私の記憶はどこですか? ~高町なのはの幼なじみは幸せでいたい~ 作:siitake64
次回で第一章(原作無印三話分)が終了です!
掛け合い書いてると、つい長くなっちゃいます……笑
『マスター!大丈夫ですか。マスター!』
光が収まり、白楼が呼ぶ声が聞こえてくる。手にはデバイスモードの大弓へと姿を変えた白楼。
バリアジャケットの展開が何とか間に合ったおかげか、大きな怪我はない。耳はまだ少しキーンと鳴っているけど、この程度なら大丈夫。いける。
「……ごめん。大丈夫。あの二人は?」
『反応が乱れています。恐らく、ジュエルシードの核付近に巻き込まれたものと推定されます』
「無事なの!?」
『断定はできません。ただし、生体反応の完全消失は確認していません』
「なら、助けないと」
慌てて辺りを見渡し、その惨状に息を飲む。
「ひどい……」
太い木の根がアスファルトを突き破り、街灯や標識を絡め取っている。そしてその奥には、建物よりも高く伸びた巨大な幹が生えていた。
しかも一本だけじゃない。二本、三本と、巨大な木が、街のあちこちから生えている。
一瞬で変わってしまった街の光景を目の前にして、恐怖と間に合わなかった後悔が押し寄せてくる。
「私が……見逃したからだ。なのははちゃんと何か感じてたのに……!」
多分、翠屋でなのはが感じた違和感は、あの男の子が持っていたジュエルシードの反応だったのだ。あの時、私が勘違いで流したから見逃してしまった。
「それにさっきも……」
ジュエルシードの気配を感じたあの時、私はなのはを呼ばなかった。呼んでも間に合わなかったかもしれないけれど、もしかしたら。もしかしたらなのはなら、ジュエルシードが発動する前に、あの男の子が持っていることに気付けたかもしれない。
でも、体調不良のなのはをあの段階では呼べなくて……と、そこまで考えて気が付いた。これ、この間の神社の時と同じだ。
神社でジュエルシードが出た時、なのはは、私の体調を気遣って呼ばなかったって言ってた。あの時、なのはに『呼んでほしかった』なんて言っておきながら、私だって、なのはの体調を気遣って結局呼べなかった……!
『マスター。後悔も反省も後です。まずは目の前の状況に対処してください』
冷静な白楼の声が私を現実に引き戻す。そうだ。私にはその義務があるのだから。
『なのは、ユーノくん。聞こえる?』
念話で呼びかけると、すぐに返事があった。
『聞こえるよ、雪菜ちゃん。今どこ?大丈夫?』
『雪菜、何が起きたの!?すごい魔力反応だ!』
『ごめん。街の方でジュエルシードが発動した!大木みたいに成長してる。私のすぐ近く!なのはは?』
『さっき気が付いて、いま、街全体が見えるビルの屋上に向かってるところ!』
なるほど。白楼の話だと、被害は街全体まで及んでいそうだし、全体を把握するにはその方がいいかもしれない。
『なのは、体調は?』
『大丈夫!でもそれより今は早くジュエルシードを何とかしないと!』
『わかった。私は巻き込まれた人の安全確保と、二次被害が起きないように何とかするわね』
『うん。屋上に着いたらまた連絡するね』
念話が切れ、手元の白楼を握り直す。
「白楼。周囲の状況は?」
『幸い、大木は活動を停止しています。しかし、根の一部は局所的にまだ動いており、破損した看板や電柱が倒れることによる二次被害の可能性が否めません』
「じゃあ、なのはが来るまで、中心部を探しつつ、周囲の安全確保が最適ね」
『はい。それがよろしいかと』
私の使える魔法は、ベルカ式の基本的な魔法と、魔力の流れに干渉する特殊な魔法が多い。こういった物理災害にはあまり向いていないけど、四の五の言っていられない。それに、あの大木の元がジュエルシードなら、魔力の流れがある。龍脈から干渉できるはず!
「動いてる根をまとめて大人しくさせるわよ、白楼」
『グラウンド・アンカーで拘束しますか?』
「あれじゃ私が動けなくなっちゃう。ちょっと血の気を抜きましょ」
魔力矢を精製し、白楼を引き絞る。狙うのは根そのものじゃなく、根が暴れている、その下の地面だ。
「せーのっ」
一射目。二射目。三射目。
茜色の矢が、アスファルトの地面へ突き刺さる。
「エリア・アンカー」
矢同士を繋ぐように白銀の線が地面を走り、その線の内側で、暴れていた根の動きが目に見えて鈍った。
『成功です、マスター』
「ふふん。どうよ」
エリア・アンカー。矢で繋いだ範囲内に龍脈へのパスをつなぐことで、対象に流れ込んでいる魔力の一部を龍脈へと還元させる技だ。余剰魔力を地面に吸い取られた木の根は、動きが鈍くなって大人しくなる。という訳。
まぁ範囲設置型の妨害魔法だから、その範囲から出ると効果はなくなっちゃうっていう弱点はあるんだけどね。だから動き回ることができる魔導師相手の対人戦なんかには全然役に立たない。逆に、こういう意志を持たない魔力生物には持ってこいなんだけどね。
「あとはこれを繰り返すわよ」
『しかしマスター。核からの魔力供給が続く限り、一度鎮静化させても、再活性化は時間の問題です』
「わかってる。でもなのはが到着するまでの間だけでも!」
根の動きが活発な範囲を中心に、エリア・アンカーで鎮静化を繰り返す。街全体に広がった大木の根は思ったよりも広範囲に広がっていて、ユーノくんが言っていたジュエルシードの危険性が、改めて胸にのしかかってきた。
色んな場所でアスファルトは割れ、壁が崩れ、街灯や信号機が無残になぎ倒されている。
あの青い石一つで街がこんなになるなんて……。
『雪菜ちゃん!これ、ひどい……』
矢を撃ち込み、次のエリアに向かおうとしたとき、頭の中になのはの悲痛な声が響いた。
『なのは……』
『僕たちも今、近くのビルの屋上に着いたよ。これは多分、人間が発動させてしまったんだ』
『人間が?』
『うん』
ユーノくんの念話での説明によると、強い願いを持った者が願いを込めて発動させたとき、ジュエルシードは一番強い力を発揮するらしい。
『じゃあやっぱり、あの時の子が持ってたんだ……!』
なのはが、ハッと息を呑んだ気配がした。そして、後悔するように小さく呟く。
『あの子?』
『うん。あのゴールキーパーの男の子。私、気付けてたはずなのに……!』
ユーノくんと話すなのはの声色がどんどん暗くなっていって、念話越しでもその落ち込んだ表情が見えたような気がした。
『私があの時……』
『違う!』
これ以上、なのはが自分自身を責める言葉を聞きたくなくて、思わず口を挟んでしまう。
『……雪菜ちゃん?』
『私なんて、なのはの感じた違和感にちゃんと向き合わなくて。その上、最後の気付くチャンスさえ見逃した……!』
『なのは、雪菜……』
そうだ。私がなのはが翠屋でキャッチした違和感にちゃんと向き合っていれば、商店街であの子達を見つけた時に気付けたかもしれないのに。
『マスター。先ほども言いましたが、後悔は後に……』
『ねぇ、ユーノくん』
白楼の声を遮るように、なのはからの念話が耳に届く。その声色はさっきまでの暗い落ち込んだものとは違っていた。はっとするほど静かな、けれど確かな決意を秘めた声。
そうだ。こういう時、いつだってなのはは前を向く。だから私も頑張らないと!
『なのは?』
『こういう時、どうすればいいの?教えて、ユーノくん』
『あ、うん』
なのはの静かな声に押されて、ユーノくんが説明を始める。彼が言うには、まずは大木の元になっている部分を見つける必要があるらしい。あの二人のカップルもそこに取り込まれている可能性が高いそうだ。あとは見つけたらいつも通り、魔力をぶつけることで封印ができる。
『元になってる部分なら私がわかると思う。じゃあ、なのはにこっちに来てもらって、まずは……』
『ううん、大丈夫。場所がわかってるなら、できるよ』
『え……』
『ここからじゃ無理だ!』ってユーノくんが言ってるけど、それに、『できるよ』と返すなのはの言葉は力強さに満ちていて、本当にできるかもしれない、って思わせてくれる力があった。
「まぁ、私には絶対無理なんだけどね……」
『弱気にならないでください。と言いたいところですが、その分析は、九十九パーセントの確率で正しいです。マスター』
「ちょっとは愛しのマスターに忖度してくれてもいいのよ、白楼」
『……』
沈黙してしまった白楼を握りしめ、気持ちを切り替えて意識を集中させる。大木の元になっている部分。つまり、一番龍脈の流れが収束している部分に間違いなかった。
「白楼、サーチモード」
『承知いたしました』
発動前のジュエルシードは探索できなくても、発動してしまえば魔力が流れる。そして、魔力の流れを追いかけるのは私の専門分野だ。
足元に魔法陣が現れるのと同時に、ふっと辺りの喧騒が遠のいた。目を閉じれば、大地を流れる龍脈の様子が瞼に浮かび、その流れが可視化されていく。
追いかけるのは比較的太めの一本の龍脈。何度か枝分かれを繰り返し、辿り着いた先は……。
「ビンゴ。白楼、マーキング用の矢を」
『承知いたしました。魔力信号を増幅した標識矢を生成します』
目を開き、白楼を引き絞る。
狙うのは、巨大な幹のちょうど真ん中あたり。龍脈の流れが、四方からぐるぐると渦を巻くように吸い込まれている場所だ。
『なのは、あとは頼んだわよ』
白銀の標識矢が、青白い光を残しながら空を駆ける。綺麗な放物線を描いた矢は、まっすぐに目標の木の幹に吸い込まれる。
『うん。見えたよ、雪菜ちゃん。レイジングハート、お願い』
『Shooting Mode. Set up』
『行って!捕まえて!』
なのはの声と共に、桃色の光の奔流が真っすぐに、私が矢を突き立てた木の幹を飲み込んだ。
「うわ……うそでしょ……」
『……常識外れの魔力値です。さすがですね』
さすがの白楼も開いた口が塞がらない。といった反応だった。いや、口ないんだけどね。それくらいの衝撃だもん、あれは。
『リリカルマジカル。ジュエルシード、シリアル10!封印!』
強力な、しかしどこか暖かい桃色の光に包まれ、大木は静かにその役目を終えたのだった。
そして、すべてが終わった。大木の核に取り込まれていた、あの二人も無事に意識を取り戻したみたい。
「雪菜ちゃん……!大丈夫?」
「なのは、ユーノくん」
封印を終えたなのはと落ち合った頃には、空はすっかり夕焼けに染まっていた。私に怪我がないことを確認してほっと一息ついたなのはだけど、その表情は明るいとは言い難い。まぁ、私の方も同じなんだけどね。
道はひび割れ、崩れたブロック塀の破片があちこちに転がっている。封印は成功したけれど、これじゃ胸を張って成功だなんて、とても言えない。ううん。これはジュエルシードの封印を手伝い始めてから初めての失敗だった。
「いろんな人に、迷惑かけちゃったね」
「そうね……」
なのはも同じ気持ちだったのだろう。家路につく私たちの口数はいつもよりもずっと少ない。
「雪菜ちゃん、私気付けてたはずなの。あの子がジュエルシードを持ってるかもしれないって」
「私もよ。私だって同罪」
「でも先に私が……」
「もう、そんな顔しないで。二人ともちゃんとやってくれてるよ。僕が保証する」
ユーノくんがわざと明るく慰めてくれるけど、私達の間に流れる空気はちっとも軽くならない。そして私にはもう一つ、言わなければならないことがあった。
「なのは」
「どうしたの、雪菜ちゃん」
「ごめんなさい」
「え……」
びっくりして立ち止まったなのはに頭を下げる。
「『何かあったら呼びなさい』なんて偉そうな事言っといて、私、なのはをすぐに呼べなかった」
自分から言い出したあの神社での約束を、逆の立場になった時に私は守ることができなかった。
明らかに疲れていた私を呼ばなかったなのは、そして今日、私は疲れて眠っているであろうなのはをすぐに呼べなかった。
「だから、ごめん」
「ううん。私だっておんなじだよ」
なのはが私の手を握ってくれる。その手は小さくて華奢で、でもすごく暖かかった。
「私も今日ジュエルシードが発動したのを感じた時、すごく怖かった。雪菜ちゃんが心配だった。私も、あの時の雪菜ちゃんの気持ちがわかったの」
だから、今度からは絶対二人で一緒にやろう。そう言うなのはの声は、いつもと同じで柔らかかったけど、そこにはさっきの屋上で聞いたのと同じ、静かな強さがあった。
「……分かった。次からは、なのはが寝てても叩き起こすわね」
「お手柔らかにね!?」
少しだけ元気を取り戻したなのはが真っすぐに私を見つめてくる。その目にもう迷いはなかった。
「雪菜ちゃん。私ね、これまではユーノくんのお手伝いとして、できることを精一杯やってきたつもり。でもこれからはお手伝いじゃない。自分の意志でジュエルシードを集めようって、そう思ったの」
「奇遇ね。私も同じことを思ってたわ」
これまでは、困ってるユーノくんを見過ごす私でありたくない。そして、なのはの隣に立って支えたい。その思いが大きかった。
ジュエルシード集めは危険な任務だ、って頭ではわかってたつもりだったけど、今日この街の惨状をみてはっきり理解した。
私だってこの街を守ってきた兵守家の現当主だ。こんな危険なもの、見逃しておく訳にはいかない。
「頑張ろうね、雪菜ちゃん。ユーノくん」
なのはの笑顔を守る。そして、この街も、ここで暮らす人たちも、もう誰も傷つかないように。
そっと握りしめた胸元の勾玉、白楼が同意するように何度か光ったのだった。