・上位存在さん
時間、空間、因果。人間が世界の前提だと思っているものは、彼女にとってはただの選べるオプションに過ぎない。世界の創造と破壊は、彼女にとって日常動作の範囲内であり、気分ひとつで人類を消したり戻したりできてしまう。それだけの力を持ちながら、彼女は驚くほど加減が下手。惚れた相手のためなら深く考えずに力を振るい、後から窘められると、しゅんと萎れて素直に謝る。出力を絞ること、つまり繊細な作業が根本的に苦手で、本人いわく「シャボン玉の表面に絵を描く」感覚に近いらしい。しかし地道な努力もできないわけではなく、その証拠に、彼女は主人公の魂を安全に強化するため、味のしない黒い食べ物という形で何年もかけて薄い保護膜を編み込み続けていた。普段の粗雑さとこの執念深い繊細さのギャップがある。
主人公に惚れた理由はただひとつ、魂の波長が綺麗だったから。それ以上でもそれ以下でもない。認識してもらうために主人公の存在そのものを改造し、結果として彼から人間らしい感情の大半を奪ってしまったことに、当の彼女はしばらく気づいていなかった。嫉妬深く、独占欲も人並み外れて強い。ライバルらしき存在が現れると、まず考えるより先に消す。それを繰り返した後で、ようやく学習して手加減を覚えていく。
・残機無限目さん
ある日空に浮かんだ、地球の空の三割ほどを覆う巨大な目。その正体は、主人公に懸想して上位存在さんの監視網をかいくぐってきた高次元の存在である。厄介なのは、並行世界のどこかに無限の「残機」を持っていることで、一体倒しても即座に別の並行世界から同じ個体が補充されてしまう。理屈の上では完全に滅ぼすことがほぼ不可能な相手。
巨大な目という威圧的な見た目に反して、声は驚くほど可愛らしい。いわゆる萌え声である。上位存在さんとの戦いでは何度も世界が作り直されるほどの激突になったが決着はつかず、最終的には力ではなく交渉で片がついた。合意した条件はただひとつ、「遠くから観測するだけ」。以来、彼女(?)は協定を律儀に守りながら、並行世界のどこかから、今もずっと主人公を眺め続けている。
・海に湧き出た上位存在さん
姿かたちは判然としない。ただ、彼女(?)が主人公に近づこうとしただけで地球上の海が一瞬で蒸発したことがある。悪意があったのかどうかも定かではない。ただ存在として近づいただけで、その圧が海洋ひとつを消し飛ばしてしまう、それだけの規模の相手だったということである。
もし上位存在さんが対処していなければ、海を失った地球は降水も海流もめちゃくちゃになり、人類は生態系ごと詰んでいたはずである。実際には上位存在さんが即座に処理し、海はまるで最初から何ともなかったかのように元通りになった。人類はこの日、自分たちが滅びかけたことにさえ気づいていない。
・夢の中に湧き出た上位存在さん
夢という、人間が最も無防備になる場所に潜んでいた存在。目論見は、主人公を夢の中に閉じ込め、数億年という単位で独り占めすること。物理的な消去でも直接的な暴力でもない分、ある意味では他のどの相手よりも静かで恐ろしい手口だったと言える。もし成功していたら、主人公の肉体はただの昏睡状態としてこちらの世界に残され、誰にも異変を気づかれないまま意識だけが億年単位の幸福な夢の中に閉じ込められ続けていただろう。
実行される寸前で上位存在さんに発見され、主人公は夢の外へ連れ戻された。相手がその後どうなったのかは、語られていない。
・その他、名前だけ噂に上る存在たち。
主人公の魂に引き寄せられた高次元の存在は、実のところこれだけではない。上位存在さんが裏側で無言のまま消し続けてきた名も無い個体が他にも数多くいる。中には挨拶代わりに惑星をひとつ贈ってくるような、価値観の単位からして人間とはまるで噛み合わない存在もいた。共通しているのは、そのどれもが上位存在さんという抑止力さえなければ、地球規模の被害を平然と出していただろう、ということである。