「お前をこのパーティから追放する」
そう言われたのは四人パーティで一仕事終えた後の話だった。
俺の目の前にいるリーダーのカイルが覚悟を決めた目でこちらを見てくる。
「俺が……追放!? 何で?」
確かにパーティの戦闘では役に立つシーンは少なかった。
でも少しでも役に立つように自分にもできることはやってきたつもりだった。
「君はパーティでも雑用ばかりで戦闘にも貢献できていない」
カイルが沈痛な面持ちで理由を話していく。
もう話すのも嫌だといわんばかりの語り口。
俺はそこまで嫌われていたのか。
魔法使いのミラの方を見るが、彼女は何も言わない。
タンクのロックの方を見ても、彼も何も言わない。
そうか……この会議の前にあらかじめみんなで相談していたんだな。
これがパーティの結論なのだと否応なく分かる。
「……分かった。みんな今までありがとうな」
正直言うと、理由を聞いてみたいが空気が冷えているのを感じる。
こうして俺の半年近くの四人パーティが終わりを迎えた──。
* * *
「おい、あんちゃん?もう飲むのやめたらどうだ?」
酒場の店主が心配そうにこちらに話しかけてくる。
「なんだと!?お前になにが、分かるー、俺は、俺はな、追放されたんだぞ――!」
俺は追放された後に酒場に来ていた。
ジョッキが仲間……。
俺にはこいつがいればいい。
もう他には何もいらない。
「だいぶ酔ってるな……追放ってなにしたんだ?」
優しい店主が話しかけてくれる。
「何も……」
「何もってことはないだろ」
何も知らない店主が聞いてくる。
「俺は何もしてなかったんだ――! パーティから見たらお荷物で、雑用ばかりで。追放されるような人なんだ……」
言ってて悲しくなってきた。
いや、でも追放されるってそういうことだよなぁ。
普通に考えて、いるよりいないほうが得ってことだもんなぁ。
お荷物ってことは迷惑ってことだよなぁ。
畜生、追放とか他人事だと思ってたぞ。
もう遅いとかそんな捨て台詞を言うとか笑いながら聞いていたよ。
「まぁ、元気出せって。これでも飲みな」
酒場の店主がコップを出してくる。
「これは?」
「ただの水だよ。まぁ今日は好きなだけ吐き出しな」
「ありがとう」
今誰かにやさしくされると好きになってしまうだろ。
コップを受け取り水をごくごくと飲む。
「おじさんーーーー、おれとパーティ組まないーーー?」
もう、俺にはおじさんしかいないんだ。
俺には誰もいない。
「だいぶ呂律が回っていないな。いやいいよ。というかそんなにパーティを追放されたのが不服ならいえばいいじゃないか」
それは確かにそうだ。
カイルは有無を言わさない態度だったが、言ってもいいかもしれない。
だが、戦闘で役に立っていなかったのは事実だからな。
「そんなこと、言えないよ。カイルは責任感があっていいやつだし。そんな奴が決めたんだから。
それに俺のいないところで……みんなで相談して決めたんだ――うわあああん!」
「あーまた始まった。今日で何回泣くんかね……」
店主が呆れているが分かる。
でも、今日だけは許してくれ。
流石に迷惑なのであの後、頑張って部屋に戻ってきた。
疲れて、不貞寝した。
* * *
朝、窓の光で目が覚める。
「頭が痛い」
ガンガンとした頭で何とか水を飲む。
この痛みからも、これが現実だということが分かる。
そういえば俺、追放されたんだった……。
重く心にのしかかる。
悩んでいても仕方ない。
追放された以上は働き口を探すしかない。
今までのメモとかを見ながら今後のことを考えよう。
現実逃避ではない。
そういえば、働くなら冒険者じゃなくてもいいのか。
店の手伝いとか。レストランがそういえば人手が足りないって言ってたな。
頭を巡らせて、街の人の会話を思い出す。
まぁゆっくりと決めていけばいいか。
コン、コン。
部屋のドアを叩く音がする。
「はーい」
宿屋の人だろうか。
ドアを開けた。
そこにいたのは……。
「カイル……?」
そこには昨日、俺に追放を言い渡したカイルがいた。
正直今一番会いたくない人である。
「お、おうどうした?」
苦手意識が出来てしまったが、追い出すほどではない。
カイルが何用で来たのか分からないが部屋に招き入れた。
「そうだな、昨日のことを謝りたくて」
昨日のことって言うのはつまり……追放のことだ。
話したくない人と話したくない話題。
「というと?」
下手なことは言わない。これ以上、傷つきたくないから。
「昨日はちょっと言い方強かっただろ?パーティとして決めたことはちゃんと言わないとって思ったら……その強めな言い方になってしまってな……」
なんともまぁ、責任感の強いやつだ。
そこがいいところなんだが。
ただ、『パーティとして決めた』か。いや、まぁそうなるよな……。
「いや、大丈夫だよ。それにまぁ役立ってなかったのは事実だしな……」
自嘲気味に言ってしまう。
煽る意図はなく単純に自分の無力さを懺悔するような。
「そんなことはない!」
カイルが俺の言葉に対して強く否定をする。
「あ、いや、大声出してすまない……ただニコは俺にとっては役に立ってたし、それに色々してくれていただろ?」
笑顔でこちらに言ってくる。
少し気恥ずかしい。
「そうか、まぁ……ありがとう」
いい、リーダーだ。
俺のこと追放したけど。
本当にここまで俺を買ってくれてうれしいよ。
俺のこと追放したけど。
「それに、パーティじゃなくなっても個人としての付き合いは続けたいつもりだ、今度飲みにでも行こうな?」
「ああ」
社交辞令なのか判断に困るが、返事をする。
パーティ追放ってそういうことなのか?
いや、追放されたことないから分からないが。
関係がゼロになるものなんじゃないのか?
疑問は尽きない。
カイルはそれだけ告げると、部屋を出ていった。
それにしても、カイルには嫌われていたわけではなかったのか、一安心だ。
ということは残りの二人のどっちかが、俺のことを……。
いや、やめよう。考えると悲しくなってきた。
そうだな、バイトするとしたら、市場の人が少しでも男手が欲しいって……。
トントン。
ドアを叩く音がした。
今日は来る人が多いな。
ドアを開ける。そこには……。
「ミラ、どうした?」
元パーティの魔法使いミラがいた。
「入っていいかしら?」
「どうぞ」
ミラを部屋に入れた。
「まさか君が追放されるとはねー」
いつものように軽い口調でミラは言う。
コイツは俺のことを馬鹿にでもしに来たのか。
「それは……」
「私も辞めちゃおっかなぁーなんて」
は?
コイツは何を言っているんだ……?
「なんて?」
「いや、ニコがいなくなったらつまらないじゃん?」
あ、おう。
あれ? ミラが追放を進言したわけじゃないのか……?
「それは困るだろ。お前はパーティにとって大事な人材だろ?」
俺とは違って。
「そーだねー。ま、元気そうで安心したよ」
全然元気ではないが。
「は、は…は」
薄ら笑いみたいなことしかできないが同意しておく。
「暇になったら、遊びに来るからー」
風のように来て、ミラはすぐに帰ってしまっていた。
なるほど、ミラも別に俺に悪感情があったわけではなかったらしい。
そうかそれはよかった。
ここでわかってしまったことがある。消去法で俺の追放を進言したのはロックだ……。
寡黙なやつだがその心には思うところがあったのだろう。
いや、責めても仕方ない。彼には彼の考えがあった。
いや少しは寂しいけどな。
さてと、再就職先は……。
ふむふむ、記録していたノートを見ると、酒場で料理をするのも悪くないな。
料理はそれなりにできたりするからな……。
となると……。
トントン。
またドアを叩く音がした。
「はい、はーい」
返事をしながらドアに近づく。
「よぉ」
そこには、会いたくなかったロックがいた。
諸悪の根源……は言い過ぎだけど、俺がパーティを去った原因だ。
「入っていいか?」
「……どうぞ」
「どんなご用件でしょうか?」
気まずい。文句とか言われたらどうしようかな。
「礼を……」
「れい?」
お礼参りとでも言う奴だろうか。
そこまで俺は、恨まれていたのかっ!
持っていたノートを盾代わりにする。
「礼を言いたくて……」
「な、何の?……」
おそるそる、ロックに聞いてみる。
「いつも、……鎧の手入れを……手伝ってくれただろ?」
ゆっくりとだが、ロックが説明をしてくれる。
「あ、あれのことか。いや別にそんな大したことじゃないよ!」
セーフ、普通に感謝か。
いや、ロックはあまりしゃべらないがいいやつなんだよな。
「それに、俺はしゃべるのが苦手だから宿とかも……」
「いや、それは適材適所だろ?それにいつも戦闘で守ってくれただろ?」
ロックが少し照れているな。
まぁ今まで守ってくれてたからな。
「これからも……仲良くしてくれ……」
「おう!今度飯でも食いに行こうな!」
ロックを見送った。
いやーそれにしても俺は恵まれているな。
リーダーのカイル。
魔法使いのミラ。
タンクのロック。
みんな俺にはもったいないくらいの仲間だったが、俺もこれからは前を向いて頑張ろう。
一つ救いがあるとすれば俺はみんなには嫌われてはいなかったということだ。
そう追放されても心はみんなと……みんなと……みんなと?
「なんで俺、追放されてるの!?」
みんなの話を聞いても誰も嫌ってないというかむしろ好かれていないか。
カイルには、いつも役に立っていると言われた。
ミラには、俺がいないとつまらないと言われた。
ロックには、助かっていたと言われた。
いや、全員に嫌われていないよな。
いやむしろ、好印象だよな。
分からない。
全員が素で嘘をつけるぐらいに社交性を身に着けているのか?
人間不信になりそうだ。
この気持ち悪さは二日酔いなのかそれとも……。
不安が渦巻いているが確認したいことがある。
こうしてはいられない。
部屋を飛び出た。
行先は近くの冒険者の集う場所だ。
ここにいつもなら、いるはずだ。
「カイル!」
「どうしたニコ?」
息切れをしながら、カイルに駆け寄る。
「はーっ、一つだけ聞かせてくれ。カイルは俺が追放されてもいいと思っていたのか?」
「それは……」
カイルが言い淀んでいる。でも俺には大切なことなんだ。
「頼む、教えてくれ」
真剣なまなざしでカイルを見つめる。
「俺、個人としては君は必要だとは今でも思っているよ」
「ありがとな!」
それを聞いて安心した。
俺のやることは決まっていた。
一旦部屋に戻って準備をする。
* * *
夜、酒場にて。
三人を集めて、テーブルに座る。
「これはどういうことだ?ニコ?」
カイルが俺に聞いてくる。
「いや、話し合いがしたいんだ」
「それは……」
「まず、確認なんだけど。俺をパーティから追放したい人は手を挙げて」
突然のことにみんな驚いている。
だが、質問内容を理解しても、誰も手を上げようとしない。
誰も手を上げない。
分かっていた、分かっていたんだ、分かっていたんだよ。
「は?」
「え?」
「おい?」
三人が驚いている。
「まぁ、はい。今ので分かったけど、俺が追放される理由とか経緯を教えてもらっても?」
「いや、待ってくれ。そうだなどこから話せばいいか……」
カイルが焦っている。
別に俺はみんなのことを責めたいわけではないんだ。
ただどうしてこうなったのかが知りたいだけで。
「確かミラが雑用しかしてないって言っていて……」
カイルが記憶をたどっている。
「いや、私は戦闘では目立たないって言っただけで追放しろまでは言ってない!」
反論があるようでミラが声を荒げる。
「それに、ロックも戦闘でニコの分まで頑張るって重荷みたいに言っていたじゃないか!?」
ロックにも同意を求めている。
「俺は他で役に立てない分戦闘をするって意味だ」
「それに、二人とも改めて確認をした時に分かったって言ってたよな?」
「あれは……パーティを追放するって話だとは思ってなくて!」
ミラのことだから、生返事をしたのが容易に想像がついて頭を抱える。
「……俺は戦闘から外すって意味だと思っていた」
ロックもなぁ。多分、聞き返さなかったんだろうな、二人のやり取りが思い浮かぶ。
「誰も追放したいって思ってないのに、なんで追放するって話になってるんだよ!」
「「「そんなつもりじゃ」」」
皆が一斉にこちらに言ってくる。
「じゃあ、カイルは何で追放するときにあんな嫌うような態度を取ってたんだよ」
一番の疑問点を聞く。
「追放するなら悪役に徹するべきだって思って……」
「変な責任感を発揮するんじゃない!」
不器用すぎるだろ。
いや、それは俺もか。理由も聞かないで、勝手に必要とされていないと結論づけてしまった。
「俺はお前らに追放されてそこのカウンターで三時間やけ酒をして泣いてたよ」
「ニコ……」
「でもそれは最高のパーティだと思っていたからなんだ。
だからこんなところで終わるのは悲しいって……だからさ、もうちょっと話をしないか。
思えば俺たち打ち上げとかしてこなかったよな?」
「ああ、そうだな!」
「そうね」
「ああ」
三人が賛同してくれる。
人数分の料理と酒を注文した。
ジョッキがみんなにいきわたると、カイルが最初に口を開いた。
「そうだな、俺はなんていうか……リーダーを重荷に感じていたんだ……
だから今回もパーティのことを思って暴走してしまった。すまない」
カイルが皆に向かって頭を下げた。
重荷、か……。そうか、だからあんな風に一人で突っ走ってしまったのか。
まぁ原因は俺たちなんだが……。
「カイル……そこまで負荷になっていたのね、あなたはリーダーとしてちゃんとやっていたわ。
それに私もなんでも適当にやりすぎて……なんていうか、少し自分勝手過ぎたわね……」
「ミラのその自由さが俺には好ましかった……それに俺はしゃべるのが苦手だから……
だからこんな俺とは話したくないと思っていたんだ……」
「そんなことはない!俺はロックの話はいつも楽しんで聞いていた」
カイルがフォローを入れる。
三人が自分の悩みや考えを打ち明けてくれた。
そんな姿を見て思うが、彼らは別に仲が悪いわけではなかったのだ。
互いにすれ違って、ただそれだけだ。そしてそれも今の会話で解消されつつある。
もしかしたら俺がいなくてもパーティはうまく回る。
彼らが互いにフォローしあっているのを見てそんな気持ちになる。
寂しいかもしれないがこれが潮時なのかもな。
「なあ?ニコ戻ってきてくれないか?」
寂しそうにしていると、リーダーのカイルが聞いてくる。
残りの二人も答えを待っている。
そうだな、最初から答えはわかっていたんだ。
「ああ、もう遅いなんて言わないよ」
カイルの手を握り答えた。