俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
21話 ゾーコは強すぎる。
「力の差もわからない愚者が……死ね」
ナメてくるボンドに対し、アダムは、表情一つ変えず、閃化を使った。
バチバチと膨れ上がるアダムのオーラを前に、ボンドの余裕が、一瞬で凍りついた。
「なっ……レベルが……10倍に……っ!」
困惑しているボンドを、アダムはボコボコにしていった。
レベル差が大きいので、ボンドは、まともに反撃すら組み立てられない。
「ま、まさか……こ、これほど凶悪な覚醒技の使い手だったとは……」
後ずさるボンドに、アダムは容赦なく踏み込んでいく。
「王の命令だから、貴様は殺さない。本来であれば八つ裂きにして、家畜のえさにしてやるところだが」
「くっ……こうなったら、仕方ない……では、私も切り札を見せてやろう……」
ボンドが、何かを発動させようとした、
――その瞬間。
「ボンド……もうよい、さがれ」
ゾーコの声が、静かに、しかし確実に、その場を支配した。
「ぞ、ゾーコ陛下……かしこまりました。無様な姿を見せて、もうしわけありません」
ボンドは、すぐさま、こうべを垂れて後ろに下がる。
「無様? レベル7万を相手に、よくがんばっていたと思うがのう」
「もったいなきお言葉」
ゾーコが、ゆらりと、前に出てくる。
その動きだけで、周囲の空気の密度が、変わったような気がした。
「光栄に思うがよい。そなたの力を認め、この全世界最強の朕が、直々に相手をしてやろう」
その一言に、俺の背筋が、ぞわりと粟立つ。
俺は、なりふり構わず、地面に手をつく勢いで、
「ゾーコ陛下! どうか、お待ちを!!」
ボンドよりも腰を低くして、額を、限りなく地面に近づける。
「よろしければ、先に、こちらの、ロキ、ジャンヌダルク、ゲムゥシャと戦っていただけませんでしょうか!」
「……ふむ。まあ、別によいが」
「ははぁ! 感謝いたします!」
そう言って、俺は、ロキたちに視線を向けて、
「力を魅せてこい。その上で、死なないように立ち回れ。命令だ。絶対に逆らうな」
涙ぐんでいる3人を見て、俺は胸が痛くなった。
弱い王で申し訳ない……
俺がもっと強ければ……守ってあげられたのに……
本当に申し訳ない。
そこで、ロキたちは、一斉にひざまずき、
「旦那様……我々の王は、あなた様おひとりです」
そう宣言してきた。
「そういうのいいから……はやく行って。ゾーコ様を待たせるな」
「……」
命令に従い、向かっていく3人。
途中で、閃化して、臨戦態勢。
――と、そこで、ゾーコの姿に、異変が起きた。
黒い火の玉から、すぅっと、一本の光の糸のようなものが伸びていく。
その糸の先に、少しずつ、人の輪郭が像を結んでいった。
現れたのは、宇宙人めいた、不思議な少女の姿。
肌は、透き通るような銀色。
瞳は、星屑をそのまま閉じ込めたような、深い漆黒。
ゾーコ本体である黒い火の玉と、その少女の姿は、細い光の尾で、まだ繋がったまま。
何が何だかわからないが……おそらく、あれが、ゾーコが戦うときの姿なんだろう。
普段は火の玉で……戦うときは、少女の霊体みたいなものを出す……みたいな……
「まずは、お手並み拝見といこうかのう」
声だけは、かわいらしい少女のもの。
ロキたちが、それを合図に、一斉に地を蹴った。
三方向から、同時に襲いかかる剣、槍、拳。
閃化状態の三人が繰り出す一撃一撃は、並の敵なら、触れただけで消し飛ぶ威力。
なのに――
「ふむ」
ゾーコは、たった一言つぶやいただけで、その全てを、いなしていく。
ロキの剣は、指先一本で軌道をずらされ。
ジャンヌダルクの槍は、半歩下がっただけでかわされ。
ゲムゥシャの拳は、手のひらで、そっと受け止められた。
まともに、当たった一撃が、一つもない。
「ふぁ……」
ゾーコは、あろうことか、小さく、あくびを一つ漏らした。
その気の抜けた仕草に、俺は、思わず、背筋が凍った。