俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
12話 傾国部隊の異世界部隊襲来宣言。
決戦前日。
玉座の間で、俺は、宙に浮かぶウィンドウを見つめていた。
映っているのは、傾国部隊が生配信している映像。
場所は、ダンジョン対策協会、本部の会議室。
――打ち合わせ通り、決戦の予告をしてもらうことにした。
明日はしっかりと配信するからね。
より多くの人に見てもらうためには、やっぱり宣伝が大事。
「け、傾国部隊……? な、なぜここに……」
画面の中、幹部連中が一斉にざわつき、椅子から腰を浮かせている。
中には、腰が抜けたのか、そのまま床にへたり込んでいる者もいる。
その中で、一人だけ、まったく動じていない老人がいた。
円卓の一番奥、議長席。
深く刻まれた皺《しわ》、鋭い眼光。
カメラがそちらを向いても、微塵《みじん》も表情を変えない。
(あの爺さん……気合入ってるねぇ)
資料で名前は確認していた。
ダンジョン対策協会、上位理事――蛇尾正義《へびおまさよし》。
荒れた場を見渡しながら、
クレオパトラが、円卓の中央まで悠然と進み出て、宣告する。
「明日、この世界に異世界から軍隊がやってくる。敵は極めて強大。敗北すれば、全人類は死ぬ」
その一言で、会議室全体が悲鳴に近いざわめきに包まれた。
「やはり、人類は危機的状況だったのか! そ、それで! どうすれば防げる?!」
真っ先に声をあげたのは綾大路だった。
クレオパトラが淡々と、
「貴様らにできることなど何もない。『偉大なる王』の部隊が勝利するのを祈っていろ」
「偉大なる王とは! 頼む! 教えてくれ! 君たちはいったい!」
綾大路が、必死な様子で食い下がる。
まあ、それも当然か。
こんな一方的な宣告だけされたら、パニックにならない方がおかしい。
「その正体を……きさまらはすでに知っている。王は貴様らがよく知る人物だ。尊く偉大で、誰よりも賢く強い王」
「……ん?」
思わず、玉座の間で、一人、間の抜けた声を出してしまう。
いやいや、ちょっと待って。
台本にそんなセリフなかったよね?
クレオパトラ、なにアドリブ入れてんの?
ハラハラしながら見ていると、あの蛇尾という老人が、ようやく口を開いた。
「敗北すれば人類は死ぬ、と言ったな」
「そうだ」
「ならば、我々にできることが何もないというのはありえぬ」
「……」
クレオパトラが、初めて、わずかに沈黙する。
「民を混乱させず、避難の準備をし、勇者たちが戦いやすい環境を整える。それが我々の役目だ。そのために、我々ダンジョン対策協会は設立された。時間と場所を教えなさい。我々も協力を惜しま――」
「その思考がそもそも間違っている」
「何が間違っているというのか!」
「敵がその気になれば貴様らなど一瞬でチリになる。立ち向かえるのは……偉大にして高潔な我が王のみ」
「だから、何もせずに祈っていろと?」
「そうだ」
「断る。人はそう単純ではない。恐怖に震えながら、ただ明日を待つことなどできん。我々は我々の責務を果たす」
蛇尾は、一歩も引かなかった。
その目には、恐怖よりも、なにか、もっと固い意志のようなものが見える。
「好きにすればいい。何もするなと命令しているのではない。無意味だと言っているだけだ」
「……っ」
蛇尾が、そこで初めて、わずかに顔をしかめた。
だが、それ以上は何も言わず、深く椅子に沈み込んだ。
俺は、その映像を最後まで見届けてから、ウィンドウを閉じる。
あの爺さんはなかなか骨があった。
それはよかったと思う。
ただ……なんで、クレオパトラは、
『王がどうだ』とか、台本にないことを言い出したんだ?
★
しばらくして、傾国部隊の面々が、玉座の間に戻ってきた。
「ご苦労様。すごくよかったよ、おおむね」
「ありがとうございます、愛しの君よ」
「ただ……『貴様らはすでに知っている』とか『王がどうこう』ってセリフ、あれ、台本になかったよね? どうしたの? テンション上がっちゃった?」
もはやほぼ反逆と言ってもいい命令無視級の行動を、しっかり咎めたかったが、彼女たちが、あまりにも真剣な顔をしているので、あまり強く言えなかった。
「申し訳ございません。無知蒙昧《むちもうまい》な、あのバカ共を見ていると無性に腹が立ちまして……偉大な王が、毎日朝早くから夜おそくまで必死になって世界のために頑張っているというのに、あいつらは……」
「俺は別に何もしてないよ。どうやったらバズるかなぁ、って考えているぐらい。少なくとも、そんな過剰に褒められるようなことじゃない」
「王よ」
「はい」
「あなた様は美しい」
「……君たちの方が美しいと思うよ。俺よりまつげ長いし」
そこでアダムが、
「主上様」
「はい、なんすか」
「――勝ちましょう」
まっすぐな目で言われて、俺は、
「そういう言葉なら大歓迎だ。期待しているよ、アダム。うちの最大戦力は君だ」
「いいえ、主上様……いつだって、世界の主力はあなた様です」
「レベル5が主力の世界なんて終わりだよ」