の全員がコクっと頷き、流れるように散開していく。
中衛のクラスメイトが牽制の魔法を放ち、後衛が猛田の隙を作るよう詠唱を重ねる。
――いつも通り、非常に噛み合っている。
俺の指示通りに、歯車がきちんと回っている。
本当にみんな優秀だ。
猛田だけは、陣形の輪から外れて一人で突っ込んでいくが、それはそれで機能している。
俺は、『あいつはああいうものだ』と最初から織り込んで作戦を立てるから。
そして、当然、『田中オーガニク』の動きも、完全に頭に入っている。
この条件下なら、完封するのはたやすい。
――けど、それじゃダメだ。
楽勝じゃ、バズらない。
人はピンチにこそ熱狂するもの。
「ぐぁああああ!!」
オーガニクの攻撃が、猛田の腕に直撃した。
鈍い音が響く。
確実にへし折れている。
「うぉお! うぁああああ!」
うるさいな。
大丈夫だよ、死にゃしないから。
オーガニクへ下した命令は以下の通り。
――『猛田以外はケガさせるな』
――『猛田を殺すな』
猛田には『やられ役』を担ってもらう。
そして、最終的には救世主ジュリア様にピンチを薙ぎ払ってもらう。
これで、今日もバズること間違いなし。
異世界侵略軍が来るまでの間に、できるだけ再生数を稼がないと……
『猛田、また腕折られてんだけどw』
『ジュリア様のお膳立て、大好きかっ』
『ほかに芸はないのか』
んー……
猛田の倒し方も、バリエーションを増やしておかないといけないかも……
思ったよりもだいぶ大変だな、配信業で数字を増やすのって……
「ち、ちくしょう……砦ぇ!! ポーション!」
「はいはい」
言われた通り、俺は猛田に駆け寄り、『魔法の収納袋』から高位ポーションを取り出した。
折れた腕に振りかけると、淡い光が傷口を包み、歪んだ骨が元の位置へ戻っていく。
「言われる前に動け、ぼけぇ!」
一度、俺の頭を殴ろうとした猛田は、そこでスマホの存在に気づき、慌てて拳を止めた。
「こ、今度から注意しろ」
そう言い直して、また鬼へと突撃していく。
コメント欄が、爆速で流れていく。
『今のパワハラじゃね?』
『言われる前に動くってどうやるんだよ』
『猛田って性格わるすぎねぇか? 普通に生理的に無理なんだけど』
『てか、この金魚のフン……もしかして、指揮官として超有能なんじゃ……』
『それ、私も思った。指示が全部完璧なんだけど』
『完璧とかってレベルじゃねぇぞ……え、何者?』
『かっこいい……』