俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
23話 俺の全部よ……燃え上がれ。
「だめじゃ」
「……な、なぜ……」
さすがに、この提案は受けてもらえると思った。
だって、殺す意味ないじゃん……
俺だけ殺せばいいじゃないか……
ガチで危険なのは俺だけなんだから……
「トリデトウシ……朕がぬしを殺せば、ぬしの配下は血眼になって、朕を殺しにくるよ」
「そんなことは……」
「これだけ見事な王の器は、朕以外で見たことがない。ぬしの器に心底から陶酔し、決死の覚悟でついてきた者が、ほかの者につくことなどありえんよ。ましてや、大事な王を殺した相手となれば、なおさらのう」
「命令いたします。絶対に逆らうな、と」
「意味はない。ぬしは誤解をしておる」
「誤解……」
「こやつらにとっては、ぬしの命令なんぞより、ぬしの命の方が大事なんじゃ」
「……」
「ぬしは……魂も器も高性能な王じゃが……どうやら、ちとアホのようじゃな」
「……」
「絶望を与えるつもりはない。朕は多くの世界を抱える身……危険因子は排除せねばならぬ。ぬしらは殺す。その素晴らしい力と魂の器に免じ……苦痛なく、皆殺しにしてやろう」
「……どうしても……ダメっすか」
「危険すぎるからのう。ぬしが仮に、あの妙な玉の力をもっておらんかったら……そして、ぬしが、もう少しダメな王であったら……結果は変わっていたかもしれんが」
「……」
全部終わる……
俺がミスったせいで……
全部が……
そう思うと、
俺は、無意識に構えていた。
ファイティングポーズ。
正直思うよ、戦ってどうなるってんだって。
レベル5の俺が……アダムでも勝てない相手に……
わかっている。
けど……
「本当に器だけは見事なもんじゃ……この朕を相手に、わずかも恐れることなく、全身を静のオーラで満たしておる……もし、ぬしが朕と同じレベルであったら……朕は手も足も出なかったであろうな」
そう言いながら、ゆっくりと近づいてくる。
俺は、もう、ほとんど反射的に、無意識に、
「田中の王様起動(+149997)――エグゾギア起動(+2000)――閃拳(×3)」
俺にできる唯一の必殺技を放つ。
田中の王様で、ロキたちからレベルをわけてもらい、
エグゾギアでさらに強化し、
最強必殺技の閃拳を叩き込んだ。
その完全なふいうち、最強の一手を、
ゾーコは、
「ぉお……なんと……エグゾギアをもっておるのか」
「……あ……ぁあ……」
片手で防いで見せた。
びりびりとしびれている様子ではあるが、
問題なく受け止められてしまった……
「素晴らしいぞ、トリデトウシ……これほどの力を持ったものは、今までに一人もいなかった」
「……」
「あの世で誇るがいい。ぬしは朕のお墨付きじゃ。間違いなく……ぬしは、この世で二番目に強かった」
そう言いながら、俺の腹部に、拳を突き刺してくる。
エグゾギアを貫いて、俺の腹部に、しっかりと風穴をあけてくる。
「が……はっ……っ!!」
視界が、ぐにゃりと歪んだ。
痛みすら、ちゃんと感じられているのか、もう、よくわからない。
腹の中で、何かが千切れて、こぼれ落ちていくような感覚だけが、はっきりとある。
「主上様ぁ!!」
アダムの声が、耳の奥で、遠く、こだまする。
「だ、旦那様ぁあああ!!」
ロキの悲鳴も耳に届いている。
だいぶ聞こえづらくなっているけれど。
ゲムゥシャとジャンヌダルクの声も、届いた気がしたけど、もうわからない。
泣いている声だけが、なんとなく心の奥に触れる。
俺、本当ならとっくに気絶しているはずなのに、なぜかまだ、顔所たちの悲鳴に脳が反応している。
母親は赤ちゃんの泣き声に対して、他の音より脳が反応しやすく、眠りが浅い状態でも目を覚ましやすい……みたいなのを聞いたことがあるけど……これは、そういうことなのかな……わからない……
時間が圧縮されているのを感じる。
全部がスローに見える。
ゾーコの顔がよく見える。
綺麗な顔をしていた。
……ああ、そうか。
俺、今、死ぬんだな。
不思議と、恐怖はなかった。
ただ、ぼんやりと、そんな実感だけが、頭の隅に浮かんでは消えていく。
視界の端で、地面に膝をつくロキが見える。
立ち上がろうとして、力が入らず、また崩れ落ちるジャンヌダルクやゲムゥシャが見える。
こっちに向かって、必死に手を伸ばしているアダムが見える。
――でも、届かない。
誰も、何も、届かない。
俺の体は、このまま死ぬ。
視界が、どんどん、狭くなっていく。
音も、遠くなっていく。
(……あー……)
(悪いな……)
(俺、結局……何もしてやれなかったな……)
薄れゆく意識の中で、ただ、それだけを思った。
情けない。
本当に、情けない。
本当に終わると思ったら……
心の奥から、妙な熱が生まれた。
これはなんだ。
わからない。
わからないけど、ちょっとだけわかった。
(このままじゃ終われないっていう……そういう意地……)
(せめて、お前らだけは……守ってあげるから……)
(命よ……俺の全部よ……燃え上がれ――俺はどうなってもいいから……生きたいなんて贅沢言わなよ。このまま、ちゃんと死ぬから。だから、せめて、一瞬だけでも……どうか……俺の魂よ……限界を超えて……)
最後に、命全部を賭して、何かをしようと思った。
何をすればいいのかわからなかったけど、
何かをしようと思ったんだ。
――その時、
世界の声が聞こえた。
《――異世界帝王からお墨付きをもらったことで、超田中スキル『田中の帝王』が解放されました》
効果「世界中の田中から強制的に少しずつ元気(レベル)を分けてもらえる」
《現在接続可能な田中:128万6990名》