物語開始時点、双鴉の泉事件より前の状態です。
項目 内容
種族 人間
性別 男性
年齢 14歳
所属 賢者の学院オーファン分校・特殊学科「魔法戦士科」
出自 魔術師の名門
信仰 戦神マイリー
冒険者レベル 1
未使用経験点 0
一人称 僕
能力値
能力 数値 ボーナス
器用度 16 +2
敏捷度 19 +3
知力 19 +3
筋力 16 +2
生命力 17 +2
精神力 16 +2
初期技能
技能 レベル
ソーサラー 1
セージ 1
プリースト(マイリー) 1
シャーマン 1
開始時点では、ファイター、シーフ、レンジャー、バードを持っていません。
派生数値
項目 数値
生命抵抗力 3
精神抵抗力 3
古代語魔法の魔力 4
精霊魔法の魔力 4
神聖魔法の魔力 4
使用できる精神点 16
三系統の魔法を修得していますが、精神点は共通の16点です。選択肢は多くても、魔法を使える総回数が増えるわけではありません。
初期装備
* メイジスタッフ(必要筋力10)
* ソフトレザー(必要筋力8)
メイジスタッフは古代語魔法の発動体です。ソフトレザーは古代語魔法と精霊魔法の双方を阻害しません。ただし、ファイター技能がないため、開始時点では前衛を任せられる戦士ではありません。
暗闇の底で、水が尽きた。
アルマニアの指先が、石造りの水盤の底をこする。
濡れた感触は、もう残っていなかった。
「……これで、最後か」
声はひどくかすれていた。
喉が渇いているからではない。長い間、誰とも話していなかったからだ。
壁に刻んだ線は三十本。
眠りから目を覚ますたび、小石で一本ずつ刻んできた。ただし、陽の昇り沈みが分からない暗闇の中で数えたものだ。本当に三十日が過ぎたのか、一日を二度数えたのか、それとも二日を一日と思ったのか。
十四歳の少年には、もう確かめる術がなかった。
頬はこけ、ソフトレザーの下で身体がひと回り小さくなっていた。
立ち上がろうとすれば膝が震える。メイジスタッフへ両手ですがり、ようやく腰を浮かせても、数歩も進めば息が切れた。
腹は、もう空腹を訴えなくなっていた。
それが回復したからではないことくらい、アルマニアにも分かっていた。
始まりは、ほんの悪ふざけだった。
少なくとも、閉じ込めた者はその程度に考えていたのだろう。
訓練用ダンジョンでの実習中、同級生の一人がアルマニアへ声を掛けた。
「古代王国のものらしい刻印があるぞ。お前なら読めるんじゃないか?」
魔術師の名門に生まれ、セージの学問まで修め始めていたアルマニアが、その誘いに乗らないはずがなかった。
教えられた脇道を進み、半ば開いていた石扉の向こうへ入った。
直後、背後で重い音がした。
振り返ったときには、石扉が閉じていた。
「もういいだろう。開けてくれ」
返事はなかった。
代わりに聞こえたのは、遠ざかっていく靴音だった。
最初は怒った。
次に、呆れた。
そのうち、誰かが見つけるだろうと思った。
実習が終われば点呼がある。自分がいないと分かれば、教官が探しに来る。そう考えて、扉の前で待った。
だが、いくら待っても扉は開かなかった。
施錠を解く術を試しても、錠そのものは動いている。
扉は外側から何かを噛ませられ、押さえつけられていた。肩をぶつけ、メイジスタッフで叩いても、石の粉が落ちてくるばかりだった。
無理に壊せば、天井まで崩れるかもしれない。
アルマニアは知っている限りの手段を試した。
古代語魔法で扉の仕掛けを調べた。
精霊へ呼びかけ、外へ通じる風や水の気配を探した。
戦神マイリーへ祈り、恐怖に屈しない勇気を願った。
だが、魔法は願い事ではない。
灯りは作れても、存在しない道は作れない。
傷は癒やせても、食料は生み出せない。
勇気を奮い起こせても、分厚い石壁が持ち上がるわけではない。
三系統の魔法を学んでいた。
それでも、この扉一枚を開けられなかった。
叫び続けて声が出なくなった頃、アルマニアは待つことをやめた。
訓練用区画のさらに奥へ進んだ。
手元に残した精神力を使い、メイジスタッフを掲げる。
「全知にして万能なるマナよ。小さき光となり、我が目の前の闇を退けよ——ライト」
杖の先へ白い光が宿った。
照らし出された通路は、訓練用に整えられた場所とは明らかに違っていた。
床はひび割れ、壁には見慣れない意匠が残っている。崩れた石材の隙間から、わずかに冷たい空気が流れていた。
古代王国時代の旧区画。
学院側も、その存在を把握していなかった場所だった。
光が消えるまで歩き続けた先で、アルマニアは泉を見つけた。
泉と呼ぶには、水面はあまりにも静かだった。
大きな石の水盤を挟み、二羽の鴉が向かい合っている。翼を畳み、長い嘴を水面へ向けた石像だった。
水は澄み切り、底まで見通せた。
だが、精霊の気配がない。
水があるのに、水の精霊が応えない。
代わりに水盤全体から、古代王国の魔力が感じられた。
飲んでよいものか、アルマニアには分からなかった。
毒かもしれない。
人を別のものへ変える魔法かもしれない。
それでも、喉の渇きは待ってくれなかった。
未知の魔法を恐れて飲まなければ、確実に死ぬ。
アルマニアは両手で水をすくった。
「いただきます」
誰へともなく断ってから、口へ運んだ。
冷たい水だった。
甘くも苦くもない。
身体が癒やされることも、力が湧き上がることもなかった。
ただの水としか思えなかった。
それからアルマニアは、泉のそばを離れなかった。
眠り、目を覚まし、必要なだけ水を飲む。
一日に一度だけ明かりを灯し、壁へ線を刻み、水位を確かめる。
水盤の水は、飲んだ分だけ減っていた。
泉と呼ばれていても、新しい水が湧いてくることはなかった。
初めのうちは、助けが来たら何を言おうかと考えていた。
閉じ込めた相手を怒鳴りつける。
教官へ管理の甘さを訴える。
心配しているだろうミレナ姉さんへ謝る。
やがて、そんなことも考えられなくなった。
頭に浮かぶのは、食べ物のことばかりだった。
焼きたてのパン。
肉と豆を煮込んだスープ。
果物を練り込んだ菓子。
そのうち、食べ物の姿さえ浮かばなくなった。
暗闇の中で、自分の呼吸だけを聞いた。
何でもできるようになりたかった。
魔術師にも、精霊使いにも、神官にもなりたかった。
いつかは剣を取り、野山を歩き、罠を見抜き、歌で人を励ます技も学びたかった。
できることを増やせば、どんな状況にも対応できる。
ずっと、そう信じていた。
だが、今のアルマニアには何もできなかった。
罠や仕掛けを見抜く技がない。
わずかな痕跡から出口を探す技もない。
石壁を安全に壊す知識も、そのための力もない。
使える魔法をすべて並べても、ここから生きて帰る方法にはならなかった。
「……まだ、死にたくない」
返事はない。
「僕は、まだ何も選んでない」
何を学ぶのか。
何を諦めるのか。
自分の力を、何のために使うのか。
何一つ選べないまま、こんな場所で終わりたくなかった。
だから、その日を生きた。
次に目を覚ますため、水を飲んだ。
助けを呼ぶ声が出なくなっても、壁を叩く力がなくなっても、呼吸だけはやめなかった。
そして、三十本目の線を刻んだ日。
水盤の底が露出した。
二羽の鴉の嘴が向かい合う、その中央。
くぼみに残った一滴を、アルマニアは指先ですくい上げた。
かすかな光を帯びた雫だった。
これまで飲んだ水とは違う。
泉を満たしていた魔力のすべてが、その一滴へ凝縮されている。
そんな気がした。
アルマニアは迷わなかった。
毒であっても、呪いであっても、飲まなければ先はない。
「僕は、生きる」
最後の一滴を飲み込んだ。
冷たいものが喉を通った。
次の瞬間、身体の奥で何かが弾けた。
二羽の鴉が、暗闇の中で翼を広げる。
一羽がアルマニアの中へ積み重なった経験を啄み、もう一羽が同じものを、もう一度その魂へ刻みつける。
痛みも。
恐怖も。
失敗も。
そこから学び取るはずのものだけが、二重になって沈んでいく。
腕力は増えなかった。
空腹も消えなかった。
新しい魔法を覚えたわけでもない。
ただ、これから先、アルマニアが自ら経験し、学び、身につけたものは、常人の倍の重さで魂へ残る。
それが双鴉の泉の最後の一滴に宿っていた、たった一つの祝福だった。
直後、遠くで何かが鳴った。
どん、と重い音が響く。
アルマニアは顔を上げた。
幻聴だと思った。
もう一度、音がした。
石の壁から細かな砂が落ちてくる。
誰かが、壁の向こうを叩いていた。
「この奥よ。水の精霊の気配が、ここだけ不自然に途切れてる」
聞き間違えるはずがなかった。
ミレナの声だった。
「待ちな。そこを崩したら天井まで落ちる。右だ。色の違う継ぎ目がある」
今度はグンヒルダの声。
「新しく詰め直されてる。自然に崩れたんじゃない。誰かが故意に塞いだ跡だ」
「でしたら、調査は後ですわ」
凜とした声が続いた。
「責任は、すべてわたくしが取ります。グンヒルダ、安全な場所を示しなさい。今すぐ壁を破りますわ」
シャーナシアだった。
「三つ数えたら打つ。全員、下がりな」
激しい衝撃が壁を揺らした。
一度。
二度。
三度。
長柄戦槌の一撃が、石材の継ぎ目を正確に砕く。
亀裂から、細い光が差し込んだ。
三十日ぶりに見る、魔法ではない光だった。
アルマニアは手を伸ばそうとした。
だが、腕は持ち上がらなかった。
崩れた壁の向こうから誰かが駆け込んでくる。
アルマニアの身体を抱き起こした腕は細かったが、驚くほど温かかった。
「帰ってきたね、アル」
帰ってきたのではない。
自分では、ここから出られなかった。
ミレナたちが見つけてくれたのだ。
それでも彼女は、帰ってきたと言ってくれた。
アルマニアは動かない唇を懸命に開いた。
「……ただいま、ミレナ姉さん」
そこで意識が途切れた。
後にこの一件は、学院の記録へ「双鴉の魔法の泉飲み干し事件」と記されることになる。
泉の最後の一滴がアルマニアへ与えた特殊技能は、「取得経験倍化」。
しかし、その力はアルマニアを暗闇から見つけてはくれなかった。
壁を安全に壊してもくれなかった。
捜索を続ける決断も下してはくれなかった。
多くのことができる少年を救ったのは、三人の少女が、それぞれ自分にしかできない一つをやり遂げたからだった。
経験を倍にする奇跡を得た夜。
アルマニアは、経験点だけでは決して埋められないものに、命を救われたのである。
双鴉の泉事件後との差
救出直後も能力値と技能レベルは変化しません。
* 未使用経験点:4,500点
* 特殊技能「取得経験倍化」を獲得
* ファイター、レンジャー、シーフ、バードはまだ未取得
つまり初期アルマニアは、能力値には恵まれた三系統魔法使いですが、実戦経験も専門技能も不足している、後衛寄りの万能志望者です。