俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
サイド 綾大路視点2
「……そうなのかね?」
「どう思います?」
軽い調子で肩をすくめる砦に、円卓の空気が、わずかに緩んだ。
――冗談として流された。
当然だ。
こんな冴えない少年が、アダムや傾国部隊を従える王だなんて、誰も本気にしない。
私も、その一人だった。
……と、そこで、
「てめぇ、あんま調子のんなよ」
裏社会のフィクサーをしているレオーネ様が、低い声でそう脅しつけた。
言葉だけならよかったのだが、気が短いレオーネ様は、
その場で銃を取り出し、砦の足元に発射する。
キィンと、鉛玉が床ではじけた。
私は、思わず、椅子から腰を浮かせてしまった。
「次、ナメた口きいたら足にあてるぞ。お前みたいなゴミとワシらじゃ立場が違う。本来であれば、まともに口をきくことすらできないんだ」
「俺にそういう態度をとった綾大路さんがどうなったかご存じですか?」
その一言に、私は、思わず、身をすくめた。
――勘弁してくれ。
私を引き合いに出さないでくれ。
あの一件は、もう、忘れたいのに。
「ワシは罰を与える側だ。綾大路のような小物と一緒にするな、ぼけぇ」
小物、か。
否定できないのが、余計につらい。
「そうですか」
「土下座しろ」
「はい?」
「ナメた態度をとったことを詫びろ。そうじゃないと、ここから先の話はできねぇ。拒むなら指をへし折る。大人をなめるんじゃねぇ、ガキ」
「レオーネ、その辺でやめておきなさい」
蛇尾正義様が、静かに割って入る。
「命令するなよ、蛇尾。ワシら上位理事に上下はない。次、命令してきたら、あんたでも殺すぜ」
――上位理事同士の、剥き出しの対立。
私は、その一幕に、背筋が冷たくなるのを感じた。
この会議室にいる誰も彼もが、私よりずっと上の存在。
巻き込まれたら、ひとたまりもない。
私が震えていると、
砦が、
「これでいいですかね」
そう言いながら、自分の右手の指を、迷いなくへし折ってみせた。
鈍い音が、会議室に響く。
私は、思わず、目を背けそうになった。
――なんで、指を折っていながら、そこまで平然としていられるんだ、こいつは。
頭おかしいんじゃないのか……
「……っ」
さすがに、レオーネ様の目が、丸くなった。
「さっさと話を進めたいんですよね。俺、こう見えても忙しいんですよ。河川敷でエロ本を探さないといけないもので」
「……イカれてんのか、くそがき」
「それほどでも」
そこで、
バァアアン!!
と、会議室の扉が、乱暴に開いた。
なんと、傾国部隊の面々が、部屋に入ってきた。
私は、心臓が跳ねるのを感じた。
――また、この人たちか。
毎回、心臓に悪い登場の仕方をする。
妖艶な彼女たちの視線が、
一度、まっすぐ、砦の折れた指に向いた。
「話があって来たんだけど……その前に、この場で、何があったか聞かせてもらえるか? そこの彼の指……なぜ折れている?」
「そこのバカが勝手に自分で折った。本当なら私が折りたかったんだがな」
レオーネ様は、そう言い捨ててから、
傾国部隊の面々を、値踏みするように見回して、
「しかし、貴様ら……動画で何度か見たが……見事な美貌だ。全員、ワシの女にならんか? 月500でどうだ。望むならもっと出してやってもいい」
「……ふふ」
傾国部隊の面々が、心底から嘲笑した。
「誇るがいい。ここまで余を怒らせたのは……貴様がはじめてだ」
そこから、クレオパトラの動きは獰猛な野獣のようだった。
一瞬で、レオーネ様との距離をつめると、
そのまま頭をつかんで、壁にたたきつけた。
「がぁあああ!!」
その一撃で終わったりしない。
そこから、ずっと、一方的な制裁が始まった。
「ちょ、やめ……ぐわぁ! ちょ、ほんとに……死ぬ」
クレオパトラがレオーネ様をボコボコにしている間、
フジコが、我々に、
「あのカスを助けたければ、好きに割り込んでいいわよぉ。ただし、粛正対象とみなすけどねぇん」
その一言に、誰も、身動きが取れなくなる。
もちろん、私も、その一人だ。
助ける気なんて、さらさらない。
そこで、蛇尾様が、
「できれば殺さないでくれ。彼はこう見えて優秀だ」
「殺しはしない。ただし、絶望を味わってもらう」
「やめ……て……死ぬ……」
レオーネの悲鳴が、会議室に響き渡る。
私は、その光景を、ただ、震えながら見ていることしかできなかった。
正直……さすがに自業自得だな、と思った。