俺の終わってるハズレスキル『名字が田中になる』が、ダンジョン配信で不本意にバズってる。 作:閃幽零
7話 配信が切れてねぇえええ!
壊れたモンスターは動く者を優先的に狙う。
つまり、気絶していれば危険は少ない。
俺は指示の内容を調整して、丁寧に、味方を気絶させていった。
オーガニクの技は、どれも『気絶特化』だから、防御や回復のスキル発動タイミングをうまく調整すれば、そこまで難しいことじゃない。
「はぁ……はぁ……」
気づけば、立っているのはジュリアと俺だけになっていた。
他のメンバーは全員、気絶中。
誰かがガチで死にそうになったら田中玉を使うつもりだったけど……なんとかうまいこと切り抜けられそうだ。
「……逃げろ、トウシ」
肩で息をしながら、ジュリアがそう言った。
「ふざけたこと言わないでほしいね」
「死ぬぞ」
「ジュリアが守ってくれなかったら、俺なんて、とっくに死んでいたよ」
「……あんたがいなかったら、私たちは、異世界に飛ばされた一週間後には全滅していた」
「? そのウソはどういう慰め? 俺なんかいてもいなくても同じでしょ」
「トウシ以外に指揮はできない」
「俺がいなかったら、琥珀《こはく》か白鳥《しらとり》がやっていただけだよ」
言葉をかわしている間も、当然、オーガニクは止まらない。
狙いは、ずっとジュリアに向けられていた。
彼女は、俺にヘイトが向かないよう、
あえて自分から前に出て、オーガニクを引きつけ続けている。
俺は華麗に舞う彼女の背中を見ながら、ボソっと、
「ジュリア……君は優しすぎるよ。ずっと、俺をかばってくれる。そして、俺が落ち込みすぎないよう、いつも、『俺以外に指揮はできない』と優しい嘘をついてくれる。指揮なんて、やる気の問題で、誰でもできるのに……」
彼女はずっと俺を守ってくれた。
俺の心に寄り添ってくれた。
だから、俺は逃げられない。
ダンジョン魔王が相手だろうと、異世界の軍隊が相手だろうと。
「ぐぁ!」
オーガニクの一撃を受けて、ジュリアの身体が吹き飛んだ。
瓦礫にぶつかり、そのまま崩れ落ちる。
「ぐ……くそ……トウ……シ……逃げ――」
小さく呻《うめ》いて、彼女はゆっくりと意識を失った。
ジュリアのスキルは『比類なきパワーとタフネス』。
オーガニクの攻撃力じゃあ、あと数回は大技をぶちこまないと死なない。
彼女の頑丈さは、英雄級ぞろいのクラスメイトの中でも随一。
……全員が気絶したのを確認してから、俺は、
「――さて」
両手をオーガニクに向けた。
「それじゃあ、終わりにしようか」
声が、自分でも驚くほど低くなっていた。
オーガニクには彼女を気絶させてほしかった……
が、ジュリアを吹っ飛ばされて普通に頭にきてしまった。
猛田よりワガママだな、俺は……
「――田中玉ぁあああああ!!」
叫んだ瞬間、掌の中心に光が凝縮していく。
世界中の田中から、少しずつ分けてもらったエネルギー。
名前はマヌケだけど、威力は本物。
光の塊が、弾丸のように撃ち出される。
「グォオオオオオ!」
断末魔とともに、田中オーガニクの巨体が、内側から弾けるように消し飛んだ。
――当然。
魔王ロキをワンパンで沈めた一撃だ。
改造モンスターが耐えられるわけがない。
オーガニクは倒れた。
といっても、翌日には復活するけど。
盛大に舞う粉塵の中、俺は、
「ジュリア……」
彼女のもとへ駆け寄った。
「さすがのフィジカル。なんの問題もないな……」
彼女のスキルは、俺のギャグスキルとは正反対の汎用性抜群のチート。
「……なんとか、今回の面倒事は処理できたかな」
安堵の息を吐いた、そのとき、
――視界の端に、転がったままのスマホが映った。
猛田のスマホ。
画面には、今もコメントが流れ続けている。
「げっ……」
あのクソボケ――配信を切ってねぇ。
あの状況でも俺の指示を無視するとか、どんだけ愚か……
しかも、同接……980万人……っ!
『今の何?』
『田中玉?!!』
『名前変だけど、めっちゃ強ぇ!』
『あの鬼を一撃?!』
『その前の指揮もすごすぎだろ!』
『てか、その前の采配がエグいだって!』
『あの鬼の動きを全部読んでいたぞ』
『20人以上のスキルを秒単位で管理していたんだけど』
『砦、お前、何者なんだよ!』
『ちょっと待て、こいつ、マジですごすぎるって』
『よく見たら、かっこよくない?』
コメント欄が、恐ろしい速度で流れていく。
(最悪……)
俺は慌てて配信を切って、すぐに動画を削除した。
けど……