SAO The Indomitable Blade   作:極悪チワワ

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始まりの日

2022年11月6日。

 

秋の澄んだ青空が広がる日曜日。

 

窓から差し込む朝日が部屋を優しく照らしていた。

 

目覚まし時計が午前七時を告げる。

 

冴島隼人はゆっくりと目を開け、天井を見つめた。

 

「……今日か。」

 

自然と頬が緩む。

 

今日は、ずっと待ち続けていた日だった。

 

世界初のフルダイブVRMMORPG。

 

《ソードアート・オンライン》

 

正式サービス開始日。

 

机の上には、昨夜から何度も眺めたゲームパッケージと《ナーヴギア》が並んでいる。

 

その横には、使い込まれた竹刀袋。

 

隼人は立ち上がり、竹刀袋へ手を伸ばした。

 

ファスナーを開き、愛用の竹刀を握る。

 

柄革の感触。

 

手に馴染んだ重さ。

 

何千、何万回と振ってきた相棒だった。

 

「今日は休ませてやるよ。」

 

そう呟き、竹刀を静かに戻す。

 

この世界では竹刀ではなく、本物の剣を握ることになる。

 

そんな期待が胸を満たしていた。

 

 

「隼人、朝ご飯できてるよ。」

 

一階から母の声が聞こえる。

 

「今行く!」

 

制服ではなく私服に着替え、リビングへ向かう。

 

今日は日曜日。

 

学校も部活も休みだった。

 

テーブルには焼きたてのトーストと目玉焼きが並んでいる。

 

「今日はゲームの日だったっけ?」

 

母がコーヒーを淹れながら尋ねる。

 

「うん。」

 

「昼からサービス開始。」

 

「やりすぎちゃ駄目よ?」

 

「分かってる。」

 

笑いながら答える。

 

父は新聞を読みながら小さく笑った。

 

「剣道ばかりだったお前が、ゲームにそこまで夢中になるとはな。」

 

「これは普通のゲームじゃないんだ。」

 

隼人は少し照れながら言う。

 

「もう一つの世界を体験できるんだって。」

 

父は新聞を畳み、頷いた。

 

「楽しむのはいい。」

 

「でも、現実が一番大事だ。」

 

「はい。」

 

その何気ない会話も、今となっては当たり前の日常だった。

 

 

午前九時。

 

駅前で待ち合わせをしていた隼人は、大きく手を振る人物を見つける。

 

「隼人!」

 

「遅いぞ!」

 

桐生蒼真。

 

幼稚園からの親友。

 

明るく、誰とでもすぐ仲良くなれる性格で、隼人とは正反対だった。

 

「十分早い。」

 

「俺が早すぎるんだよ!」

 

蒼真は笑いながら肩を組んでくる。

 

「今日は昼まで暇だからさ。」

 

「ゲーム始まるまでブラブラしようぜ。」

 

「そうだな。」

 

そこへ後ろから柔らかな声が聞こえた。

 

「二人とも、おはよう。」

 

振り返る。

 

栗色のセミロングを揺らしながら歩いてくる少女。

 

天城美咲。

 

二人の幼馴染。

 

昔から世話焼きで、どこか放っておけない優しさを持っていた。

 

「おはよう、美咲。」

 

「おはよ!」

 

蒼真は満面の笑みで手を振る。

 

美咲は二人の顔を見るなり、くすっと笑った。

 

「朝からゲームの話?」

 

「もちろん!」

 

蒼真が即答する。

 

「今日は歴史に残る日だからな!」

 

「大げさ。」

 

「大げさじゃない!」

 

隼人は二人のやり取りを見ながら苦笑する。

 

この空気が好きだった。

 

蒼真が騒いで。

 

美咲が笑って。

 

自分は少し呆れながら見ている。

 

子どもの頃から何も変わらない。

 

 

駅前のベンチで缶ジュースを飲みながら、三人は他愛もない話を続けていた。

 

「隼人は武器決めた?」

 

蒼真が聞く。

 

「まだ。」

 

「でも剣は使うかな。」

 

「やっぱり剣道やってるし?」

 

隼人は少し考えてから首を横に振る。

 

「剣道と同じ武器は選ばないかもしれない。」

 

「え?」

 

「せっかく別の世界なんだ。」

 

「だったら、知らない武器を一から覚えてみたい。」

 

蒼真は目を輝かせた。

 

「いいじゃん!」

 

「俺は槍に決めてる!」

 

「リーチがあるし絶対強い!」

 

美咲は微笑みながら聞いていた。

 

「二人とも、本当に楽しそう。」

 

「美咲もやればいいのに。」

 

蒼真が冗談半分で言う。

 

美咲は少し笑って首を横に振った。

 

「私は見てるだけで十分。」

 

「二人から話を聞く方が楽しそうだもん。」

 

「そっか。」

 

隼人はそれ以上勧めなかった。

 

人には向き不向きがある。

 

美咲はゲームより、本を読んだり映画を見たりする方が好きだった。

 

少なくとも、隼人はそう思っていた。

 

 

昼が近づき、三人は駅前で別れる。

 

「じゃあな!」

 

蒼真は右手を上げる。

 

「ゲームの中で会おうぜ!」

 

「ああ。」

 

隼人も笑って頷く。

 

美咲も二人へ向かって小さく手を振る。

 

「また明日ね。」

 

「うん。また明日。」

 

それは、いつも通りの約束だった。

 

三人はそれぞれの帰り道を歩き始める。

 

誰も振り返らない。

 

誰も不安なんて感じていない。

 

ただ、今日という特別な一日を楽しみにしているだけだった。

 

――誰も知らない。

 

数時間後。

 

その『また明日』という約束が、あまりにも遠いものになることを。

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