俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
11話 お疲れ様会。
地下迷宮2階に到達した翌日、クラスメイト全員で、
いったん、『ここまでのお疲れ様会』をすることになった。
あと、相談会。
アダムが言っていたことをみんなでちょっと話し合おうよ、の会でもある。
高級ビュッフェを貸し切りにして、いったん、みんなでお疲れ様、と乾杯をする。
……これはこれで、需要があるだろうと、俺は配信を開始する。
初手から、同接2000万人。
概要欄に、アダムが言っていたことについて相談もするよ、
と書いておいたので、みんな興味津々の様子。
時間がたつにつれて、どんどん視聴者の数が増える。
コメント欄も考察の嵐。
「わたくしとしましては、もしかしたら、この世界は危機に陥っているのでは……と考えているのですが、皆様はどうでしょう」
琥珀が、真面目な顔で切り出す。
猛田が、鼻で笑い、
「あんなもんは単なる厨二の妄言だと思うが、仮に世界の危機だったとしても、この世界にはこの猛田カルマがいるからな。大した問題じゃねぇ。俺が危機を殺して、それで終わりだ」
そういうと、猛田は、自分のスマホに向かって、ピースサインを向けて、
「みんなもそう思うよな! 最強の俺がいるんだから、なんの心配もいらないだろ?」
『カルマ、最高!』
『抱いてぇ!』
『マジで、殺したい』
『なんだ、そのドヤ顔……不快ぃ』
『ケツの穴から手ぇ突っ込んで、奥歯ガタガタ言わせてやろうか』
――と、コメントでは散々な言われようの猛田だが、
食事の所作は、場違いなほどに美しい。
ナイフとフォークの角度、肘の位置、咀嚼《そしゃく》する時の口元の慎ましさ。
どこぞの令嬢を連れてきたのかと見紛《みまが》うほど、綺麗な食べ方をする。
「前から思ってたけど、猛田ってさ、意外と食べ方きれいだよな」
坂田が、カメラを猛田の手元に寄せながらそう言うと、
「あぁ? 普通だろ……逆にこれ以外のどういう食べ方があるんだ」
マジで素の顔でそう言う猛田。
無駄に育ちがいいんだよなぁ、このバカ。
性格さえアレじゃなければ、普通に完璧超人なのに。
『猛田くん、食べ方きれいすぎん?』
『育ちよすぎて草』
『中身と乖離《かいり》がすごい』
『なにより、そのギャップ狙いがキモい』
『育ちがいいのとキモいのは両立する』
なんて、辛辣なコメントが並ぶが、猛田はまったく気にした様子もなく、優雅にグラスを傾けている。
琥珀も、負けじと美しい所作で食事をとっていた。
背筋はまっすぐ、音も立てず、無駄のない動き。
まさに、委員長らしい模範的な食べ方。
「琥珀さんも、めちゃくちゃきれいな食べ方するよね」
対見が感心したように言うと、
「わたくしは、幼少より、そのようにしつけられておりますので」
澄まし顔でそう答える琥珀。
……ちなみに、俺の皿には、いつのまにか、ジュリアが取ってきた料理が並んでいた。
「……えっと、これは、どういう……」
「トウシが好きそうなものを見繕っておいた。間違いないだろう?」
「あ、うん……そうだね……あ、ありがとう」
確かに、好きなものばかりではあるけど……
正直、食欲あんまりないから、控えようと思っていたんだよなぁ……
などと思いつつ、残しても悪いので口に運ぶ。
と、そこで、対見が、俺に、
「砦は?」
「え、なに? ごめん、聞いてなかった」
「だから、アダムの話! どうおもう?」
「俺に聞いても意味ないよ。基本、俺、なんも考えてないから。みんなの後ろについて、猛田の指示にしたがって、脳死でポーションを配るだけ。それが俺の全部」
「そうだぜ、対見ぃ! 砦に期待するな。心配なら俺を頼れ。それが人類の最適解だ」
そこで、また自分のスマホに、
「だろ、みんな!」
と歯をきらめかせる笑顔を向けた。
なんだろう……なんか、最近、猛田、吹っ切れている気がするな……
炎上以降、妙な遠慮が消えたというか……アンチを煽っていくスタイルというか……
対見が渋い顔で猛田をにらんでいる。
『お前は黙ってろよ』みたいな顔。
対見さんさぁ……俺たちの切り札に、そんな態度はだめだよー(棒)。
もっと、彼をソンケーしなきゃー(大根)。
そこでジュリアが、俺に、
「いつもの謎の卑屈はいらないから、普通に、どう思うか教えてくれ。私は、トウシがどう思っているか知りたい」
「どうもクソも……だから、終焉か開闢かを、迫られるんでしょ? ようするに、まあ……宇宙が終わるか始まるかってことだよね。……始まっては……いるよね、宇宙って、すでに……」
テキトーなことを口にしつつ、
俺は、邪魔にならないよう、小さくなっておく。
その後も、クラスメイトたちは、知恵をだしあい忌憚《きたん》のない予想で盛り上がった。
コメント欄でも、熱い議論がかわされている。
ちなみに、ビュッフェの料理はうまかったよ。
やはり、高い料理は味がいいね。
金はいい……金さえあれば何でも買える。
人の命も夢も、金しだいだ!
金さえあれば、なんでもできる!
……はんっ。
いくら金出しても、レベル530000の敵は殺せないけどね。
地位も名誉も資産も……全部、『圧倒的な暴力』の前では無意味。
たまに『この世は金がすべて』とかのたまうバカがいるけど、それは絶対に違う。
絶対的な暴力の前では、金なんか無意味。
圧倒的な力を持つ者に襲われたら、金から何からすべて奪われて殺されて終わりだ。
「だから、バカ、お前ら! ほんと、バカ! 俺がいれば、どうとでもなるっていってんだろ! 俺の超スキルⅡ『爆王剣』は無敵なの! 名前みてもわかるだろ! 俺は王なんだよ! ほんと、どいつもバカ……もっと賢くあれよ!」
猛田の妄言に、少しホっとする自分がいる。
戦力という意味で、こいつに頼ることはほぼないけど……
猛田の無様を眺めている間は、少しだけ、面倒なリアルと距離を置ける気がした……
……運命の日が近づくにつれて、俺の心は焦燥感に包まれていく。
時折、何も知らないみんなのことを恨んでしまうこともある。
こっちはこれだけ苦しんでいるのに、
なんで、お前らはそんな呑気なんだって……
理不尽な怒りを覚える。
バカバカしい……
わかっているよ。
でも、俺も人間なんでね……
なんて思っていると、ジュリアが、
「大丈夫か、トウシ」
「……なにが?」
「顔が疲れている気がした……」
「……」
「異世界から帰って以降、ずっと、苦しんでいるように見える……」
「ふふ……」
どういう笑みなのか、自分でもわからなかったけど、俺はなぜか力なく笑った。
色々と考えることはあるけれど、
結局のところ、結論は変わらない。
勝つしかないんだ。
勝って……守り切らないと……
大事なものを……失わないために……
こいつらが、何も知らずに馬鹿な話をしていられる時間を……俺はどうしても終わらせたくない。
そのためには、勝つしかない。
決戦まで……あと2日。