その苦労が報われて、今日は娘の結婚式だった。
多く友人や仲間が集まる披露宴に
男は自分の育てた娘を誇らしく思う。
そんな中、司会者が娘の一番の親友が準備した
サプライズ企画を発表する。
ウェディングドレスに身を包んだ娘の姿を見ながら、
里谷敬三はこれまでの娘、笹子との日々を思い出していた。
娘が7歳の頃に妻を亡くしてからずっと男手一つで
育て上げた娘の晴れ舞台は、そのまま敬三にとっても
子育てをやり切ったというは一つの勲章のようなイベントだった。
その宝物の様な瞬間を余す所無く胸に刻み込もうと、
敬三は披露宴会場を見渡す。
娘の隣には新郎である小木由太郎がビシッとしたタキシード姿で
座っている。娘が大学に入ってすぐの頃、
初めて娘が家に連れてきた時は、何となく頼りなく見えていたが、
こうしてみると、なかなか立派な出立ちで、
娘を任せるに相応しい男をちゃんと選んでくれた
とホッと安心させてくれる。
娘に一番近い席には、幼馴染の美代ちゃんが、
彼氏の真男くんと一緒に座っている。
美代ちゃんはよくうちにも遊びに来るので、
彼氏の真男くんとも面識はある。
美代ちゃんと付き合い始めたのは高校2年の頃だったから、
かれこれもう8年ほどの付き合いになる。
あの頃、どちらが先に彼氏ができるか競い合ってた娘が、
「先越されたー悔しい!」
と言っていたのを懐かしく思い出す。
右隣と左隣のテーブルには、娘と新郎それぞれの会社の
上司や同僚達が座っている。
流石に娘の会社の知り合いとはあまり面識も無かったが、
一人、娘の上司だった真田とは面識がある。
娘が新卒で入社したばかりの頃、終電を逃した娘をよく車で
送り届けてくれたのだ。
当時は
「嫁入り前の娘をこんなに夜遅くまで働かせるなんて非常識だ!」
と怒鳴ってしまった事もあったが、今になって思えば、
せっかくの親切なのに、悪い事をしてしまった。
後で謝っておこう。
前列は以上で中列は親戚や学生時代の友人、
そして後列が、娘や新郎の親族である。
娘には私の他に親族はいない為、中列の親戚の席からあぶれた、
娘の叔母といとこ達が座っている。
ちなみに娘の叔母とは私の姉だ。
男親では分からない思春期のあれやこれやの時は本当に世話になった。
さて、敬三がこんな事を考えている間にも、
披露宴はつつがなく進行して、幼馴染の美代ちゃんが、
友人達のコメントを集めたビデオレターを用意していたという
サプライズが司会者より明かされる。
「娘は本当にいい友人を持った」
あまりの嬉しさに涙が出そうになるのを堪えていると、
会場の電気が落とされ、ビデオが上映される。
ギシッギシッギシッ…
何が軋む音が定期的会場に響く。同時に、
プロジェクターの画面には何やらこんもりと膨れた布団が
小刻みに揺れている。そして、中からは、
「あんっ、気持ち…良い!ああん!」
という声。
流石にこんな喘ぎ声までは聞いたことはないが、
声は娘のものだと分かった。
咄嗟に娘と新郎の方を見ると、二人とも余りの出来事に、
口をあんぐりと開けながら、茫然としていた。
「なあ?気持ちいい?小木とどっちが気持ちいい?」
相手の男の声を聞き、体中から冷や汗が飛び出る。
相手は新郎小木由太郎では無い。
その事実に私の思考まで停止する。
「真男の方がイイッ!おちんちんがあそこいっぱいで気持ちいいのぉ!」
その娘の嬌声にみんなが一斉に娘の幼馴染の恋人を見る。
それと同時に場面は切り替わって画面には、
一戦終わって、ベッドに並んで横たわる娘と真男くんの姿が映し出される。
「何だよ、さっきのおちんちんがあそこいっぱいって?」
「ふふっ。だって由太郎のあそこちっさいんだもん。子供の時お風呂で見たお父さんのしおしおのチンチンよりも小さいかも」
そう言って笑う娘。
「ちょっ、マジ?臨戦態勢でそれ?ヤバくない?」
と真男が笑った所で、
「やめろー!止めてくれー」
「いやー!見ないでー」
新郎と娘が我に返り、ほぼ同時に画面を遮り、プロジェクターを止める。
新郎の小木は、プロジェクターを止めるや否や、
「おい!笹子!これは一体どういう事なんだ!」
娘に対して、激怒している。
敬三もやっと我に返り、小木を宥める。
「由太郎くん!申し訳なかった!君の気持ちは分かる!ただこの場は何とか一度抑えてくれ!」
申し訳ない気持ちから、自然と謝罪は土下座になっていた。
もちろんそんな事で小木の気持ちがおさまるとは思わなかったが、
もう、そうするしか他に無く、敬三は地面に頭を擦り付ける。
「お義父さん!やめて下さい!気持ちが分かる訳ないじゃないですか!」
あまりにショックだったのだろう。
敬三に対する口調も今まで聞いた事がないくらい冷たく激しい。
「確かに完全には分からないかもしれないが…」
少しくらいは分かると言いかけていると、小木は、
「勃起した僕のあそこよりも大きなおちんちんを持つお義父さんに僕の気持ちなんて分かるはずがない!」
と悔しそうに叫んでいる。
「ええっ?そっちなの!」
と敬三は驚きの余り、二の句をつけないでいる。
敬三が黙っているのを見て、小木は笹子を見る。
「笹子も笹子だ!エッチする時は3人でって言ったじゃないか!なのに2人だけで楽しむなんて狡いよ!」
と驚きの発言をする。
「3人で?」
「えっ?狡い?どういう事?」
会場の人達も理解が追いつかずパニックになっている。
敬三は何とかこの場をおさめようと、
「馬鹿な事を言っているんじゃない!」
と娘と新郎を叱り飛ばし、
このビデオレターを準備した張本人である美代ちゃんに頭を下げる。
「娘と真男くんがこんな事になっているとは知らなかった。君の恋人に手を出すなんて大変申し訳ない事をした。娘に代わって謝罪をする」
と謝罪の言葉を口にしていると、
美代ちゃんは笹子の方に向かって、
「酷いよ笹子!」
と叫んだ。
それを聞いて、敬三は、
「そうだよな。まさか親友と自分の恋人がそういう関係になるだなんて耐えられないよな」
などと考えていると、美代ちゃんはさらに笹子に向かって
「自分達ばっかり楽しんで!私だって4人でエッチしたかったよ!」
と言い放った。目に涙を溜めて。
「ん?えっ?楽しみ?エッチ?えっ?そっち?」
既に敬三には理解が及ばない事態に最早オロオロするだけだった。
親友の涙ながらの訴えに、娘は、
「ごめん美代!これからはちゃんと4人で楽しもう!」
と返し、美代を抱擁する。
「ありがとう!楽しも!笹子!」
それに笑顔で答え、娘の腰にギュッと手を回す美代ちゃん。
「馬鹿野郎!楽しむ時は俺たちも一緒だろ!」
そう言って真男と小木も二人に抱きつく。
そうこうしているうちに、
娘の上司の真田が、
「何だよ里谷!水臭いじゃないか!それなら昔みたいに俺も混ぜてくれ!」
とその輪に乱入する。
それを見た他の列席者達も、
「狡い!私達も混ぜてよ!」
「ヤリサーの女王の復活よ!私達も負けてられないわ!」
と同僚やら学友やらまでその輪に入り始める。
驚いた事に、
「女の悦びを教えた私をはぶくなんて事ないわよね?」
と自分の姉や、
「笹姉ちゃん!久しぶりに俺たちも!」
といとこ連中まで参加し出したのを見て、敬三は思考を停止する。
そして、
「あれ?俺が育てたのは色きちがいの化け物だったのか…」
と呟きながら、トボトボと会場を後にする。
「自分の子育てに翻弄された15年以上は何だったのか?…とりあえず、今は何も考えたくない」
と会場のあったホテルを引きずる様な足取りで歩いていると、
後ろから、
「あのすみません」
と女性に声をかけられる。
見ると、娘の学生時代の友人の一人だった。
自分と同じ様にあの場に居た堪れなくなったようだと、
一先ず謝罪のために近づくと、
「あの…お父さんって、あそこ、大きいんですよね?試してみて良いですか?」
と女性は上気して赤くなった顔で上目遣いで敬三を見つめいた。
敬三は「またか…」と唖然としながらも、
女性のドレスから覗く肌に釘付けになる。
妻が亡くなってから女性との接触などこの15年以上全く無かった。
その結果がこの状況だ。
敬三の心に深い後悔の念が広がる。
その時、
「ねえ?笹子さんのお父さん…」
と言いながら女性が上気した身体をピタリと敬三にくっつける。
10数年ぶりの女の感触。
そこで敬三はプチンとキレ、
「ちくしょう!やってやるよ!」
と叫ぶと、嬉しそうな女性の手を引いて、再び、会場に戻っていくのであった。