俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
25話 名字が田中になる。
(いい加減にしろよ……俺に対して不条理がすぎるんだよ)
ちょっと前まで、俺は、ただの冴えない高校生だった。
異世界に転移させられて、クラスで一番使えないスキルを引いて、
それでも、なんとか、必死こいて足掻いて、もがいてきた。
日本に帰ってきてからも、ずっと。
世界を守るために、ポイントのために、バズるために、笑われて、道化になって、それでも、誰も死なせないために。
(それを……なんだよ……こんな……)
やっと、やっと、手が届いたと思った力すら、この世界は、鼻で笑うみたいに握りつぶしてくる。
(くそくそくそがぁあ!!)
極限まで圧縮された、不定形の時間の中で、俺は、ただ、喚き散らした。
(終わり、終わり! はい、終わり!)
声にならない声で、俺は叫び続ける。
(ふざけんな、ぼけ! なんだ、この地獄!)
誰に向けているのかも、もう、わからない。
ゾーコにか。
この世界にか。
それとも――こんな力しか持てなかった、自分自身にか。
(やってられるかぁあああ!!)
――と。
文句を垂れ流すだけの俺の耳に、
確かに……届いた……
俺の……『奥』から――
――あきらめるのか?――
その言葉に、俺の魂は、なんだか、とにかくすげぇ腹が立った。
(なんだ、『あきらめるのか?』って)
(俺が、投げ出したみたいに言うんじゃねぇ)
(あきらめるとかじゃねぇだろ、これ)
(もうすでに俺は死んだ。2000万とかむりだろ、ざけんな、ぼけぇ!)
(悪いのは俺じゃなくて、このイカれた世界の不条理だろ!)
――あきらめるかどうかを聞いている。それ以外の返事はいらない――
……
……
……
その声は、静かだった。
俺の怒りをすべて受け止めた上で、なお、たった一つのことしか聞いていない。
――ぐちゃぐちゃ言わなくていい。あきらめるのか。それとも、あきらめないのか――
――どっちだ――
ふざけんな。
心底そう思った。
けど……
(あきらめたくねぇよ)
(だって、俺が折れたら、マジで終わるもん……)
脳裏に、色々なものが、次々と浮かんでは消えていく。
玉座の間で、両膝をついて『あなた様は美しい』と、大真面目に言ってくるロキの顔。
ずっと献身的に俺の力になってくれた配下たち……
いつも無表情で、けど、ずっと俺を守ってくれたジュリアの横顔。
『勝ちましょう』と、まっすぐな瞳で告げたアダムの声。
あと……まあ、一応……いてくれて色々と助かった猛田のバカ面。
……ジュリアたちを……
アダムたちと一緒にいた日常を……
俺は、あきらめるのか?
(あきらめたくない)
そこに理屈なんか一個もねぇ
ただの、剥き出しの感情論。
(大事なものを……失いたくない……)
その言葉が、体の中心――もう体なんてないはずなのに――そこから、じわりと、熱を持って広がっていく。
つまり俺は……あきらめていないんだろう。
理解を追い越して、感情の螺旋の奥で、傷だらけのワガママが渦をまく。
猛田を笑えないぐらい……俺も、たいがい、無茶苦茶なピエロだ。
まだ俺の脳は動いている。
これが何の時間かはわからない。
走馬灯なのか、それとも本当はもう死んでいるのか……
知らない。
わからない。
しったこっちゃない。
普通に体バラバラになって吹っ飛んでるのに、なんでまだ、思考が続いてんのかわからねぇ。
1秒が10年以上に感じる不条理をかみしめる。
細かいことは、正直、どうでもいい。
時間なんて、結局、相対的っていう……それだけのことなんだろう。
俺の想いは、まだ、消えていない。
消えてたまるかと、細胞全部が叫んでいる。
この世界に対する不満。
自分自身の弱さに対する憤怒。
それら全部を、燃料にしてやる。
燃やし尽くして、その先に、たどり着いてやる。
(どうにかしねぇと)
(そうじゃないと、全員死ぬ)
(俺が守るって……決めたんだから)
(だから、どうにか――)
(どうにか!!)
――どんな苦境を前にしても、
折れずに抗い続けた命の種よ――
――さあ、咲き誇れ――
あたまの中で、何かがはじけた。
世界のこえがきこえる。
《――絶対的な絶望を前に、それでも諦めず、
もがきあがき続けた事で、
――超田中スキルⅡ『田中列島』が解放されました》
効果「一時的に、日本人全員の――
――『名字が……田中になる!!』――」
《現在接続可能な田中:1億2027万6555名》